世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

196話「絶体絶命の連合国軍・魔族軍」



 旧ドラグニア領地―――


 「う…………くっ」
 「ミワ、これ以上はあなたが……!」

 魔力の底が尽きかけて疲弊した美羽の体をクィンが支える。その間にも片腕で上位レベルのモンストールを斬り伏せていく。

 「ごめん、なさいクィン……私はまだ、たたかえ――」
 「そんな状態でよくそんな言葉が……!すみません、ミワを下がらせて下さい!」

 近くにいた兵士に美羽を預けて下がらせると、クィンは「魔法剣」を振るって敵を連続で斬り伏す。しかし彼女の「魔法剣」を難無く破ってくる者がいた。

 「やはりリュドル様を討ち取ったというのはまぐれだったようだな。こんなレベルの攻撃しか撃てないとは」

 薄い緑色の髪の切れ目をした魔人族が、クィンに殺意を抱きながら両手に魔力を溜める。下位レベル・上位レベルの敵勢はどうにか討伐して退けたものの、目の前にいる魔人族や災害レベルの敵勢相手に大苦戦を強いられている連合国軍。特に魔人族に対しては、軍の要となっているクィンですらもどうしようもなくなっていた。

 (私、一人では…………魔人族はまだ……)

 その後も抗戦するも、クィンは魔人族に一方的に甚振られてしまい瀕死寸前まで追いつめられる。体の至る所から血を流し、数か所の骨にひびあるいは折れてしまっている。

 「はぁ………っく……!」
 「魔人族を滅ぼせると思ったか、愚劣な人族が、滅びるのはお前たちだ……!」

 風の魔力でつくった刃を手に、クィンに近づく。止めを刺すつもりだ。


 「だ………め!クィン、が……!」

 後方へ下げさせられていた美羽は、大ピンチに陥ったクィンを見ると兵士たちを押しのけて魔人族から彼女を助けようとする。しかし足に力が入らず走ることすら出来ない。

 (クィンが……兵士たちが……みんな、が…!助け、ないと!これ以上仲間が死ぬのなんて……っ)

 体を引きずって目に涙を溜めた美羽は、必死に魔力を熾す。しかし非情にも魔人族はクィンに止めを刺そうとしていた―――



 サント王国―――


 「ぬ………ぐお……っ」
 「国王様!?これ以上戦ったら死んでしまいます!撤退して下さい!!」

 胸部分を負傷して傷口を押さえながら、ガビル国王は膝を地に着いて苦しそうに呻く。手から「魔法剣」を放してしまいもはや戦いどころではない。そんな彼を護るべく曽根が巨大な盾を構えるが、彼女も傷を負っていて、魔力と体力も多く消費していて平気ではない。。

 「あははははは!のこのこ戦場にやってきた総大将をみすみす逃がすと思って?まあ私が直接手を下さずとも時間が経てば死んでくれそうだけど」

 漆黒の翼を羽ばたかせながらジースは余裕に笑ってみせる。彼女の体を強靭な帯状の翼が纏い、周囲には数百もの黒い羽が刃のように飛び交っている。

 「国王様もクラスメイトも、死なせない……!」

 “超電磁弾《レール・ピアス》”

 ジースの死角から縁佳が超濃縮・縮小した雷の弾丸を放つ。しかし周りにある黒い羽が幾条にも束ね重なることで、狙撃を防いだ。

 「死角から狙撃しても無駄よ。この羽が私の意思とは関係無しに私を守ってくれる」

 ドンと駆け出して縁佳に迫ろうとするジースに、縁佳は続いて弓矢による狙撃をする。

 “穿雷矢《せんらいし》”

 ジャイロ回転がかかった雷の矢をジースの眉間目がけて放つ。しかしこれもジース本人に真正面から破られる。

 「……!!」
 「私は“序列”を持つ魔人族、それも“限定進化”も発動している。分かる?何の固有技能かは知らないけどある程度強化したお前たちが束になろうと、この私の前には全てが無意味ってこと!」

