世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
267話「好き 愛してる」
里に帰るといつもと違うところに気付く。人をあまり見かけない。気配を探ると多くの鬼たちが同じ箇所に集まっているのが分かる。何かイベントをやっているのか?
とにかく今は彼女に……アレンに逢いたいとばかりに彼女の気配を探っていくと、彼女の気配が通常より大きいことに気付く。
「この気配……戦っている?それもかなり全力で戦ってるっぽいぞ。誰とだ……?」
真相を知るべくアレンのところへ向かう。そこには多くの鬼たちも集っている場所でもあった。
着いた場所は鬼族が新しく創ったらしい闘技場だ。しかしそこは激しい戦闘があったせいか床がいくつも剥がれており壁もズタボロだ。というかいつの間にこんなところを創ったのか……もしかしてアレンたちが忙しそうにしていたのはこれのせいだったのか?
それで、その闘技場の中心にいるのは逢いたいと思っていたアレンと……ルマンドだった。二人とも全力を出していたようで体力も魔力もかなり削られていて傷だらけだった。
「「………………」」
やがてルマンドが先に倒れてしまい、アレンの勝利で決着がついた。
「なぁ、これってどういうことなんだ?どうして二人があんなに全力で戦ってたんだ?」
人をかき分けて舞台の近くにいた旅の仲間たちに尋ねると、センとスーロンが満足した笑みを浮かべながら答える。
「コウガの正妻をかけた決闘だったのよ」
「せ、正妻……?」
呆気にとられてしまう。二人はなおも興奮した様子で続きを話す。
「ルマンドから持ちかけてきたの。コウガの一番の嫁を決めたいって。まぁその方法が単純な戦闘力比べってことになったのだけど」
「アレンは嫁は何人いても気にしないって言ってたけど、ルマンドはそれじゃあ納得いかなかったみたいで、一番以外にしか認めたくないって言って、勝負させてもらったの。
それで……あの子が負けちゃったら、あの子コウガの嫁を諦めるって言ってて……」
スーロンの口調が徐々に寂しそうなものに変わる。理由はルマンドが誰からみてもアレンとの勝負に敗れてしまったからだ。ということは、ルマンドは………
「………さすがねアレン。仮とはいえ今の私たちのリーダーを務めているだけあるわね……」
「んーん、ルマンドまだ本調子じゃなかったでしょ?魔人族を倒した程の“神通力”を発揮できてなかったし」
「アレンだって、まだ回復しきれてなかったでしょ?なのにこうして私のわがままに付き合ってくれたんだから、私の完全な負けだよ……」
「……………本当に良いの?これで諦めることにしちゃって」
「ええ、もう悔いは無いわ。それにコウガが元々暮らしていた世界じゃあ、嫁は一人しか認められていないんでしょ?そうなんでしょ、コウガ」
唐突に俺の方を見て確認してくるから、俺は「あ、ああ」としか答えられなかった。まぁ日本では一夫多妻制は認められていないようだから正しい見解ではあるかな。
「私もそれが良いかなぁって思ったの。負けた以上は私はコウガの嫁候補から降りるわ。鬼族の中ではアレンが一番のお嫁さんよ」
「ルマンド……………ありがとう」
ルマンドの手を引いて支えながら起き上がらせながらアレンは笑顔でお礼を告げた。
「コウガの正妻をかけたこの戦いには負けたけど、鬼族の正式な族長をかけた戦いには負けないからね。今度はみんなも交えてまた全力で戦いましょう!」
「ん!次も負けないから!」
二人が支え合って握手を交わす様子を見た鬼たちが大いに拍手して二人を讃えたのだった。
「目立つ傷はもう無くなったけど、消費した体力と魔力はしばらく休むことで戻るだろうから、あんな戦いはしばらく禁止な」
「ん、体キレイになった、ありがとう」
その日の夜、アレンの家にて彼女の治療を終えると彼女は嬉しそうにすり寄ってくる。この温もりが愛おしく思う。けれど、告げなければならない……。
「アレン、とても大事な話がある」
「………ん、聞く」
そして俺はアレンに告げた。元の世界に帰るということを。
「そう……帰るんだね、コウガが元いた世界、国、コウガの本当の家に……。この世界にいる人族じゃない、元の世界にいる人族…ニンゲンたちが暮らしている世界に」
「ああ。先日ミーシャが俺たちを特定の世界へ転移させる魔術を完成させたんだ。もういつでも帰れるようになってる。けど、こうしてお前や旅してきた仲間たちと会いたかったからみんなから数日の時間をもらった。特に…アレンとの時間が欲しかったから」
「ん……コウガは任務でサント王国を助けてた。私も今日の勝負のことで忙しかったから、今日までお互いこういう時間がとれなかった」
「そうだったな……」
しばらくお互い無言が続く。一分くらい続いた後、アレンは俺の袖をキュッと掴んで、寂しげな目で問いかけてくる。
「帰りたいんだよね……?コウガは元の世界、国、家での暮らしを望んでるんだよね…?」
「その通りだ。あの日…地底で一度死んでゾンビになって生き返ったあの時からずっと抱き続けていたんだ、“帰りたい”って気持ちを。旅していた目的はずっと……元の世界に帰る手段を見つけることだったからな」
「ん………」
ここまでくればアレンの気持ちは大体分かる。割と鈍いらしい(?)俺でも分かる。
アレンは俺と離れたくないと思っている。ここにいて欲しいと願っているんだ……。
俺だって同じ気持ちさ……。アレンとお別れするのは惜しい。一緒にいたいと思ってる。けど………俺はこの世界で暮らしたいとは結局思うことができなかった。元の暮らしを強く望んでいるんだ…!
