世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

261話「片手剣士の男子高校生」



 ついに始まる最終決戦。今回の俺は一人じゃない。
 この世界に来て初めてできた仲間…アレンと、俺を見捨てることも見放すこともせず気にかけてくれていた美羽先生。
 二人とも世界最強と言って良い戦士になってるけどそれでもバルガには敵わない。だからここは、二人を少しでも俺とバルガのレベルに近づかせることにする――

 “強化共有《きょうかきょうゆう》”

 俺の両手から透明な色の光が生じてそのまま二人に浴びせる。フォンといった音がなった直後、二人の戦力が大幅に増大した。

 「すごい、もっと強くなった……!」
 「私の魔力がさらに強く、大きくなっていくわ……!」

 上手く強化できたようだ。

 ≪馬鹿な……ゾンビの固有技能は消えたはず。何故己の強化状態を味方に“感染”出来ている!?≫
 「これは“感染”なんかじゃねーよ。というかゾンビの固有技能って実は消えてなかったんだよなぁ。消えたというより、人間版の固有技能として変換されてんだよ」

 人間に戻って得た力は聖魔法や「限定強化」だけじゃない。他にも新しい力を発現させていた。アレンと美羽を強くさせた力は「強化共有」。これは「感染」が変換された固有技能だ。その効能は味方が自分の強化状態にアクセスできるというもの。つまり今の二人は俺と同じ超強化状態になれているってことだ。
 他にも変換された固有技能もあるけど、今の戦いには使えないものだから触れないでいいや。
 さて……行くか!

 シュビッ―――

 前回と同じように一瞬でバルガに接近して、アッパーで空へ打ち上げる。

 ガツンンンンンンン!!!《ガァ...!?》

 “聖絶鋼脚《せいぜつこうきゃく》”

 そして吹っ飛ぶバルガの真上に追いつくと、聖属性の魔力も纏った「身体武装硬化」による鋼でコーティングした脚での左踵落としを、その脊髄部分に叩き込む。

 “聖絶烈拳” “聖絶烈脚”

 さらに追撃をかける。猛禽類が獲物を啄むが如く、拳と蹴りを連続で炸裂させて、バルガを地下深くへ沈めていった。

 「これは戦争でもテメーの道楽でも何でもねぇ。
 俺たちによるテメーの存在の駆除だっ!!」

 ≪言うではないか……小僧ォ!!≫

 地面から怒気を少し孕んだ声が響くと、そこから闇色の巨大な渦がいくつも発生して、俺たちを消滅しようとする。

 “聖なる炎” “聖なる雷刃” “聖なる水槍”

 その内の三つの闇の渦に、美羽が聖魔法をそれぞれ撃ち込んで、三つともあっという間に消し去った。
 
 「す、凄い威力……!さすがは皇雅君の力ね!」

 撃った本人も驚く程の威力。魔人族のベロニカよりも高威力の魔法攻撃だろう。

 「俺が残りの渦を消す!アレン、信じて突っ込んで、ぶち当ててやれ!」
 「分かった!」

 残る全ての闇渦を重力魔法でこっちに引き寄せる。そして聖魔法を全力で撃ち放つ!

 “セイクリッド・スーパーノヴァ”

 限界まで凝縮した聖属性を含んだ炎と光を大爆発させて、闇の渦を全て跡形無く消し差った。そしてアレンは今までの彼女をも置き去りにする程の速度でバルガに接近して、全力の武撃を連続で繰り出す!

 “穿撃” “羅刹撃” “阿修羅武拳《あしゅらぶけん》” “阿修羅武蹴《あしゅらぶしゅう》”

 ズドォオ! バツゥウン! ズッドドドドド!!
 ≪ぐ、げえええぇええ……!≫

 一撃一撃が魔人族ネルギガルドの物理攻撃力を超えるものだろう。バルガの腕・脚・あばらの骨が粉砕されていく。

 ≪カイダの強化、これ程までの力を発揮するか……やってくれる!!≫

 しかしこれくらいで終わるラスボスではなく、即死級の滅魔法を放ち、滅亡をもたらす魔剣を振るってくる。

 「美羽先生、聖魔法を全力で!アレン、俺と一緒に奴を叩き潰すぞ!!」
 「ええ!」 「うん!」

 滅魔法による遠距離攻撃は全て美羽に任せて、接近戦では俺とアレンが連携して対抗する。バルガが繰り出す近接技は魔剣と魔槍、さらにはザイートと同じ鉤爪武装での武術と多彩だ。武器を使った攻撃は俺の「身体武装硬化」で全て対応し、武術攻撃はアレンに任せる。
 遠距離合戦と近接合戦を織り交ぜながら、俺たち三人はバルガと激戦を繰り広げた。

