世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
264話「本当の最後のお願い」
「――――――」
瞬間、俺の全身を温かい光が包み込んだ。
そういえば、ドラグニアでの最初の訓練で元クラスメイトどもにリンチされてたくさんつけられた傷を治療してもらった時も、ハーベスタン王国での戦闘で「王毒」を持ったモンストールから「回復」で助けてもらった時も、こんな優しい温もりを感じたんだよな……
美羽の魔力にはいつだって誰かを治したい、癒したいという気持ちが込められていた。他人を思いやる優しい心を持っている。俺にはない強さを彼女は持っているんだ。
「ミワ、あなたの気配が弱まって………っ」
アレンが悲痛な声を漏らす。俺を抱きしめている美羽の腕が震えている。回復魔術のリスクが彼女を蝕んでいるんだ。俺とアレンが負担したとはいえバルガに使った「時間回復」の反動は相当なはずで、これ以上魔力を熾すのはいくら美羽でも………!
「………!痛みが、消えていく…!俺の時間が、“魔石を使わなかった”――という事象まで巻き戻ったんだ……!」
魔石を体に埋め込んだという事実が初めからなかったということと同義だ。故にさっきまで俺を死へ落そうとしていた副作用も完全に消えていた。
けど………その代わりに……………っ
「美羽先生!!」 「ミワ!!」
地面へ力なく倒れようとする美羽の体を今度は俺が支えて、アレンと一緒に必死に呼び掛ける。美羽は俺が助かったことを知ったからか、満足そうに笑った顔のまま目を閉じて、口を開くこともなくなった……。
「美羽先生……!!」
美羽を何度も呼び掛けながら、「時間回復」を受けていた間に彼女が思念を通して語り掛けてきたことを思い返す―――
(ごめんなさい。君が命を使うことをあれだけ咎めていたくせに、今度は私がそうすることになってしまったね。君のこと怒れないね、あはは……)
(縁佳ちゃんとクィンに言われてたよね、みんな無事に帰ってくるようにって。その約束守れるか分からなくなっちゃった……)
(一つお願いがあるわ……私がどうなろうと、私もちゃんとみんなのところに連れて行ってほしいの。みんなのところに戻ってきた頃にはちゃんとみんなの顔が見れたら良いんだけどね……)
(皇雅君……君はとても良い成長をしたわ。この世界に来たばかりの頃やドラグニア王国で再会した直後の頃と比べると、君は立派な青少年になりました。そんな君だからアレンちゃんやクィン、カミラにミーシャ様といった子たちから慕われるようになったんだと思う)
(実を言うとね、私も君のこと良いなぁって思ってるんだよ?私がもし君たち生徒のみんなと同い年だったら、きっと私も皇雅君のこと好きになってたかもね!)
(そうだったらきっと縁佳ちゃんとは恋のライ……っと、ここでは言わない方がいいかもね。とりあえず言えることは、これからは縁佳ちゃんのこともちゃんと見ること!)
(ふぅ………まだまだ話したいことがあるけど、時間はもう残されてないみたい……。私は君を助けることで命を落とすかもしれない。死んでしまうかどうかは私にも分からないの。もしそうなってしまったとしても、自分を責めることは絶対にしないでね。私の方が君に今までたくさん助けてもらったのだから)
(本当にありがとうね。この世界で皇雅君と旅したこと凄く楽しかったわ。教え子たちが成長する姿を見ることがこんなにも楽しくて幸せに感じるって初めて知ることが出来たわ……!)
(今の皇雅君なら大丈夫。この世界ではもちろん、元の世界に帰った後のことも、今の君なら何だって解決出来る、乗り越えられる!)
(縁佳ちゃんにも小夜ちゃんにも曽根さん……美紀ちゃんにも同じことが言えるわ。みんな本当によく頑張ったしいっぱい成長したわ!)
(………………それじゃあ皇雅君……………私そろそろ眠っちゃうけど………生き残ったクラスのみんなと一緒に無事に元の世界に帰ってね……!)
(私のことは………君たちに任せてもいいかな…………ううん、任せるね!これが、本当の最後のお願い…………)
(じゃあ、ね………………また……………いつ、か……………………………)
(―――――――――――)
「馬鹿だよあんた………みんな揃って勝利することを、あんたがいちばん望んでたじゃねーか……!
