世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

229話「二日目の大戦 収束」



 「ザイート様が、敗れた……?亡くなった……?こんなことが、あ………あああああああああっ」

 魔人族の本拠地に再び戻っていたベロニカは、無事な部屋にてザイートが戦っているところをずっと観ていた。途中ザイートが真の力を発揮したことで戦場の光景が消えて彼の魔力・戦気、そして生命反応を感知し続けることしか出来なくなった。
 そしてしばらくするとそれら全ての反応が消失して感知出来なくなってしまった。
 ベロニカはしばらく呆然としていた。「それ」を認めてしまうのはあまりにも酷だった。しかしザイートの何もかもを感じ取られなくなったということは《《そういうこと》》だと。
 魔石によって大幅に強化された魔人族。その中でも超圧倒的進化・強化を遂げたザイートこそがこの世界の頂点に君臨する存在だと信じて疑わなかった。この世にザイートに敵う生物など現れないだろうと、ベロニカは確信し続けていた、今日までは………。

 「何も、感じられない……どこにもザイート様の存在が無い………っ」

 その信じていたものが今日突然壊されて無くなった。それを為したのは異世界からきた人族の少年。ベロニカを圧倒して心を圧し折ったほどの力を持ったイレギュラーの存在。彼は死闘の末ザイートをも遂に討ち取ったのだ。

 (信じたくない、受け入れたくない、認めたくない……!)

 ベロニカは自分でも気付かないうちに発狂しながら地上へ出ていた。完全に錯乱した状態で「追跡」を発動してザイートの痕跡を探し続けた。

 「ちょっとベロニカちゃん!不用意に外に出たりしちゃって!」

 そんなベロニカに焦りを含んだ声がかかる。ネルギガルドだった。

 「ネルギガルド……ちょうどいいところに、あなたもザイート様を捜してちょうだい!私でも感じ取れてないから私よりも意識を集中させて―――」
 「……………アナタももう気付いてるでしょ。ザイートちゃんはもう――」
 「嘘!あの方は誰にも負けない、絶対に………」
 「アタシがこの目で見たのよ。ザイートちゃんがカイダコウガに喰われて完全に殺された瞬間を。あれは実際に起こったことで、現実よ」
 
 ネルギガルドはベロニカの両肩を掴むと重い声音でそう告げた。事実ネルギガルドは戦いの余波に巻き込まれない距離から皇雅とザイートが戦うところを観察していた。最後に皇雅が一瞬でザイートを捕食したのも自身の目で確かに見ていた。

 (魔人族のアタシでもゾッとしたわ、あの光景……どうしてザイートちゃんを喰ったのかしら。ああすることで力を得るのだとしたら……喰らう相手の強さに比例してパワーアップするのだとしたら……。
 ザイートちゃんを喰った今のカイダコウガに敵うものなんて、アタシたちでも無理になる…。私たち残りの同胞全員がかかって行っても、瞬殺されて終わる……)

 思わず出そうになった言葉をどうにか飲み込んだネルギガルドはベロニカに無駄なことをさせないようにする。現実を突きつけられたベロニカは抜け殻のように力無く崩れ落ちる。

 「………とにかく一旦軍を退却させましょ。ヴェルドちゃんとジースちゃんにも合流してもらいたいわね。あなたの念話で二人を呼んでちょうだい」

 ベロニカを支えながらネルギガルドは彼女に指示を出した。
 

                *

 サント王国付近の戦場―――

 「………夢じゃない、ですよね?」
 「うん。私にもちゃんと見えてるよ、あの映像……!」

 クィンの誰かに対する質問の呟きに美羽が応える。だんだんその声音が明るくなっていく。その感情はクラスの生徒たち、連合国軍の兵士たちにも波及していき、やがて大歓声が上がった。

