世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

230話「ただそれだけの事実を告げる」



 ベーサ大陸 鬼族の仮里(元カイドウ王国)―――

 「……………何を、言っている?」

 鬼族の仮里に魔人族戦士「序列2位」のヴェルドが強襲してきた。アレンやルマンドを凌駕する戦力を振るい、里の半分近くが消滅していた。戦えない鬼たちは戦場から離れたところに避難させている為彼らの被害は無いものの、戦闘中の鬼たちはかなり追い詰められていた。
 皇雅がつくりだした獣人のゾンビ兵は既に全滅、戦闘不能の鬼が大半で死傷者も数人出ている。圧倒的な力の差を前にしたアレンたちにも窮地が訪れようとした時、戦況が大きく変わった。
 昨日の竜人族との戦いの影響で「限定進化」を満足に発動出来ないでいたヴェルドは通常形態のまま戦っていたが、その最中でアレンたちに目を向けたまま動揺しながら言葉を吐く。正確にはその言葉はアレンたちに向けた言葉ではなかった。ヴェルドの頭の中に語り掛けてくる声に向けたものだった。

 「「「………?」」」

 ヴェルドの様子の変わりようを見た「限定進化」状態のアレンたちは訝しんだ目で見上げている。

 (ネルギガルド、お前がベロニカを通して俺に念話しているのは分かった。
 だが、いったいお前は何を言っているんだ!?ザイート様…父上が敗れた?死んだと、そう言ったのか!?)
 (ええそうよ。アタシがこの目で見たことをそのまま伝えにきたわ。ベロニカちゃんがどれだけあの人の生命反応・戦気を探しても見つからなかった。死体もカイダコウガが処理したからもうない。
 ザイート様は完全に死んだのよ)

 「ぐ…おぉ、そんな………馬鹿なこと、が……………っ」

 ネルギガルドのいつもとはかけ離れた淡々とした調子の報告に、ヴェルドは平静さを崩してしまう。

 「あいつ、何か聞いてきたかと思ったらいきなり動揺し始めたぞ」
 「戦気も乱れている。今ならいけるんじゃないか?」
 「………ギルス、セン。俺と同時に奴をたたくぞ」

 二人に指示を出した竜人、ドリュウは進化して発達した尻尾を構える。彼がここにいるのは竜人族としての使いで里にやってきたからである。意図せずしてヴェルドへのリベンジ戦の機会を得たドリュウは病み上がりながらも鬼族と共に戦っている。
 三人が一斉にヴェルドに詰め寄ろうとするが、ヴェルドが咄嗟に彼らに目を向ける。

 「………!!」

 感情に任せて撃った「魔力光線」だがそれでも威力は凄まじく、センに支えてもらったギルスの全力の魔法攻撃とドリュウの全力の尻尾斬りでようやく相殺出来た。

 「く………あんな乱れた調子でもここまで強いのかよ……」
 「しかも“限定進化”すらしていない。あいつ魔人族の中でも強過ぎるわね…」
 「ああ、奴には族長とカブリアスでさえも敵わなかった化け物だ。だがここで引くわけにはいかないぞ!」

 ドリュウは昨日受けた傷が開こうとしても構うことなく奮起する。その隣にアレンがきて同じように力を引き出そうとする。

 「ん。あいつが何で調子崩しているのか分からないけど、今がチャンス」
 「ううん、彼が調子を崩してる理由は分かるよアレン。ほら、前から感じてたあの恐ろしい戦気と魔力が消えてるでしょ?」
 「え?…………あ!」
 「む、言われてみれば………」

 ルマンドの指摘にアレンもドリュウもようやく気付く。この世界を脅かし続けてきたザイートの反応全てが消えていたことに。

 「これってもしかして………!」

 アレンがその可能性を声に出そうとしたその時、彼女たちの前に一人の少年が現れた。

 「っ!コウガ!?」
 「ただいま、アレン。みんな」


                  *

 高園と別れてすぐに全速力で走り続けた。それでもいつもより速く動けず、里に帰るのに想定以上の時間をかけてしまった。
 やっと里に帰り着くとすぐに状況を見る。里内部はだいぶ荒らされている。モンストールと魔物程度にここまで荒らされることはないだろう。敵は魔人族、それも「序列」級の奴か…。
 そして気配を感知するとすぐにそこへ移動して、アレンたちのところに来た。

 「ただいま、アレン。みんな」
 
 俺を呼ぶアレンの方を見て、そう言葉をかける。アレンも、旅してきた鬼たちも、何故か一緒にいるドリュウもみんなボロボロになって消耗して疲弊もしている。カミラもこの戦場の近くにいるけど無事みたいだな。
 みんなをここまで追い詰めた下手人は………なるほど、あいつか。

