世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

214話「残酷な余興」



 物言わなくなった大西の体を踏みつけながら次は誰だと周りを睥睨する。視線の先にはマルスが映り、目が合った瞬間マルスは憤怒の表情を見せる。

 「上等だぁ!?“大悪魔の地獄口サタン・ゲート”―――」

 奴が生きていた時に見せた闇魔法…巨大な悪魔の口腔。あれよりも巨大で禍々しいそれを出現させて、さらに「魔力光線」も放ってきた。生前の奴には無かったはずの固有技能だが、この召喚魔術の恩恵でパワーアップしてるみたいだ。
 が、やっぱりというか、想像を下回る威力に幻滅しながら光属性を纏った拳を振るって容易く突破した。
 そしてマルスの胸倉を掴み上げてその場で加減無しで叩きつけた...マッハ数十の速度で!
 パァン!ともの凄い破裂音が響いて、奴の気持ち悪い中身が飛び散っていく。

 「い、たい...あ”あ”あ”あ”あ”痛い!苦しい!!貴様ぁ!余に対してまたしてもこんな...!?」

 しばらくのたうち回ったのちにマルスは動かなくなった。すぐには死なないところ、生命力も生前の何倍も跳ね上がってるな。

 「こ、の………よくもぉ!!」

 俺の背後から大西が立ち上がってくる。さっき粉々に砕いたはずが、体は初期通りに戻っている。殺しても数秒後には蘇る仕組みか。そこは俺と同じようだな。

 「ふーん、だったら加減はもう要らないな?かかってくるんならまた殺してやるよ」

 感情の無い声で言う俺に連中一瞬怯むも、すぐに怒りの形相を浮かべて数人グループに分かれて別々にかかってきた。俺を憎む者同士、共闘することに抵抗は無いらしい。それぞれ武器を振るったり魔法攻撃を放ってきたりと俺に元気よく向かってきた。
 俺は無表情の顔でその全てを真っ向から叩き潰して、連中を悉く殺して回った。

 「ビギャアァ!!?」
 山本の頭を掴んで水と重力の複合魔法で生じた超水圧でぐしゃぐしゃに拉げさせる。

 「ぎゃあ!!骨が、内臓がはぁ!!」
 須藤の全身に超音速の拳打・蹴りを叩き込んでミンチにする。

 「うわああああああああ!?俺の脳が出てきて...!?!?」
 サント王国の冒険者ギルドで俺を害しようとしたクソモブ冒険者の首を思い切り絞めて、頭を破裂させる。

 ありとあらゆる武技・魔法攻撃を駆使して、襲ってくる死兵どもを一方的に返り討ちしてやる。
 
 『む、無駄よ...!殺しても少し経ってからまた復活する。しかもその際、彼らの負の感情はさらに強くなり、それに比例して力も増していく。殺せば殺す程、自分の首を絞めることになるわよ!?』

 何も無いところからベロニカのやや引きつった声が再度響く。そうか……殺してもこいつらの憎悪の火に薪をくべるようなものか。言われた通り、復活した奴ら全員の気配が強まってる気がする。死体だからか「鑑定」ができないから憶測でしか強さを判断できない。
 ただ確実なのは、こいつらがさっきよりも強い殺意を向けてきてることだ。殺す度に憎悪の念をさらに強めて蘇ってくる。

 「テメーらがどれだけ憎しみを強くさせようが俺に届かねーってこと、教えてやるよ―――」


                  *

 魔人族の本拠地からはるか遠く離れた海……デルス大陸へ続く海域の空を、一人の魔人族が超高速で飛んでいた。

 「ん~~。もうすぐデルス大陸か。場所は……ラインハルツ王国だったな」

 魔人族戦士「序列1位」であり魔人族を統べる族長…ザイートは単独で次の戦場を求めていた。今度の目的地はラインハルツ王国。そこには昨日「序列4位」クロックを討伐した兵士がいると聞いている。故にこうしてザイート直々に向かっているのである。

 「昨日の戦い……いやあれはただの蹂躙だったか。いずれにしろ昨日の余興も悪くはなかったが物足りなかった。歯応えがまるで無いようなものだった」

 ザイートの脳裏には昨日の大戦のことが浮かんでいた………。
 
 ―――
 ――――
 ―――――

 昨日…大戦一日目、イード王国領域で勃発した戦場にて―――

 世界で名を連ねる歴戦の冒険者たちによって多くのモンストールと魔物が討伐されていった。彼らの勢いは仲間たちの士気も高めていき、波紋のように広がっていくことで軍全体が勢いづく形となった。
 しかしそれが長く続くことはなかった。

 ――――ドパンッ!!

 「ほう?粋がってた割には随分軟弱な奴だったな。つまらん」

 ザイートの突然の出現によって戦況は大きく変わることになった。
 ついさっき勇んでいた歴戦の冒険者の一人が、何の前触れもなしに首無し死体と化してしまう。その突然で考えられない展開に誰もが固まってしまう。快進撃を続けていた二人の兵士団長…コザ(サントの兵士団長)とハンス(イードの兵士団長)も同じく動きを止めてしまった。

 「ああ?何だぁ、一人殺されたくらいで動揺しやがって...。しっかりしろよ。お仲間の仇は今隙だらけだぞ?

