世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

195話「精霊の加護を持つ戦士たち」



 竜人族が滅亡の危機に晒されている一方、オリバー大陸で徹底抗戦を続けているハーベスタン・パルケの同盟軍も、窮地に陥りつつあった。

 大戦の序盤は同盟軍が優勢に立っていた。ハーベスタン王国の兵士団と亜人族の「序列」戦士たちが災害レベルの敵を半数以上討滅したことで全兵士と戦士の士気が急増して、上位・下位レベルの敵をも一気に討滅していった。

 しかし敵の数が半数以下になったところで、流れが一変した。


 「くそぉ!?これが魔人族...?ふざけてる!こんな化け物勝て―――ぺげッ」
 「あらァん?ごめんね~?これでもすぐ死んでしまうのね?亜人族も大したことないわね~☆」

 戦意を挫かれて弱音を吐いた亜人の戦士を軽い気持ちで容赦無く殴り潰した巨漢の魔人……魔人族戦士「序列5位」のネルギガルド。彼が出現して侵攻したことで、同盟軍に壊滅的な損害が発生した。
 ネルギガルドの前に立ち塞がった兵士や戦士、冒険者は皆、物言わぬ屍と化してしまっていく。同盟軍にとってはあまりにも理不尽過ぎる力をネルギガルドは面白そうに振るって蹂躙していく。
 彼が拳を振るう度に数十の兵士・戦士が破裂して消えて、蹴りを放つ度にさらに数十の兵が胴体や首を両断されて屍と化していく。
 ある者は隙を見せた魔人に全力の一撃を入れるも、

 「!?馬鹿な......刃が通らな―――ぁげらッ」
 「そぉんなちんけな斬撃じゃあアタシに傷を入れるのは無理よ~!ヴェルド様並みの剣の腕じゃないとアタシは斬れないわ~」

 どんな斬撃も、砲撃も、武術も、ネルギガルドの肉体に傷を入れることは叶わなかった。彼の無尽蔵の体力と鋼を凌駕する物理面の防御力は、どんな攻撃をも拒絶してみせる。亜人族たちにとって理不尽と言える耐久力を誇っている。
 ある者は「ならば魔法攻撃でどうだ」と、最大火力で魔法攻撃を放つも、

 “魔人拳”

 「が.........っ!!」
 「そ、んな......拳圧で魔術を吹き飛ばした...!?あいつの魔法攻撃の腕は国内上位なのに...っ!!」

 ネルギガルドの拳は、魔法攻撃をもかき消す威力を持つ。彼の魔防は魔人族の中では低い方ではあるが、それを十分に補えるほどの物理攻撃力で補填出来ている。さらに彼は魔人族戦士の中では古株で、戦闘経験が豊富だ。理不尽レベルで高いステータスと百数年生きてきた中で得た膨大な戦闘経験と知識を持つネルギガルドに、数十年生きた程度の人族や亜人族が敵う道理など無きに等しかった。

 「下がれ勇敢な兵士・冒険者たちよ!!この魔人族相手するには“限定進化”を発動できる者たちが相応しい!!この魔人族は私たちが討つ!!」

 「限定進化」を発動したことで炎の化身を思わせる姿へと進化したディウルが前に出て仲間たちを庇いつつネルギガルドに炎熱魔法を撃って対抗する。
 
 “炎鎚《ほむらづち》”

 ネルギガルドの頭上から炎の巨大な鎚が降ってくる。ネルギガルドは咄嗟に振り向いてそれを受け止める。

 「っ、あづううううううう―――」
 
 受け止めた直後、鎚に纏っている炎が膨張してネルギガルドの全身を包む。その炎は苛烈にネルギガルドを燃やし尽くそうとする。

 「“炎鎚”からの“煉獄《れんごく》”。これをくらって残った敵は今まではいなかった。災害レベルの敵も同じことだ…!」

 「限定進化」したディウルは炎を魔力を消費することなく身に宿し続けることが出来て、その炎熱魔法の威力と精度も世界トップを誇る。

 「~~~~~づあつぅい!!クロックちゃんの炎に迫る威力だったわね。両腕に火傷負っちゃったわぁ!」

 炎熱の渦から逃れたネルギガルドは負傷しているものの体力を削った様子は見られない。その彼の真横から、雷の化身の姿と化したアンスリールが強襲する。
 
 “雷散拳《らいさんけん》”

 アンスリールの拳がネルギガルドを捉え撃ち抜く。その攻撃範囲はネルギガルドだけに終わらず、彼の後ろや周りにいたモンストールと魔物にも雷閃が被弾した。
常に雷を体内に宿すことが出来るアンスリールは、「限定進化」することでディウルの炎のように常に雷を身に纏わせることが出来るようになった。その雷は災害レベルの敵を屠る武器にもなり猛撃を防ぐ鎧にもなる。

