世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
221話「皇雅を信じる」
皇雅とザイート。二人が地上に出て戦いを再開した瞬間、世界中の強者たちがその気配を感じ取った。
サラマンドラ王国――
「カブリアス、分かるかこの戦気」
「ああ。ここからそう離れてはいない。何故今まで気付けなかったのか…」
「おそらく結界魔術か何かで今まで隠してしたのだろうな。それよりもこの戦気…忘れもしない、百年以上経とうともな。この戦気はザイートのだ。あの時とは比べ物にならないくらい強くなってやがる。昨日俺たちを滅亡一歩前まで追い詰めた魔人族の倍以上だ」
「魔人族の族長か……はっきり言って勝てる気がしない」
エルザレスがザイートを特定し、カブリアスはその戦気にあてられて身を強張らせる。
「あれ程の強さを持った奴がこうして力を解放した理由は一つ……奴を本気にさせた敵がいるってことだ。そしてその敵はあいつしかいないだろうな」
「コウガが魔人族の族長と……!?そうか、ついに戦い始めたのか」
「その戦いの結果次第でこの世界がどうなるかが決まる。腹を括らないとな」
エルザレスもカブリアスも緊張した面持ちでいる。
「ところで鬼族への使者の役目をドリュウに任せて良かったのか?あいつも俺たちと同じ重傷だったはずだが」
「本人たっての希望だ。魔人族に遭遇しない限りは大丈夫だろう――」
アルマー大陸にある小さな村にて―――
「この戦気は……父上の!?力を完全に開放している。それ程の敵が現れたのか!?」
ヴェルドはザイートの戦気を読み取って僅かに動揺する。ザイートが本気になるところは地底での暮らしが始まってから一度もみることがなかった。「成体」となったザイートの本気に初めてふれたヴェルドは武者震いをした。
「これが俺たちを統べる魔人族“序列1位”の力か……。面白い」
すると近くのモニターから声が発生する。見ると画面が赤く光っておりそこから男の声がまた発生する。
『ヴェルド様ー?あなたも気付いておられると思うけど、ザイート様が動いてるわよぉ!』
「そのようだな。相手に心当たりは?」
『アタシには分かるわ!昨日会ったしね。アタシたちのいちばんの敵、カイダコウガちゃんよ!』
「そうか………奴が父上と」
ヴェルドの目が鋭利に細くなる。同時にこれからどう動こうかと思案する。
「俺の体力はまだ全快ではない。父上のところへ行っても無意味だろう。ネルギガルド、ジースはどうだ?」
『アタシも傷がまだ治ってないわ~~。変ねぇ、いつもならすぐ治るはずなのに』
『私はほぼ回復出来ていますが………足を引っ張るだけになるかと』
ネルギガルドは不満そうに答え、ジースは自信無さげに答える。
「ならジース。お前は再びサント王国へ攻めに出ろ。連合国軍の主力を一つでも多く落としておけ。」
『仰せのままに』
『アタシはどうしようかしら~?ベロニカちゃんがどうなったのかも気になるし。様子見に行って来ようかしら』
「好きにしろ。俺も少ししたら動きに出る」
他の魔人族たちとの通信を終えるとヴェルドは体を横にさせて回復の続きに入る。
(父上こそが世界最強だ。異世界の人族か何だか知らないが誰もあの人に敵わない……!)
サント王国―――
「コウガさんが地底から出てきました!それともうひと、り………っ」
連合国軍の本部部屋にて、ミーシャは水晶玉が映す映像……皇雅を目にして思わず声を上げる。しかし次の瞬間、ザイートを見ると恐怖で声を詰まらせてしまう。
(あの魔人は……半年前、お父様とお兄様を殺害して、ドラグニア王国を滅ぼした者……!魔人族を統率する全ての頂点………。コウガさんは今その人と戦っている……!)
