世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
251話「異世界人は最大の敵」
戦場には俺とクィンと縁佳、まだ死んでいないヴェルドに万全状態のバルガがいる。そしてたった今、そのバルガが無理矢理連れてきた元クラスメイト…中西が新たに加わった。
「あいつって確か、旧ドラグニア領地に配置されてたよな?そこでも戦線には立たず、ヒーラー役として後衛にいたとか」
「は、はい…本人たっての希望でしたので…」
「どうして晴美さんが別の大陸から突然ここに……!?」
俺の問いにクィンがどうにか答える一方縁佳は混乱しかかっている。けどこの中でいちばん混乱しているのが、
「なにここ……?私はさっきまで傷ついた兵士たちの治療の為に施療院にいたはずじゃあ……!?私はどこに連れてこられたの!?」
連れてこられた中西本人だろうな。あの様子だと本当に突然ここにワープさせられたようだ。縁佳が奴を呼ぶとようやく俺たちに気付く。
「よ、縁佳……?ってことはここはサント王国…?こ、ここって魔人族が襲ってくるところだったよね?
……っ!あ、あれって、魔人族じゃないの!?」
続いて魔人族がいることにも気づくと顔を真っ青にして震えだす。
≪………この世界に今いる異世界人どもの中では、この女が最弱か。それもカイダやそこの狙撃手、ジースと戦っていた残りの二人、さらには鬼族の里にいるだろう二人……誰よりも劣っているな。俺が少し力を振るえばすぐに殺してしまいそうだ≫
バルガは落胆した様子で中西の戦力を分析する。
≪全く、カイダ以外の現代の異世界人どもは大したことなさすぎるなァ。仮にもこの俺を殺した連中が、今やこの程度とは嘆かわしい。そう思わないかカイダ、よ≫
「いやそんなことを俺に言われても……。そいつはもう戦士じゃねー。先日の世界大戦の後、テメーらと戦うことが嫌になって戦線から退いてんだよ」
知らずのうちに呆れた口調で言ってたからか、中西が俺を睨みつけてくる。本当のことなので言い返してくることはないけど。
≪まぁいい。俺にとって異世界人は最大の敵。お前らを完全に殺しきることで俺の復讐は成り、この戦いに完全に勝ったということになる!
そういうわけでそこのプリーストの異世界人よ、お前にもこの闘争に参加してもらうぞ。否は認めぬ!≫
「は、はぁ?何なのあいつ、言ってる意味が分からないわ!どうして私があんな化け物と戦わないといけないのよ!私はもう魔人族と戦いたくないって言ってるのよ!!」
バルガの一方的な言葉に中西が恐怖と怒りがない交ぜといった感じで喚く。彼女にとっては理不尽に巻き込まれたものだからそうなるのも無理ないのか。
「そ、そうよ……こんな時こそ甲斐田の出番じゃない!あんたは世界でいちばん強いって聞いてるし……ほら、あいつを倒してよ!ああいう化け物の相手はあんたがするべきでしょ!!」
中西は俺に向かって当たり前だという風に命令っぽく叫んでくる。錯乱しているとはいえその言い方に不快感を覚える。
「テメーなんかに言われなくても、奴と戦おうとしてたっての。おい、テメーの望み通りそろそろ戦うぞ」
≪その気になってくれて嬉しいぞ!まずは小手調べだ……!≫
そう叫んだバルガの体から闇色の魔力が大波のように噴き出して、そのまま俺たちを飲み込もうとする。
「魔力だけでこの規模こんな出力を……デタラメだな――」
“津波”
水と大地の複合魔法をかなりの高威力で放ってやっと互角ってところだ。俺の複合魔法と奴の魔力の大波がしばらく拮抗する中で、クィンと縁佳が戦慄する気配を察する。彼女たちの視線の先を見ると、
「ゼェ……ゼェ………!」
全身から血を流して瀕死状態であるはずのヴェルドが立ち上がっていた…!死んでいないのは分かってたけどまさか立てるとは…!
「え?え……?もう一人?しかも血をあんなに流してるのに、どうして普通に立ってるの……?」
中西は呆然とした様子でヴェルドを見て言葉を漏らす。再び恐怖に駆られていく。
(深手を負ったヴェルドが相手だと、中西はともかくクィンと縁佳じゃあキツいよな……)
彼女たちが窮地に陥りそうな予感をする中、ヴェルドがバルガに畏敬に満ちた目を向ける。
「申し訳、ありませんバルガ様……無様を晒し、ました……。しかしながら、俺はまだ戦えます…!」
≪フム、その体ではもはや動けぬと思っていたが、大した精神力だ。ヴェルドよ、そこの異世界人を先に殺せ≫
バルガは中西を指差してヴェルドに命令した。
「仰せのままに……!」
ヴェルドは返事とともに魔槍を錬成して槍先を中西に向ける。
「え………?何あいつ、私を先に殺すって………?」
殺意を向けられた中西は自分が狙われていることを理解するのに時間をかけて、次第に恐怖に駆られていった。
「何言ってんのよあいつら………いちばん弱い私を真っ先に狙うなんて……っ」
「させないわ!晴美さん、私から離れないで!!」
「狙いが分かった以上、敵の思い通りにはさせません!ナカニシさんは殺させません!!」
そんな中西を守るべく縁佳とクィンがヴェルドに立ちはだかる。クィンが遠距離の魔法攻撃を全力でヴェルドに放つが魔槍に穿たれて終わる。間髪入れずに縁佳が狙撃銃で千規模の銃弾を撃ち放つが、千発の弾全てが同じく無に帰した。
「邪魔な蠅どもだ……!」
“螺旋連魔《らせんれんま》”
「「く、あああ……!?」」
ヴェルドの嵐を纏った槍術に二人は左右に吹き飛ばされてしまった。中西を守る者はいない。
「縁佳、クィンさん………あ、あああああ……!」
「バルガ様の言う通り、お前がいちばんの小物だな。歯牙にもかけない虫けらだが、あの方の命令のもと、お前を先に殺す」
無感情な声で告げると、中西はとうとう限界に達したのか発狂しやがった。
「ふざけるんじゃないわよぉおお!どうして私がこんな目に遭ってるのよ!?」
「限定強化」を発動して魔力を全力で熾す。次いで懐から魔石の強化薬を五つ取り出して、それら全てを摂取した。
「おい、あれって多くても三つまでが限界量じゃなかったか?あいつ……ヤバいんじゃねーか?」
しばらくして中西のステータスが大きく変わる。奴とは思えない規模の魔力、存在感。能力値が百万の桁まで跳ね上がり、固有技能も強くなってやがる。藤原レベルに迫る程だ。
「う、うううウウウウ……!こんなところで、死んでたまるもんかあぁアアアッ!!」
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