 「―――っう!魔法攻撃を纏った拳で殴るなんて、考えたわねー?うっかりくらっちゃったけど......もうアナタの攻撃は、くらわないわ~」
 「言ってろ......“雷爆《らいばく》”」

 余裕を見せるネルギガルドに、両手から発生させた光球を投げつける。しかし光球が当たる寸前ネルギガルドはそれらを回避して姿を消す。
 回避された光球はその場で大爆発を起こす。雷を孕んだ爆撃はネルギガルドにダメージを与えることは叶わなかったが、周囲にいた魔物やモンストールたちを殲滅させることには貢献した。

 「至近距離で放ったあの光球を躱しただと...!?」
 
 多くの敵を屠ることに成功したアンスリールだが、肝心のネルギガルドにかすりもしなかった事実によってその顔を焦燥に歪める。

 「クロックちゃん程の速さはないけど~あの程度の速度の攻撃なら躱すのは簡単よ。まぁ今のはくらったらけっこう痛かったかもねー」
 「――っ、ぐぉ......っ!!」

 アンスリールの真上から声がしたと認識した直後、彼は理不尽な力をモロにくらった。

 「あ”......がっ」
 「ちょおっと本気で殴ったけど、その辺の雑魚よりは頑丈ね?まぁ意識がとんでるみたいだけど」

 拳を突き出した状態のままネルギガルドは、吹っ飛ばされて痙攣を起こしているアンスリールを嗤いながらそう言う。さらにその殺人レベルの拳撃をぶつけようとしたところに、2mはある大剣がその拳を止めてみせた。

 「こいつは絶対に殺させない……!!」
 「あらぁン?」

 背丈や筋肉量がネルギガルドよりも大きく(多く)なったダンクが険しい顔で大剣を振るって反撃する。その間に部下たちにアンスリールを下げさせて治療させる。

 「その尋常じゃないくらい発達した体……なるほど、アナタは“大地の精霊”を宿している超人種ね?パワーは……今のアタシにも迫るレベルだわ」
 「詳しいな?ならば大地の化身となった俺の力、とくと味わえ―――!!」

 病に蝕まれていたダンクは「限定進化」の全力を引き出しきることが出来ず、不完全な状態にしかなれなかった。完治した今は、昔のように完全体の進化形態へと成った。
 大地の精霊の加護は身体能力を限界以上のレベルまで高める力を持つ。今はその完全な加護を受けることが出来たダンクの力は、魔人族と並ぶものとなっている。

 亜人族剣術――

 巨大な大剣を片手で楽々と振り回すダンクの、洗練された剣術がネルギガルドの体を斬り刻んでいく。血を咲かせていくネルギガルドの様子を見た仲間たちが活気づく。理不尽な化け物と思われた魔人族がダンクに押され始めていることが彼らに希望をもたらした。

 「いっでえええ!!なんて斬れ味!?あれはオリハルコンの剣ね……!」

 ここにきて警戒心を動かしたネルギガルドは両腕両脚に鋼の鎧を纏わせる。武装したネルギガルドに対しダンクはここで全力を放つことを決意する。彼が本気を出す前に決着をつける心づもりだ。

 (義兄殿――)
 (ああ、いくぞ!!)

 隣に立ったディウルはダンクの意図を瞬時に読み取り、魔力を全力で熾して己が放てる最強の炎熱魔法を放つ――

 “焔殲槍《フレアランス》”

 右腕を後ろへ大きく弓のように引いて、亜音速で前方へ放つ。最大級の魔力と炎が混じったその槍は、一撃でSランクモンストールをも屠るとされる。迷わず真っすぐに、標的を射殺さんとばかりに、確かな殺意を込めて向かっていく槍はやがてネルギガルドを捉える。

 亜人族剣術奥義――

 ディウルが炎熱魔法を放とうとした直前、ダンクも自身が持つ最大の一撃を放つべく駆け出していた。彼の全魔力をオリハルコンの大剣に注ぎ込み、超巨大な大剣を生成させる。そしてダンク自身も大地の精霊の加護をさらに引き出して体をネルギガルド以上にまで巨大化させる。

 “天巌《てんげん》”

 超巨大な大剣を、目にも止まらぬ速度で振り下ろす――
 ディウルの最強炎熱魔法とダンクの最強一太刀が、ネルギガルドに同時に放たれる――

 「へぇ~~~そうくるんだぁ?じゃあアタシも本気だしちゃうわね☆

 調子に乗ってんじゃねーぞ、ゴミクズどもが……ッ」

 ネルギガルドの口調が変わると同時に、彼の存在感が禍々しく膨れ上がった―――

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