世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

223話「最後の切り札」



 「コウガ、さん………?」

 サント王国の本部部屋にいるミーシャは、水晶玉に映っている光景を呆然と見つめていた。
 先程まで繰り広げられていた皇雅とザイートによる天災規模の合戦に巻き込まれないよう遠隔操作中の水晶玉を必死に遠ざけながらも彼らの戦いを見ていた(その最中も連合国軍への指示もちゃんと行っていた)。
 その合戦の終わりもその目で見ていた。皇雅の敗北という形で……

 「コウガさん、コウガさん!?そんな………っ」

 ザイートの攻撃で皇雅の体がバラバラになって消滅していくところまで見てしまったミーシャは冷静さを欠いてしまった。彼女の狼狽を目にした連合国の指令役の兵士たちは慌てて連合国軍に彼女の声が漏れないよう通信をオフにさせる。

 「ごめんなさい、不注意が過ぎました」

 謝罪するミーシャを兵士たちは不安そうに見ている。ミーシャの様子からして皇雅がザイートに敗れたのではと彼らの中で知れ渡ってしまった。

 「このことは今必死に戦ってくれている連合国軍に決して知らせてはなりません。士気や戦意に大きく影響することになりますから。
 それに、彼がまだ終わったわけでもありませんから」

 それだけ言ってからミーシャは再び一人になる。サント王国やハーベスタン王国付近の戦場にいる連合国軍に新たな軍略を伝える一方で、皇雅がいる戦場に目を向ける。水晶玉を飛ばして皇雅の姿を必死に捜す。

 「コウガさん、コウガさん………!!」

 水晶玉に向かって皇雅を何度も呼び掛ける。皇雅の名を何度も叫ぶ。その声が彼に届いて彼が出てきてくれるなら自身の喉を犠牲にしたって構わない。
 その覚悟を負ったミーシャは、目に涙を溜めながらも皇雅を呼び続けた―――


                   *

 「がふっ!ごあァっ...!!」

 ザイートの全身から血が噴き出る。血反吐をまき散らしながらその場で倒れかける。視界が真っ赤になり頭からも大量に血が出ている。
 皇雅とのカウンター返し合戦の末、ザイートがそのデスマッチに勝利した。

 (血を流し過ぎた...意識が朦朧としてきた......これはマズい。早く、回復、を...)

 カウンター返し合戦の中ザイートは固有技能「超高速再生」を発動し続けていた。でなければ激痛のあまりに集中が途切れて、打撃の受け流しに失敗して相手のカウンター技で吹っ飛ぶか、負荷で自壊するかのどちらかになっていたからだ。
 回復技を発動し続けていたお陰でどうにか皇雅に勝つことが出来たものの、カウンターのエネルギー全てをはね返すことは出来なかった。ザイートは今も全身が千切れそうな激痛に襲われて意識も何度も失いかけている。ダメージが大きい部位から回復しているものの治りが遅い。全身がかなり破損しているものだから再生が間に合ていない。

 「早く……奴を跡形残らず消すか、細切れにしたまま力が入らないよう拘束して封じ込めて、深い海底か地底のどこかに埋めて永遠に封印してやらねば、な」

 体を動かす度に全身が軋む。その原因はさっきのダメージ以外にもある。

 「“限定進化”の負荷も大きい……少しはしゃぎ過ぎたな。徐々に体が動かせるようになってはいるが問題の解決にはなっていない」

 ザイートの本気の力は彼自身を壊しかねないレベルのものであり、長時間の力の全解放は命を削ると同義である。

 「カイダはどこだ?さっきから気配がしない。もしかしてさっきの一撃で再生できないまま消滅したのか?それならば僥倖だが、楽観し過ぎだろうな」

 「―――!――――!!」

 遠くから少女らしき声が聞こえる。取るに足らないものと判断して皇雅を捜し続ける。

 「ちっ………めんどうだ。もうこの一帯を消し飛ばせば良いか」

 皇雅が見つからないことに業を煮やしたザイートは空を飛んで、陸地を睥睨してそこに照準を合わせる。
 しかしそこに―――

 ドスッッ 「グッ………!?狙撃されただと!?」

 ザイートの心臓の背面部分を見えない何かが撃ち抜いた感触がした。事実彼の背から血が溢れ出ている。

 「気配はどこからだ…………クソッ、感じ取れない、鬱陶しい……!」

 不快そうに顔をしかめるザイートは今度は狙撃の出所を捜し始める。その間彼の周囲八方から見えない狙撃が次々襲い掛かる。

 「この……隠れたところからこざかしい、ウザいんだよっっ」

 ザイートは全身から魔力の波動を飛ばし続けて、狙撃全てを落としてみせる。

 「最後にきた狙撃の方角は………そこかァ」

 波動に最後に触れた狙撃の方向を睨む。微かだがザイートが滅ぼしたイード王国の跡地が見える。ここがベーサ大陸であることにようやく気付く。

 「どこの誰だか知らんゴミが、俺にこんな下らない攻撃をしてんじゃねーぞ……!」

 そう言ってから狙撃犯を殺しにいこうとしたその時―――



 「 どこへ行こうとしてんだ。俺との決着もつけねーでよぉ 」



 さっきまで殺し合った末に消滅させたであろうはずの少年の声が、ザイートの背にかけられた。

 「………………やっぱりか。アレで終わるタマじゃなかったようだな。まったく、ふざけたイレギュラーだ…。
 まぁいいい……次は“最後の切り札”を使って、お前を完全に滅ぼしてやろう
 ―――カイダコウガ!!」

 ザイートが振り向いた先には、不敵な笑みを浮かべている皇雅の姿があった。


                  *

 「―――さん! コウガさん!!」

 声が聞こえる。俺を呼ぶ声が……。聞き覚えある声だ。そう昨日も聞いた少女の声が……。たぶんだけど何か機械を通じて俺を呼んでいる……?

