世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

255話「屍人vs魔神」



 皇雅とバルガから百数m程離れたところから縁佳たちは二人の動向を注視していた。

 「敵の総大将、さっきよりも強くなってねーか?俺……ここから近づける気がしねーんだけど……」
 「そうよね………もう一人の魔人族がいなくなってるけど、状況はあんまり変わってないわ」

 堂丸と曽根はバルガが放っている邪悪な存在感や魔力に萎縮してしまっている。

 「晴美、置いてきてしまったわね……」
 「仕方ねーよ。中西には悪いけど、供養はしてやれねー」

 改めて中西の死を悼む二人。縁佳も二人と同じ気持ちでいると同時に狙撃銃をバルガに照準を合わせている。いつでも皇雅の援護を出来るようにしている。
 しばらくして皇雅とバルガが激突するのを見て、全員息を呑んだ。

 『両者、戦闘を始めました!二人の周りには生物が吸えば死に至る程の濃度の瘴気が立ち込めています。皆さん今は二人の近くへ行かない方が良いです!』

 水晶玉からミーシャがそう提案する。

 「ここからでも見えるあの瘴気、確かに私たちが入って行ったら死んじゃうかも…」
 「悔しいですが私は完全に足手まといになりますね。ですがヨリカさん、あなたの狙撃の腕があればコウガさんを援護できます。私の代わりに、彼を助けてくれませんか?」
 「はい、やれるだけやります!私の狙撃が通用するか分からないけれど、何もせずにはいられません。今だって皇雅君は、必死に戦っているはずだから」

 クィンの頼み事に縁佳はしっかり応えた。彼女たちはバルガが告げた全ての真相を知らないでいるが、バルガこそが新生魔人族軍の要、彼を討てば全てが終わることは理解していた。

 『皆さん、あの瘴気はそう長くは続かないと思われます。あれを無限につくりだすことはバルガでも出来ないでしょうから』

 今度はカミラの声が入ってきた。彼女がここに介入するということは鬼族の里側での大戦に決着がついたということ。さらには彼女の声の明るさからして新生連合国軍が勝利したことを察して、縁佳たちの心は活気づいた。

 『ここからは私が敵の行動を適宜予測して指示を……………っ!?そんな…!?」
 「?カミラさん、どうかしたのですか?」

 クィンの問いから数秒後、カミラの震えが混じった返答がきた。

 『予測できません...バルガの姿を目にしても、奴の未来が全く見えない...!私の“未来完全予測”が通用しません!』


                  *

 「――未来が予測できない、ね...」
 『ごめんなさいコウガ。いくらバルガを対象に固有技能を発動しても、目の前に何か靄が生じてしまって全く予測出来ないんです。もはや、私ではどうすることも...!』
 「そうか………これは、テメーの仕業か?」

 バルガを睨んで問う。

 《ふん。俺の未来の行動を予め知ろうなどと、そんなつまらない狼藉を許すわけがなかろう。
 俺の固有技能 “陰滅《いんめつ》” 己の心を闇で覆い隠すことで常に相手に己の行動や思考などを予測させないようにする。相手に己の行動を悟られないようにするのは、戦いの基本だぞ童《わっぱ》どもめ》

 ニヤリと見下しながら答えるバルガに、思わずこっちも苦笑いする。確かに、相手の行動予測する固有技能があるなら、当然それを阻む技能もあるよな?ただそれだけの話だ。

 《それにしても...ほう、その水晶玉やコンタクトレンズとやらで遠方から戦況を覗き見ているのか。全く、闘争は現地で見るものだろうが、不届き者ども――》

 パリィィン...!「な!?」

 『コウガさ――(ブツン...)』

 バルガの一振りで、懐にあった水晶玉とレンズが割れてしまった。カミラとミーシャとの通信が途絶えてしまった...。さらには縁佳たちやアレンたちとの通信手段である端末まで壊された。

 《戦いは直に見てこそ価値あって昂るものだ。そんなアイテム越しから観て何が愉しいというのだ?下らん》
 「テメーと一緒にするな戦闘狂が。あれが彼女たちの軍略《たたかい》なんだよ」

 バルガに毒づきながら両手に魔力を込める。属性は水。そしてその水は、邪悪な存在や不死の性質を持った存在を浄化して殺す性質を含んでいる。
 つまり、俺も「聖水」をつくりだせるようになったのだ!

