世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
203話「彼らは出会っていた」
あれは2ヵ月程前のことだったか。魔人族との決戦に向けて修行を積んでいた頃。アレンや竜人族の戦士たちからそれぞれの流派の武術を習得した俺は、修行の仕上げとしてこの世界を周る旅をしていた。瘴気が充満している地底や無人の島・洞窟、モンストールが棲息している危険地帯など主に踏み込んではいけないところを転々と移りながら武者修行の旅をしていた。
「む?お前は……?」
「こんなところに人?それにその恰好……侍?」
そんなある日、デルス大陸にある地下深くの洞窟にて、俺は袴衣装...昔の時代でよく見たであろう武士の格好をした男と遭遇した。武士みたいな服装に黒い髪、さらには肌の色もアジア人に近い。まるで日本人じゃねーか。
「ここは人が容易に入れるような場所ではないんだがなぁ。お前、相当の手練れだな」
「まあな。そういうあんたこそただ者じゃねーな。というか、武士の恰好だと?この世界で、俺たち異世界召喚された人間以外の奴が?」
得体の知れないこの男に躊躇なく「鑑定」で見破った。すると―――
「―――“ヤマタワタル”?日本名だと!?年齢...んだこりゃ。職業が侍...って、テメーまさか、俺と同じ日本から!?」
謎の男のステータスは驚愕せざるを得ない内容だった。そして俺の言葉に今度はヤマタという男が驚愕した。
「お前、俺の正体を...!?おいおいおい......マジかよ?」
お互いあまりの衝撃の出来事にしばし呆然とする。やがて俺から口を開いた。
「俺がテメーのステータスを見破ったのは、“鑑定”という固有技能のお陰だ。偽装してもこいつは全てを見破る。テメーにとっては予想外だったみたいだが」
「なるほどな......まさかこんな形で俺の正体がバレるとは。世界にはそんな固有技能もあったのか…。まあいい、こうなったらお前には全て明かそう。まず俺の名前だが、文字はこうだ」
腰に差してある刀―日本刀を抜いて壁に斬りかかる。そこには刀傷で書いた文字が刻まれてあった。
――八俣《やまた》 倭《わたる》。それがこの男の本名だ。
「俺がこの世界に来たのは、今から約110前といったところか。この大陸にあるラインハルツ王国の召喚魔術士たちによって呼び出された俺と、同じように召喚された仲間たちは、当時の魔人族たちとの戦争に身を投じた。当初の俺の見た目は今のお前と...救世団の彼らと近いくらいだった」
「あの異世界召喚は今の俺たちのが第二世代だってのは知っている。テメー……あんたのような“初代”異世界召喚組は皆もう寿命で死んだと思ってたけど……まさかこうしてまだ生きてる奴と会うなんて。しかも見たところまだ齢40半ばの見た目じゃねーか。しかもその時の年齢だって、見た目と一致しない年だ。あんたはいったい...?」
「……………そうか、お前も俺と同じ、日本から召喚された者だったか」
この男は言わば俺や藤原、高園たちの「先輩」だ。テメー呼びもお前呼びも失礼だな。まあタメ口で話させてもらうけど。で、八俣の言葉通りだとするなら彼の年齢は少なくとも100歳を超えていることになる。だが目の前にいる彼の見た目は年不相応に若い。若過ぎる。
なんせ彼の実年齢は170歳なのだ!特殊技能が関係しているというのなら納得がいく。ただしその固有技能については靄がかかっていて覗けない。
「“肉体全盛期化” これが若い状態でいられている理由だ。当時の異世界召喚には召喚された者たちにそれぞれ“特典”が与えられることになっていた。俺の場合がこの特殊技能だ。召喚される直前の俺は病で床に臥していた死にかけの爺だったからありがたかったが」
俺たちの時と違って八俣は死が近いジジイだった頃に異世界に召喚さたらしく、その際に若返り&病気完治という特典がついたということか。つーか、この手の展開って普通、俺たちみたいな学生か若い奴が召喚されるのがお約束だろうに、まさかのお爺ちゃんが異世界召喚されるとか、斬新過ぎるわ!!
