世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

219話「最強の武器」



 ラインハルツ王国―――

 「―――っ!」
 「どうしたの?さっきの傷口が開いたとか!?」

 王宮の一室にて治療を受けている倭が体をびくりとさせる。それを見たマリスが心配そうに声をかけるが彼の体に傷は見られない。

 「………まだ微かしか感じられないが、遠いどこかかから途轍もない気配を感じる。それも二つ…。マリス、魔族のお前ならその戦気に気付かないか?」

 倭に指摘されたマリスも遠いところに意識を集中させると顔色を悪くさせた。

 「……………何なの、全身が焼かれるようなこの戦気は!?こんなに離れたところからでもこれだけ感じられるなんて……現地に行ったらいったいどれほど………ちょっと待ってワタル。気配が二つって言ったの?私には一つしか………」
 「そういえばあいつは一度死んだせいで、魔族には戦気を感知されず、大半の人間には気配も生気も覇気とかも感じられなくなってたんだったな。俺が微かに感じてるもう一つの存在……甲斐田皇雅のことだ」
 「もしかして、彼が魔人族の族長…ザイートと戦って……!?」
 「そう思って間違いないだろうな。俺レベルの戦力を持った奴でやっと感じられる程度だ。世界中の誰もがこのことにまだ気付けてはいないだろう。おそらく地底で戦っているのかもな」

 ベッドから身を起こした倭はそう思案する。

 「甲斐田が勝てば魔人族軍の瓦解は確実。反対にザイートが勝ってしまったら……この世界が終わるだろうな。俺の力じゃあザイートを殺すにはまでには至らない、あまりにも力が足りない。
 この世界の行く末は、あいつらの戦いの結果に委ねられている」
 「………!」

 倭の言葉にマリスは身を強張らせる。倭本人も険しい顔をして窓の外を眺める。

 「―――。どうやらここに魔人族軍が攻め込んでくるようだぞ。俺のことはいいから、兵士団と冒険者たちを率いてくれ。俺ももう少し休んでから出る」
 「分かったわ。二人の戦いも気になるけど、今は目の前のこと……私たちの国を守ることに集中しなくちゃ、でしょ?」

 そうして彼らは自分たちの戦いに身を投じるのだった。


                 *

 魔人族本拠地 地底―――


 戦いの口火を切ったのは完全に同時だった。俺とザイートが同時にそれもほぼ同じモーションから空気を割くようなハイキックを繰り出して激突した。

 「「ガキィン!」」

 まるで鉄骨と鉄骨で殴り合うかのような音。
 続いて正拳...これも同時にぶつかり合う。

 「「バァン!」」

 シンバルを思い切り何重にも打ち鳴らしたような音。
 そこから半月蹴り、腕刀、膝蹴り、肘撃ち、十文字蹴りを音速で連続で繰り出すが、ザイートも同じような武術を繰り出してほぼ同じ威力で悉く相殺されてしまう。

 ドン!ギィン!ドッゴォォン!ゴッ、オォォン...!

 一撃一撃に全力と殺意を込めて拳と蹴りを打ち込む。それはザイートも同じで、全て対応されてしまう。相殺には成功したけど俺の骨は折れて、筋肉は千切れて、体はやや変形と…などそれなりの重傷を負う。しかしゾンビの力…規格外な再生力ですぐに元通り。すぐさま次の攻撃に移る。

