世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

222話「それは世界を滅ぼす二つの天災」



 舞台は戻り、名も無き島跡地―――


 瘴気が充満した暗い地底から抜け出して、場所は青空と太陽があって海もある地上。俺もザイートもいつでも出られる状態だ。先に俺が動く。

 「“身体武装硬化”」

 両腕両足に推進機を装着、それらを稼働させてパンチや蹴りの速度・威力を倍加させる。あまりの速さに体がブレて攻撃を外すリスクがあったけど、半年間の修行のお陰で今では急な加速に引っ張られることなく急所を常に正確に当てられる。

 「フッ―――」 ドス……ッ

 当たった……しかしそれでもザイートには少ないダメージだ。体をゴム性質化させてるせいでダメージを減少させられているのだ。
 一人分の力だけじゃダメだ、二人分の火力を常にくらわさないと奴を倒せない...!
 覚悟を決める...ここからは一ミリ単位のミスも許されない、技の戦いになる...!
 俺が脱力した様子を見たザイートは、同じように力を抜いて次の攻撃に備え出した。

 「やっぱり俺一人の力じゃ無理だ...テメーの攻撃を吸収した一撃を次々に決めて、回復も間に合わないくらいに潰してやる...!」
 「フッ、丁寧に俺を倒す方法を喋ってくれたが、そう簡単にはやらせんぞ...。まぁここはあえて、俺から攻めるとしよう」

 お互い啖呵を切ると互いに片腕を当てて交差するようにする。ここから本気の殺し合いをするその引き金として自然とそうなった。

 腕と腕が触れた直後、俺たちは同時にニヤッと笑い合うと開戦の合図とばかりにその場から数歩退いて……駆け出した!
 
 “全属性武装鉤爪”《マルチ・ガロン》

 宣言通り、まずザイートが両手に多種類の属性魔力を纏った鉤爪を武装し、先制の爪撃を繰り出してくる。炎、雷、風、水、闇...10本の指に5種類の属性を付与して切り刻んでくる。うーん、やっぱりそういう攻撃仕掛けてくるよなぁ。
 俺のカウンター技は主に打撃系専門。斬撃や魔法攻撃に対しては効果が薄いのだ。しかし…やりにくいのであって別にできないわけじゃない。ただ攻撃の衝撃を上手く体内で受け流せないという欠点があって難し過ぎるのだ、特に魔法攻撃は無理に等しい。

 だからまずは「魔力防障壁」を全身にぴったり服のように張り付ける。体に鉤爪が触れる。炎や雷が纏った多数の爪撃が襲いかかるが、障壁によって威力を弱める。俺にくるダメージはそれらから生じる衝撃...これをもらう!
 全身を旋回し、右足を軸足にしたローリングバット蹴りをかまして倍返しする!

 「成功だ、“玄武”―――“廻烈”!」

 ザイートの攻撃をも乗せたカウンター蹴りを、奴に叩き込む…!

 「(ニヤリ……)」

 が……ザイートは待っていたかのようにほくそ笑むと、腕を大きく広げて大の字のポーズをとったまま、腹で蹴りを受けた。そして触れた瞬間、全身をベリーロールの要領で猛回転させて、その勢いとダメージを全て乗せた右拳を振り下ろしてきた――!

 “スザク”

 (やっぱりカウンター返しも真似てきたか!倍返しのさらに倍返し...!これをくらえば全身破裂、俺は無力化してジ・エンドだ。躱せる速度じゃない。防御なんてもってのほか。
 だったら方法はただ一つ―――上乗せして返してやれば良いだけ!!)

 即死級の振り下ろし拳を額で受けてその勢いを活かして、さっきと同じ跳び宙返りからの踵落としをおみまいしてやった!
 カウンターの一撃を倍返しにした一撃を更にまた倍にして返す一撃…これはもう誰にも止められない!
 と思っていたのだが、俺は迫りくるカウンター技になお余裕の表情で笑っているザイートの顔を目にした。

 「さぁ……どちらが最後にくらうか、とことんやり合おうか!!」
 
 奴がそう吼えた直後、俺の踵を両腕で受け止めた。腕→体幹→股関節へと衝撃を流していって...全ての威力を脚にパスして、計5人分の火力が込められた蹴りを放ってきた!!

 (そうか……野郎、このカウンター返しがどこまで続けられるか勝負仕掛けてきやがった...!!ミスった方がこの恐ろしいエネルギーの塊をモロにくらってジ・エンドって言いたいようだな......やってくれるじゃねーか!!いいぜ、この技をつくった本人として、この合戦《デスマッチ》に負ける訳にはいかねぇ!!)
 「やってやろうじゃねーかあああああ!ザイートおおおお!!」

 俺も大きく吼えてカウンター蹴りを受けてさらにまた倍返しした!
 そこからは、お互い熾烈な倍返し合戦が始まった...!

