悪魔座

不動 聖

賞金稼ぎ

10分ほど走っただろうか。


辺りを見回すと無数の倉庫やコンテナが並んでいて近くに海が見える。


どうやら埠頭にある倉庫街にたどり着いた様だ。


周辺を確認するが人がいる気配は無く、念のため後ろを振り返るがやはり誰もいない。


どうやらうまく逃げ切れたらしい。


川合は近くにあったコンテナヤードに身を隠し再度辺りを見回す。


「はあ、はあ・・・・ここなら大丈夫だろ」


乱れた呼吸を整えながら額の汗を拭う。


(くそ、とうとう居場所が見つかったか。次に逃げる場所を段取りしてもらわないと)


携帯を取り出し、福本に電話を掛ける。

福本に電話をするのは二年前の逃亡した時以来だ。



『プルルルルル、プルルルルル』


10秒ほどコールするが相手からの反応は無い。


(くそ。早く出やがれ!)


応答が無いことに少しイラつきながら発信を続けていると川合の足元に何かが飛んできた。


「・・・え?」


川合は一瞬思考が止まった。


そこに落ちているのはバイブしている携帯電話。


そしてディスプレイに表示されている発信者は




【川合玉三】




自分の名前がディスプレイに表示されていると言うことは、それは他ならぬ福本の携帯。



「うわぁ!」



状況を把握した途端、思わず絶叫しその場で思わず尻餅を付く。




「無駄だ」





突然背後から声が聞こえ、川合はあわてて後ろを振り返る。


そこに男が一人立っていた。


帽子とマスク、ジャケットにズボン、手袋まで身に付けている物全てが黒で統一されている全身黒ずくめの男。


その異様な出で立ちは今の状況でなくても只者ではないと思わせるのに充分である。


「お前に逃げる所はない」


続けてマスクの男がぽつりと呟く。


「な、なんだ、てめえ!警察か!?」


「こんな恰好した警察がいると思うか?まあ、お前にとっては警察の方が良かっただろうがな」


川合の狼狽ぶりとは逆にマスクの男は淡々と答える。


「警察じゃ無いなら俺の後を付け回してどうしようってんだ!?」


「お前の身柄を引き渡せば大金が手に入る。金目当てに色んな人間が血眼になってお前を探してるんだ」


「何だと!?」


「しぶとく二年も逃げ回るからお前に賞金が掛けられてるんだ。お前は賞金首って訳だ」


(・・賞金首?)


その言葉を聞いてふと川合は逃亡中に福本に聞かされた事を思い出した。


指名手配中に懸賞金を掛けられる者、人に恨みを買って賞金を掛けられる者がいる。


そして、そういう人間を捕まえて身柄を引き渡し金を受け取る裏稼業の者たち。


その者たちに捕まった後が悲惨だという。


警察に身柄が渡ればまだ良い方で、非合法的に賞金を掛けた人間の元に連れていかれた場合は犯した罪の重さに見合った報いを受ける事になる。


ある者は生きたまま全身を切り刻まれ、ある者は生きたまま燃え盛る炎の中に体を投げ込まれ、この世の物とは思えないほどの苦痛を味わいながら悲惨な最期を遂げる。


もし狙われた場合は捕まる前に警察に自首した方が身の為だと。


その時の福本の恐怖に満ちた表情が脳裏によみがえった。


(こいつもその賞金稼ぎって言うのか・・)


目の前の男が福本の言うような人間なら、捕まるよりは警察に行った方がマシだろう。


しかし大金を掛け二年も逃げ続けて今さら捕まるつもりは無いし、仮に警察に捕まったとしても恐らく死刑は免れない。


(なら、この野郎をとっとと殺して逃げるしかない!)


川合は立ち上がると懐からサバイバルナイフを取り出した。


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