 ゴッ、ドッッッ 「――か、はぁ……っ」

 帯状の黒い翼を纏ったジースの魔人族武術による掌底打ちを腹にくらった縁佳が後方に吹き飛ばされ、倒れたきり起き上がれなくなる。

 「脆いわね。自慢の狙撃ももう出来ないんじゃないかしら」

 優越感に浸ったジースが縁佳に止めを刺そうとしたところに、堂丸と米田の召喚獣が立ち塞がる。

 「高園をやらせるかっての!!」
 「……………!」

 立ち塞がったものの二人とも顔を青くさせている。

 (これが……“序列”を持った魔人族の力………。まだこんなに、差があるなんて……)

 曽根に支えられながら縁佳は立ち上がるが、彼女の戦意は折れそうになっていた。




サラマンドラ王国―――


 魔人剣術奥義 “鏖魔《おうま》”

 魔人族ヴェルドが自身の魔力を全力解放した状態で、最強の魔剣術を繰り出した。
 それは稲妻のような斬撃。それは触れれば切断していく旋嵐のような斬撃。それは斬ったそばから焼き尽くしていく業火の斬撃。
 しかしそれらの斬撃の色は全て、何もかもを呑み込んで消し去る闇であった...。

 ―――
 ――――
 ―――――


 百数名いた竜の戦士たちは、ヴェルドの魔剣の数撃で瞬く間に全員斬り伏せられて全滅した。地面は深く抉れて爆ぜており、斬り痕や焦げ痕がいくつも見られる。戦士たちはほぼ斬り殺されてしまい、誰も立ち上がれる者はいないくなった。
 ヴェルドの剣術の余波をくらったエルザレスとカブリアスも無事ではなかった。二人とも体中に深めの裂傷を負いズタズタの状態だ。彼らじゃなければ恐らくその余波だけでも死んでいただろう。
 
 「ハァ、ハァ………ッ。この奥義は体力と魔力を、それなりに消費する…。この奥義をくらって生き残ったお前たちも大したもの、だ……。だがを虫の息だな。もはや勝敗は決したも同然、だ……クク」
 
 肩で息をしてかなり疲弊した様子を見せながらも悪辣な笑みを浮かべたヴェルドは、剣を肩に乗せてエルザレスのもとへ向かう。
 
 「ごほ...ッ!くそ、体力が...」

 ヴェルドに負わせられ続けたダメージと最強魔法の連発による魔力の枯渇で、進化が解けて元の姿に戻ってしまったエルザレスは、立つのもやっとの状態だ。

 「させ、るか...ッ」

 同じく重傷を負っているカブリアスがエルザレスを守ろうと蛇竜の尾を武器に攻撃を仕掛けるも、魔剣で斬り落とされ重力魔法で地に落とされてさらにダメージを負う。

 「く......ぉお」

 さらに魔剣で斬られて壊されていく。カブリアスも進化が解けて人型に戻ってしまう。いつ死んでもおかしくないレベルの傷を負っているが、強い生命力でどうにか命を繋いでいる。

 「......お前たちは戦士“序列2位”であるこの俺を相手によく戦った。エルザレスだったな、流石はかつて父上やネルギガルドと互角に戦っただけはある。だが、時代は変わった。俺たち魔人族こそが、最強の種族だ...!!」

 重力魔法で縛っているカブリアスに近づき、その頭に手を向ける。そこから魔力が凝縮されていき「魔力光線」を放とうとしている。

 「まずはこの男だ。お前はその後に殺してやろう......終わりだ」
 「くそ、ヴェルド......ッ!!」
 「ここ、までか―――――」




 オリバー大陸―――


 「ケッ!ちょっと本気出したらすぐダメになりやがった。亜人族最強を誇る連中もこの程度か、つまらん...。
 終わりみてぇだからこの形態になる必要もねェよな...。そろそろ“ブチ切れる”のを止めよう.........かしら、ね☆」

 戦場の至る所に亜人族の精鋭戦士たちやハーベスタン王国の兵士たちの屍が転がっている。魔人族ネルギガルド一人によってつくられた惨状だ。

 「ぐ………ご、ぽっっ」
 「……!………!!」

 ダンクとディウルもその例外に漏れず、まだ生きているものの立ち上がる力さえほとんど残っていなかった。
 全身血まみれで体のあちこちが潰れて、死の淵に落ちてしまったディウルとダンクを見下しながら、「元の姿」と口調へと戻したネルギガルドはつまらなそうに愚痴をこぼし始める。

