世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
213話「黄泉召喚」
この世界に来てからは現代世界では起こり得ないいくつものぶっとんだ出来事を経験してきたからもう驚くことはないと思っていたけど、こればかりは驚かずにはいられなかった。
何せ過去に死んだはずの人間が目の前に大勢現れたのだから。しかもその大半が元いた世界で通っていた桜津高校の3年7組の元クラスメイトどもなのだから。
「……………!!」
俺に怨嗟がこもった声で初めに怒鳴ってきたのは、雰囲気イケメンだけが取り柄だった男、大西雄介だ。その見た目は生前と違い、ゾンビとして復活したばかりの俺と同じ肌の色に変色している。まさに死人だ。
「変だな……この馬鹿どもの死体って焼却されてないまま放置されてたのか?で、死体だったこいつらをこの地底に連れてきて瘴気に当てて復活させたってか……?」
声に出して疑問を挙げてみる。大西が誰が馬鹿だ!?とか何か怒鳴ってきてるがシカトする。テメーの相手はこの疑問が解決してからだ、だからしつこく煽ってくんなクソ馬鹿が。
『ふふふふふ……』
突然俺の真横に半透明の人か何かが現れた。よく見ると俺から一時撤退したベロニカだった。これは……実体が無い幻か?
『まんまとこの空間に閉じ込められてくれてありがとう、カイダコウガ。懐かしい顔ぶれと再会できた気分はどう?』
闘技場の周りには大西以外にも死んだ元クラスメイトどもがたくさんいる。
「……………これってどういうこと?テメーの特殊な固有技能か何かか?見た感じ、俺と似た境遇を通ってきてるように見えるな、あいつら」
ベロニカの煽りに応じることなく率直に疑問をぶつける。実体が無い霊体越しでいるからか、ベロニカは余裕満ちた顔で自慢げにこの謎の現象の説明を始める。
『彼らは私の召喚魔術で復活させた死人、あなたが今まで大勢殺した屍族と似た存在よ。これは死んだ生物を屍族として復活させられるオリジナル召喚魔術――“黄泉召喚《よみしょうかん》”と呼んでるわ。復活させる対象は主に知性ある生物に絞ってるわ。その方がとっても有効に使えるから』
「有効に?」
『ええ。この召喚魔術の特徴は、攻撃対象の者に強い憎しみ・殺意を抱いている人たちの魂を黄泉…つまり死後の世界から呼び出してそれらを屍族としてこの世に召喚させるのよ。そしてそいつらがその感情を強く抱いている程、絶大な力が付与されることになっているわ』
「憎しみに殺意ねぇ?」
『それにしても面白いことになったわね?ザイート様が記して下さったあなたの情報が記載された資料をもとに、あなたと関わってきた生物…主に人族の魂を探してこうして召喚したのだけど、これには私も驚かされたわ!
あなた、どうやったらこんなにたくさんの同じ人族に恨まれ憎まれるというの?こんなに強力な召喚魔術になったのはこれが初めてよ!あなた奴らに何をしてきたの?』
「………うるせー」
それにしてもなるほどなぁ。この召喚魔術については大体分かった。つまりこれは、転生系の召喚魔術だ。といってもこの世界で死んだ・殺された奴らを生前とは別の種族…俺やモンストールとほぼ同じ、屍族として復活させるものだ。そしてそいつらの攻撃対象は全て共通して一つに絞られる。とても憎くて殺したく思っている奴…ここでは俺になるのか。
そして奴らの戦力は恨み憎しみ殺意といったどす黒い感情の強さに比例して強くなると。強く恨み、強く憎み、殺したいと強く思っていればいる程、術者の駒を強くさせられる召喚魔術…ってところか!
『ここにいる私の駒たちはあなたを強く憎んでいる。生前の何十倍にも強くなってるじゃないかしら?そうねぇ、総合の戦力は災害レベルの上位に位置しているわね。ジースとクロックを合わせて丁度いいってくらいかしら?ふふふ……。
そしてそいつらはたった今から死ぬこともなく永遠に止まることもない、私の忠実な不死身の駒たちになったのよ!あなたが敵をつくりやすい性格かどうだったかは知らないけれど残念だったわね?あなたにとってこの術は最悪の相性と言って良いわ!』
ベロニカはすっかり余裕そうに笑う。
『そしてその空間は私の幻術でつくりあげた亜空間。どこにも逃げ場は無いわぁ。あなたはそこでみんなに嬲られてバラバラにされて無様に這いつくばるのよ!?単独で魔人族の本拠地にのこのこやって来たことを後悔しなさい!』
あははははは……と高笑いするベロニカの声を聞き流しながら、目の前にいるかつて殺した連中の顔ぶれを確認する。
シカトをきめこんでいる俺をしつこく咎めて喚いている大西。
「お前のせいで死んだんだぁ...!殺す!!」
「何でお前がそうやって平気で生きているんだ!?俺たちはこんなにもお前に死んでほしいって思ってるのに...赦せない、消してやる!!」
山本純一と片上敦基に...
