最終話「再会」

　「おっ！？ついにきたか！」


　異世界から帰還してから約５年たったある日のこと。帰宅して机に目を移すと、その隅で保管していたた小さな水晶玉が光っていた。
　同時に上着の中からスマホが震えて、出ると縁佳からの着信だった。彼女のところにも、俺のと同じ反応がきたらしい。米田と曽根も同様とのこと。
　さらに水晶玉から、随分大人びた声になっていた「彼女」の声が聞こえてきた。


　『コウガさん！私です、ミーシャ・ドラグニアです！聞こえますか？』
　「ああ、ばっちり聞こえてるぜ。こうして通話できるってことは......出来るんだな？」
　『コウガさんの声……！はい、いつでも皆さんを呼び出せます！あとはコウガさんたちの都合次第ですね。いつ、来られますか？』
　「ああ――」


　その後、縁佳たちと連絡を取って、日時と集合場所を決めて、俺たちは集まった。
　その場所は、全てはここから始まったあの場所――桜津高等学校だ。
　「迷彩」で誰にも気づかれることなく校内に入り、グラウンドの隅に移動した。不法侵入？そこは今回ばかりは勘弁してほしい。
　元の世界に帰った後も、異世界で得た力は全員そのままだった。もの凄い腕力ももの凄い耐久力も魔力も素早さも、あと固有技能も全部引き継いでいる。現代チート主人公が爆誕した。

　「５年ぶりだなぁ、この高校に来るの。少しも変わっていないね」

　おさげの髪、長いスカートを履いた米田が感慨深くに呟く。

　「誰もいない時間帯だね。もう技能解いて大丈夫じゃない皇雅君？」

　あれから少し短くなった髪、眼鏡をかけて、さらしを解除したことでさらに豊かになった胸のラインが見えるようになった縁佳が、俺に提案する。

　「そうだな......よし、準備オーケーだな？」
　「ええ、私は大丈夫よ」

　背がだいぶ伸びて縁佳と同じくらいの長さの茶髪、ホットパンツを着こなしている曽根が先に答える。残りの二人も頷いたのを確認したことで、水晶玉に話しかける。

　『ミーシャ、よろしく頼む！」

　そして数分後、俺たちは再びあの光に包まれながら――
　あの地へと戻ってきた......！


　「コウガ、さん......！！」
　「よぉ、おひさー」


　まず目に映ったのは、綺麗な青い髪に背がけっこう伸びた、大人の女性になったミーシャ・ドラグニアの姿だった。俺の姿を認識するやいなや、駆け寄ってきた。

　「ありがとうな、約束守ってくれて」
　「当然です！やっと、会えましたね……！！」

　五年経っているわけだからミーシャも成人しているはずだけど、俺を見て嬉しそうにはしゃぐ姿はあの頃の少女を思い出させる。みんなでしばらく彼女と話してから、それぞれ行きたいところへ行こうという話になり、縁佳たち三人は揃って同じところへ向かうことになった。たぶん、「あの人」のところだろう……。
　俺もそうしたいとは思うけど、あの人には悪いけどそれ以上に先に逢いたい人がいるので後回しにさせてもらった。俺だけ先に召喚されたこの場所……旧ドラグニア領地内にある城から出る。
　あれから五年経ったこの領地は、以前から知ってた通りミーシャが領主となって上手く統治しているようだ。領民たちからもすごく慕われているとのこと。彼女の母シャルネも健在だった。

　「コウガさんですか……！？」
　「ん………おお！お前は！」

　よく通る女の声が俺の名を呼んだ。振り向くとそこには、セミショートくらいまで伸びた黄色髪に、さらに大人っぽくなった女兵士……かつてこの世界で共に旅した仲間、クィン・ローガンがいた。俺の顔を見るなり、彼女も凄く嬉しそうに駆け寄ってきた。

　「ミーシャ様から今日あなたやヨリカさんたちがここに召喚されることは事前に聞いてましたが、それでも凄く驚かされました……！」
　「そうだったか。俺もクィンもそうだしミーシャとかも身長や見た目が変わってて驚いているぜ。五年経ってるから当たり前だけどな」
　「………安心しました。元の世界に帰った後も元気にされているようですね」
　「まぁな。この五年間凄く充実させてもらってるぜ。毎日が楽しい…は大げさだけどまぁそんなところだ」
　「そうですか…！それで、早速領地から出るということは、先にあの里へ向かうのですね」
　「ああ。どうしても早く逢いたいんだ。あの人のところにはその後で向かうよ。お前との話もまた明日以降ってことで！」
　「はい、楽しみにしてます……！」