 ―――
 ――――
 ―――――

 常に全力を出しての戦いは長くは続かない。人間に戻ったことで体力と魔力を消耗し続けるようになったこの体が悲鳴を上げている。

 (全力を出すってやっぱりしんどくなるよな!でもこの感じ……生きているって思わせてくれる!!)

 久々に感じる疲弊すら愉快に思える。生きているってやっぱり良いな!
 なんて考えながら、武装化でつくりだした黒色の聖剣でバルガの魔剣と斬り結ぶ。
 その後方から「分裂」で現れたもう一人のバルガが強い消滅の力を含む滅魔法を放ってくるが、

 “聖なる炎光砲セイクリッド・メギド

 美羽の強力な聖魔法で打ち破った。その彼女だが、これだけの魔法攻撃を長い時間連発したことで魔力が尽きかけている。顔色も悪く見えるし、これ以上の全力攻撃は厳しいか。

 「おい、テメーが望んでいた闘争とやらはもう十分堪能しただろ?そろそろ殺してやるから覚悟しやがれ。いい加減テメーの相手は疲れた」
 《つれないなぁ。少しは戦いを愉しむ矜持は無いのか、お前らは?それに……お前ら程度の力では俺を消すことなど不可能だ、絶対にな…!》

 これだけやってもまだ戦いを愉しむ余裕を見せるバルガに殺意を抱きながら黒の聖剣を振るう。対するバルガも滅びをもたらす魔剣で斬りにかかる。

 「≪オラァ!!!」≫

 ギィン!!ガィンガキン.........!!

 剣と剣での斬り合い。

 ガキン、ドッッッ

 武装硬化した黒の拳・黒の蹴りと魔槍での激突。
 まるで世界の終末が訪れることを予感させる程の死闘を、そろそろ終わらせてやる!

 (ゾンビじゃなくなったこの体だろうが、この世界で何度も使い続けてきた俺のオリジナル技…“連繋稼働”は使える!修行を積んだことで身体を自壊させることなく力エネルギーと速度だけを一点へパスして全て放つ大技。
 それを連続でずっと放ち続ける最後の大技。今の俺だから可能だ!
 出し切ってやる、俺の全力を―――!!)

 アレンと美羽を下がらせて、目の前にいるバルガ目がけて、最後の大技を繰り出す―――


“飽和拳脚打突《ガトリング》”

 ズッドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!

 正拳突き、フック、振り下ろし、肘撃ち、ローキック、ハイキック、ミドルキック、サイドキックと、両拳両足(脚)へ全身同時パスによる、拳と蹴り同時に放つ究極の連続打撃技。常に「連繋稼働」を発動し続けているから攻撃は途切れない。
 その様はまさにタコ殴り、あるいは掘削機。繰り出される拳と蹴りはガトリング銃から放たれる弾丸のように途切れることがない。それらの速度は光、パワーは核爆弾を凌ぐ。
 俺が今出せる最強の攻撃だ!!

 ドドドドドドドドドドがガガガガガガガガガガガガ!!!

 《こ、これ程と、は……!こんな攻撃は、初めてだ…!
 は、はは……やはり異世界人…それも強さを極めた者との戦い、は…飽きな、い………》

 ズガガガガガガガガガガガガ!!

 「皇雅君……!」

 ゴドドドドドドドドドドドド!!

 「お...らああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 「コウガ……!」

 ドッガガガガガガガガガガガガ!!!

 美羽とアレンがついている。二人とも俺に力を送ってくれているような気がする。だからか、こいつが死ぬまでずっと続けられる気がする―――!

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!死・ね・ええええええええええ!!!」

 ―――!
 ――――!!
 ―――――!!!

