世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

194話「天の龍と地の竜vs悪魔」



 戦いが始まってから二人がすぐに「限定進化」を発動しなかった理由は、それらの力があまりにも強大過ぎるからだ。仲間を巻き込むことはもちろん、二人のうち一人でもその力を行使すると、国を半壊させてしまうとされている。
 故に二人は序盤は人型のままで持てる力を出すことに専念していた。
 しかし今は近くに守るべき者たちはいないことから、こうして自身にかけていた枷を外して、内なる力を全て解放した。

 3人が進化した直後、激しい雷雨が降り始めた。それを引き起こしたのは、白き蛇龍と化したカブリアスだ。進化した彼は天候をも武器とすることができる。水を操って大雨を、雷を操って激しい雷を、風を操って嵐を全て意のままに発生させることが出来る。


 「親父、心配すんな?誤爆なんて間抜けはしないから、あの魔人を殺すことだけ集中してな」
 「ふん。俺のお前への信頼度を舐めるな。言われなくても全く気にしてねーさ」

 空に浮いているカブリアスの言葉に、地に君臨する赤き蛇竜と化したエルザレスは軽口で返す。

 「天の龍と地の竜、か。面白い組み合わせだな...」

 そして三人目の進化を遂げた男の姿は...お伽噺にでも出てきそうな「悪魔」そのものだった。頭には純黒の角、背には闇色の翼、そして赤い瞳を湛えた魔人...ヴェルドは二人の姿を見て興味深そうに呟く。

 「見世物じゃねーぞ悪魔が......“竜の嵐息吹ドラゴブレス”」

 空間が歪んで見える錯覚を見せる程のオーラを放つヴェルドに怯むことなくエルザレスが嵐を凝縮したブレスを放つ。くらえばズタズタになるか破裂して消えるかの威力を誇る必殺のブレスを、

 「ちゃんと見かけ倒しではないようだな。威力がさっきと桁違いだ」

 “魔王刃”

 難無く魔剣で両断してみせた。

 「あっさり防いでおいてよく言うぜ」

 ブレスが破られたことに動揺することなくエルザレスは接近攻撃を仕掛ける。超凝縮されている筋肉質の腕を音速で振るって魔力を纏った爪裂き(クロー)を放つ。

 “天裂《あまさ》き”

 空間を削り取るか如くのクロー攻撃に対しヴェルドは魔法を放って対抗する。

 “雷矛《らいほこ》”
 
 エルザレスの爪をバリバリと音を立てて青黒い雷の矛が止める。 

 「おおおおおおおおお!!」

 一撃では終わらずエルザレスは何度もクロー攻撃を敢行する。ヴェルドも至近距離系の魔法と錬成した魔剣で応戦する。

 「接近戦は相変わらず得意か」
 「武術の腕は俺がいちばんだ......“九頭龍武撃《くずりゅうぶげき》”」

 爪を解除したエルザレスはさらに超音速で拳と蹴りを次々に放つ。その一挙手一投足は、まるで龍が飛んでくるよう。

 「お前は武を極めたのかもしれないが、俺は剣術を極めている」

 “悪魔の剣乱舞《けんらんぶ》”

 エルザレスが放つ超音速の武撃に対し、ヴェルドも同じ速さの剣撃で抗戦...否、躱してその際にエルザレスに数太刀を浴びせている。

 「何て......剣速だ...!」
 「身体能力の違いだ......死ね――」

 “白竜の巨雷トールサンダー

 ヴェルドが神速の一太刀を浴びせようとしたその時、青白い巨大な落雷が彼を襲った。カブリアスの魔法だ。


 「粉々になれ。“嵐竜の氾濫獄渦ドラゴ・テンペスト”」
 「おまけだ―――“終焉齎す地変ランド・ディザスター”」


 落雷をくらって硬直したヴェルドにさらにカブリアスが国一つを破壊する規模の魔法攻撃を放つ。激しく吹き荒れる嵐と氾濫している水でできた渦を発生させてヴェルドを閉じ込める。この渦に閉じ込めらた生物は、たとえ災害レベルであろうと全身がバラバラに引き千切ぎられてただの肉片と化すと言われている大災害の渦は、激しくうねりを立てながら獲物を蹂躙していく。
 さらにエルザレスの最強の大地魔法が下から襲い掛かる。大地が剣山のように変形してまるで意思を持ったかのように一斉にヴェルドを襲った。
 二人のこの合わせ技は...恐らく序列下位の魔人族をも滅ぼすとされる威力であろう。
 