 ≪ほう?その水魔法は……≫
 「テメーの滅魔法に対抗するには聖魔法が必要だ。けど今の俺はそれが無い。だから疑似聖魔法になり得るこの“聖水”を使ってやるぜ!」
 ≪いつの間につくれるようになったんだ?≫
 「さっき死んだ元クラスメイトから奪った」

 ちらと後ろを見て中西の遺体を目にする。彼女の心臓が停止した直後、オリジナル魔法攻撃「悪食」で彼女の固有技能を奪っておいた。そうすることで「回復」を発現させ、それを使って「聖水」を使えるようになったのだ。
 ただし……「聖水」はゾンビの俺にも特効で、直に魔法を発動すると俺の手が溶けてしまう。「身体武装硬化」と大地魔法の鎧で体をコーティングしないと「聖水」は使えない。

 「悪く思うなよ中西……勝利の為だ」

 脳のリミッター 250000%解除

 完全武装したあとリミッターを体の崩壊ギリギリのとこまで解除したところでようやく攻撃に出る。バルガへ一直線に駆けて、「聖水」…疑似聖属性の魔力を纏い、さらにオリハルコンも纏って武装硬化した両拳・両足で、全力のパンチと蹴り技を超音速で放ちまくる!

 “絶拳” “絶脚”

 ≪良いぞ、本気で来い!!≫

しかしバルガは滅属性を纏った魔剣でパンチと蹴り全てを弾いた。「聖水」のお陰で手足は斬り落とされず消滅も免れているけど溶けかかってはいる。

 「回復」――“自動回復《オートヒール》”

 手足が原型を留められなくなる直前に回復魔術で元通りにする。中西の「回復」にこれ程までの回復力はなかったが、俺の力で藤原レベルまで近づけている。さすがに敵の時間を巻き戻すことは無理だけど。

 そこから拳・蹴りと滅びの魔剣による激しい応酬は数分間続いた。俺はもちろん、バルガも息一つ乱すことなくお互い殺意を込めて己の武器を振るい続ける。

 “絶脚”
 “魔剣撃”
 ――キィィィィィィン!!

 “天旋”(嵐魔法付与)
 “獄焔斬《ごくえんざん》”
 ゴヒュウウウウウウウウ...!

 “爆絶拳《ばくぜつけん》”
 “鋼剛槍突《アイアンランス》”
 ――ガドウウウウウウウウウウ!!!

 “双絶拳”(雷電魔法付与)
 “獄雷魔連閃《ごくらいまれんせん》”
ガガガガガガガガガギギギギギギギギギギギギギギン!!
 
 “大槌爆絶拳《おおづちばくぜつけん》”
 “尽滅槍撃《ディザスターランス》”
――ゴッッッッッッッッッッ......!!!


 互いの大技による激突がひたすら続く。数日前ザイートとのカウンター合戦と同じ、空気が震えて、辺りが更地となり、大陸に皹が入っていく。
 今や俺たちの戦いは、世界を滅ぼし得る天災と化そうとしていた。


 《フッッッハハハハハハ!!ファ――――――ハハハハハハハハハハハァ!!
 これだ!これこそ俺が求めて続け焦がれ続けていた次元だ!!百数年ぶりのこんな闘争に対するこの昂り!!興奮せずにはいられない!!
 最高!愉悦!快楽!!礼を言うぞぉ!!こんな気分にさせてくれたことを!!
 カイダコウガアアアアアアアア!!!》
 「ちっ、戦いの最中にうるせぇ...。その幸せな気持ちのままとっとと地獄へ逝けクソ野郎」

