世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
242話「米田小夜はこれまでのことを振り返る」
異世界に来てからの私は、怖い思いをして震えてばかりだった。戦うこと自体が怖くていつも縁佳ちゃんや美紀ちゃんの後ろにいてばかりだった。
でもそれってこの世界に来る前からも同じだったっけ...。
私...米田小夜《よねださや》はずっと内気で、怖がりな少女だった――
小夜は鬼族の里にて新生魔人族軍に迎え撃つ準備をする中、一人これまでのことを振り返っていた―――
*
始まりは突然だった。いつもと変わらないホームルームを終えて終礼をしようとしたその時、眩い光が私たちを襲って、気付いた時には教室ではなく全く知らない場所に私たちはいて...。それだけでも大騒ぎすべき事態なのに、さらに王様みたいな(実際そうだった)人たちからこの世界を救ってほしいと言われたのだからもう頭がパンクしそうだった。
そんな中、クラスで浮いていてどこかおかしい面を持っている甲斐田君が、怖いもの知らずといった様子で色々言って自分たちに(というか甲斐田君自身に?)見返りを払うことを約束させた。誰に対しても怖気ずに物を言える性格の彼が、この時ばかりは凄いと思った。
ところがそんな甲斐田君だけが、皆よりもはるかに低いステータスで職業もパッとしないものという不遇な扱いを受けるのだった。皆から「ハズレ者」と言われたり大西君たちから虐めを受けたりと、最初の日々は彼は屈辱的な仕打ちばかりを受けてきた。
唯一、美羽先生が甲斐田君に寄り添って訓練に付き合ったりしてくれていた。縁佳ちゃんも甲斐田君のところに行って一緒に訓練したがっていたけど、甲斐田君に敵意を向けられていたせいで近づけなかった。縁佳ちゃんだけは甲斐田君に対して何も嫌なことはしてなかったのに、どうして彼は縁佳ちゃんまで拒絶するのだろう。甲斐田君に文句を言ってやりたい気持ちだったけど、そんな勇気はなかったから何も言えなかったけど...。
甲斐田君が落ちて消えてしまった。
実戦訓練の途中で想定外に強いモンストールが出現して、撤退の途中で甲斐田君だけが逃げ遅れて動けなくなった。そして王子様が非情にも彼を見捨てるという選択肢を取って、彼ごとモンストールを地下深くへと落としていった...。
縁佳ちゃんが、美羽先生が、あと王女様も悲しんでいた。甲斐田君は分かってるのかな?クラスの中でも、あなたのことを想っている人がちゃんといるってことを。誰もがあなたを嫌悪して拒絶しているわけではなかったってことを。
私も...あなたのことは怖い人だとは思ってるけど、嫌悪はしてなかったよ?
でも...もう遅いよね?もしかしたらこの気持ちをあなたに伝えるのはもしかしたらもう...。
甲斐田君は生きていると、美羽先生と縁佳ちゃんは信じていた。私を含む皆は彼はもうダメだろうと決めつけていたけど二人は決して諦めず、地底へ行くべく必死に鍛錬と戦闘経験を積んで強くなろうとしていた。
強くなって甲斐田君を捜そうと懸命に頑張る縁佳ちゃんの力になろうと思った私や美紀ちゃんは、彼女を支えるべく強くなることを決意。ともに鍛錬を積んでモンストールの討伐任務もこなしてきた。
でも私は...縁佳ちゃんたちと一緒にいれば彼女たちに守ってもらえると思っていて、ある意味成り行きと身勝手な理由で動いていたに過ぎなかった。
置いてかれるのが怖かった。私は呪術師だけど能力値はそんなに高くなかったから一人では戦えない。だから縁佳ちゃんたちがラインハルツ王国...世界で最もモンストールと戦っている過酷なところへ行くと決まった時、私も彼女たちについて行った。
異世界に来ても私は一人ではいられない。誰かの傍にいないと私はダメな子のままだ。
ずっと、ずっと...。
甲斐田君はあの時地下で死んたけれどゾンビとして復活したらしい。相変わらず私たちに敵意を向けてきて口も悪かった。しかもドラグニア王国にいたクラスメイトたちを見殺しにしたという信じられないことも言った。
この時の甲斐田君が怖くて仕方なかった。この人は私たちのことなんか仲間だと思っていない。縁佳ちゃんに対しても同じなんだろうって思った。
それでも縁佳ちゃんは獣人族の国への潜入調査に甲斐田君と一緒に行った。彼のことを仲間として見ていた。縁佳ちゃんが任務へ行く時、見送りにきた私と美紀ちゃんに甲斐田君はこんなことを言ってきた。
(テメーで限界決めてちゃ、成長はそこまでだ。
テメーがどうしたいのか、考えてみろよ)
その時の甲斐田君は以前のような敵意を向けて来なかった。そこで私はようやく気付いた、彼が少し変わっていたことを。
あの後美紀ちゃんと堂丸君とで縁佳ちゃんの後を追って獣人族の国へ行った。そこでは甲斐田君が魔人族と一人で戦っていた。そんな彼を縁佳ちゃんは信頼した様子で見ていた。まだよく分からなかったけど、甲斐田君は私たちの敵じゃないってことに気付いたんだと思う。
魔人族という恐ろしく強い敵が世界を滅ぼそうとしている。それに対抗するべく連合国軍が結成された。でも私は…半年間のうちの最初は中西さんと同じ、逃げ出したいとまで考えるようになり、鍛錬にもロクに励めなかった。
こんな時……私に寄り添ってくれる大切な人は、縁佳ちゃん以外にもいた。けれどその人はこの世界にはいない。元の世界にいるからだ。小さい頃からずっと一緒だった幼馴染の男の子。高校は違う学校になったから会えない日が増えたけど、彼は私が今みたいに落ち込んでいたり塞ぎ込みそうになっているといつも傍にいてくれた。私にとってかけがえのない存在だ。
でもそんな彼は私たちと同じようにこの世界に呼ばれていない。だから彼が寄り添うことはない……。
(米田さん、気分転換に話でもしない?)