 “無に帰す黒闇ブラック・エンド

 ボシュウウウウウウウ.........ッ

 そんな世界最強規模の二つの魔法は、たった一人の暗黒魔法によって消されてしまった...。

 「...!?」
 「魔人族戦士“序列2位”......これ程までのレベルとは...」

 カブリアスもエルザレスも、こればかりには動揺を隠せずにはいられなかった。同時にやや息も切らせている。お互いに全力で魔力を込めて放ったのだから当然である。
 
 「お前らの魔法が、それらを遥かに上回る俺の魔法に敵う道理は無い
 ………!?」
 
 赤い瞳をぎらつかせながら冷たく言い放つヴェルドを二人は冷や汗を流しながら睨む。そんなヴェルドの様子が一変する。


 (―――!“序列”級の同胞の戦気が、二つ消えただと?
 クロックとリュドル…。確かラインハルツ王国と旧ドラグニア領地へ向かったはずだが、奴らを討てるだけの力を持つ人族がいるというのか!?
 まさか、例の屍族もどきのガキがどちらかを……!?)

 一方ヴェルドが何故突然別の方向を見て動揺しているのか分からないでいるカブリアスは、この隙を突くべく急接近して竜の牙でヴェルドの肩を抉った。

 「ギャシャアアアアアアア!!」
 「――!ぐ...う...!!」

 ヴェルドは数十m程距離を取って体勢を立て直して臨戦態勢に入る。

 「らしくないな?一瞬とはいえああいう隙を見せるとは」
 「......ふん」

 カブリアスの言う通りだと内心で自身を叱咤してから、両手を両翼から「魔力光線」を放つ。エルザレスとカブリアスも同じく「魔力光線」で応戦する。
 光線の撃ち合いが続く中、互いに覚悟を決めたエルザレスとカブリアスは再び全力の魔法攻撃を放つべく魔力を溜めていく。
 
 「死中に活、だ。相手が格上だろうが隙さえあれば奴を殺すことは可能だ。足掻くぞ」
 「ああ......行こう!」
 「これ以上長引かせるつもりはない。行くぞ...」

 どす黒い魔力が込められた魔剣を構えて、ヴェルドもやる気を見せる。


 “原子砲”
 “大雷瀑布《だいらいばくふ》”

 エルザレスが大地と光の複合魔法砲を、カブリアスが水と雷電の複合魔法を同時に放つ。
 何もかもを塵にする砲撃と超高電圧電流を含んだ水蒸気爆撃に対し、ヴェルドも両手と両翼から魔力を凝縮させて、強力な魔法を放った。

 “黒き雷撃ダークサンダー” “嵐魔炎華《らんまえんか》”

 一撃目に闇色の雷電魔法を放ち、二撃目に暗黒嵐と炎による三つの複合魔法を放って二人の魔法をまたも完全に破った。三つの属性を掛け合わせた魔法を撃つ者などこの世界に存在しないと言って良いレベルの神業である。それをヴェルドがやってのけたのだ。

 「マジ...かよ」
 「俺が降らせた雨の中だというのにあの炎の威力、くそ...っ」

 魔力の大量消費でだいぶ疲弊した二人だが、折れることなく接近戦に持ち込む。

 「お前も、さっきから強力な魔法攻撃を撃ちまくったことで、だいぶ疲弊してくれてると、良いのだがっ!」
 「確かに...俺の魔法はどれも強力な分消費が激しい。この進化形態を長く維持はできないのは事実だ。けどそれは、お前らも同じだろ?」
 「まぁ...な!!」

