世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

259話「天に咲く光り輝く華」


倭視点

 鬼族の里でネルギガルドとの戦いで、俺は死ぬつもりだった。
 あれが俺にとって最後の戦いで、あそこが俺の死に場所になるだろうと、今日の朝を迎えた時からそう考えていた。
 しかし実際、こうしてしぶとく生きながらえてしまった。
 だがやはり……百年と五十余年もこの世界で過ごしてきたこの体も、とうとう「その時」が来ていた。
 ラインハルツ王国に攻め込んできた最初の「序列」級の魔人族を相手に力を全力解放したことで、寿命を削ってしまった。
 あの時から、俺の命はこの世界大戦が終わる頃には尽きているだろうと予感していた。
 事実、今の状態になってから俺の命が燃えて無くなっているのをさっきから感じている……。この力を無くした瞬間、俺はすぐに動かなくなるだろう……。
 どうせこの戦いが終わって死ぬのなら、最後はこの力を有意義なものに使って、華々しく散ってやろうではないか!


 バルガとの戦いへ再び行く前に、俺は仲間たちが誰も持ち出してなかったものを取り出した。それは……魔石の原石だ。
 新生連合国軍は魔石を粉末状にして、それを回復薬と混ぜて摂取することで、新生魔人族軍に勝てる可能性を見出し、魔人族とも互角に戦えるようにもなった。 
 だが、魔石の摂取法は他にもあるということを俺は知っている。いや、恐らくはガビル国王もミーシャ殿下も他の誰しもが知っていたかもしれない。知っていながら何も提唱しなかったのは死ぬリスクがあまりにも大き過ぎるからだ。
 その方法とは……魔石の原石を体に直接埋め込み同化させることだ。

 「――――」

 魔石を体に埋め込んだ瞬間、自分の体とは思えない程の変化が訪れた。百年と五十余年も生きてきた中で感じたことのない力が、聖なる魔力が際限無く溢れ出てくる。それらを無駄に放出しないようどうにか内側へ押し留める。そうすることでこの体と刀に力を凝縮させるのだ。

 ≪その力……そうか、お前も同胞たちと同じく、原石をその身に埋め込んだか≫

 そうだ、この強化方法は魔人族と同じ、今の魔人族にたらしめたやり方だ。失敗すれば魔石の力に飲み込まれて死ぬ。仮にすぐ死ななかったとしても長くは生きられない体になってしまう。人間なら特にな……。

 「だが、そうすることでお前を殺し得る程の力を手にした……!
 今度こそお前を葬ってやる!」

 “聖刀”――“二刀瞬華《にとうしゅんか》”

 ――ドシュ ザシュ ≪オ、オォ………ッ≫

 聖属性を帯びた二振りの刀による居合斬り。二太刀とも正確にバルガの臓器を斬り裂いた。

 ≪やるなァ、今はお前が最も脅威だ……本気でいかねば!≫

 “魔王の剣乱舞”

 滅属性の魔力を纏った魔剣の超音速連閃が襲い掛かる。今ならこの目で全ての剣の動きを見切れる――

 “閃光連閃”

 刀と剣がぶつかり何重もの金属音が戦場に響き渡る。火花と魔力の残滓を散らしながら俺たちは死ぬ気で斬り合っている。

 ≪ヌアアアアアア!!≫

 バルガの顔からは余裕が消えており常に全力を放ってくる。奴をここまで引き出せるとは、命を燃やした甲斐があったな……!

 ≪お前も時間稼ぎの為にその命を投げ出すというのか!?死ぬと分かっていながらも魔石を埋め込んだというのか!≫
 「言っただろ、お前を葬りにきたってな……!!」

 「怪力」を発動して拮抗を崩して、一気に攻め立てる。バルガの全身を斬り刻んだ。奴に反撃の機会を与えない、死ぬまで斬り刻み続ける―――

 「ぐは………っ」

―――そうしたいところだったが、もうあと僅かってところらしい。マズい、目がかすんできた...。口から血が出続けてやがる。腕の、感覚が無くなっていく。
 
 あと、一分ってところか……?いや、二分は持たせてやる……!
 
 (ハッ...なら最後の技、派手に放ってやる...!)