クィンと縁佳も言ってただろ、敵を討つだけじゃダメだって。俺もアレンも……そしてあんたもそろってあいつらのところへ帰るんだって、約束したじゃねーかよ………!」
力無くだらっと俺に体を預けたまま身じろぎ一つもしなくなった美羽の体をギュッと抱きしめる。彼女の体温が徐々に冷たくなろうとするのを止めるべく、やけくそに「回復」を発動して、熱を熾して彼女の体を温める。
「こんな戦いで誰も死んじゃダメなんだよ……!目を覚ましてくれ………っ」
抱きしめたまま自分でも何をしてるのか分からないくらいに必死に何でもやった。彼女の心臓が止まったら雷電魔法で心肺蘇生させて、脳まで死ぬのを防いだ。
いったいどれくらいそうしていただろうか。元々底を尽いていた魔力を無理矢理熾していたから疲労がピークに達してしまい、よろめいて倒れてしまった。アレンに支えてもらいながら体を起こすともう一度美羽を助けようと―――
「……!息を、している……!!」
美羽の胸が呼吸によって上下に動いているのを確認する。次いで口からも微かだが吐息が出ていることも確認できた………!
「……………ははははは、やっぱりあんたはスゲェよ……」
力無く笑う俺の声には安堵に満ちていた。隣ではアレンも同じような気持ちからか涙を流していた。
「でも、これは……………長い眠りになりそうだな」
それでも構わない。生きているんならそれでいい。今だけはゆっくり休んでくれ……。
ザリ......ザリ......。
「「……!!」
何かを引きずるような音がしてそっちに顔を向けた瞬間、俺もアレンも驚愕した。
「ヴェルド……!」
左足を引き摺って歩くヴェルドは、映画にでてくるゾンビのような足取りだ。バルガが負った全てのダメージを引き継いでいるため、全身内出血の痕が見えるし内臓破裂も起きているだろう。骨や関節はボロボロに砕けて筋肉もあちこち千切れている。今にも死にそうな、いやもう死んでいたはずだ。
だが、奴はまだ動いている。目の前に俺が……自分の親を殺した仇がいるからか?バルガの影響が残っているからか?何が奴をそうさせているのか分からないが、とにかく気力か何かで死んだ体を無理矢理動かして、俺たちに憎悪と殺意に満ちた目を向けてくる。
「......カイ、ダ.........コウ、ガァ.........!!」
俺の名を叫びながら、ヴェルドは手に漆黒の魔力を込めて「魔力光線」を撃とうとする。
「父上を、殺した報いを……受けろォ!俺に、殺されて……終わるがいい………っ!!」
刹那――
「お前こそ、仲間たちの仇………死ね」
ドスッ ズドォン! 「ッ.........ア”ッ......!?ア”、、ガ.........!!」
ヴェルドが「魔力光線」を撃ち放つよりも速く、アレンが拳闘武術で奴の急所部分を正確に貫いた……!
「すま、ない……父上、魔人族が……世界をものに、することは…………実現で……き…………………………」
最後に何か呟き終わる前に、魔人族ヴェルドは塵となって消えていった。これで新生魔人族軍の主戦力は全て討伐したことになったよな。
(ヴェルド……最後のあいつは、あり得たかもしれない俺の一つだったかもな。復讐に走った場合の俺だったかもしれない……)
最後の塵が消えていくのを眺めながらそんなことを考えた。何にせよ所詮は終わった可能性、もう気にしない。
「……………帰ろうか。まずはサント王国にいるみんなのところへ。
里に帰るのは、それからだ」
「ん……っ!」
美羽を抱っこしたまま、アレンと並んでサント王国へ帰っていく。
魔人族と繰り広げた世界大戦は、俺たち新生連合国軍の勝利に終わった。各地でモンストールや魔物の大群と戦っているところはまだあるだろうけど、大丈夫だろう。
俺が、俺たちが元の世界へ帰る邪魔をする敵は、もうどこにもいない。俺たちが戦う必要はもう無くなった。
これで、心置きなく帰ることができるんだ……!
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