世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

268話「またな」



 サント王国へ行く前に、これまでこの世界で交流したことがありお世話になったことがある人たちとの挨拶をしに行った。
 鬼族…ルマンド、セン、スーロン、キシリト、ソーン、ガーデル、ギルス、ロン。みんな別れを惜しみつつも帰還を祝福してくれた。里を出る際にルマンドが俺の頬にキスしてきた。

 「私に恋を教えてくれて、ありがとう!」
 「俺はそんなことしたつもりはなかったけど……まぁ、俺の方こそ楽しかったぜ!」

 そうして鬼族との別れを終えた。最後の見送りとしてアレンだけ一緒に里と出て次へ向かう。途中アレンだけサント王国へ送っておいた。
 次の行き先はサラマンドラ王国。竜人族…ドリュウ、エルザレス、カブリアス、他「序列」戦士数人、あと竜人じゃないけど情報屋コゴル。竜人族たちにも修行のことで色々世話になった。お礼と別れの挨拶を言いに行くのは当然だ。
 顔パスで族長エルザレスの屋敷へ入り、彼らと少し話をした。
 俺との実戦稽古は楽しかっただの、魔人族を討伐してくれてありがとうだのと、笑顔を交わして、全員に見送ってもらった。

 「いつになっても良い。またこの国に来て、俺と戦ってほしい。その時はお前を超えてみせる」
 「楽しみにしてる。また来るよ」

 最後はドリュウと固い握手を交わしてから国を出た。

 次はパルケ王国へ。亜人族…ディウルとアンスリール。事情はコゴルから聞いたらしく、二人とも俺をすぐ王宮に入れてくれた。

 「異世界からきた君やフジワラミワがいなかったら、ダンクと和解出来なかったまま死に別れていたかもしれなかった。もちろんこの国も魔人族に滅ぼされていたかもしれなかった。そして最後にダンクに最高の戦士としての最期を遂げさせてくれたこと……君には感謝しきれない」
 「まぁ、ダンクの奴も助けられたらなぁって思ってたけどな」
 「叔父殿もきっと今もお前に感謝しているさ。お前は本当によくやってくれたさ」

 終始二人に感謝されて、パルケ王国にも別れを告げた。
 他にもハーベスタン王国、ラインハルツ王国にも出向いて別れを済ませてきた。ラインハルツ王国には倭の遺骨と墓があった。彼の全てはこの国に残すことにした。元の世界には彼の居場所はもう無いからな……。家族と同じくらい親しかったこの地…兵士団がいるところに骨をうずめてあげる方が倭にとって最高の供養になるだろう。

 「ありがとう、偉大な先輩」


 全ての別れが済んだところで、最後に再びサント王国に着く。王宮に入り、約束の場所へ行く。そこには既に全員揃っていた。一緒に帰る縁佳、米田、曽根。俺たちを転移してくれるミーシャと術者たち。俺たちを見送ってくれるアレンとクィンとカミラとガビル国王とシャルネ元王妃。
 まずはガビルから今までのことに対するお礼と別れの挨拶を聞く。その間にミーシャたちが転移魔術を行う装置を起動する。ガビルとの挨拶が済んだ頃、部屋の中心に円環と幾何学模様らしき紋様の魔法陣が俺と縁佳たちの足元に出現した。あの日…俺たち3年7組のクラス生徒たちがいた教室に突如現れた時とは少し色や形が異なるものだった。

(この魔方陣に入っていれば、俺たちは元の世界に…日本に…俺ん家に帰れるんだな……!)

 そのことに期待で胸がときめいてしまう。そこにミーシャが俺たちに説明を告げる。

 「転移先は以前皆さんが最後にいた場所にしました。あとは術者の方々が魔術を発動すれば、元の世界へ帰れます。
 ですから、最後に……私たちからも挨拶を」

 ミーシャは俺のところに歩み寄ってくる。後ろにはクィンとカミラ、そしてアレンもいた。

 「コウガさん、約束します!あなた方を必ず再びここに呼び出すことを。今度は召喚することをちゃんと事前に知らせますね。
 その、水晶玉で」
 「ああ、そうしてくれ。何年経っても良い、待ってるからな」
 
 懐には片手に隠れるサイズの小さな水晶玉が入っている。こいつが光れば、俺たちをまたこの世界に召喚できるという合図となる。しかもこいつで通信通話もできるそうだ。まぁ通話が可能になるのは召喚準備が整ってからになるようだけど。

 「コウガさん、ヨリカさん、サヤさん、ミキさん。私たちの国を救ってほしかったとはいえ、そちらの都合を無視して勝手に呼び出してしまったこと、改めて謝罪します……ごめんなさい。
 みなさんには過酷過ぎた日々を強いてしまったこと、仲間の方々を多く失わせてしまったことも…。
 特にコウガさんもその一人でした。本当にごめんなさい…!」

 縁佳たちに謝罪して、最後は俺に向き直ると深く頭を下げる。俺はもう気にするなと返して、彼女の頭を上げさせる。

 「確かに…お前らドラグニア王国の連中の都合で勝手に呼び出された。なのに俺は恵まれないステータスを授けられてそれを理由に酷い待遇を受けるようになって、挙句実戦訓練で死ぬことになった。
 本当を言うと、復活した直後の俺は…俺を生贄にして見捨てたクラスの連中とミーシャを含む王族の連中に復讐しようと考えたこともあったんだ」
 「そう、だったのですね」