「ん...?というよりあんたのその武器って“日本刀”だよな?それを持ってこの世界に来たってのか?いったい何時代の人間なんだ...?」
刀を見て気付いた。それは俺にしか造れない武器のはずだ。そういう固有技能があるなら納得いくが、まずそれはない。「武装化」系の技能はザイートのものだったからだ。奴以外であの技能を持つ生物はいないはずだ。その日本刀があるってことは、考えられるのは...こいつが元の世界から持ち込んだってことになる。
さっきの切れ味からして、本物であることに違いない。そんなものを現代の世界に持ち込めば銃刀法何やらで職質確定だ。ならばこいつは俺が生きていた時代の人間じゃない...?
「俺が元の世界…日の本で生きていた時代か?およそ...慶長10年だったか?戦がようやく一息ついて安らかに逝くかって時に、こんな世界に呼ばれたものだから、参ったよ当時は」
慶長...徳川将軍の時代!?まじかよそんな大昔の時代の人間だったのかよ!?元の世界とこの世界の時間って平行じゃなかったのか?
「全員、あんたと同じ時代から来た人間だったのか?」
「いや、全員ほとんど別の時代から呼ばれたそうだ。俺の時代から数百年後から、逆にさらに昔の時代からも来た者もいた。時系列がバラバラだったらしい。当時の召喚魔術はどこか不完全なところがあったそうだったからな。今の時代…ちょうどお前たちが召喚された際は同じ時空・同じ時代から呼び出せるくらいに進歩していたみたいだが」
バラバラ...邪馬台国時代、戦国時代、俺たちの時代の平成、さらにその先の時代など…色んな時系列から召喚したってことか。んで、俺たちの召喚については、時代は統一できたものの特典とかは特には...ってこともないか。俺には「逆境強化」なんてものがついてたし。
今にして考えると「逆境強化」は特殊過ぎる固有技能だよな。
「おそらくお前にだけ偶然特典がついていたのだろう。お前以外の異世界召喚組にも会っていたが、特典らしきものはもらっていなかったそうだ」
なるほど、「逆境強化」は特典だったのか。で、それと引き換えに初期能力値は元クラスメイトどもと違ってゴミ数値になってしまったと……。
「そして俺が今もこうして生きながらえているのは、特殊技能“細胞分裂遅延化”が理由だ。こいつも最初からついていた固有技能らしくてな。
名前の通り俺は老いるのが常人よりもはるかに遅い体質になった。100年以上経って共に戦ってきた仲間が寿命で死んでいく中、俺だけは元気に生きていた。言っておくが俺にもちゃんと寿命はあるし、致命傷くらえばちゃんと死ぬぞ。あと何年生きられるかは俺にも分からないが。
最初は何の使い物にもならない技能だったが、今はそうでもない。復活した魔人族から世界を守る戦いにまた身を投じることになったしな。まさか滅んだはずの敵とまた戦うことになるとは思わなかったが」
「………そうだったのか」
「ところでお前の名前をまだ聞いていなかったな。異世界から来た少年だってのは分かったが…」
「俺の名は甲斐田皇雅だ」
「………!そうか、お前があの時討伐した魔人族が言っていた……。ウィンダムとかいう少し狂った奴だったか」
「何だって!?奴を討伐したのか……!?」
ここで初めて魔人族ウィンダムが死んでいたということに気付いた。まさか八俣が討伐していたとは。
そこからも八俣から当時の戦争のこと、魔人族を退けた後のことを色々聞いた。
若返りや寿命延長など即興の戦には使えない技能しか授けられなかった為、他の異世界召喚組よりかなり劣っていて戦争ではあまり活躍できなかったこと。しかし年月が経つにつれて体力が衰えていく仲間たちとは反対に、自分だけが衰えるどころか技術・筋力・体力・魔力全てがますます強化されていったこと。仲間たちとのジェネレーションギャップに驚かされまくったこと。そして...次々いなくなってしまった仲間たちの最期を看取ってきたことなど。