 「あ~あ。つまんな~~い!まあいいわ、そろそろどっちかの国でも滅ぼしに行こうかしら」

 全滅した亜人戦士や連合国軍兵士たちを一瞥してからネルギガルドは可笑しそうに嗤う。こうした残酷性こそが魔人族たらしめると、生き残った者たちは心底恐れ、絶望する。

 「ぐ......民には、手を出す、な......!俺、が許さん......っ」
 
 どうにか意識を繋いでいたディウルは、声を絞り出して嘆願に近い警告を告げる。

 「あらまだ生きてたの?馬鹿ねぇ......自分の国を守れない弱い王が、そんな言葉聞くと思ってるの?ザイート様の命で、パルケ王国もハーベスタン王国も滅ぼすわね☆」
 
 ネルギガルドの無慈悲な返事にディウルはただ止めろとしか言えないでいた。

 「―――どっちにも、貴様は断じて行かせんっっっ」

 ビュオオオ!!

 どうにか起き上がったダンクがノーモーションで渾身の一太刀をネルギガルドの胴体にくらわせようとする。

 ガッッ、

 「斬れ、ない……!?」
 「ふん、もう剣を硬化させることすらできてないじゃない。あっさり止められちゃったわよぉ!」

 ドスッ「―――ぎあ”......っ」

 最後の力を振り絞って放った一太刀も虚しく通用せず、ネルギガルドは止めとして爪先蹴りをダンクの胴体に突き刺した。

 「ダ……ダンク、ダンク……………ッ」

 腹を貫かれて力無く倒れるダンクを、ディウルは悲痛さを孕んだ声で何度も呼び掛ける。

 「さ、次は国王のアナタを葬ろうかしら☆」

 続いてネルギガルドはディウルを殺すべく無慈悲に拳を振るおうとする―――




 ラインハルツ王国―――


 「ぐ………ちく、しょおお―――」

 ズパ………ッ

 魔人族が何か恨み言を吐く前に、その体が両断されて絶命した。

 「―――――っはぁあ~~~~~」

 兵士団ラインハートは返り血がついた剣を振って血を弾き飛ばす。残心をとった後に、どっと疲れが押し寄せてきて明らかに疲弊した様子を見せる。そして体のあちこちから血を流してしまう。

 「ラインハート……!!」

 今にも倒れそうなラインハートのところにマリスが心配を孕んだ声を出して駆けつける。

 「………マリス、か。傷はもう大丈夫そうだな」
 「ええ。それより今はあなたの容態が優先よ!傷も体力も相当だけど、その……!」

 何よりも生命体力が……とは最後まで言わなかったマリス。彼女の後ろにも兵士たちが大勢いたからだ。彼らもラインハートを心配そうに見つめている。

 「魔人族軍は、もう全滅したか?」
 「ええ。あなたがさっき斬った魔人族が最後の主戦力だったわ。兵士や冒険者たちが残りの下位レベルの敵を一掃している。もう勝ったも同然よ」
 「そうか……。なら俺はもう休んでいいな。すまんが誰か体を預けて、くれ………」

 それだけ言い残すとラインハートは意識を手放した。大柄の兵士が彼を介抱してすぐさま治療院へ運んで行った。その傍らで、マリスは何かを感知したのを感じた。

 「マリスさん?どうかなさいましたか」

 一人の兵士が、海の遠くを見つめているマリスに問いかける。

 「…………気のせいかしら。何か、とてつもない存在が海を渡って行ったような――」


                  *

 各戦場はラインハルツ王国と鬼族の仮里を除く全てが絶体絶命に陥っていた。どの戦場地も魔人族による滅亡がもたらされようとしていた。
 美羽もクィンも縁佳もガビルもクラスメイトたちも竜人族も亜人族も、誰もが絶望し、死の淵に追いやられようとしていた………。





 しかし、そんな絶体絶命の状況を、ひっくり返す事態が起こる。
 
 それを為す者は―――


                  *

 「死ね、女兵士」

 薄い緑色の髪の切れ目をした魔人族がクィンに 風の刃を振り下ろそうとしたその時―――

 ガキィン!!
 
 「……………!?」
 「な、にぃ……!?」

 武装硬化させた腕でその刃を止めてみせる。



 「―――というわけで。俺、参上!!
 ってな」

 俺こと甲斐田皇雅、戦場に参戦!!

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