　クィンとの再会の挨拶も短く済ませて、俺は今一番行きたいあの場所へ向かうのだった。


　制御を外した状態での全力疾走は本当に久しぶりだ。陸上の試合ではもう全力では走れないからな（もし本気出したら競技場を破壊してしまう）。光にも迫る程の速さで駆けて大陸と海を渡って、あっという間に目的地に到着する。
　ここは五年前までは獣人族という魔族の国だった。五年前からは鬼族という魔族の里として生まれ変わっている。
　その鬼族の里は今―――


　（驚いた、ここまで立派な里までに発展しているとは！）


　アニメや漫画で何度も目にしてきたそれらよりも立派で大きな人里へと発展していた。守り人たちに事情を説明して中へ入れてもらうと、以前よりも多くの鬼たちが笑顔で暮らしている。人も豊かになっている。

　（驚かされたよ……それくらい凄く立派な里に発展すること、それを見事実現したんだな…！まぁ出来るって信じてたけどな！）

　心を躍らせながら奥へ進んでいくと、進行方向からこちらに駆け寄ってくる人間の女性がいた。ここにいる人間は一人しか考えられない。
　緑色のセミロング髪を揺らして、よく似合う伊達眼鏡をかけた小柄美人の――


　「コウガ！！来てくれたのですね！」
　「カミラ...！！」

　勢いそのまま、カミラが俺に抱き着いてきた。しばらく抱擁を交わした後、早速里を案内してもらう。道中あれからのお互いの生活について話し合った。
　俺はこの身体能力を活かして様々なスポーツで世界の頂点に立って、荒稼ぎしていること、家を買ったこと。
　カミラは里とサント王国を行き来してそれぞれの発展に貢献したこと。俺が話した文化を取り入れたこと。鉄道とか空港とか、色々開発したとか。
　お互い驚き合って、笑い合った。
　そして、俺がいちばん楽しみにしていた目的の場所に着いた。
　すると――



　「あ、パパだ…！」
　「え？このひとが、ぼくたちのおとーさん？」
　「うん間違いないよ！だってこんなにカッコイイ人、私たちのパパに違いないよ！」


　元気な声でそう言い合いながら、俺の脚にしがみつく二人の子どもが。
　というかパパ？おとーさん！？誰が......俺が！？
　
　「えーと......君達、どこから来たんだ？」
　「君じゃないもん！私、カレン！こっちは弟のコウキ！」
　「おとーさん、おとーさん...！」

　カレンと名乗った女の子は、自信満々で勝気な目をした、赤い髪で小さな角が生えている。ヒラヒラした可愛らしいスカートを履いて俺の周りをくるくる走っている。とても元気な女の子だ。見た感じ５才くらいに見える。
　もう一人、未だ俺の脚にしがみついて甘えている男の子...コウキは、背丈はカレンと同じ黒髪で、半目の相貌をしている。おでこに小さな角が２本生えている。こっちも５才くらいだ......双子！？
　それにしても気になるのは、カレンといいコウキといい、まるで...日本人名だ。何よりも......


　「どうして俺が、二人の父親だって...分かったんだ？」
　「だって、家にパパの写真があるもん！それで、すぐに分かったもん！」
　
　えへんと胸を張って答えてくれるカレンの目線に合わせるようにしゃがんで、さらに質問をしてみる。後ろにいるカミラが微笑んでいる気がした。

　「二人のお母さんの名前、言えるか？」
　「うん！お母さんの名前は―――」



　
　その後カレンとコウキの手をつないで歩きながら...「彼女」がいる家に案内してもらう。
　二人が止まった先にあるのは、どこにでもある一般的な民家だった。その扉を開けて中へ入ると―――

