世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

244話「vsネルギガルド②」



――――――

 (拙者は......八俣倭という名だ)
 (せ...拙者?珍しい一人称だなぁ。あ、俺は森田信道《もりたのぶみち》!年は八俣と同じくらい17だ。よろしくっ!)
 (む...?お主も拙者と同じ年なのか?とても齢六十には見えないが...)
 (え?何言ってんだあんた...?ぷははっ、面白いな~!その顔で六十代は無理あるだろ?)
 (何……………なんと!?何故拙者の顔がこんなに若く…!?)
 (あははっ拙者にお主って、時代劇が好きな人なのかなー?あたしは橘《たちばな》ゆみり!花の女子大生だぞ~!)
 (む...?じょし、だいせい...?)

 彼らとの出会いは本当に驚きの連続だった。未知の刺激が無い日など無かった。

 (八俣……いや倭、そう凹むなよっ。成長速度は人それぞれだからさ、焦らず経験積んでこうぜ!)
 (う、む......しかし拙者には突出した固有技能というものが無くてだな...お主らがよく使う奇妙な妖術が得意でもないし。剣術の腕はあっても筋力がそれほどでもないし...)
 (もーう、だから何だっていうのよ?今はイマイチでも、倭なら必ずあたしたちと同じくらい強くなれるって!)
 (そうそう!そういえば謙太《けんた》の奴が倭から剣術を教わりたいとか言ってたぜ!倭の剣の腕は兵士団の人たちも注目されてるってよ!)

 俺だけ成長が遅く、大した才も無かった。しかし彼らはそんな俺を置いて行くことなく歩みを揃えてくれた。剣術しか取り柄が無かった俺を認めてくれた。

 (っ!?浩二《こうじ》...!くそぉ!!)
 (倭...お前の今の実力なら、魔人族の族長だって斬れるはずだ......お前なら勝てるって信じてるぜ、何せ俺が認めた立派な“侍”なんだからな...へへっ)
 
 悲しい別れもあった。強大過ぎる敵との戦いに犠牲が無いはずは無く、親しい友が戦死するところも目にしてきた。

 (信道、ゆみり......拙者らは、勝ったんだな...!)
 (ああ......何人か仲間がやられたが、あいつらの犠牲は無駄じゃなかった!皆がいたから、俺たちはこうして...!)
 (うんっ!魔人族の族長を倒して、あたしたち人族の連合国軍が勝ったんだよ...!)
 (ああ、二人ともありがとう...!この長い戦いで散った者たちに、報いることができた...!!)

 仲間たちの死を乗り越えて、生き残った仲間たちと共に敵の大将を討ち取った。


 (そろそろ......お別れ、だな...。倭......俺たちの親友よ、後のことは全部任せる、ぞ)
 (あたしたちは、ずっと見守ってるからね......倭のことも、この国の皆のことも...!)
 (ああ......任せてくれ。後のことは全部......この《《俺》》に託してくれっ!)
 (ふっ、じゃあな......百数年後に、また会おう、な――)
 (っ!ゆみり、信道...!)

 そして………老いるのが極端に遅い俺は、普通に老いて先立つ仲間たちを看取り、見送ってきた。皆が俺に未来を託した。死して尚も俺を見守ると言ってくれた。
 俺は彼らの想いを、遺志を全て継いで、今も生きている。
 そんな俺にも終わりはいつか必ず訪れるだろう。
 その時は俺も……誰かに俺の、俺たちの想い・遺志を継がせてやりたいな―――

―――――――――



 鬼族の里近くにある森林地帯。その木々が不自然に枯れていく。あるいは突風にあてられて倒れていく。
 その原因となっている者は、激昂していた―――


アレン視点

 突如怒声を上げながら、「限定進化」で姿を変えたネルギガルドから途轍もない戦気と魔力が放出されて、周囲にもの凄い風圧が襲った。

 「あ...!」
 「...!!」
 私もワタルも吹き飛ばされてしまって追撃は失敗。態勢を立て直して前方を見ると、さっきよりも大きくなり禍々しい存在感を放つネルギガルドがいた。

 「これだけ俺と戦える鬼や他の戦士どもがいるなんて予想外だったがもう関係ねぇ!全員血祭りにしてやるよクソどもおおおおおお!!」

 見た目だけじゃない、口調も変わっている。

 「おらぁ!!」
 ズオオオオオオオオオオン!!!

 そしてパワーもあり得ないくらい増している。あの時みたいに、一撃で地面に底が見えないくらいの深い大穴ができていた。

 「く...“炎稲妻《ほむらいなずま》”!!」
 
 ギルスが炎と雷の複合魔法を放つ。だけどその魔法はネルギガルドの黒い拳にあっさり破られる。

 「な...!?俺の複合魔法があっさり!?」
 「テメー程度の魔力で俺を傷つけられると思うな!進化した俺なら多少の魔法攻撃には耐えられるんだよゴミがあああ!!」

 ネルギガルドがその場で手を地面に勢いよく突っ込んで踏ん張る動作をすると、地響き立てながら地面を掘り起こして持ち上げていく。直径数百メートルもの巨大な地盤を、私たち目がけて投げつけてくる。

 「うおらあああああああああ!!」
 「う...そ...?」
 「ここまでパワーを増すのかよあの化け物...!」

 ソーンとギルスが戦慄した様子で呟きながらアレを壊すべく魔力を急いで熾す。アレをくらえば全員無事では済まない。まるで隕石だ。

 「障壁を張れる奴は全員展開しろ。破片に気をつけろよ」

 そんな中、ワタルが飛び出して行き、迫りくる隕石のような地盤に突っ込んでいった!

