世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

197話「盤面をひっくり返してやる」



 「コウガ、さん………?」
 「ああ、皇雅だ」
 「甲斐田君………!」

 現在地はアルマー大陸にある旧ドラグニア領地とよばれている領地の近くにある戦場。その中心地にて魔人族によって絶体絶命に晒されていたクィンのもとに、俺は登場した。
 薄い緑色の髪の切れ目をした魔人族が風の刃をクィンに振り下ろそうとしたところに、俺が割り込んで刃を受け止め、彼女を抱えて後方へ跳んだ。

 「私の魔法攻撃を平然と受け止め、しかも平気でいるだと!?」

 魔人族が俺のムーブに驚愕する中、俺はクィンを他の兵士に預ける。魔人族の方を見ようとしたところに藤原に話かけられる。

 「来て、くれたんだ………また会えて嬉しいわ」
 「まあな。俺たちのところにも魔人族がちょっかいかけてきて喧嘩売られたからな。俺はその喧嘩を買ったまでだけど。それにかつて共に旅してきた仲間たちがピンチになってたら、やっぱ助けようと思って」
 「くす………あんまり素直じゃないわね。でも、本当に助かったわ。ありがとう」

 藤原は嬉しそうに笑うものの明らかに満身創痍だ。クィンも剣を持つことすら難しそうだ。二人とも戦うのはもう無理そうだな。ましてや魔人族が相手となると、な。
 で、敵の数は……目の前にいる魔人族が一人、モンストールが近くに数百、魔物も百を超える数。対する連合国軍側は敵の数の倍はあるが、戦力差としては大して変わらない、下手すればこのまま強引に突破されるかもな。

 「というわけで、ここからは俺が一掃してやるよ、敵全部をな」

 拳を打ち鳴らして俺がそう宣言する。

 「一掃する?そう言ったのか?人族のガキが」

 魔人族が指を鳴らすと後ろからモンストールと魔物の大群が現れる。ここを一気に潰すつもりなのだろう。その光景を目にした藤原たちが恐れのあまり息を吞む。

 「ああ、一斉に連れてくれたのか。むしろ好都合だ。新技を試すのにちょうどいい!」
 「ほざけ、ガキが!力と数の暴力で潰されろ!!」

 魔人族が叫ぶと同時に敵軍が一斉に襲い掛かる。対する俺は、全身から闇色の触手(その先端は禍々しい化け物の口腔を形づくっている)を無数に発生させて、迫りくるモンストール・魔物ども全てにぶつけた―――

 オリジナル魔法攻撃 “悪食《あくじき》”

 それは、敵にも恐らく味方にも恐ろしい光景に見えただろう。触手に触れたモンストールと魔物は皆、無惨に喰い荒らされていき、瞬く間にただの肉塊と化していったのだから。

 「あ、あれは魔法攻撃なの、ですか……?」
 「たくさんいた敵が、あっという間に……!」

 後ろにいるクィンと藤原は呆然とした様子でこの大量殺戮の様を見ている。他の兵士たちもドン引きした様子だ。

 「なん………だ、と!?」

 魔人族だけは触手から逃れたものの、味方が一瞬で全滅したことに激しく動揺していた。
 俺が新たにつくりだしたオリジナル魔法攻撃「悪食」。俺の固有技能である「過剰略奪《オーバードーズ》」を暗黒魔法に組み込んだものだ。
 この技はギルスとキシリトとソーンの「吸血侵食」を参考にしてつくったものだ。あの触手に捕まった奴から「過剰略奪」……「捕食」をする。経験値と固有技能を奪った後、絶命させる大技だ。

 「さてと、後は魔人族のテメーだけだな」
 「そんな…っ、まさか……!き、貴様はザイート様が警戒していたイレギュラーの……!?」

 「限定進化」を発動した魔人族だがその顔は焦燥に満ちている。隙だらけだったので急接近して、一気に決めさせてもらう。

 「急いでるんで、さっさと消えてもらう―――」

 脳のリミッター1000%解除

 ドッッッ 「あ”………ぞん、な―――」

 脳のリミッターをある程度解除した状態で本気のパンチを打ち込んで、魔人族をワンパンで仕留めてみせた。半年間本気で修行した今の俺は、魔人族だって余裕で倒せる!!
 俺が参戦して僅か数分で、魔人族軍はほぼ壊滅した。災害レベルのモンストールと魔物、魔人族を討伐したことを知った連合国軍は大いに歓喜し、活力が湧いた。これならまだ残っている敵の一掃は彼らに任せて大丈夫だろう。俺の役目もこれで終わり、と。

 「じゃあ、“次”行くか」
 「次……ですか?まさかコウガさん、他の戦場地に!?」

 クィンは察し良く俺の意図を当ててみせる。俺はその通りと返しながら懐から青い結晶を取り出す。

 「オリジナルアイテム“瞬間テレポート”。これを使えば一度行ったことのある国や村、町なんかに瞬時に移動できる。行きたいところを念じればそこへ行くことができるんだ」
 「そ、そんな凄いアイテムをいつの間に!?」

 驚愕する藤原だが、彼女の疑問にあまり答えてやれる時間は無さそうだ。因みにこのアイテムは「瞬神速」を「技能具現化」で創り出したものだ。失った「瞬神速」は修行してたらまた発現したので損無しだ。

 「じゃあ、他のところに行ってくれるのね。
 お願い甲斐田君、サント王国にいる縁佳ちゃんたちを助けてあげて!私たちと同じ目に遭っていたら、私……!」
 「私からもお願いします!おじい様………ガビル国王様を、護って下さい!」

 二人は切実な顔で縋るように俺に懇願してくる。必死な二人の様子に俺は短くああと応える。

 「大丈夫。絶体絶命のこの盤面を、俺がひっくり返してやるよ」

 そう言ってから結晶に次の行き先を念じて、彼女たちの前から姿を消して―――



 「さあ、お次はここだ!」

 サント王国付近の戦場地へと瞬間移動した。

 「か……甲斐田君!?」
 「よう、高園か。だいぶボロボロだな」
 「え!?甲斐田!?」

 近くに高園と、彼女を支えている曽根美紀がいた。さらにその後方にはこの国の王かつ連合国軍総大将でもあるガビルもいた。

 「………!?」

 そして前方にはかなり強そうな灰色髪の女魔人族がいた。

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