世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
247話「永遠の悪夢地獄へ」
鬼族の里付近で勃発しているもう一つの戦場……美羽・小夜・ルマンドら鬼戦士四人vs魔人族戦士「序列3位」ベロニカ
進化してパワーアップしたベロニカは「幻術」で美羽たちを支配しようとしたが、小夜とセンとルマンドによる「幻術解除」で見事に打ち破った。続いてベロニカは召喚魔術で魔物の上位種…魔獣をいくつも召喚して、小夜が操っているモンストールを滅ぼしにかかった。
小夜とセンとガーデルとキシリトでベロニカの召喚魔獣の殲滅にかかる。そして美羽とルマンドで術者本人のルマンドを倒すこととなった。
美羽とルマンドが揃ってようやく「滅魔法」を使えるベロニカと魔法攻撃合戦にくらいつけるというレベルだった。そこからさらにベロニカの真の力である「超能力《サイコキネシス》」に対し、神鬼種のみが使える「神通力」を持つルマンドによる超能力合戦が繰り広げられた。
ルマンドの「神通力」とベロニカの「超能力」、本来ならルマンドの方が力は上なのだが、能力値で圧倒しているベロニカに軍配が上がろうとしていた。美羽がルマンドを回復させつつ魔法攻撃で戦いに加わるも二人は徐々に追い詰められてしまう。
「……!……!!」
一方の小夜たちも召喚魔獣たちだけでなく魔物の軍勢の相手にも手を焼いていた。「限定強化」でパワーアップした小夜の「死霊操術」でモンストールを支配することに成功しているが、全てを長時間支配するには魔力と容量不足であり、支配から解けたモンストールが現れてきた。
「このままでは私も、仲間たちも殺されちゃう...。使うなら、今。覚悟はしてきてる……だから、ここで勝負に出る!!」
窮地に陥っている状況をひっくり返すべく小夜は魔石による強化を実行。しかも倭が定めていた上限量ギリギリあるいは少し超過した量を摂取した。
そして賭けに勝った小夜は正気のままモンストールを強く支配、さらに召喚術で神獣を呼び出して、ベロニカの魔獣たちを次々倒していった。
(キツい、苦しい...。でもこれが私にできること、すべきことだから!絶対に諦めない!!縁佳ちゃんたちも、八俣さんも、甲斐田君も、鬼族のみんなも、そして美羽先生も必死に戦っているはずだから、私も...!!)
魔力残量が半分を下回り、鼻血や血涙を流しながらも、小夜は魔術を発動し続けた。
「サヤ!あともうちょっとだから!!私たちが全部狩り尽くすまであと少しだけ耐えて!!」
小夜の頑張りに応えるように、センとガーデルとキシリトが奮起して操られていないモンストールと魔物と召喚魔獣を次々討伐していった。そして四人の活躍によってそれら全てを討伐したのだった。
一方のルマンドも小夜と同じように大きな賭けに出た。魔石を粉末状の薬ではなく、原石そのものを取り込んだのだ。
「どういうわけかは私にもよく知らないけど、神鬼種の私は《《魔石と上手く適合できる》》みたい」
そして魔石を取り込んだルマンドは、奇跡と呼べるような超強化に成功し、ベロニカへの反撃を始めた。
「私も、ここで……!!」
さらには美羽も魔石による強化を発動して超強化を遂げてルマンドと同等の力を発揮した。ベロニカの滅魔法攻撃は美羽の進化した魔法攻撃で、超能力攻撃にはルマンドの「神通力」でそれぞれ対処し、打ち破っていった。
「「はあああああああああ!!!」」
ルマンドによる空間を歪ませる程の「神通力」が、美羽が放った軍一つを滅ぼす程の魔法攻撃が、ベロニカをあと一歩というとこまで追い詰めた。
「この私が、鬼族如きの超能力と互角...いや劣ってるですって!?それに、異世界人の魔法攻撃なんかに………認める、かあああああああっ!!」
怒り狂ったベロニカは全てを懸けた最後の超能力攻撃を発動した。
「私の“神通力”はこの時の為にあった!ここで勝たなきゃ意味が無い!!」
「魔人族にこの世界はほろぼさせない!大切な生徒たちも死なせない!!」
ルマンドも美羽も自分と仲間たち、そして世界(里)の未来を守るべく、それぞれ命を懸けた最後の大技を放った。