 殴り合い・蹴り合い………俺たちの戦い方はそんな原始的なものだった。魔法や武器が豊富にあるこのファンタジーな世界にとっては普通であれば滑稽に映る光景だろう。
 だが生憎俺は普通じゃないし、まともじゃない脳筋タイプだ(奇しくもザイートの奴も同じらしい)。この世界の頂点を決める(ことになってるのか?)戦いだというのに、互いにいちばんの武器がコレ素手だというのだから。
 俺が今まで読んできた異世界ファンタジー系作品の主人公は、多彩な魔法(魔術)にカッコいい剣、時には高火力の兵器を駆使して戦っていたはずなのに、俺ときたらこんな素手によるドンパチが一番得意だというのだから。こんな戦いがいちばん得意ですって言う主人公のストーリー書籍化したら、地味過ぎて誰からも覚えられねーよ多分。せめて「滅びのバースト○○」くらいは撃ってみせようか?
 まぁ相手側も物理的近接戦が主体だというのは幸いと考えていいのか分からんが(あいつ今手に鉤爪ついてるけど)、こうして肉弾戦主体の戦いとなっている。

 “破砕爪《クラッシュガロン》”
 
 「武装硬化」で破壊力に特化した鉤爪を武装したザイートの苛烈な突き攻撃が襲い掛かる。奴の爪撃で耳や肩が抉りとばされてしまう。こっちも負けじと嵐の刃を付与した手刀攻撃を放つ―――

 “衝撃波斬撃《ソニックカッター》”

 衝撃波の刃で奴の腹の肉をごっそり斬り落と…せなかった。掠っただけでギリギリ躱された。

 「グッハハハハハハァ!!」

 哄笑するザイートを睨みつける。地底で真っ暗な空間だけど「夜目」を発動している俺の目には、奴の今の姿がはっきり見える。
 「限定進化」したザイートの姿は、はっきり言って「異形」だった。全身真っ黒の肌、髪が全て抜け落ちた代わりに無色の湾曲した角が生えている。さらに厄介なのが、奴の体質だ。打撃を与えると、奴の体にゴムの弾力性が帯びてダメージが分散されて、斬撃属性の攻撃に対しては鱗みたいなのが浮き出て威力が軽減される。しかも絶妙なタイミングでだ。
 本人の意思によるものかは知らんが、とにかく面倒だ。大したダメージを負わない。加えてあの物理防御力…。ならば魔法攻撃で…って思うも、「魔法弱体化鎧」でまた軽減されてしまう。万能耐久で超高火力型ってところの、まさに化け物チート野郎だ。

 「 連繋稼働《リレーアクセル》 」

 だからここからは、全て人体急所を的確に突いて壊していくことにする。修行の成果を今ここで本領発揮する時がきた。
 下半身→腰→体幹→肩→腕→拳へと、力と速度を繋げていく。「瞬神速」でザイートに接近、そして渾身のストレートを放つ――!

 “絶拳《ぜつけん》”

 この力のパスからの必殺技シリーズで最初に覚えたのが、この何の捻りも無いただの正拳突きだ。シンプルにして超強力。それを疑うことなく自信満々に打ち放った!狙いは額と角の境目。角を根元から吹っ飛ばして大量出血を図った一発だ。

 「っ...ぐ...!」

 狙い通り角を吹き飛ばして血飛沫を舞わせる。ザイートは激痛によろめくも、すぐに回復させて反撃に出た。「超高速再生」による超回復力まで備わってやがる。そしてタフな体の源「超生命体力」もある。どんだけチートなんだよ、人のことあまり言えないけど。

 「またあの溜めからの大技か。本当に効くぜ、全くよぉ...!」
 「そう言いながらもう回復してんじゃねーかよ」

 ザイートが半ばキレた様子でどす黒い魔力を纏った拳を飛ばしてくる。「複眼」・「見切り」でとんでくる拳をギリギリ躱して隙をつくらせる。そこから再び「連繋稼働」を発生させる。
 さっきと同じ経路でパスしていき、奴の拳を躱した際踏み込んだ左足の力を利用して、左アッパーを放った。

 「シッ―――」

 喉笛を正確に狙った拳が射抜こうとする。拳が触れる寸前、ザイートは腕を使ってコレを防ごうとする。無駄だ!防いだとしてもすぐに蹴りで胴体の急所に入れて――



 「 ほら、全部ツケにして返してやる 」


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