そんな時に私に声をかけてくれたのが、美羽先生だった。
あの時美羽先生に誘われるまま二人で庭園で話をしてたっけ。
(怖いんだよね、この先起こる戦争が。モンストール、それを率いる魔人族と生死をかけた戦いをすることが)
(………はい。怖いです、逃げ出したいとも考えてるんです。救世団って持ち上げられてるけど、私は元は内気で臆病な女子高生に変わりないんです……。いくら戦闘能力が成長したって根底は変わらない、変えられない。こんなところこの国の人たちに見せられないから、だからどうしていいか……!」
美羽先生になら本音を出して良いと思った私の本音を吐き出す勢いは止まらなかった。
(私…ずっと甘えてきたんだと思います。美羽先生にも縁佳ちゃんたちにも美紀ちゃんにも。弱い私のことをいつも護ってくれるから。それが当たり前になってしまって、皆がいなければ何も出来なくなってしまってる私になってしまって…。
次の戦争は私なんかを護りながら戦える程甘くはない。世界を滅ぼそうとしてる敵を相手にする中でそんな余裕はきっと無い。私もまだ戦いが怖いって思ってる。私は...戦場へ出ない方が――)
そこまで言った時、美羽先生が私の手を優しく握ってくれた。彼女の顔は優しかった。
(本当のことを言うとね、私も戦いが怖いわ。たぶん縁佳ちゃんや曽根さんだって同じ。命のやり取りをしているわけだし敵も凄く凶悪だし。怖くないと思ってる人の方が少ないんじゃないかな)
この時の私は凄くビックリしていたんだと思う。あんなに強い美羽先生たちも私と同じ思いをしていながら戦っていただなんて。
(それでも戦うのは、やっぱり皆のことを護りたいから。米田さんも縁佳ちゃんも曽根さんも堂丸君も中西さん、そして甲斐田君も。これ以上誰も死なせたくないって思ってる。
だから戦うの。そしてその為に強くなりたい。でも戦いを怖く思う気持ちは否定しなくていいの。
かといってそこで立ち止まって身をすくめているだけだと、何もできない、何も護れない...自分自身さえも死なせてしまう。
そうならない為に私たちは必死に戦うの、皆を護る為に)
強い意志を持っている、私は美羽先生をそう評価した。強い人だなぁ、と。
(それにね米田さん。あなたにも私たちを護れる力はあるのよ)
まさか、と否定するように首を振る私に、本当よと言って先生が続きを話す。
(あなたにしか出来ない方法で私たちを護ることがきっとあるわ。私はそう信じている。それに米田さんだってこれからさらに強くなれるわ)
なぜなら…と私の頭に手をおいて優しく撫でてくれる。
(米田さん…ううん、小夜ちゃんも皆のこと大切に想ってるでしょ?その気持ちがある限りは強くなれるわ!あなたにだって誰かを護れる、その力は十分にある。
だからね、小夜ちゃんも私たちを護る為に一緒に戦って欲しい。誰も死なないで済むように、皆で皆を護って戦う。私はそうしたいって思ってるよ)
美羽先生の言葉に私は心を動かされた。皆も怖いと思っている。けど護る為に、勇気を出して戦っている。私たちの為に戦おうとしている。皆が皆の為に...。
この日をさかいに私は、自分にしか出来ないやり方で皆を護って戦おうと決意する。そして私は「死霊魔術」というオリジナル魔術を完成させて皆や多くの人々を護る術を手にした。
相変わらず何もかもが怖いけど、皆が私を必要としてくれているし、私も皆を失いたくないと思っている以上、前進するしかない。そう考えられるようになった。
(あなたにも誰かを護れる力はある。護る為に戦ってほしい)
美羽先生の言葉をきっかけに私は少しは進めた気がした。強く変わろうと思うきっかけにもなれた。
魔人族との世界大戦の中、甲斐田君が一人で敵軍の総大将を倒してくれた。これで終わりだと思っていたけどそうはならなかった。新しい敵が現れてまた世界を滅ぼしにこようとしていた。
そう絶望していた私を、甲斐田君たちは必要としてくれた。縁佳ちゃんが私は頼りになると言ってくれて、美羽先生が一緒に戦ってほしいって言ってくれて、さらには甲斐田君まで彼の仲間たちのことを支えてほしいって託してくれた。
―――こんな弱い私で良いのかな?
三人の顔を恐る恐る見ると、三人人とも冗談で言っている顔ではなかった。私ならやれる、私の力が必要だってと本気で思ってると、目がそう言っていた。
(ありがとうございます、やってみます…!)
私は再び立ち上がり、最後の戦いに臨むのだった――
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