世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

266話「ひと月間の任務」



 それから約ひと月間、俺は鬼族の里を完全なものにする為の里興しの協力とサント王国の復興の両方をこなした。前者が7割後者が3割といった比率でのお仕事進行だった。属性魔法を器用に使って色々直しまくってやった。鬼族の里では復興を進めては祝勝会をちょくちょく挟んだ。規模を小さくすることで何度も行おうとの案だった。


 ひと月もの時間はそれなりに有意義なものだった。
 復興活動以外の時間は、クィンと鍛錬に励んだり、ミーシャや縁佳と会話・お出かけしたりなどがほとんどだった。

 人間に戻って体力が有限になってからは、クィンとの鍛錬でもかなりキツく感じるようになった。主に剣術の稽古をこなすことになり、彼女から中々のスパルタを受けた。剣の腕は彼女が圧倒的上だったものだから、模擬戦で何度も負けた。

 「何だか嘘みたいです、私がコウガさんに何度も勝ちを取るなんて……!」
 「それだけお前が強くなったってことだろ。ところで倭の刀はまだ使ってねーんだって?」
 「はい……。今の私が扱うにはまだ未熟かと思いまして。マリスさんも同じ理由で刀はまだ手にしていないと言ってました」

 倭が愛用していた二つの日本刀はクィンとマリスにそれぞれ渡った。倭本人たっての希望だ。武器は使われてなんぼのこと、あの刀たちもいつかは使ってほしいと思っているんだろうな。

 「ところで、何でこうして俺と鍛錬がしたかったんだ?」
 「この世界に来たばかりのコウガさんは、片手剣士という職業と平均以下だったステータスを理由に、誰とも鍛錬を一緒にしてくれなかったと聞きました。けれどミワだけは…あなたと一緒に鍛錬していたと聞きました。
 なので今度は私が、ミワやアレンさんに負けないくらいコウガさんの鍛錬の相手になりたいと思いました!
 ですが……嫌でしたら言っていただいても構いませんよ……?」
 「嫌ではねーよ。誰かと鍛錬するのは意外と楽しいし。んじゃ次は俺が一本取るからな!」
 「……!ええ、受けて立ちましょう!」

 クィンなりに気を遣ってのことなのだろう。その気持ちに応えてあげよう。
 鍛錬以外でもクィンと一緒に過ごすことはあった。一緒に食事したり服を見繕ったりなどもした。ぶかぶか私服の彼女を見て、普段とのギャップを目にして笑わずにはいられなかった。


 ミーシャとは、彼女の部屋でお茶しながらひたすら元の世界での生活...主に俺の生活について聞かれまくった。
 趣味・好きなもの(食べ物)から、学校について、将来について、さらにはタイプである異性とはについてとかまで半日以上質問攻めされた...。挙句、俺が料理できると知ってからは、毎日俺が作るものが良いと言って、専属料理人となったりもした...。1か月間ずっと、甘えん坊の妹みたいに俺に接してきたミーシャは、凄く生き生きしていた。
 たまにシャルネ元王妃(ミーシャの母親)も訪問してきて俺たちとの茶会を楽しんだ。ドラグニア領地が整ったら彼女たちはそこへ移住してそこの領主になるそうだ。

 縁佳とは個室で何気ない会話をするだけの時間を過ごしたり、国外を出て無事だった歓楽街へ一緒に出かけたり(健全なところ)と高校生の放課後らしいことをして過ごした。

 「土日と祝日は基本部活動ばっかりで、休みの日も家でゲームと漫画とラノベ漬けだったから、こんな休日はなんか新鮮過ぎるなぁ」
 「私も学校が休みでも部活ばかりだったからこういうのはあまりなかったかな……。でも、私凄く楽しいよ!」
 「………俺も、こういうのは悪くねーと思った。親しい奴とだから楽しいと思えるんだよなぁ」
 「………そういえば皇雅君はクラスの定期的な遊びの集まりには一度も行かなかったんだよね。皇雅君の言う通りかも、こういうのは親しい人と一緒だと楽しいよね」

 道中縁佳は頬を微かに上気させながら質問してきた。

 「その……さっき言った親しい奴って私のことだと思うんだけど、その親しいっていうのは、その……い、異性としての意味ってことなのかな……?」
 「ん……?………………ああ、そういうこと……。まぁお前のこと良いと思っている。今はそれしか言えねー」
 「そ、そうなんだ……!(赤面)」


 アレンとはクィンやミーシャ、縁佳のようなお茶会も鍛錬もお出かけデートもあまりやれなかった。アレン本人が他の子たちに構って欲しいと言ったのと、何やら別件で忙しそうだったから。