深呼吸して気持ちを落ち着かせると彼女の報告を聴いている連合国軍全てに情報を告げる。
「コウガさん……異世界召喚された少年カイダコウガさんは今、魔人族の族長と交戦中です。名はザイート。カイダコウガさんはたった一人で魔人族軍の総大将と戦っている状況にあります」
ミーシャの報告を聞いた各国の連合国軍は騒然とする。中でもクィンや美羽、縁佳たちの動揺は大きなものだった。
「甲斐田君……やっぱり一人で片をつけようとしてるのね」
「……。………」
美羽が深刻そうな顔で小さく呟く。縁佳は落ち着かない様子でいる。飛び出したい気持ちを抑える一方で何か出来ることはないかと考えている。
「アレンさんたちはコウガさんを信じて、一人で行かせたのでしょうか?それとも彼女たちに黙って勝手に……?」
クィンもやや困惑した様子で皇雅の意図を推測している。
「あいつが敵軍の総大将ともう戦ってるってことなのか!?マジかよ……っ」
「魔人族でいちばん強い奴だから………私たちが昨日戦ったのよりもずっと強い化け物ってことでしょ。そんなのと一人、で……」
堂丸も驚愕し、曽根は敵の強さを想像して身震いする。
誰もが様々な感情を出して騒ぎかけたところにミーシャの声が再び響く。
「カイダコウガさんとザイートの戦いには誰も介入しないことを強く勧めます。彼らの力はどちらも国一つを簡単に滅せる天災と言っていいレベルです。そんな二人の戦渦に入ればいたずらに犠牲者を出すことになるでしょう。
何よりもザイートとまともに戦えるのは、この世界ではカイダコウガさん以外に存在しないでしょう…!」
ミーシャの主張に誰も反発はしなかった。彼女の判断と考察が正しいと誰もが認めている。美羽や縁佳は放っておけないという気持ちが渦巻いているがそれを言うことは出来なかった。自分たちの力ではどうにもならないと理解しているからだ。
「ザイートのことはカイダコウガさんに任せましょう。
彼を信じるのです!彼ならきっと魔人族の族長を討伐してくれる。私はそう信じてます!
ですから皆さんも……コウガさんのことを信じて下さい!あの方はこの世界の本当の救世主になり得る人なんです!」
ミーシャの感情がこもった言葉を誰もが驚いていた。
「………ミーシャ様の言う通り、コウガさんに全て託すしかないと思います。あの場は私たちにとって次元が違い過ぎるところ……行っても巻き込まれて殺されるだけだと、私も思います」
クィンが静かな声で美羽たちに聞かせるように意見する。
「私もコウガさんを信じています!ゾルバ村の時も故ドラグニア王国の時もカイドウ王国の時も、彼はいつもあの超越した力で私たちを守ってくれました。ですから私はコウガさんを信じてここサント王国で他の魔人族と戦います!」
クィンの言葉に周りの兵士たちが賛同する。
「生徒一人がこの世界を滅ぼしかねないくらい恐ろしく強い敵と戦っている…。私としては放っておきたくないっていうのが本心。
でも…ミーシャ様やクィンが言ったように、私も甲斐田君のこと信じます!あの子ならきっと敵を倒してここに戻ってきてくれると信じるよわ!まぁあの子の場合、鬼族の里のところに帰っちゃいそうだけど」
美羽は少し悩んだもののクィンと同じ結論を出した。
「私は……行きたいと思ってます」
縁佳だけは皇雅がいる戦場へ行くことを望む。クィンと美羽とクラスメイト全員が彼女に注目する。
「皇雅君が強いってことは知ってます。魔人族の族長をにだって勝てるかもしれない。でも……心配なんです。強いからこそ心配なんです。誰よりも強い、強過ぎる皇雅君は…誰かを頼ることが出来なくなってるんだと思うんです。皇雅君が戦う相手はいつも私たちが敵わない強大過ぎるのばかり。今までは皇雅君一人でどうにか出来ていたけど、今回もそういくとは限らない。誰にも頼ることなく殺されたらって考えると私……」
縁佳は自分の気持ちを全て吐露する。いつも一緒にいた曽根と米田ですら彼女がこんなにも話すところは初めてみるのだった。
「戦場にいったところで何も出来ないかもしれない。それでも私は……!」
弓をぎゅっと握って言葉を絞る縁佳を見た美羽は、何か考えた後――
「分かったわ縁佳ちゃん。だったら―――」
本部部屋にいるミーシャは水晶玉に映っている皇雅に祈るように手を組む。
「コウガさん......どうか負けないで、消えないで...!」
心から思った言葉をそのまま口に出して皇雅の勝利と生還を祈るのだった。
コメント
ノベルバユーザー620210
えー、独りよがりの足手まといは辞めてよ!
コイツが現場に行って流れ弾が飛んできて死にそうになるのを主人公が守ってしまいピンチになるのが目に見えるよ