 「―――――っは!」

 その声のお陰で俺は意識を取り戻すことができた!

 (あっっっっっぶねえええええええええ!!どうにかセーフッ!!)

 何秒…いや何分経ったのか、どうにか戻ってこられた。不死のゾンビとはいえ細胞一つ残らず消えるようなダメージを負えばさすがにこの世から消滅するのではと思っていた。
 けど俺はなんとか首の皮一枚で耐え切れていたみたいだ。塵サイズになるくらいバラバラになったのか知らないけど細胞が1つでも消えないで残ってさえいるなら、俺は再生できる!今の俺は米粒のような存在だ。意識を集中して体を再構築・再生させていく……!
 こうして生き残れたのは、ウィンダムから奪った固有技能「超生命体力」のお陰だ。自身の防御力に加えてあの特殊技能が合わさったことで、超頑丈で規格外の生命力を宿した身体になれていたんだ。その結果あのクソヤバかった威力のカウンター返しで消えることなく、細胞一つ残すことに成功できた……!

 「本当に危なかった…。細胞一つ残っていたのもあるけど、あのまま意識がなかったらその一つも消えてしまって、マジで消えていたかもしれん。あの“声”のお陰でどうにか戻ってこれたんだ」

 いったい誰が俺を呼んだのか……その答えはすぐに知ることができた。

 『コウガさん!コウガさん!!』

 再生した目に映ったのは浮いている水晶玉。そこから聞き覚えのある声が響いてくる。

 「お姫さん……?」
 『………!!』

 俺が声を発すると水晶玉から息を吞む気配がする。水晶玉がせわしなく動きやがて俺の再生中の姿を捉える。

 『コウガさん、なのですか!?』
 「ああ。ザイートにやられちまって今はこのざまだけどな。少ししたら元に戻れ――」
 『よ、よかった!!やっぱり生きてくれていた!本当に、よかった……!』
 
 水晶玉からミーシャの涙声が響く。なんて大層な。つーか俺死んでるんだけどな……。

 「お前が俺を呼んでたのか。そのお陰で意識がどうにか戻った。礼を言うぜお姫さん、助かった」
 『そうだったのですか。私なんかがコウガさんの助けになるなんて……』
 「いいや助かった。じゃなきゃ俺マジで消えてたから。とにかくまぁ、もう少ししたらあの野郎とケリつけてくる」

 上半身の形ができて腕が生えてくる。ミーシャに礼を言う一方でザイートの動向を見る。

 (あのカウンター合戦を制した方のあいつもタダでは済まなかったようだな。かなりボロボロになって消耗もしている。奴も回復中ってところか)

 回復しながらもザイートは俺を捜しているのかきょろきょろ辺りを見ている。今見つかるとマズいな、気配を遮断させないと。

 「お姫さん、遠くに離れてろ。奴に見つからないようにな。奴は俺がきっちり殺してやるから。それで魔人族軍は終わりだ」
 『はい……。あなたにばかり任せてしまい申し訳ないです。
 コウガさんを信じています。勝利と生還を願っています……!』

 それだけ言うと水晶玉は煙に紛れて遠くへ離れていった。見えない何かがザイートを襲っているのが見える。奴がそれに気を取られているお陰で時間が稼げている。よし……後は脚だ。

 そして完全に復活し、ザイートの前に姿を現して、声をかけてやった。

 

 「悪いな消えてなくて...。あのカウンター合戦がテメーの勝ちに終わったのは癪だったぜ。何せ自分の技で打ち負かされたんだからな」
 「そこは能力値の差の問題だ。俺とお前とじゃ格が違う。所詮人族が魔人族相手に身体能力で勝てるかよ。とはいえあの超絶な負荷にはさすがに参ってはいるが」

 全身が再生したとはいえ、筋肉や内臓などの中身はまだ再生途中だ。時間をもう少し稼ぐべくまた軽口を叩き合う。不敵な笑みを見せ合い、殺気をぶつけ合う。戦いは中断されていない、こうして今も続いている。

 睨み合ったまま一分経過後、中身もようやく全快して完全復活を遂げる。それはザイートも同じのようで奴の体に傷は無くなっていた。
 これ以上睨み合うのは無意味だ。こっちから仕掛けるぞ…。

 「さっきのカウンター技、使うなら使えばいい。ただし俺はもう使わねーぞ。またあんなやり合いをするのはもうしたくない。神経を使い過ぎるからな」
 「はっ、所詮付け焼き刃では長続きしねーものなんだよ。まぁ俺もアレはあまり使わない。ここからは俺も攻めに出まくるからな...!」
 「そうか……。ならばやはり俺もここからは切り札……本当の力を解放するとしよう。
 “限定進化”をさらに超越する次元―――“限定超進化”だ」

 (超...進化?)

  ザイートにはまだ隠している真の力があるらしい。直後、ザイートの体から闇色の光が噴き出てきた。今までのとは比べ物にならない程の、超濃密なオーラ・魔力が出てきて、ヤバいと思わずにはいられなかった。
 
 「教えてやろう。今存在する魔人族の中で唯一俺だけが発動できる切り札――“限定超進化” 
 更なる力…最強を求めて研究し己を高め続けたことで俺だけが辿り着けた進化の境地、全ての頂点。全てを超越した力を今、発揮する……!!」


 “限定超進化”

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