 そんなこんなであっという間に一か月近くが経ち、とうとうミーシャから「その報告」を聞いた。


 『 異世界転移の魔術が完成しました!いつでもコウガさんをはじめ異世界召喚した方々を元の世界に帰すことが出来ます! 』


 俺は飛ぶように……いや本当に飛んでサント王国を訪れて、ミーシャたちのところに着いた。既に縁佳たちも集まっており、元の世界…日本に帰るメンバーはほぼ全員揃った。

 「先の大戦が始まるまでの半年間......いいえ、みなさんをこの世界に召喚してからずっと、あなた方を元の世界に帰す転移魔術の研究と完成を進めていました。
 先月起こった大戦の間は進行が頓挫してしまいましたが、この一か月間でついに……ここから特定の異世界へ飛ばす転移魔術を完成させることに成功しました!」
 「約束、守ってくれたんだな」
 「はい!コウガさんたちに恩を返すとするなら、これくらいはすべきだと思ってましたから……!」
 「それもあるんだろうけど、俺は以前から個人的にお前に約束させてたからな」

 半年以上前、滅んだドラグニアの地でミーシャに拒否を許さない要求をつきつけたこと。その代わりに彼女を危険から守るという約束もした。
 俺が誓ったこともミーシャが受け入れた俺の要求もどっちも成したということだ……!改めて感謝の言葉を告げるとミーシャは頬を赤く染めながら返答する。

 「お礼も感謝も、こちらの方こそまだし足りないくらいです。みなさんが命懸けで戦ってくれたお陰で、この国・この世界は魔人族から守られました!
 改めて......本当に、ありがとうございました!!」

 そう言ってミーシャを始め、クィンもカミラもガビル国王もシャルネ元王妃、その他大勢も俺たちに頭を下げて礼を述べたのだった。

 これでようやく日本に……俺が好きなものが揃っているあの日々に帰れる!やりたいゲーム、読みたい漫画・小説、出場したいレースetc……あそこには、俺がしたいことがまだ山ほどあるのだから!!

 けど………この世界でやり残していることはまだある。まず一つは―――

 「数日前も話してるから分かると思うんだけど……俺の、俺たちの頼みだ。

 藤原美羽はこの世界に残すことにする。あんたたちに彼女のことを任せたい」

 縁佳たちは俺が言ったことについて頭を下げてお願いした。そう、これはひと月前から俺たちで決めていたことだ。ミーシャたちが元の世界へ返す魔術が完成した時になっても美羽が目覚めなかった場合、彼女の快復についてはこの世界の人間に任せようという方針にしたのだ。
 米田だけがそのことに対して渋っていたが、泣く泣く賛成してくれた。彼女が美羽のこといちばん心配しているからな。

 「美羽先生を起こすには、俺たちの世界の医療じゃ無理な気がするんだ。魔力とかが関わってくるし。この世界で受けた傷はこの世界にいる医師たちに任せたいってのが俺の考えだ。そのことはみんなも了承してくれた。
 だから、美羽先生のこと、頼む……!」
 「分かりました。必ず、ミワさんを快復させてみせます!彼女もこの国と世界を救ってくださった大恩人です。必ず助けます……!」

 誰もが俺たちの頼みを承諾してくれた。それだけミーシャたちも美羽のことが好きだってことなんだろう。
 美羽のことはこれで進めそうだから良いとして、もう一つ、やることがある。もっともこれは俺個人のことだけどな。

 「転移魔術をおれたちにかけるのは2~3日後にしてくれないか?最後に会って挨拶しないといけない子が、仲間たちがいるんだ。たぶん、長い別れの挨拶になると思うから」

 俺の個人的な頼み事もミーシャたちも縁佳たち三人も頷いてくれた。その瞬間、俺は御免と言ってから王宮を光に迫る速度で後にした―――


                *

 皇雅が突風よりも速くここから去った後。

 「はぁ……あんなに急ぎたくなるくらい早く会いたいて思ってるのね…。あんな甲斐田初めて見たかも」
 「うん、私も初めてだと思う……。それに甲斐田君、誰かに会いたいって顔していたよね」

 開いた扉を見ながら美紀と小夜は呆れが混じった笑みを浮かべながら皇雅のことで談笑する。そこにミーシャとクィンも加わる。

 「私が旅に同行し始めた頃から、あのお二人は親しい関係でしたから。正直、妬けてしまいますね」
 「はい……この日になるまでどうにか振り向かせてみようと頑張ったのですが、コウガさんの心にはいつも彼女がいたみたいで、ダメでした……」

 クィンはやや不満そうながらもどこか嬉しそうに笑い、ミーシャはま勝負に負けた身でありながらもどこかスッキリしたような表情をしていた。

 「縁佳、あんたもまだ諦めてないんでしょ?」
 「うん、私のこと良いって言ってくれたし、まだいけると思ってる。思ってるんだけど……」

 美紀に問われた縁佳は最初は自信ありげに答えたものの、本音はそうでもなかった。

 (小夜ちゃんの言う通り、皇雅君のあんな顔……私には見せてくれなかった。それだけあの人のことを想ってるんだ……。悔しいけど嬉しくも思う。皇雅君がそれだけ人を好きになってくれたことが、嬉しいんだ……!)

 縁佳の目にはほんのちょっぴり涙が滲んでいたのだった。

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