 “聖嵐竜水瀑布《プロメスドラグーン》”

 「聖水」を纏わせた、竜の形態をした嵐と水の災害を模した複合魔法を遠慮なくぶつける。が、バルガが放った闇の「極大魔力光線」に相殺され、一瞬で消滅した。奴の魔力の残滓を躱しながら縁佳たちのことを少し気にかける。さっきの大技の激突の余波をくらってなければ良いけど。
 しかし、その僅かな不注意が命取りとなった――

 《――そうだ、ここまで愉しませてくれた礼に、特別なプレゼントをやろう》

 「っ!?テメー一瞬で...」

 《ハァッッ!!!》

 ト.........ン―「―――!?」

 「危機感知」で緊急回避する間もなく俺に接近したバルガが、奴特有の色をした魔力が灯った人差し指で俺の額を突いた。
 その瞬間、俺の全身が強く光り、俺の中にあった何かが出て行く感覚がした...!
 それは数秒のことか、あるいは数分、数時間にも感じられた。気が付けば俺は膝を着いていた。


 「......何を、した!?」
 
 脂汗を大量に流しながら問うのが精一杯の俺に、バルガは魔剣の切っ先をこっちに向けながら、
 全く予想できなかった内容を、告げる――


 ≪特殊技能 “性質変換”で、《《お前を生者へと変換した》》。お前がいた世界にの言葉で表すなら、“人間”と呼べば良いか?≫


 ≪ つまりたった今お前は―――生きた“人間”へと本当の意味で蘇生したのだ ≫


 ............。
 マ......ジ......で??

 《よく見てみろ、自分の顔を、体を。生前の肌の色は灰色などではなかっただろ?》

 鎧に挟まっている割れた水晶玉の破片を鏡にして自分の姿を見てみる。体中に走っていた線が消えている。目は二重瞼の黒い瞳に白い眼窩。肌はアジア人特有の黄色人種のそれ……。
 マジだ。大マジだ...。


 俺は―――生きた人間に戻っていた...!


 《さて、人間に戻ったことで、お前に良いことと悪いことが今から降りかかることになる》

 あまりの衝撃に呆然としている俺にバルガは面白そうに話を続ける。

 ≪まずは、良いことについて...俺や不死の存在にとって聖属性は毒みたいなもの。だが人間になった今なら、回復魔法を使わずとも手足が爛れて溶けることはあるまい。よかったな。お前の場合それは“聖水”と呼ぶのだったな≫

 言われてみれば、「聖水」を試しに素手でつくっても、溶けない…。生きたこの体には無害だから。

 ≪でだ、悪いことについてだが…。不死の性質が消えた今、お前の体力・魔力は共に有限となった。それにより明確な死も存在するようになった。屍人では無くなったことで、いくつか固有技能が消えたはずだ。五感の意図的な制御、傷の自動修復、相手の固有技能を奪う能力…消えたのはそんなところではないのか?≫

 奴の言う通り、「五感遮断」「自動高速再生」「感染」「過剰略奪」「早食い」が消えていた。俺にゾンビとしての力はもう使えない……。

 ≪そういえばお前は、己の脳のリミッターを解除して肉体の限界以上の力を発揮できるそうだな。痛みを感じない、これ以上死ぬことも無いから可能となっていたその荒技。いやはや恐ろしく脅威だ。あの力でこの俺にここまで食い下がったのだからな。
 

 ここで問題だ。今のお前がそんな荒技を発動したままでいると、いったいどうなると思う?≫


 「―――――――!!!」

 ブシャアアアアアアアアアアアアア!!!


 咄嗟に自分の体に手を当てるのと、全身...特に頭から夥しい血が噴き出したのは同時だった。

 「……!がは、ぁあ……っ」

 口から血の塊を吐いた俺は、力無く地面に倒れて、意識が遠くなって―――

 ―――
 ――――
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