 「お、前は………カイダコウガか…?」
 「ああ。テメーは魔人族のナンバー2…って感じだな。ベロニカやネルギガルドよりもずっと強い。今は調子悪そうに見えるけど」

 見た目は俺と同年齢の少年に見えるヴェルドの魔力は乱れていて冷静さも欠いて見える。幻術空間を破られた時のベロニカに近い状態だな。

 「何故、貴様がここにいる………?貴様のところに父上が来ていたはずだ。あの人は全ての力を引き出したはずだぞ!?なのに何故貴様は普通に存在しているんだ!?」

 ヴェルドはブチ切れた調子で俺に怒鳴りかけてくる。

 「何故って……テメーの中にも答えはもう出てるだろ。
 ザイートは俺が殺した。完全にな。奴との戦いに俺が勝ったんだ。それだけだ」

 俺は当たり前のように冷淡に、ただそれだけの事実を告げる。

 「……!………!!……………!!!」

 それを聞いたヴェルドは声にならない叫びを上げる。奴の体からどす黒い魔力が噴き出てくる。奴からは悲しみ、そして……憎悪が何となくだけど感じられる。

 「貴様が、貴様が貴様が貴様が………っっ」

 奴も相当消耗しているはずだがかなりの力を引き出している。あれは感情に任せて無理矢理引き出してるって感じだな。

 「魔人剣術奥義―――」

 “鏖魔《おうま》”

 漆黒の魔剣をフルパワーで振るいにかかる。あれだと後ろにいるアレンたちも巻き込む。まだ本調子じゃねーけどザイートから奪った力をここで出すか!

 脳のリミッター50000%解除

 俺も力を無理矢理引き出して、ヴェルドの悪魔を思わせる魔剣の連撃に全て拳と蹴りをぶつけて対応する。

 「何故、斬れない……!?」
 「テメーが弱ってるから、何よりテメーの中、色々乱れまくってんだよ―――」

 ドギャッッ 「ごぉああ”あ”………ッ」

 顔面にオリハルコンを纏った拳を思い切りぶつけてヴェルドをぶっ飛ばす。奴の斬撃とリミッター解除の反動で体がまたズタボロになってしまったけど余力はまだ十分残っている。

 「さて、テメーじゃ俺に勝てねーって今ので分かったんじゃねーか?それでもまだやる気か?この里を滅ぼす気か?」

 倒れているヴェルドに脅すように問う。どうにか起き上がったヴェルドの目は憎悪に満ちている。魔剣を構えて俺とまだ戦う気だ。

 「そうか。ならテメーをここで確実に殺す!」

 ザイートが死んでも魔人族軍はまだ脅威に満ちている。放っておくのはあまりに危険だ。俺というよりアレンたちがだ。
 そしてヴェルドに必殺の一撃を入れようとしたのだが―――

 ≪こいつにはまだ死んで欲しくないのでね。ここで終わらせるわけにはいかない。
 回収させてもらうぞ―――≫

 「あ………!?」

 ヴェルドの真後ろから突如発生した黒い渦が、奴を飲み込んでいった。

 「カイダコウガ………貴様は必ず殺す!!」

 渦へ消えていく最後まで、ヴェルドは俺に憎悪と殺意を込めた視線を飛ばし続けていた……。そうしてヴェルドがいなくなった後黒い渦も溶けるように消えていった。

 (今の声………ザイートの時と同じ奴の……いったい何だってんだ?分からないけど、奴はまた現れる………それも何かヤバい力をつけてから、な。
 それと………)

 そう予感してしばらく立ち尽くしながら、もう一つ気になることについて思考しようとしたところに、アレンが後ろから抱きついてきた。

 「っと…アレン」
 「コウガ、コウガ……!無事に帰ってきてくれて、良かった!!」
 「ああ。正直めちゃくちゃヤバかったのが何度もあった。マジで消えるかもって思ったりもしたけど、この通り奴に勝って帰ってきたぜ」

 振り返って向き合うとアレンは俺の頬に自分の頬をすりつけてくる。懐いた猫のように……というか気恥ずかしい。鬼たちがともかくドリュウまで見てるのだから…。

 「アレンたちも里を守ってくれてありがとう。死者が出たのは残念だけど、旅してきた仲間たちが生きているのは俺にとっては嬉しいことだ」

 アレンの頭を撫でてそう言うと彼女の目に涙が次第に溜まる。

 「コウガ、私もすごく嬉しく、安心もしました。こうしてあなたが帰ってきてくれたことを」

 カミラもやってきて半泣きでそう言ってくる。感極まっていたのも束の間、軍略家としての務めをすぐに為そうとする。

 「まずは皆さんの治療と回復を。落ち着いたら里の修復をしつつ今後についての話をしましょう」

 カミラの指示に頷き、俺と比較的動ける鬼たちが率先して戦後処理に動いた。

 世界大戦の二日目はこれで終わる……しかし大戦そのものはまだ終わってはくれない、終わらせてはくれない。

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