世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

206話「同じ目に遭っていたら」



 すげなく突き放す態度の俺に藤原と高園が悲しそうに目を伏せる。

 「どうしてそんなに拒むの?まだ私たちのことを赦せないから……?」

 曽根が咎め半分悲痛さ半分を含んだ声で尋ねてくる。

 「赦せてない、か。確かに俺はテメーらに仲間意識は持てていない。テメーらはかつて俺を生贄にして逃げて、俺は俺でテメーらの仲間を大勢見殺しにしてきたからな。溝は深いままだ」
 
 それを聞いて顔を少し険しくさせる堂丸に目を向ける。

 「テメーだって俺がまだ赦せない、憎いって思ってるんじゃねーか?俺なんかと仲間になることはもちろん、同盟すら結びたくないって思ってるんだろ?」

 半ば挑発するように言ってやる。不穏を察した藤原が間に入ろうとしたが堂丸から怒りの反応は見られなかった。

 「………………さっきも言ったけど俺はお前のことが気に入らねー。好きか嫌いかって聞かれたら100%嫌いだって答えてやる。
 ただ………俺はこの半年間のうちに考えたことがあったんだ―――俺がもしお前と同じ目に遭っていたら……って」

 (………!)

 「学校の頃からこの世界来てすぐの頃のこと。クラスのみんなから除け者にされて、ステータスがくそ弱いからって虐められて、そして最後は生贄にされてみんなから見捨てられて死んでたら……って。全部お前が体験したことだったよな」

 俺は無言で堂丸の話を聞く。

 「もの凄い力を持っているお前が……化け物どもからみんなを助けられたはずのお前が、クラスのみんなを見殺しにしたのは赦せないとは思ってる。けどお前をそうさせてしまったのは、去年からお前を貶めて嫌がらせをして虐げてしまったクラスのみんなが原因だって、今はそう思ってる。俺もお前のこと除け者にしたりリンチに加わったことがあったからな…」

 これにはさすがの俺も驚かざるを得なかった。高園たちだってビックリしてるくらいだからな。あの堂丸が俺に対して負い目を感じていると自供しているのだから。

 「もし俺がお前と同じ目に遭っていたら、俺だってお前と似たことしていたかもしれないって……。もちろんお前が何考えてるなんて一ミリも分からねーけどよ。大西や須藤とかが俺に対してお前と同じことしてきたら、みんなから同じ仕打ちをされてたら、たとえ力があったとしてもみんなを助けようだなんて思わなかったかもしれない…」
 「堂丸君…」

 藤原が少し寂しそうな目で堂丸を見る。高園たちも複雑そうにしている。

 「で、何が言いたいんだテメーは」
 「ぐ、、ズバッと言いやがって……。つまりお前の気持ちが分かるとは言わねー。けどお前が俺たちと一緒に戦いたくないって気持ちは少しは理解できるってんだ」
 「…………」
 「正直、お前が軍に加わってくれたらって思ってる。魔人族でさえ簡単に倒す力を持ってるからな、お前がいたら後の戦争も楽勝じゃねーかって思ってもいる。けどお前が俺たちといたくねーってんなら、仕方ねーって思う」
 
 堂丸がこんなことを言うとは全く思ってなかった。こいつはどうあっても俺のことを悪く思い、互いに相容れないとばかり考えていた。
 実際今まではそうだった。学校でもこいつは俺のこと敵視してたし排除してきそうな顔してたし。この半年間でこいつの何かが変わったのだろうか。

 「お前が軍に入らないのなら仕方ねー。そうなったら俺が高園のこと守ってやるからな!今日はお前にいいとこ全部持ってかれたけど、次は俺が死ぬ気で高園もクラスのみんなも守ってやる!お前には負けねー!」
 「んだそりゃ。ならその調子でサント王国の防衛はテメーらで何とかしてくれ」
 「言われなくてもそうするぜ」

 それだけ言うと堂丸は俺から離れて行った。言いたいこと言えてスッキリした様子だ。
 
 「守る役目は私なんだけどね。けど私も堂丸と同じ意見かな。甲斐田が私たちのことまだ仲間だって思ってくれないのは、私たちのせいでもあるし。魔人族は強くて怖いけど、次はここにいる私たちで来る奴ら全員倒してみせるわ!あんたが来る必要なんて無いくらいに完璧に守り切ってみせる」
 「“序列”級の魔人族相手だと、《《お前ら》》には荷が重すぎると思うけどな」
 「う……決心したところにそれを言う?あんたって……………って、え?今……」

 曽根が目を見開いて俺を見る。堂丸や米田もやや驚いた顔をしている。俺は短く笑って部屋を出る準備をする。軽食を堪能しているアレンは俺を見ると口にまだ含んだまま立ち上がる。

 「わ、私は納得いかない!余裕があるんだったら私たちの味方してくれて良いじゃない!そんなに強いんだし、どうせ魔人族と戦うなら、軍に入ったって良いじゃない!!」

 今まで黙っていた中西がここでいきなりそんなことを言い出す。振り向くと中西が何かに恐怖した様子で金切り声を上げる。

 「そうよ………後は甲斐田が全部やればいいじゃない。あれだけ強いなら残りの魔人族だって楽勝なんでしょ?というかあんただって魔人族と戦う気あるんでしょ?だったらあんたが全部やれば……!」

 まくし立てる中西を高園と曽根が諫めようとする。下らないことをほざく中西に俺は呆れを含んだため息を漏らす。

 「以前この中での謁見で言ったことだけどな。そうやって誰かに任せきりにして、自身の才能と恩恵にかまけて鍛錬を怠って努力をしてこなかったから、今みたいなことが言えるんだ。仮にテメーが死んだとしても、それはテメー自身の責任になるからな。もっとも、戦うのが嫌なら戦場に行かなければいい。それだけだ」
 
 中西がまだ何か喚こうとしていたが堂丸が彼女の肩を押さえて宥めようとする。それを一瞥してから藤原に話しかける。

 「今度はあんたもこいつらと一緒に戦った方が良い。全員でかかれば“序列”級の魔人族ともやり合えるはずだ。あんたがいれば大丈夫だろう」

 リスクは高いだろうが彼女だけが使える「究極の回復魔術」をくらわせれば魔人族も終わりだ。

 「信頼してくれてありがとう。私もそのつもりだよ。甲斐田君も一緒に戦って欲しいって今も凄く思ってるけど、君の意思を尊重するわ。アレンちゃんも、里をしっかり守ってね」
 「ん。ミワも絶対に生き残って」

 差し出された手をアレンはしっかり握って、俺は軽くタッチする。

 「じゃあな。死ぬんじゃねーぞ」

 そう言って俺とアレンは瞬間ワープして里へ帰った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品