世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
240話「強化の感染」
サント王国付近の戦場―――
不気味、不吉、狂気、そして邪悪……「魔神」バルガを実際に目にして感じたのはそれら全部だった。他にも気になることがある、ヴェルドとジースのことだ。
「何だ、あの二人からもバルガと同じ気配がしやがる……」
「はい、先頭にいる魔人族三人とも同じに見える気がします……」
俺の言葉にクィンが同意して剣を握る手に力が入ってる。ヴェルドもジースもバルガ程じゃないけど邪悪な気配を強く感じさせる。
「あの女魔人、まるで別人だよな?でも見た目は前に戦った時と同じだし」
「ええ。前よりヤバく感じるわね……」
ジースと二度も戦ったことがある曽根と堂丸が言うのだから間違いない、あの二人の魔人に何か異変が生じている。
「その二人、何でそうなってんだ?」
バルガに問いかけると奴は不気味に笑いだす。
≪フ…知らないことに対して素直に質問するその姿勢、良いぞ。だから答えてやろう。簡単なことだ、この二人には俺の力……というよりは俺の人格を埋め込んでいる≫
「人格を……!?」
まるで憑依か何かを施したという事実に縁佳が顔を青ざめさせる。二人の魔人とバルガ本人、こうして三人並ぶと顔は違うはずなのに何故か同じに見える……そんな気持ち悪いことが起こっている。
≪以前のままのこいつらではカイダ、お前には敵わないと判断した。そこで俺の人格を埋め込めることで力を譲渡したのだ。お陰でこの二人も俺と同じ闘争を欲するようになった。もっとも、それ以上にそれぞれが抱く私怨の方が強いがな。
ちなみに“序列”を持った同胞には一人を除いて全員俺の人格を埋め込んである。今まで以上の力を発揮することが可能になった≫
ネルギガルドとベロニカのどちらかにも奴の人格が埋め込まれてるってのか。
「ククク、たった数日で俺は以前の倍近く強くなってると実感している!この力があれば貴様を滅ぼせる、父上の仇が討てる…!」
「アッハハハハハ!今の私なら、今まで私に楯突いてきた異世界人全員殺すことも出来そうだわ!」
ヴェルドからもジースからも狂気じみた笑いを上げて殺気を向けてくる。近くにいる縁佳が小さく震えてるのを感じた。
「心配すんな。こっちにも向こうに負けないくらいの強化ができるんだ。俺に任せろ」
「皇雅君……うん、そうだったね。ありがとう」
縁佳の震えが止まる。とりあえずまずは、あいつらの後ろにいる雑魚どもを蹴散らしておくか。準備運動がてらな!
≪いきなりお前が出るか。ザイートを喰らったことでさらに強くなっているのがよぉく分かるぞ…!≫
バルガは俺を見ると愉快そうに笑いやがる。奴の言う通りザイートを喰らったことで俺は大きくレベルアップしている。
カイダコウガ 18才 屍族 レベル750
職業 片手剣士
体力 1/1500000
攻撃 139000(30276470)
防御 101700(12225000)
魔力 116000(13303500)
魔防 112600(13213000)
速さ 260300(50027000)
固有技能 全言語翻訳可能 逆境超強化 五感遮断 自動高速再生 感染
過剰略奪 制限完全解除 瞬神速 身体武装硬化 魔力防障壁
迷彩(+認識阻害、擬態) 複眼 夜目 危機感知 気配感知(+索敵、追跡) 早食い 鑑定 見切り 怪力 魔法全属性レベルⅩ 魔力光線全属性使用可
武芸百般 技能具現化 王毒 毒耐性 超生命体力 瘴気耐性 分裂
全盛期のザイートにはまだ及ばないものの、魔人族のほぼ全員を凌駕している。バルガが合図したことでこっちに駆け出してきた下っ端クラスの魔人族三人程度なら、たとえ「限定進化」形態だろうと―――
「げぁが!?」
「ぎぇあ”……!」
「なぁあ”!?」
全部瞬殺だ。動きが止まって見える三人それぞれの急所部分に「絶拳」をぶち込んで爆散させてやった。
「魔人族をたった一撃で……!」
「凄い、前の族長と戦った時よりずっと強くなってる…!」
「ラインハート……ワタルを凌駕する異世界人がいたなんてね……」
後ろからクィンと縁佳とマリスが驚嘆する気配を感じる一方、魔人族三人が一瞬で殺されたにもかかわらずバルガは余裕に笑うだけだった。
≪フム、これで残る同胞は他のところに行った者も含めると四人か≫
続いてモンストールと魔物の大群が進軍しようとする。そこにこちらの軍の兵士たちが食い止めて戦いを始めていく。
≪良いぞ、血を流し殺し合う乱戦!生身を持ったこの目で見るのは百年以上ぶりだ!同胞たち、屍族どもよ、存分に戦え!!≫
バルガが叫ぶと魔人族軍の勢いがさらに増した気がした。続いてヴェルドとジースもようやく動き出した。
「皇雅君、ジースっていう女の魔人族は私たちが!」
縁佳を始めに元クラスメイトたちとマリスがジースに闘争心を燃やしている。悪くない布陣だ。あの女魔人と二度戦った経験を持つ元クラスメイトたちとクィン同等の戦力のマリス、これなら問題無いだろう。
「分かった。戦う前に、前から言ってた強化、今ここでみんなに―――」
そう言ってから脳のリミッターを解除する、100000%くらい!そして縁佳たち全員を対象に俺にしか存在しないだろう固有技能を発動する―――
“強化感染”
瞬間、全員の存在感、戦力が膨れ上がるのを感じる。強化に成功した!
「う、おおおおお!?何だこの力、ヤバすぎる!」
「感じたことも無い力、想像以上だわ……!」
「今なら、地平線の彼方まで泳げそうね。魔人族にだって勝てそう…!」
誰もが強化状態に驚愕している。縁佳も顔を紅潮させて気持ちを昂らせていた。
「この強化は俺のリミッター解除と同じ、物理的な力と速さを強くさせただけで魔力は変わらないからな。そして俺と違って、リミッターを解除による体の負荷・崩壊も発生しない。リスク無しのバフがけだ」
魔石無しにリスクも無く味方を大幅に強くできるという俺にしかできない方法。それは固有技能「感染」による、自身にかけている強化の《《他人への同一化》》だ。
ザイートを殺した後何故か復活していた固有技能「感染」。奴を殺したからなのか、それともアイテム「屍族転生の種」のストックが丁度尽きていたからなのか、原因は分からない。復活した「感染」の説明を見た時にこういうやり方ができるようになっていることに気付いた。
この強化だけでも今の縁佳たちは魔人族と対等に戦えるはずだ。
≪ほう?俺とは違うがお前も味方を強くさせることが出来るというのか≫
バルガは興味深そうに強くなった縁佳たちを見る。
「それがどうしたっていうの?バルガ様の施しを受けた私のほうがはるかに強いのよ。お前ら全て滅ぼしてやる……!!」
戦線に飛び出したジースは「限定進化」を早速発動する。黒い羽がいくつも出現して、ひと回り大きくなった彼女の体には帯状の羽が鎧のように巻きついている。
そして、驚くことに彼女の体から最近まで見たこともなかった…存在しないとされていた、あの属性魔力が感じられた。
「………え!?」
「まさかあいつも!?」
「アハハハ!この力で人族の連合国軍など滅ぼしてみせます、バルガ様ァ!!」
ジースは「滅属性」の魔力を発生させて、狂気が宿った瞳で嗤うのだった。
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