 「魔人族の族長が討伐されたぞ!」
 「間違いない、確かに見たぞ!」
 「故ドラグニア王国に召喚された異世界の少年がやってくれたんだ!」
 「魔人族軍の総大将がいなくなったんだ!」
 「あとはこいつらを全部倒せばもう終わりだ!」

 あちこちから兵士や冒険者たちの明るい声が響き、士気がこれ以上ないくらいア上がる。

 「甲斐田の奴マジでやりやがったな!俺たちの勝ちになるんだよな!」 
 「そうね、本当に倒してくれた……!」
 「よ、良かった……!縁佳ちゃんは無事かな…?」
 
 クラスメイトたちも安堵と歓喜含んだ笑みを浮かべて言葉を出す。

 「………!?………!!」

 クィン・クラスメンバーと戦っていたジースは彼らと反対に絶望、狼狽しきっていた。

 「こんな、ことが………!?ありえない、あの映像はデタラメだ!お前たちに希望を持たせようと嘘を見せて………っ」

 嘘であると主張しようとするが途中で言葉を詰まらせる。ジースも遠い場所から特定の人物の気配・戦気を感知することが出来る。戦っている途中でザイートが異次元の力を発揮していたことにも気づいていた。そしてその力が突然消失したことにも気づいていた……。
 つまり連合国軍が喜んでいる内容が事実であると認めてしまっている。

 「ぐ………くっ」
 「まだやるというなら私も命懸けで戦います!総大将が討たれたといってもあなたの力も強大過ぎるものですから」
 「浮かれ気分になるのはこの戦いを切り抜けてから、だね」

 クィンと美羽が率先してジースの前に立ち塞がる。次第にクラスの生徒たちも武器を再び構える。

 「お、のれぇ……………!!」

 ジースは戦闘態勢を解くと、戦場に残っているモンストールと魔物を残してその場を去って行った。完全な撤退である。

 「よかった……あのまま戦うってなってたら“切り札”を使わなきゃって思ってたけど」
 「昨日見せた時を戻す回復術ですか……。確かに強力ですがそれだとミワがまた苦しむことになりますから、そうならなくて良かったです」

 ジースが完全にいなくなったのを把握すると美羽もクィンも緊張を解いて疲弊しきった様子を見せる。

 ジースが撤退した後の魔人族軍も瞬く間に殲滅されていき、サント王国付近での大戦は昨日に続いて連合国軍の勝利に終わった。さらにミーシャの報告によると同時に勃発していた旧ドラグニア領地・ハーベスタン王国・ラインハルツ王国領域の大戦も連合国軍が勝利したことが分かった。

 「美羽先生、美紀ちゃん、小夜ちゃん!」

 勝利が確定してしばらく経ったところに縁佳が美羽たちのところに戻ってきた。戦場の空気を察して縁佳は自軍が勝ったのだと理解して安心する。

 「よかった、みんな無事でいてくれて…!」
 「縁佳ちゃんこそ無事でよかったわ。あなたが向かったところの方が危険だったはずなんだから。
 それで、甲斐田君には会えたの?」
 「はい!何度も殺されかけていてすごくボロボロになってましたけど、皇雅君は魔人族の族長を倒しました…!今は鬼族の里に帰ってるところだと思います」
 「そう。今日の夜も会えたら良いわね。そしたらあの子のこと思い切り労ってお礼も言わないとね!言いたいことたくさんあるし」
 「私も、コウガさんに言いたいこと色々あります。彼が成したことはとても偉大なのですから…この世界の英雄です!」

 美羽もクィンも綻んだ笑顔で皇雅のことで話しを盛り上げる。ただ縁佳は複雑そうにしていた。

 「縁佳、どうしたの?」
 「うん、皇雅君に教えてもらったことが一つあるんだけど……ここじゃなくてミーシャ様や国王様がいるところで話そうと思う。もちろんみんなにもそこで話すね」

 曽根にそう答えると縁佳は皇雅が向かって行った方角に目を向ける。

 (戦いはまだ終わっていない……そうなんだよね、皇雅君)

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