 痛くて苦しいはずなのに、どうしてだろうか?笑っていられるのは。自身の力を存分に発揮できているから?誰かの為に戦えているから?

 (お前なら勝てるって信じてるぜ、何せ俺が認めた立派な“侍”なんだからな――)
 (あたしたちは、ずっと見守ってるからね......倭のことも、この国の皆のことも...!)
 (倭......俺たちの親友よ、後のことは全部任せた、ぞ)

 それとも、先に旅立ったかつての仲間たちのところへ逝けるからか?
 たぶん…全部だろうな。何十年も前からあいつらに色々託された。その役目……そろそろ終えてもいいよな?今度は俺が託す側へ移っていく。
 ラインハルツにはまだまだ心配で頼りない国王や部下たちがいる。でも全員が家族のように大切で、かけがえのないものたちだ。あいつらと別れるのは惜しいな……。
 特に…俺を親のように慕ってくれたマリスには、悲しませたくねぇな―――

 「ワタル……!!」

 そう考えながらバルガを斬っていると、背中にマリスの声がかけられた気がした。実際に彼女が涙混じった声で俺の名を叫んだのだろう。あいつ、俺が死ぬということをもう分かっているようだ……。

 (マリス……すまないがお前を見ることはもう出来ない。あの日、お前を拾って良かったと心から思っている。
 お前もアレンたちみたいに友をたくさん作れ。たくさんの人間と交流し、良き仲間と出会えよ。面倒見が良く思い遣りもあるお前なら大丈夫だ……)

 「………!」

 (そうだ……“人族最強の兵士”とかいう称号。これを次の兵士に譲ろう。
 クィン・ローガン、お前になら譲ってやれる。同じく聖属性を覚醒させた今のお前こそ、次の人族最強の兵士だ……!)

 “疾風迅雷”

 ―――

 ≪な……っ拘束されてる!?雷で俺の体を縛ったか!?≫
 

 (あと数秒......やるなら、今だ!!)

 雷で拘束して逃げ場をなくしたバルガを見据える。翳む目を何とか開眼させて、奴を一つの点として捉える。その点を斬ることだけに集中しろ――

 (次が最後だ。生涯かけて完成させたこの剣術の奥義で、魔人族の王を斬る……!!)

 一直線に駆けて、目を見開いているバルガに、聖なる光を纏った二つの刀を振るう―――

 “天華《てんか》”

 ―――――
 
 全力で振るったにもかかわらず、斬った音は静かだった。透き通るように刀はバルガの肉を断ち、骨・内臓をも断ち斬った。

 ―――――

 空に舞うはバルガの血と、聖属性の魔力の残滓。それらはまるで、天《あま》に咲く光り輝く華を思わせた。

 ≪が……かふァ……ッ≫
 「――――っ」

 すれ違い様にバルガは吐血しながらも腕を振るって俺を殴り飛ばした。全身の骨が折れていくのを感じながら後方へ飛んでいく。受け身も取れないまま地面に倒れるだろう。
 そしてその時には、俺は……………

 「――――!」
 「――――!!」
 「――――」

 後ろから仲間たちの声が聞こえてくる……。マリス、クィン、藤原、高園、曽根、アレン……。
 皆の声とは反対に、俺の心臓の鼓動が聞こえなくなってくる……………

 (ああ……長いようで、あっという間だった。大勢の仲間たちに先立たれて最後になってしまった俺も……
 ゆみり、信道………。俺も、ようやくそっちへ………)

 ―――トスッ

 地面に叩きつけられる感触がいつまで経ってもこない。代わりに誰かに抱き留められる感触が、訪れた………

 「 完全に復活した。あんたや堂丸が時間を稼いでくれたお陰だ 」

 ………そうか。俺は役目を果たせたのだな。

 「ありがとう、倭。
 後のことは俺たちに任せろ」

 そうさせてもらおう……。後のことは後輩たちに全て任せて――――

 “   ”

 刹那……幻聴だろうか、ロクに聞こえなくなっていく耳が、誰かの声を拾った。


 “ お疲れ様 ”
 “ やっぱりお前はすげぇ侍だぜ! ”

 それらの声はどれも温かくて、懐かしく、て―――

 “ ゆっくりお休み ”

 (ああ。しばらく...休ませてもらうとするか.........)


 ゆっくり、瞼を、閉じた―――



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