 隣にいる曽根や米田がビビった反応をする。俺は短く笑ってから「けど……」と続きを話す。

 「ミーシャたちがこの世界に召喚したことで……俺はアレンに逢えた、カミラに逢えた、クィンにも逢えた。ミーシャ、お前にもな。そして……かなり少なくなっちまったけどクラスメイトたちとの和解もできた。
 何ていうか、悪いことばかりじゃなかったよ。悪くない異世界生活だったなーって、今ならはっきりそう言える。
 だから……色々ありがとうな―――」
 「……!!」

 言い終わる前に、ミーシャに抱きつかれた。ありがとうありがとうと何度も告げて強く抱きしめてきた。

 「必ず……!コウガさんたちの為に異世界召喚を必ず成功させます!」
 「ああ、約束な」

 そう言ってミーシャは俺から離れて小さくお辞儀をした。別れの意を込めて...。そして入れ替わるようにクィンが俺のところに来た。

 「コウガさん。元の世界でもお元気で。そっちでも乱暴な仕返しをするのはダメですからね?それと…もし辛いことがあってどうしようもなくなったら、次の異世界召喚が来たら私のところに真っ先に来て下さい。叩き直して立ち直らせてから、優しく迎えてあげます」
 「厳しくするのか優しくするのかどっちだよ。まぁ…もしそうなった時は頼む」
 「はい!そ、それと最後に……あなたやアレンさんとの旅、一生忘れません!そして、あなたのことが好きです!!」
 「………最近気付いたよ」

 俺は苦笑してクィンも赤面で笑った後、彼女が軽い抱擁をしてきたので俺もそうした。ガビルから視線を感じたが気のせいだと努めて無視した。
 抱擁が終わり下がるとカミラがやってきた。

 「コウガ、あなたが元の世界へ帰ろうとも私はあなたの専属軍略家です。
 今後の私は鬼族の繁栄の協力だけではなくミーシャ様たちと共に異世界転移の完成にも尽力します。コウガと皆さんがこの世界に戻って来られるように…!
 それとコウガが暮らす世界に負けないくらい、鬼族の里を豊かに発展させてみせます!」
 「それは凄く頼もしいな。お前の知識と知恵でミーシャたちを成功に導いてくれ。俺も、このひと月でお前に教えてもらったこと全部、元の世界で活かしてやるからな。感謝してるぜ、俺の姉さん」
 「ええ…!私の可愛くて素敵な弟!だから、必ず……戻って下さいね…!」
 「ああ、また会おう。カミラの興味をそそる話題をいっぱい持って戻ってくるからな」

 涙を流して顔を可愛らしく歪ませているカミラの頭を撫でて、空いた手で握手を交わした。それからカミラも俺たちから離れていった。

 「あとみんな……美羽先生のこと、改めて頼むな」
 「はい!必ず治してみせます!」
 「退屈させないよう毎日ミワに色んな話をしてあげます!」
 「私も。ミワは私にとってお姉さんのような方ですから」

 縁佳たちもよろしくと頭を下げてお願いした。

 さて、最後の別れの挨拶をしようか。この異世界で最初に出会えた心から信頼できる仲間。もっとも親しい人。愛している女の人……。今度は俺の方からその想い人のところへ近づく。その彼女……アレンもこっちに歩み寄ってきた。

 「約束だ。俺はまた会いに来る。お前は…鬼族を完全に復活させて繁栄させる。出来るさ。仲間がたくさんいる、何だって出来る」
 「ん、絶対に実現させる。コウガを驚かせるくらい凄いところにする!その時は、ちゃんとご褒美ちょうだいね?」
 「もちろん。好きなだけ求めてこい。全部受け入れてやるから」
 「えへへ……!」

 俺たちは抱き合って互いの温もりを確かめ合う。この温もりを体に刻み込む。

 「またな―――」
 「うん、またね―――」



 「アレン」「コウガ」



 そして、最後に軽い口付けをすることで別れの挨拶を済ませる。アレンから離れて俺は魔法陣のところに戻る。数秒後、魔法陣が輝き出してその光が段々強くなる。


 「はぁーあ、あんたってこの世界でモテ過ぎでしょ」
 「俺も驚いてるよ。最後まで待ってくれてありがとな」
 「………急かしたりなんてしないわよ、モテ男」

 曽根に茶化されて苦笑する。米田もおかしそうに笑っているが、その目には未来に対する希望とやる気で溢れている。

 「美羽先生に次会う時は、先生に誇れる自分になるよ、私」
 「良いんじゃねーの?」

 光りがさらに強まる。次第にアレンたちの姿が見えなくなった。袖が掴まれてそこを振り向くと縁佳が笑顔でこっちを見ていた。

 「帰ろう、元の場所へ。皇雅君――」
 「ああ。帰ろう、縁佳」


 俺の手を握ってきた彼女の手を包むように握ったまま、光を見つめ続ける。やがて浮遊感を覚える。景色も変わろうとしていく―――

(............)

 景色が完全に変わる寸前、俺は小さくこう呟いていた―――



 「 またな 」



                 *

 異世界転移した桜津高校3年7組の生徒4名の少年少女たちは、元いた世界……日本。元いた場所……3年7組の教室へと帰った―――

 





世界大戦編 後編 完


*次回 最終話

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