 そして……無限に続くかってくらいの最強連打は終わり、俺は絶え間無い苦痛に襲われながら地面に倒れる。

 「はぁっ、はぁっ!がはっ!ぜぇ、ぜぇ...!!」

 全身から汗と血が噴き出し、腕と脚の筋肉が千切れて、手足の骨が砕けている。過呼吸に陥って血を吐いてうつ伏せに倒れて、今にも意識が落ちそうだ...。


 《やって......くれた、な...!!》
 「っ!!」

 声がした方に顔を向けると、全身余すところ無く傷がついて、体が歪んでいて、内出血が無い箇所が無い状態で、頭の形が変形していて、虫の息状態だが……それでもバルガはまだ両の足で立っていた……。

 《ク、ククククク……!俺が立っていて、お前が地に伏している………勝者は、俺だ!!》

 勝利を確信して俺を見下ろして嗤うバルガは、当然俺しか見ていない。

 「……………」

 だからあいつは、


 ――スパ……ッ《―――あ...?》

 
 自分の首筋が、鋭利なモノで斬りつけられて……

 ――ブシイイイイイイイイイイィ...!!

 頸動脈部分から血が勢いよく噴き出てくるまで気付くことができなかったんだ。

 《な、あ”あ”が……?そんな”、お前は……そこに倒れ伏してい”るでは…………っ!?ま、まさか―――≫

 血を吐きながらこの謎に対する答えに辿り着いた様子のバルガを、地面で倒れている俺はニヤリと笑う。

 ≪ザイートの、“分裂”!?≫


 「正解」
 
 ――ドス...!《ぐ...がぁ!!》


 バルガの背後から首筋を斬りつけたもう一人の俺は、「迷彩」を解いて姿を見せた直後、聖属性を纏っている小さな「片手剣」で、奴の心臓を突き刺した!!

 「この武器はこうやって相手の懐に入ることで、ある意味最強の凶器となる。ほら...こうやって人体の急所を確実に斬って、突き刺すことができる...。
 俺の本来の職業は、“片手剣士”なんでね。止めはこいつで決めさせてもらうぜ。
 じゃあな魔人族の王、魔神バルガ―――」


 片手剣術――“暗殺”

 
 剣をグリっと回しながら引き抜く。夥しい血を流しながら、バルガは糸が切れた人形のように力無く倒れた。
 そして、もう立ち上がることは二度となかった。
 体力は……0。確実に死んだ。

 「コウガ!」
 「皇雅君!!」
 「ああ………!

 最後の敵、諸悪の根源、俺を邪魔する最大の障害。そいつはたった今死んだ。

 俺の、俺たちの勝ちだ――!!


                 *

 鬼族の里にある施療院

 「………!強大な魔力、禍々しい戦気、邪悪な気配が消えた!コウガたちが勝ったんだ…!!」

 気配の探知に集中していたセンとガーデルがバルガの戦気が消失したことを確信して、歓喜の声を上げる。それはギルスやソーン、キシリトにスーロンといった鬼戦士たち、竜人族の戦士ドリュウ、やがては里全体にわたって波及していき、皆が歓喜に湧いた。
 
 「あ、あぁ……っ」
 「サヤ…?大丈夫!?」

 しかしただ一人……皆とは全く違う反応をしている者がいる……米田小夜だ。彼女は突如顔を青ざめさせ、その場で膝を着いてガタガタ震え出す。そのただならぬ様子に気付いたルマンドが駆け寄って小夜を宥めながらどうしたのか問いかける。

 「私...“死霊魔術”を会得したからなのか、霊感が強くなったみたいで、特に死んで蘇った生物…モンストールや甲斐田君みたいな人間が放つ“霊気”を感知出来るようになったんです。
 それで……今この瞬間、今まで感じたことのない強い霊気が……!それも凄く邪悪な霊気が感じられます!場所は、甲斐田君たちがいるところに………っ」
 「それって、まさか……!?」

 小夜の言葉に、ルマンドは小夜が恐れている者の正体に気付く。そして同時に冷や汗を流した。小夜は震えながらこう告げた――

 「最後の戦いは、まだ終わっていません………!!」
 「コウガ、アレン、ミワ……!」

 ルマンドは嫌な予感に駆られていた―――

  






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