ベロニカによる黒く禍々しい全てを闇に引きずり込んで消し去るような念力の巨大な波。それをルマンドによる空間を捻じ切る究極の「神通力」と、美羽が放った今までを凌駕する「神々しい光」が纏った魔法攻撃が、ベロニカの最大超能力攻撃を破り、彼女を飲み込んでいった。
しかしまだ生きていたベロニカが反撃に出ようとしていた。そこに小夜たちが駆けつけてベロニカを食い止めた。その隙に美羽は持てる全ての力を振り絞って、自身の切り札を発動した――
「時間回復《リバース・ヒール》」
ベロニカ自身の時間が巻き戻っていく。埋め込まれていたバルガの人格が消えていき、やがて魔石で得た力も失っていき、そこからさらに時間が巻き戻されていく。
「そん、な………」
ベロニカには美羽たちと戦えるだけの力がもう無くなっており、戦意を喪失した。美羽やルマンドたちの勝利として、決着がついた。
「やった...!倒した、勝った…魔人族から里を守れた!!」
「うん、私たちの勝ちだよ。みんなの仇を討てたよ!!」
センとルマンドが抱き合って涙流しながら歓喜の声を上げる。美羽はそんな彼女たちを疲弊しながらも微笑ましく見守っていた。
「美羽先生……!私の回復薬を飲んで下さい!切り札を使ったせいで体力が…!」
「ありがとう小夜ちゃん。でもあなただって凄く危ない状態だよ。今は少ししか癒せないけど、これで……」
「時間回復」による体力と魔力、そして生命力の消耗は巻き戻した時間の幅に比例する。ベロニカが魔石で強くなる前まで巻き戻した為その反動は大きく、美羽は顔色を悪くさせ血も少し吐いてしまっている。
「ありがとうミワ、サヤ。あなたたちがいなかったらみんな死なずに勝てたがどうか、そもそも私たちの里を守り切ることも出来なかったかもしれなかった。二人は鬼族にとっての救世主よ」
ルマンドは美羽と小夜に精一杯の感謝を表すと二人を他の鬼たちに介抱させる。
続いて弱体化したベロニカの体を、センとガーデルが鬼族の裏拳闘武術で徹底的に壊して無力化させた。これでベロニカはしばらく生き地獄を味わうことになる。そんな彼女をルマンドたちは他の鬼戦士たちに監視させて、アレンたちの方へ向かって行った。
「さぁ、復讐を成し遂げましょう―――」
*
アレン視点
森林地帯だったここは、私たちの戦いで滅茶苦茶に荒れてしまっている。
「ア、ハハ、ハ……。あたしが、あんたたち鬼どもに、敗けるなんて、ね………」
「限定進化」が解けて元の姿に戻ったネルギガルドを荒んだ目で見下ろしている。あれだけの一撃を受けてもまだ息があるなんて、本当にこの魔人は頑丈。ううん、生命力があると言うべき?
「ゴメンねぇ…アタシ、進化すると言葉が汚くなって荒っぽい性格になるみたい、で……アンタたちのこと、散々罵倒、しまくってた、でしょ…」
「謝るところそこなの…?お前のそういうことろが、こっちの神経に障る!仮に私の家族とかつての里を滅ぼしたことに対して今さら謝っても、絶対に赦さないけど…ね!!」
グリィ! 傷口に雷を纏ったつま先蹴りを入れる。それでもこの憎い魔人は死なない。
「あ”っ...!アンタ、本当に酷ねぇ...?死にかけの体に、普通そんなこと、するぅ...?」
「私は、私たちはお前が憎い。お前が十分に苦しんでから殺すのがみんなの望み。だから死ぬまで、最期までいっぱい苦しめばいい――」
そう言ってからしばらくネルギガルドを蹴り続けた。傷口を蹴ったり刺したりするのはもちろん、雷を傷口や口に流し込んだりと、私が今できる限りの攻撃をぶつけ続けた。少ししてからスーロンたちも私に加わってネルギガルドをゴミのように甚振った。ワタルはそんな私たちを端で見ながら自分で応急手当をしていた。
ネルギガルドと戦った私たち側からは、奇跡的にも誰も死んでいない。ドリュウも臓器が無事だったお陰でどうにか生きている。私の欠損した右腕も、今はギルスが出した氷で傷口を凍らせて止血という荒療治で済ませている。早く治さないことに変わりないけど、今はこいつをたくさん苦しめて苦しめて、地獄を味わわせるのが先……!!