「甲斐田ぁ、お前の顔面を何回も潰して内臓ぐちゃぐちゃにして、何回でも痛めつけてやるよぉ?ひゃははははははははぁ!!」
「感謝します魔人族様ァ!こうして甲斐田に復讐できるのだからぁ!!」
「生前以上に力が溢れてくる...!ははははははは!!これならお前なんか簡単につぶしてやれるぞぉ!復讐してやるぅ!!」
須藤賢也、里中優斗、早川たかし......
「下等な異世界人がよくも、よくも余を虚仮にしてくれたなぁ!?誰が上なのか分からせてから殺してやる……!!」
「貴様が何もしなかったせいでわしは死に、国が滅びた!わしにここまでの憎悪を抱かせた罪、絶え間ない苦痛を以て償えええええ!!」
ドラグニア王国の王族マルス王子とカドゥラ国王…
「「「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す...!!」」」
「「「消す消す消す消す消す消す消す消す消す...!!」」」
「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね...!!」」」
「「「「「.........!!......!!...!!」」」」」
その他に元クラスメイト…小林に安藤に鈴木に柴田など、ドラグニアで殺された全員。ドラグニアのロクでもなかったクズ王族ども。サント王国で俺に絡んできたクソ冒険者ども(つーか死んでたのかよ)。ハーベスタンの貴族数人(自業自得で死んだ馬鹿どもだ)。
その全員が口々に恨み言を吐きながら殺意のこもった目で睨み近づいてくる。この空間にいる奴ら全員が、俺に殺す殺す憎い憎い死ね死ねコーラスを唱えて、俺を追い詰めようとしてくる。
その光景を見た俺は……………
「 うっわ 気持ち悪っ 」
ただただ不快感をもよおしていた。恐怖は微塵も湧かず、生理的嫌悪感しかなかった。
『な、何よ?この期に及んでまだ強がりをみせてるつもり?大した虚栄心ね』
ベロニカが尚も煽ろうとしてくるが全く気にならない。因みにベロニカの幻体はいつの間にか消えていて、声だけが闘技場に響いている状態だ。
「あーーいやなに?テメーはさ、こんなので俺をどうこうできるって本気で思ってるのか?」
『は……?あなた何を言ってるの!?この状況が分からない?災害レベル以上の戦力を持つ駒が襲ってくるのよ!?この戦力差を見て何で――』
「まだ分からねーのか?俺がこんな雑魚カスどもに負けるとでも?」
『な……!?』
ばっさり言い返す俺に今度はベロニカが動揺する。こいつら全員が、自分を殺した俺を憎んで殺したいと思っている。復讐に焦がれている。
「まったく死んでもなお勝手な連中だな。特に元クラスメイトどもとドラグニアの王族ども、テメーらだよ。テメーらが死んだのは…モンストールや魔人族に殺されたのは全部テメーらの怠慢が招いた結果だってのに」
それ以前に…生前はこの俺をハブって虐げて、生贄にもして見捨てただろうが。自分らのこと完全に棚に上げてやがる。まあそれもこの召喚魔術のせいでもあるのかもな。
「逃げられると思うなぁ!?この密閉空間でぇ!!ズタボロの糞雑巾になりやがれぇ!!」
目の前にいる大西が、両手剣を片手で振り上げて、亜音速で斬りかかってくる。
「逃げられない?ああそうだよな。こんな密閉闘技場の中に、どこにも逃げ場なんてねーよなぁ……。
まぁ、それはテメーらも同じだけど 」
パキィン...! ゴキャ......
破砕音。砕けたのは大西の剣。そして次に見えたのは、
「がぁ、ぱ......??」
大西のクソキモい顔面だ。
『......え?』
ベロニカの間が抜けた声が響く中、俺は先程放った正拳突きのモーションから蹴り技を繰り出す。嵐の魔力を纏った蹴りは、大西の五体をスパッとバラバラに斬り裂いた。
「あ”っ、あ”あ”......!!痛あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
無様に断末魔の叫びを上げて倒れるのを、俺は冷たい目で見下す。というか、無茶苦茶痛がってるな?俺と違って痛覚を遮断する固有技能はついてないのか。
「さて……ラスボスと戦う前のウォーミングアップとしてベロニカ、テメーともう少し付き合ってやるよ。
それに、俺今けっこう腹が立ってんだ」
俺の体から魔力が絶え間なく熾し続けてる。それは見る者にとってはプレッシャーとして捉えられるのか、この場にいる全員が息を呑んで硬直していた。
『………!?』
「死んで少しは反省したかなって思った俺も馬鹿だったなー。性根が腐りきってるこいつらが改善するわけが無かったんだ。
良いぜ相手してやる。テメーらが俺を恨み憎むことがどれだけお門違いだってことか、その死肉に叩き込んでやるよ!」
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