　「　おかえりなさい　コウガ！　」



　以前よりけっこう伸びた綺麗な深紅の髪に、以前より背が伸びた美しい肢体をした、世界一可愛くて、強くて、俺にとても優しくしてくれる―――

　最愛の人、アレンが迎えてくれた……！

　カレンとコウキの繋いでいた手をゆっくり離して、アレンのもとへ行き、お互い抱擁を交わす。
　アレンの温もりを感じながら、彼女のおかえりに返事をした―――

「　ただいま、アレン！！　」


　時間の流れなんかすっかり忘れるくらいに俺はアレン、そして俺たちの新しい家族である俺のこ……子供たち（まだ親になった実感が湧かない……）と積もりに積もった話をした。家族団らんとはこのことか、と理解できた。
　いつの間にかルマンドたち他の仲間たちも訪れてきて、みんなで俺の帰還を祝う宴が開かれた。なので縁佳たちが向かっているであろうあの人のところへの訪問はその翌日となった。

　改めてドラグニア領地へ訪れる。アレンとカミラも一緒だ。二人にはあの人……藤原美羽のことについてまだ何も聞いていない。あえて聞かないようにしていた。自分の目で最初に確かめたかったからだ。
　
　（美羽先生………）

　五年前、魔人族との戦いの末、彼女は深い眠りについてしまった。俺がいる世界での医療で治す見込みがないと判断した末、彼女だけをこの異世界に留めておくことにした。
　元の世界に帰った後、当時のクラスの担任だった浜田先生や美羽の家族にそのことを話した。俺たちだけで先に帰った理由はこのことも関係している。俺たちのそれぞれの家族や浜田先生、その他色んな関係者たちはやっぱりというか失踪した俺たちのことをすごく心配していた。俺たちだけでも無事を知らせるべく、転移魔術が完成したすぐに帰ったというわけだ。
　美羽の両親は当然彼女のことを心配していた。いつ目を覚ますのかは分からない、しかも彼女だけ全く知らない世界にいるというのだから無理もない。俺たちは美羽は無事に快復した状態で連れて帰ることを約束することしかできなかった。
　そして今日、俺たちは美羽のところに戻ってくる。召喚された場所…城に再び入り、美羽がいると聞いた部屋に入る。中には縁佳たちもミーシャもクィンも揃っていた。
　そして、彼女たちの中心で佇んでいる一人の女性に目が釘付けになる――――

　「美羽、先生………！」
　「――――――」

　彼女は五年前と変わらない姿だった。茶色の長い髪、１７０㎝はある背丈、優しな目、整った顔立ち。最後に目にした時そのままだった。

　「よかった、目を覚ましてたんだな………！」
　「……！……………」

　自分のことのように嬉しく思って笑いかける。しかし肝心の美羽は俺の顔をまじまじと見つめて困った表情をしていた。どういうことだろう。
　ちらと縁佳たちを見ると彼女たちは全て分かっているようで、どこか寂しそうにしている。

　（……………これって、もしかして）

　俺がその可能性に思い至ったのを見計らったかのように、美羽は俺に話しかけてきた―――


　「　あなたは　誰なのでしょうか？　」


　―――これは、五年経って俺の見た目が変わったから分からない、とかじゃない……。

　藤原美羽は、記憶を失ってしまったんだ―――

　「………そっか。目を覚まして元通りになる為に、それだけの代償を支払ったってことなんだな、あんたは…」
　「………？」

　俺の言葉に美羽は困惑するだけだった。縁佳たちが暗い表情しているのも納得がいった。

　「あなたのこと、全く分からないのだけど……あの子たちと同じ、あなた……いえ、君からはとても親しい感じがするわ。記憶を失う前の私ときっと知り合っていたのね」
　「………！」

　美羽はどこか懐かしむように微笑んでそう言った。俺もつられて笑ってしまう。次第に縁佳たちからも笑顔が戻ってきた。

　「あの、良かったら君のことも教えてくれないかな？ううん、教えてほしい！あなたとはすごく親しかった気がするの。あの子たちと同じ、君も私にとってとても大切な人だった気がするの……！」

　記憶を失っても親しげに話しかけてくれる俺の恩師に、俺も精一杯に親しげを込めて答えるのだった――――


　「俺は甲斐田皇雅。あなたの生徒だった男で、この世界で一緒に旅していた仲間です！
　俺にとってあなたは命の恩人であり、最高の先生です―――」






世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る　

――完結――




＊明日、おまけと雑感投稿します。