悪魔座

不動 聖

悪魔座とらっぱ

「・・らっぱ。終わったぜ」

悪魔座が声を掛けると近くのコンテナの影から忍者の様な頭巾を被った男が姿を現す。

「へへ。さすが悪魔座のだんな。あっしがいるの気付いてたんですかい」

男は悪びれる様子もなく悪魔座に近づく。

「さっきからずっと見てただろ」

「さすがだんなだねぇ。とっくに気付かれてましたか」

軽口を言いながららっぱは川合に近づくと状態を確かめる。

「いやあ、さすがに今回も見事なお仕事でしたね。びくともしねえや」

体を軽く揺らし再度確認するが川合の意識が戻る様子は無い。

「最後にこいつが体当たりしてきた時、何をしたんですか?よくわからなかったですけど」

「蹴りを鳩尾にぶちこんだだけだ。心配しなくても骨は折れていない。クライアントには無傷で引き渡すのが条件だったからな」

「相変わらず凄まじい腕っぷしですね。速すぎて見えませんでしたよ」

「暗くて見えなかっただけだろ」

「またまたご謙遜を。まあ、だんななら朝飯前でしょうがね」

「こんなのが相手なら確かに楽な仕事だ」

「この野郎が身分を隠して二年も逃げ続けなけりゃクライアントも500万も賞金を掛けなかったでしょうがね。あっしらにとっちゃ楽でも儲けさせてもらったって訳で」

「クライアントは殺された女の婚約者だったな。なぶり殺しにされるか。運が良くても半殺しって所か」

「こんな野郎はさっさと死んだ方が世のため人のためですよ」

らっぱはそう言いながら川合の体に蹴りを入れた。
体が少し揺れたが相変わらず意識は戻らない。

「こらこら。お前が傷つけようとしてどうする」

「女を手に掛ける野郎なんざ、あっしが殺してやりたいくらいですよ」

「殺しは俺達の仕事じゃない。身柄を拘束して引き渡すだけだ」

「わかってるんですがね。こんなクズ野郎を見てるともう腹が立ってきて」

「わかったわかった。ところで福本はどうした?」

「奴は別件で逮捕状が出てたんで警察にくれてやりましたよ。金にはならねえが世のため人のため・・」

「何が世のためだ。警察に恩を売っておいて特別な情報でも仕入れる気だろう」

「あちゃー!さすがだんなだねぇ。全てお見通しですかい」

「そしたらこいつを連れていけば全て完了だな。後は頼んだぞ」

「へいへい」

まだやり足りないとばかりに不満げな顔をしながら、らっぱが川合を引きずって行く。

そのまま近くに隠してある車に向かおうとするが、

「ちょっと待った」

ふいに悪魔座が呼び止めた。

「どうしたんですかい?」

悪魔座が手を差し出し、マスク越しににやっと笑う。

らっぱは嫌な予感がした。

「先渡しで五十ほど・・」

予感は的中した。

「やっぱり・・・また酒ですかい?」

いつもの悪い癖が出た。らっぱが深いため息をつく。

「だんな。たまにはお控えなすったらどうです」

「バカたれが。酒があるからこそ、この世に楽しみがあるんだろうが」

「普段からそんな大金持ち歩いてる訳無いでしょう。金が入るのは仕事が終わってからなんですから。だんなも知ってるでしょ」

「じゃあ、あるだけで良いから」

「あっしもそんなに持ち合わせて無いですって。この後こいつを車に乗せて夜通し何百キロと走ってクライアントに届けなきゃいけないってのに。それだけでも金と体力がいるっんですから」

「仕方ないな・・」

悪魔座がぶつぶつぼやきながら懐から財布を取り出し中身を確認する。

「やれやれ。これじゃあ三、四軒って所か」

「まったく。と言うかだんなも前回の仕事でかなり儲かったでしょ。いつも金が無いなんて毎回毎回飲み歩きが過ぎるんじゃないですか?」

「余計なお世話だ。お前も女に金をつぎ込んでるだろ」

「奉仕って言ってくだせえ。可哀想な身の上の女だからこそ世のため人のため・・」

「ああ、わかったわかった」

らっぱの話を遮り悪魔座は財布を懐にしまいこむ。

「だんな。ちなみにこいつすぐに目を覚ましたりしないでしょうね。車の中で暴れたりしたら面倒だ」

「心配すんな。よく眠るツボに鍼を刺してある。12時間は起きねえよ」

「さすがだんな。抜かりは無いときてるね」

「当たり前だ。・・じゃあ後は頼んだぞ」

そう言い残し悪魔座はその場を後にする。

「やれやれ。腕も頭も超一流なのに。酒と金は超三流だねぇ・・」

去っていく悪魔座の背中を見送りながららっぱはぽつりと呟いた。

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