 


 五度目かのカウンター返しをし合ったところで………

 「魔法や剣、爆弾といった武器兵器がたくさんあるこの世界で!俺たちのいちばんの武器はこいつ素手っていうのは、随分と原始的なものだと、そう思ったことはないか!?カイダぁ!」
 
 サマーソルトキックを頭で受けて、バック宙返りからのヤクザキックを繰り出したザイートは、大声でいきなり俺に話を振ってきた。

 「あぁ!?何を今さら!だが奇遇だな、俺もついさっき同じことを思ってたよ!ここはファンタジー世界だってのに、俺の戦い方が完全に原始的だってことにな!俺だって本当はカッコいい魔法や魔術を放ったり派手に兵器を使いたかったんだよぉ!」

 ヤクザキックを右方の横腹で受けてすぐ旋回、とてつもない遠心力に負けないよう下半身にも力を入れて体を正確に動かして、隕石を思わせる勢いで左肘鉄を振り下ろす(“玄武”)。その最中、興が乗った俺も大声でザイートの話に応じてやった。

 「ファンタジー?幻想的な...つまり夢の世界を期待してたってか?随分メルヘンなところがあったんだなお前に!それにしても、俺たち魔人族がいよいよ世界を滅ぼして俺たちの世界を創造しようって時に、お前のようなイレギュラーが登場したせいで随分予定が狂わされた!どうせならせめてこの世界が俺たちのものになってから来てくれば良かったのになぁ!」

 俺が超音速で振り下ろした肘鉄を右掌底で受け止め、そこから衝撃を体内でパスし続けて、最後に左フックでフィニッシュ、カウンター返し。

 「はっ、こっちとしても勝手にこんな世界に召喚されて迷惑してたんだよ!しかもテメーらがつくった化け物モンストールに一度殺されてんだぞこっちはぁ!!予定が狂ったぁ?テメーの都合なんて今更どうでもいい、むしろ全部ぶっ壊してくれるわアホがぁ!!」

 カウンターのフックを胴体で受け止める、そしてまた倍返し(“玄武”)。

 「とことん傲慢で自分勝手だなお前は!そんな規格外でイレギュラーな力を持つとそうなるのも無理も無いか。大きな力は人を簡単に変えるのだからなァ。
 ならば俺も自分勝手に、思うがままにやらせてもらおう!人族と魔族全てを根絶やしてこの世界を魔人族による魔人族の為だけの新しい世界に変えてくれる!その為に!こうして邪魔するお前を完全に消すとしよう!!」

 俺の胴体回し蹴りを、相手も腹筋で受け止めて...からのさらなる倍返し。

 「そうかよ、させねーけどな!テメーが滅ぼそうとしてるものの中には、俺を元の世界に返してくれると約束した奴がいる!他にもアレン...鬼族たちも俺の仲間たちだ!他にも色々殺されるのは惜しい連中がいる!
 そいつらまで滅ぼすってんなら、テメーの仲間にも容赦しねーぞ?全員ぶち殺す!!」

 倍返し(“玄武”)。

 「知るか!俺たちはただ全部滅ぼす、それだけだ!というか、同胞を殺すだと?俺を殺した後にか?調子に乗るな!邪魔者がああああああ!!」

 また倍返し。

 「テメーこそ邪魔なんだよぉ!さっさと死んで消えろおおおおおお!!」
 
 さらにまた倍返し(“玄武”)。

 「死ねぇ!」
 「お前が死ねぇ!」
 「テメーが死ねってんだ!!」
 「お前こそが死ぬべきだ!!」

 「「 テメー(お前)が死ねえええええ!!! 」」


 ......!
 ......!!
 ......!!!

 お互い暴言を叫んで死ね死ねと罵り合いながら、カウンター返しによるぶん殴り合いを続けていく。その世界一危険な回転扉のようなやりとりから発生されたエネルギーはどんどん増大していき、その余波もえげつなくなっていった。
 俺たちは拳や蹴りを交互に放ち合いながらハリケーンのように海を渡り、いつの間にか他の島、大陸まで巻き込んでいた。通り過ぎた跡には山サイズの抉れた痕がいくつも残っていた。

 今や俺たち二人が、世界を滅ぼし得る規模の「天災」そのものと化していた。近づくもの全てが消し炭となり、灰となり、塵となっていく。島がいくつも消滅し、陸と空と海が割れて、空気が震える。人族も魔族も、魔物もモンストールも、そして魔人族さえもそこに入ればタダでは済まないくらいの死の余波が、俺たちの殴り合い・蹴り合いで生み出されていったそうだ。

 ―――
 ――――
 ―――――

 もう幾十、いや百にまで達したか?数えきれないレベルのカウンター合戦を続けている。これだけ繰り返したこの膨大な力...くらった方が文字通り消えるだろうな...。

 「しぶとい、なっ!素体が人族のくせに、よく壊れないものだ!」
 「もうとっくに人間のレベルなんか超えてんだよこっちは...いや、死んでるから壊れるもクソもねーんだよ!テメーこそ見よう見まねでこの技をよく続けられるぜ、この野郎がっ!!」

 しかし……どんなことにもやがて終わりは来るもの、そう決まっている。この世界一危険な回転扉…カウンター合戦による殺し合い。世界を滅ぼし得る天災に終わりの時が来たのだ。

 「ここだぁ!!!」
 「な――!?ぁ―――」

 いったい俺とザイート何百人分もの一撃が乗っているのか、お互い威力が膨れ上がっていくカウンター攻撃をいつまでも受けきれるのはやはり無理があったらしく、ついに《《その時》》がきた...。

 「残念だったな.........」

 ――そいつは打ち負けした......







 「 カイダ 」
 


 ―――俺、甲斐田皇雅が……。

 ゴッ―――――ドオオオオオオォン.........!!!

炸裂音とともに、俺の体とその周囲の陸地・海・島・生物が、全てぶっ壊れた。

 (く......そ.........負け、た!)


 最後は数百人分の拳や蹴りのエネルギーが乗ったザイートの頭突きをくらったことで、このカウンター合戦は終了した。
 そして、俺は……意識を手放して、いく―――


 …………。
 ………………。
 ……………………。
 

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