 俺は魔人族のザイートだ」


 冒険者を瞬殺したザイートは連合国軍に挑発と自己紹介をする。彼の名乗りを聞いた兵士と冒険者全員が戦慄する。

 「魔人族...!?まさか、この男が!?」

 兵士・冒険者ら数十人がザイートを囲んで武器を構える。そして合図無しに一斉に攻撃魔法を放つ。


 「何だ、やればできるじゃないか。掛け声無しに一斉攻撃は中々だ。ただ......威力が足らな過ぎる―――」

 スパパパパパパパ.........ッ

 高レベルの攻撃魔法を大量にくらったにも関わらず平然と...傷一つついていないザイートは、兵士・冒険者たちの目に映すことなく駆けて...彼らの首や胴体を斬り飛ばした...!

 「歴戦の冒険者たちまでもが...一瞬で......っ」

 ただの一撃で多くの兵士と冒険者が屍と化した光景を、誰もが愕然とした様子で見ていた。

 「う~む。この程度のレベルなのか、今の人族の戦力は。物足りねぇ……まぁいい、準備運動がてらこの世界の侵略を進めて行こうか――」

 それからザイートは瞬く間に連合国軍を壊滅させた。
 巨象が蟻の大群を踏み潰すが如く、誰もが為す術も無くザイートの手で彼らの命は無惨に散らされてしまった。

 「ぞ......ん”な”.........っ」
 「お前は、少々出来る方だったな。災害レベルの屍族数体は相手に出来るくらいだ。まぁ俺にとってはゴミだったが」

 兵士団長コザもザイートの前には手も足も出ず、一方的に嬲られて死の淵に落とされた。

 (こんな、あっさり殺されるのか俺は...。これが魔人族......成程、“理不尽”そのものだなコレは。クィンから忠告されていたのに、この様だ......情けない)

 コザの腹から血が噴き出て、焼けるような激痛が襲うがやがてそれすらも感じなくなる。体が震えるくらい寒さを覚え意識が...否、生命が終わろうとしている。

 (クィン......済まない。最後まで不甲斐ない兵士団長だった俺を許せ...。サント王国を頼む...!
 ガビル様......必ず人族に勝利を......!!)

 声を出すことさえままならなかったコザは、心の中でそう叫んで、息絶えた...。

 「く...そ...がふっ...!」
 「ふむ、この軍の主戦力は今殺した奴とお前くらいか。ならここはもう良いか。お前ら、あとは適当に蹂躙しろ」

 ハンスを掴んだままのザイートは周りにいる屍族に指示を出して移動する。しばらくして戦場から何人もの苦悶と絶望に満ちた絶叫が響いたが、ザイートはそれらに目もくれなかった。

 「お”ま、え”......俺を連れで、何を......!?」
 「ちょっとした余興だ。お前ら人族を絶望させる為のな」

 苦痛に悶えながら問うハンスにザイートは残虐性を孕んだ笑みを見せてそう答える。彼の答えの意味は、彼がたどり着いた地を見てすぐに分かり、ハンスは顔を真っ青にさせた。


 「お、俺たちの...国っ」
 「くっくっく...。お前がこの王国の中でいちばん強いと聞いたぞ?そのお前のこんな有り様を見せれば、この王国の民どもはどう思うだろうなぁ?」

 ザイートは戦場から王国内へ侵攻して、国を破壊し始める。街や村を無差別に蹂躙していき、ハンスを見せつけて叫ぶ。

 「この王国でいちばん強い兵士はこの有様だ!魔人族相手にお前らゴミカス戦力しかない人族どもに敵うわけがない!お前らは滅ぶんだよ」

 ハンスのことを知らない国民はいない。だからこそハンスの痛ましい姿を目にした国民は皆絶望した。国王も同様だ。
 
 「そんな......ハンスが...。この国の兵士団が、負けた...!?」
 「ルイム様......申し訳、ありま―――」
 「用済みだ」

 ザシュ...と、無情にハンズを鉤爪で切り裂いて彼の命を消し去った...。

 「あ...あぁ......っ」
 「さてここにいるのはゴミ以下のカスばかりか。運動がてら消し飛ばそうか...。人族は、滅ぶべきだ――」
 「ぐ......ぅおおおおおおおおおおおおっ」

 この日イード王国はザイートただ一人によって滅ぼされた。誰もが恐怖と絶望の渦に巻き込まれて死んでいった。国王ルイムもその一人にあった。

 「力も無い奴が国王を名乗るか。魔族にとっては考えられないな。上に立つ者こそが強くなくてどうするのやら」
 「お”......のれ”.........っ」
 
 四肢を斬り落とされ胴体に風穴を空けられたルイムは、痛みと悔しさ、絶望で顔を歪ませて苦し紛れに毒吐くことしかできないまま、絶命した。


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