懐かしんで、どこか偲ぶ気持ちが窺えた。俺もエルザレスやザイートの話を振ると通じたので、話に興が乗った。しばらく話し込んだところで、俺も八俣も真剣な話に入った。
「何で、自分が異世界召喚されたことを、偽名を使ってまで隠してたんだ?」
「俺は...別に名声の為に戦ってるわけじゃなかったからな。世界全体が魔人族のことを伏せると決めたと同時に、俺たち異世界召喚組のことも伏せることにした......俺たち全員の意思の下で、だ。あんな忌まわしい凄惨な歴史は子どもたちには伝えたくなかったと、当時の大人たちはそう考えていたそうだ。俺はそいつらの意思を汲んで、今日まで自分の素性を隠してきた。例外としてラインハルツの代々の国王様には俺の素性は明かしているが」
そんな事情があったとは...。そんなに大昔の魔人族は過激だったのかよ。まぁザイートやウィンダムみたいな奴がいるくらいだから納得できる。
「仲間を看取ったと言ったが、当時の魔人族をいったん討ち滅ぼしたあんたらは、元の世界に帰ろうとはしなかったのか?」
「元の世界...日本に帰る転移魔術は当時はまだ完成されていなかった。それ以前にバラバラの時代から来た俺たちがそれぞれの場所へ帰るとなると、そこから数十年以上の時間を要しなければ、帰る為の魔術は完成しないと言われた。まぁ俺を含む異世界召喚組全員は、この世界に残る意思があったから特に気にならなかったが」
俺からもいいかと、今度は八俣が話を振ってきた。
「お前は元の世界に、日本に帰りたいのか?」
「ああ。あっちにはやり残していることが腐る程ある。あっちでの未来で生きていたいんだ。サント王国に転移魔術の完成をやっと約束させたところなんだ。あとはその完成を待つだけ。それを邪魔しようとする魔人族は、俺の敵だ。奴らがこの先世界を滅ぼそうってんなら、俺が皆殺しにする」
八俣にそう決意表明をする。
「言葉は物騒だがお前の意思・言いたいことは伝わった。お前も魔人族を討とうと思っている仲、そう思って良さそうだな」
八俣は小さく笑うとまた真剣な顔をする。
「魔人族は俺の想像をはるかに上回る強化を遂げている。お前が弱らせたウィンダムとやらにすら苦戦した俺だ。しかも奴より強い個体はまだ多くいる。この先の魔人族との戦いは……俺たちが召喚された時代の頃以上の難易度になりそうだ」
「難易度か…。負ける気は毛頭無いみたいだな」
「ああ。連合国軍が勝つさ。もっとも、俺が生き残っているかどうかはまた別の話だがな」
「あんた、まさか………」
八俣は短く笑ってその続きを話す。
それが終わると八俣は刀を抜いて見せる。
「ここに来たのは修行目的なのだろう?せっかく来たんだ、ここでみっちり鍛えていくといい、《《後輩》》」
「もちろんそのつもりだ。今日は少し修行の相手をしてもらうぜ、《《先輩》》」
俺たちは笑い合った後、修行を始めた。それにしても八俣倭………彼も俺と同じ、とんでもないチート主人公キャラだ。いずれは「序列」持ちクラスの魔人族をも討ちとることもあり得る。
ヤマタワタル 170才 人族 レベル529
職業 侍
体力 103000
攻撃 310500
防御 50600
魔力 36000
魔防 53000
速さ 99900
固有技能 全言語翻訳可能 瞬神速 斬術皆伝 二刀流斬術皆伝 怪力 見切り 気配感知(+索敵) 雷電魔法レベルⅩ 光魔法レベルⅩ 嵐魔法レベルⅩ
限定超強化
*強化発動時、能力値100倍以上上昇
*特殊技能 細胞分裂遅延化
彼も俺と同じ、魔人族を滅ぼし得る切り札となるだろう―――
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