 全身に魔力を熾して肉体を超強化させたエルザレスは、己の爪や牙、拳と足を武器にして命を懸けて攻撃を繰り出す。
 ヴェルドも魔剣で応戦する。エルザレスの拳速とヴェルドの剣速は、後者の方が上でありエルザレスの方が追い詰められていく。
 数分間怒涛の攻めの応酬が続いたが、エルザレスが追い詰められる。

 「魔法攻撃戦もこの近接戦も俺の方に軍配が上がっているこの戦いなど、もはや先が見えている。諦めて死ね」
 「かも...な。けどなァ、ここで俺らが折れたら、国が滅ぶ...。それは許容できねぇな!!」

 “蛇龍拳”

 軌道が読めない動きから繰り出す無数の拳が放たれる。同時にヴェルドの背後からカブリアスも雷を纏ったクローを繰り出す。次いで水魔法や雷電魔法も放っていく。しかしヴェルドは、それらの攻撃に対し巧みにいなして容易に相殺していく。

 “竜殺し”

 「ガ......ッ」

 魔法も近接戦も圧倒しているヴェルドの前に、二人は窮地に追い込まれていく。カブリアスが胸に一文字の斬撃を受ける。深めに入り盛大に血が出る。

 魔人族槍術 “螺旋連魔《らせんれんま》”

 「グオオオ...ッ!!」

 魔槍の連撃をモロにくらったエルザレスは、右腕の肘から先の部分が削り取られた。さらに体力を徐々に蝕む効果を持つ暗黒魔法をかけられ、その場で倒れる。

 「竜人族の長もここまでか......お前らの負けだ――」

 「そうはさせん!!」


 エルザレスを魔剣で葬ろうとしたヴェルドの頭目がけて、魔力光線が放たれる。咄嗟にそれを魔剣で防ぎ、放ってきた方へ目を向ける。


 「増援が来たか」
 「お前、ら...」

 「“序列”の戦士たちですら敵わず、族長までもがそんな目に遭うくらいの敵だってのは分かってる!けど、」
 「ここは俺たちの国。ここには俺たちの大切な人達もいる!俺たち戦士が命張らなきゃならねーはずだ!!」
 「敵はもうその魔人族一人だけ。奴さえ討伐すればこの戦争は俺たちの勝ちだ!!全員で奴を殺すぞ!!」


 先程魔力光線を放った男の竜戦士を始め、総勢百数名もの精鋭戦士たちがヴェルドを囲む。皆、覚悟を決めてここに来ているのだとエルザレスとカブリアスはすぐに察した。戦士の覚悟を否定するのは最低レベルの侮辱行為であると理解している二人は、そんな彼ら百を超える戦士たちの特攻を止めようとはしなかった。

 「「「「「おおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」

 「限定進化」を発動した者も含む男女の戦士たちは、己が持つ全ての力を解放して来撃を次々に放つ。
 ヴェルドの左右前後から、中空から、上空から、真下からも、全方向から龍の怒りとも呼べる超猛攻が彼を殺さんと向かう――


 「良いだろう...。あの時とは違う。魔人は竜などとっくに超えているということを、
 お前らのその身に刻み込んでやろう!!」


 ヴェルドがそう宣言した直後、彼は自身の魔力を全力解放して、魔剣をグッと構えて......死の剣術を放った――


 魔人剣術奥義 “鏖魔《おうま》”




 「ひぃ……!あれが、魔人族のナンバー2……エルザレスさんたちでさえ………!」

 国の安全地帯にある屋敷内。戦場へ飛ばしていたカメラ役の召喚獣越しからそこの惨状を目にした情報屋コゴルは、顔を青くさせて絶望していた。

 「た、助けてくれ!!このままではみんなが、竜人族の国が……!!」

 コゴルは通信端末を起動して、ある人物に連絡をとばした。

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