世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

204話「呼び出した理由」



 会議部屋がしばらく沈黙に包まれる。皆が俺とラインハート改め、八俣倭の話を聴いていた。

 「―――というイベントが、修行の旅の中であってな」
 「ああ。ったく……鍛錬しに来たつもりが、偶然な出来事にまた遭遇したもんだ」

 俺と八俣が交互に話す中、誰もが驚愕のあまりにポカンとしたり、開いた口が塞がらない様子だったりと色々なリアクションをとっていた。

 「わ、倭さん!?が、170才の超お爺ちゃんで、かつて魔人族と戦っていて、そして今もずっと普通に生きてきて...!?」
 「ラインハート……いや八俣さんって呼べばいいのか?とにかく俺たちの他にも日本から来た人がいたなんて!」
 「び、びっくりした……としか言葉が出てこないわ……」
 「………(コクコク)」
 「老化が遅い……羨まし…………いえ、何でもないわ!」

 特に元クラスメイトどもと藤原の反応が大きかった。異世界召喚された人間がここにいるのが俺たちだけだと思ってたのだから無理もない。

 「コウガ、修行でそんなことがあったんだ」
 「ああ。話す機がなくてみんなには話せてなかったな」

 アレンに一言詫びを入れる。彼女は気にしてないと言って八俣を興味深そうに見ている。

 「100年以上前にも異世界召喚したという事例は知ってましたが、そのうちの一人がこうして生きていたというのは驚かされました...!そんな特殊技能があったなんて!」
 
 ミーシャも丸い目を見開いて動揺している。ここに来て突然明かされた真実を消化するのに時間がかかっている様子だ。そんな中、ガビルが何か思い出したかのように言葉を発する。

 「そういえば、変わった形状の剣の超達人の兵士からかつて剣術を教わったことがあると私の父から聞いたことがある...もしや八俣、様が……!」
 「八俣様だなんてよしてくれ。まぁそうだな...後進の兵たちに色々教えたことはあったが...そのひとりにあんたの家族もいたのかもな」

 そう言ってから、俺以外の連中に自分のステータスプレートを見せた。それを見た全員が驚愕する。アレンもビックリ顔だ。ここにいる中だと八俣のステータスがダントツで上だろう。俺を除けばだが。彼こそが人族で最も強い兵士…いや、全魔族を入れての最強と言っても過言ではない。

 「あんたらの先人たちが大昔の魔人族についての歴史を丸々消しておくと決めた。それに乗っかって俺も自国の国王さん以外全てに対して正体を隠すことにした。今日の今までずっとな。
 隠していてすまなかったな。あんたらのことを信用していないわけじゃなかったんだ」

 八俣はガビル、ミーシャ、ニッズ、他の連中に頭を軽く下げて謝罪する。彼の口調は国王や王族に対してもタメ口だ。まああれだけ強いから態度も発言も強く出て大丈夫だろう。

 「………ごほん、ではヤマタ殿と呼ばせてもらおう。貴殿の真実には驚かされはしたが、連合国軍にとって朗報でもある。隠していたことに対して負い目を感じる必要は無い。ここにいる皆も貴殿を改めて頼もしく、必要としている」

 ガビルの言葉に続いて誰もが拍手で応じる。八俣はやや照れくさそうに頬をかいて小さく礼を言う。

 「歓迎してもらってありがたく思う。で、話を変えさせてもらうが、今後の魔人族との戦争、どう動く?」

 八俣はそう言いながら元クラスメイトどもに目を向ける。

 「お前たち、魔人族どもと戦ってどう感じた?“序列”持ちの奴と戦ったと聞いたが、次もまた同じような敵と戦う覚悟はあるか?死ぬかもしれない戦地にその身を再び投じる気はあるか?」

 八俣はあいつらにプレッシャーをかけて問いかける。ここで脅すようなことを言った意図は大体分かる。こんなところで臆するようじゃあ今後の戦いに出ても死ぬだけだしな。
 で、高園たちの答えは……

 「怖いとは思ってます。けれど、私はまた戦いに出ます!この世界に召喚されてからまだ7か月くらいしか経っていないけど、この国を……世界を滅ぼされたくないって思うくらいには愛着が湧いてるので!魔人族とまた戦う覚悟は出来てます!!」

 高園がまずそう答える。

 「今日はあの魔人族相手に手も足も出なかったけど、次はそうはならない。縁佳と同じ気持ち、私も魔人族とまた戦うことになっても大丈夫です!」
 「高園が覚悟決めてるんだ、俺も腹括って魔人族の奴らと戦わないなんて男じゃねー!俺だって戦いますよ!みんなで戦って今度は勝ってみせる!」
 「怖いけど、私もみんなと一緒に…戦います…!」

 曽根も堂丸も米田も同じく戦う意志を示してみせる。4人は互いに頷き合って心を通わせているように見えた。しかしクラスメイトの中でたた一人、それに準じてない奴がいる。

 「私は……無理よ、もう戦えない………」
 「晴美………」

 中西だけが気まずそうに俯いてそう告げる。藤原が彼女の傍に来てその手を握る。

 「良いのよ中西さん。これは命を懸けた戦いになるもの。元々巻き込まれた身なのだから、無理に魔人族と戦う必要は無いわ。でも、せめてモンストールと魔物の討伐、傷ついた仲間や兵士たちの治療の力くらいにはなってほしいの。やってくれる?」
 「……………はい。それくらいなら」

 藤原の優しい声音に安心したのか、顔を上げて了解の意思を見せる。

 「魔人族がいる戦線に出る異世界召喚組は、ナカニシ以外の全員で良いな。先の覚悟の表明も聴かせてもらった。ならば俺もお前たちに背を預けるくらいはさせてもらおう。お前たちを対等な戦士として扱わせてもらう」

 八俣の言葉に藤原と高園たちがはい!と応える。あの二人はともかく、曽根や堂丸、米田までもが戦士の顔つきになってやがる。今日の大戦を経たことで何かと成長したのかね。中西だけはもうダメみたいだが。

 「………何よ?私だけ臆病風に吹かれて情けないって言いたいの!?」
 「別に?そうは言ってねーけど?つーか自分でそれ言うとか、自覚ありありじゃん」
 「く………っ」

 煽られた中西が俺に敵意含んだ目を向ける。俺もプレッシャーをのせた視線で睨み返す。そこに藤原が慌てて止めてくる。

 「こんな時に衝突しないの!」
 「突っかかってきたのは向こうなんだけど」

 俺と元クラスメイトどもとの溝はまだ埋まらないままだ。俺と、中西・堂丸・曽根・米田は対立するように距離をとっている。藤原と高園は俺の近くにいるけど。

 「連合国軍に所属している異世界召喚組のことはこれで良いな。亜人族も、引き続きハーベスタン王国と共に戦ってくれる意思を表明してくれた。残る案件は……カイダコウガ、君のことだ」

 一斉に俺に視線が降りかかる。

 「何のことだ?」
 「知っての通り戦況は良いとは言えない。報告によれば各戦場で討ち取った魔人族の数は計10人を超えている。そのうち二人が“序列”級だったと確認されている。それでも残存している魔人族の数はまだ30人を超えていると思われる。奴らを全て討ち取るには正直……今の連合国軍の戦力では厳しいと私は判断している。他にも災害レベルのモンストールもいるだろうからな」

 ああ……こいつらが何言おうとしているのかが、大体予想できた。ここに呼び出した理由は――

 「カイダコウガ、君に連合国軍の戦士として正式に加わって欲しい!そして君の仲間である鬼族にも、連合国軍に加わって欲しい!」


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