「俺が暮らしていた世界にアレンも連れて行く......ってのは無理あるよな?アレンには新しい目標ができたんだよな?この鬼族の復活と繁栄、里の完全復興。それらを達成するまではこの里から離れるわけにはいかないんだよな?
だったら、一緒にはもういられない」
「じゃあ......コウガとここで一緒にいられるのは、あと少しだけ?
そのあと少しが終わったら、もうコウガとは永遠にお別れになる、の...?」
そんなのは嫌だ、とアレンは俺に抱きついて泣き出した。
そんなアレンの頭を、優しく撫でながら、俺は明るい声で返す。
「永遠?そうはならねーよ!俺はあと数日で帰ることになったけど、これがお前たちとの今生の別れになるって誰が言ったよ?」
涙で濡れた目でアレンは俺を見上げる。
「異世界召喚・転移が最後の一回きりだなんて誰が決めた?数年後に俺はまたここに来られるさ!ミーシャたちならまた俺たちをこの世界に召喚してくれるさ!だから、これが最後だなんて絶対にならない。また会える!絶対にだ!!」
俺の力強い発言に、アレンは俺をジッと見つめる。その目からは悲しみが消えて、代わりに希望の光が灯っていた。
「それに……今回の帰還では美羽先生だけをサント王国に残すことにしたんだ。彼女の昏睡を覚ますには…彼女を完全復活させるにはこの世界の医療が必要なんだ。俺たちがいた世界じゃあきっと治せない。だから美羽先生だけをこの世界に残して、俺と縁佳たちはいったん元の世界に帰る。それでいつかまたここに呼ばれて戻ってくるんだ!」
「また.........会える?コウガはまたここに戻って来る?」
「人族を......ミーシャたちを信じろ。俺も信じてる。それにこの里、この場所はもう俺にとって第二の故郷だ。だから、帰って来るよ。ここに、必ず......!!」
「うん......うん!!だったら信じる!コウガの言葉を。ミーシャたちの力も。信じて待つことにする!また逢えるって、信じる!!」
信じることを決意したアレンは、再び涙を滲ませて俺に抱きついてきた。俺もアレンのことを抱きしめた。彼女の涙は悲しみの色なんかじゃない、希望の色だ......!
「それで……今日は一緒にいてくれるんだったよね?」
「ああ。二日間はここにいて、その翌日に帰る予定だ」
それを聞いたアレンは抱擁を解いて、今度は熱っぽい視線をとばしてきた。
「じゃあ、約束してた“続き” しよ?
私、コウガとの赤ちゃんを産みたい。コウガとなら、立派で強い鬼の子になれると思うから......!」
ドストレートな約束の内容。けれどアレンは真剣で言ってるんだ。ちゃんと約束したもんな。
「もちろん。約束じゃなくても、俺は……お前と愛し合いたい」
アレンが好きだ。愛し合う意味で。約束なんか無くたっていつかは彼女とそうしたいと想い続けていた。
人間に戻った今なら、世継ぎもできるはず。アレンの......鬼族の為に、アレンと家族になる為に、その夜から俺とアレンは愛し合った――――
「「 好き 愛してる 」」
*
そして、とうとう元の世界へ帰る日がやってきた。――――
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