「お前が家族を殺した!お前のせいで多くの友達が死んだ!お前たちが暴れたせいで里が滅んだ!お前たちが侵略したことで鬼族は一度滅んだ!その後もお前から逃げていた先で亜人族や獣人族に襲われた。仲間の半分近くが獣人族に捕らえられて殺されもした……!
全部お前のせいで!私たちは苦しんだ!!大切な人たちを失ったんだ!!」
拳や足から血が出ようと構うことなく私はネルギガルドをさらに壊し続けた。それでもこいつは恐怖することもなく命乞いすることもなく、全く折れることなく私たちに不気味な笑みを向けていた。それを見た私はさらに怒ってしまう。
「お前はここで殺す。生きている間でお前に苦痛を与えるのはここまでだけど、死んだ後もお前は苦しんでもらう」
「まったく……な、んて顔をしてるの、よ…。本当、に鬼そのもの、ね……ふん。それより、死んだ後もって……どういうこと、なのかしらァ?」
ネルギガルドが尚も余裕ある顔で質問してきたところにルマンドたち四人がやってきた。みんな体力と魔力を大きく消耗して負傷もしてるけど大丈夫そうでよかった…!
「あの子たちは…ベロニカちゃんも敗れた、のね………」
センとルマンドが私たちの無事を喜ぶ一方、私の腕を見て悲痛そうに顔を歪める。
「それで、こいつはもう殺すのね?」
「うん。ルマンドたちはどうする?こいつを甚振りたい?」
「いいえ、私たちはいいわ。その代わり私たちであることをしたいの」
センとルマンドとガーデルがネルギガルドの傍まで立ち、黒い魔力(闇属性)を熾し始める。
「あなたには死んだ後も永遠の悪夢地獄で苦しみ続けてもらうわ」
ルマンドが放つ黒い闇属性の魔力が強まっていく。そんな彼女の肩にセンとガーデルが手を置いてそこから魔力を流し込んでいる。
「私一人だけじゃこの暗黒魔法は発動出来ない。“幻術”に長けている二人と一緒にすることでやっと発動できる」
「………なるほどねン。本当にエグいことするわねェ……。復讐って怖い、わね………」
ルマンドたちが何をしようとするのかを察したネルギガルドは笑いながらも脂汗を流す。これから自身に起きることが分かっている様子らしい。
「死ね。私たちに大きな痛みと苦しみを与えた最悪の魔人―――」
“輪廻・獄界”
センとガーデルの「幻術」の力を得たルマンドは最強格の暗黒魔法をネルギガルドに放った。そして私を見て頷く。止めを刺してほしいという意図を汲んで、ネルギガルドの頭部に、出せるだけの全力を打ち込んだ!!
「地獄で……待ってる、わ………………」
最期にそんなことを言ったネルギガルドが喋ることはもうなかった。死んだ、私たちが殺した。そして死んだネルギガルドを待つのは永遠の悪夢の地獄らしい。ルマンドたちが放った魔法攻撃はそういうもの。
とにかくこれで……
私たち鬼族の復讐はこれで成し遂げられた……!
「胸がスッとした。みんなは?」
「アレンと同じかな。こいつに殺された同年代・親世代の仲間たちの仇を討てたって気しかしないわ」
「俺はみんながこうして生きて終わったことえの喜びが強いかな。みんな無事で良かった……!」
「そうね。というかアレン、その腕早く何とかしなくちゃ!ミワに治してもらいましょう!ミワは大丈夫そう?」
みんな色々話し合う中、私は次第に不安に駆られてしまっていた。
「甲斐田皇雅のことか?」
傍に来たワタルが尋ねてくる。その通りだ。私たちの戦いは終わっても、サント王国にいるコウガたちの戦いはまだ終わっていない。途轍もない戦気がここからでも感じられる……。
「行かなきゃ……コウガ。約束した、復讐が終わったらコウガのところに行くって……!」
動こうとした直後、足をもつれさせて倒れてしまい、そのまま眠るように意識を沈めてしまう………………
「少し休め。俺もお前たちともう少しだけ共に戦ってやれる。任せておけ」
眠る直前、そんな声を聞いた気がした―――
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