 「あの兵士、何を!?」
 
スーロンの疑問に答える間もなく、強烈な戦気を放ったワタルが刀を差したままぎりぎりまで地盤に近づいて、ぶつかる直前に音速で抜刀した。

 居合――“一刀瞬華”

 ズパアァ...!巨大な地盤が横真っ二つに割れた。その光景に私たち全員が呆気にとられた。だがまだ終わりじゃなかった。

 “連閃《れんせん》”

 目にも見えない剣撃で地盤をさらに切り刻んでいく。どんどん小さくなっていき、ガラスの破片サイズのあられ状になって降り注いできた。ギルスが張ってくれた障壁で私たちは破片から身を守り、降り止むと同時に全員駆け出す。
 「瞬神速」でネルギガルドに接近して刺突拳の雨をくらわせる。

 “五月雨《さみだれ》”

 ドスドスドスドスドス...!!
 計十か所もの刺突撃を全て急所にくらわせる。血を出させたものの、ネルギガルドが怯む様子は全く見られなかった。

 「痛ぇな!!人体の急所を突いたくらいで殺せると思うなぁ!!」

 “魔人拳《まじんけん》”

 ドッッッッ...「か、あぁ...!!」

 連撃が終わった僅かな隙を突かれ、重い拳を腹にくらってしまう。痛い。肋骨が何本も折れる音がした。「限定進化」で強くなったのにこんなにダメージをくらうなんて……。

 「強過ぎる...!今まで戦ってきた敵と比べものにならないレベル...!」

 スーロンに抱き留められてどうにかダメージは軽減したけど、体のダメージは深刻だ。私を守るようにみんなが立ち塞がり、立ち向かっていくけど……


 「ガッ...!」
 「あぐ!!」
 「く、そ...!」
 「きゃあ!!」

 ダメ...全く歯が立たない。スーロン、ギルス、ソーン、ドリュウ……四人全員でかかってもほとんどダメージを与えられていない。このままだと私たち全員殺されてしまう。また、あの憎い魔人に何もかもを滅ぼされてしまう……!

 「この姿になるとやっぱりどいつもこいつも雑魚になるなぁ。本気で突いたらすぐ壊れそうになりやがる。まぁいい、さっさと殺すとしよう。一人ずつ一撃で確実に殺すとしよう!!」

 ゴウッと魔人の両拳にどす黒い魔力が纏う。ヤバい、あの拳を本気でくらったらダメだ...!

 「く…そろそろ連合国軍にもらったこの、魔石の薬で―――」
 「......ふぅ。腹括る時が来たか...。ここが、俺にとっての最後の戦になるだろうな」

 私が懐から魔石の強化薬を取り出そうとした時、何か覚悟と決意をした様子のワタルが前に出る。そして今さらに気が付く、彼の纏う戦気が明らかに異質と化していたことに。

 (何...あれ!?)

 ヤマタの戦気がひと際異質だ。何か息苦しさすら覚える感覚だ。近づけば圧し潰されそうな威圧感を放っている。

 「ドリュウだったな。先にコレを渡しておく」

 そう言ってネルギガルドにダメージを負わされて膝をついているドリュウに、魔石の強化薬を投げ渡す。

 「これ、は……」
 「それは魔石を粉末状にして回復薬に混ぜた強化薬だ。魔人族は魔石を気体にしてそのものを取り込むことであのふざけた強さを手に入れている。連合国軍はその薬を適量摂取することであいつらと同等の力を発揮出来るようになっている。今の俺のようにな」
 「!?ワタル、先に魔石を…!?」
 「ああ。けど問題無い。これで死ぬヘマはしないさ―――ふっ!!」

 突然、ヤマタがネルギガルド目がけて刀を二閃振るった。直後、巨大な風の刃が飛んでいき、あいつを襲った。

 「ぐおぁ!?何だこの斬撃は...!?あの距離から飛ばして俺の体を傷つけただと?この世界のどんな物質よりも硬くて頑丈な俺の体に...テメェエ!!」
 「よし...ちゃんと効いたな。この二刀流形態、ようやくものに出来た。
 武蔵さん、すこしはあなたに近付けただろうか...」

 ネルギガルドの胸部分にぱっくりと傷を残したワタルは誰かの名を呟く。二本の刀を自分の腕のように振るう様は、とても綺麗だと思った。
 
 「俺はこれから奴と戦う。倒せるかどうかは分からん。だが奴を弱体化させることは確実にやってみせる。必ずな...!」

 ワタルの言葉からは重みを感じられた。これから死地へ向かおうとする戦士のそれと同じ、それ以上のものを感じた。

 「分かった。あなたが戦ってる間で私たちは態勢を整えておく。あなたがくれるチャンス絶対無駄にしない。だから生き残って!」
 「ふっ、なるべく言う通りにしよう。じゃあ、上手くやってみせる。魔石を摂取すればそのダメージも一時的には回復できるはずだ。他の鬼たちとドリュウにもやり方を教えてものにした次第、いつでも出られるようにしておけ。
 5分は稼いでやる――」

 それだけ言うと、ワタルはネルギガルドに斬りかかって行った...!


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