世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

192話「“斬地竜” ドリュウ」



 アルマー大陸にある竜人族の国「サラマンドラ王国」。
 この地にて竜人族の最強を誇る戦士たちと「序列」を持つ魔人族との激闘が始まろうとしていた。
 エルザレス(族長・“序列1位”)・カブリアス(“序列2位”)・ドリュウ(“序列3位”)vsヴェルド(魔人族“序列2位”)―――


 「ドリュウ、参る――」


 先鋒を務めたのはドリュウ。掛け声と同時に「大咆哮」を放つ。衝撃波を含む音波がヴェルドを襲う。
 次いでドリュウは、大きく鋭く発達した尾に炎を纏わせて、それを槍の如く真っすぐ標的へ突き出す。
 
 しかし尾は標的を貫く寸前にガキンと音を立てて止められる......寸前のところでヴェルドが自身の武器である闇色の剣で受け止めたからだ。

 「ドリュウの“大咆哮”をまともにくらったにもかかわらず即座に行動ができるとは」
 「......よく見ろ。あの奴の体には薄っすらと“魔力防障壁”を纏わせている。かなりの技術だぞ。あんなに薄くも超強力な障壁を展開するのは。しかも障壁を体に纏わせるとなると...大した魔力コントロールだ」

 ヴェルドの所作にカブリアスが感嘆して、ヴェルドの防御技術の高さをエルザレスが評価する。たった一回の攻防で、二人はヴェルドが魔力の扱いが逸脱していると理解する。

 「攻めの主役はドリュウに任せて、俺たちは敵の隙を突いて即死レベルの攻撃を放つぞ」
 「ああ」

 二人はそれぞれ左右に離れていつでもヴェルドに速攻を仕掛けられるように構える。同時にドリュウが次の攻撃へ移る。
 尻を戻して再び構える。大剣の如く尾を振るって大薙ぎに―――

 “粒子砲《りゅうしほう》”

 「っ......!?」

 尻尾で斬りかかるとみせかけて、口腔を大きく開いてそこから大地と光の複合魔力砲撃を放った。虚を突かれたヴェルドは魔力の砲撃をまともにくらう。
 さらに左右から放たれた赤と青の「魔力光線」もヴェルドに直撃する。エルザレスとカブリアスが追撃したのだ。

 「ドリュウ、カブリアス。気を抜くな。この程度でくたばる程、世界の厄災魔人族は甘くないはずだ」

 全員の攻撃が成功したにも関わらずエルザレスは一切気を抜くことなく標的を睨み据える。
 

 「分かっているじゃないか。その通りだ」


 爆煙が突如かき消されてその中から少し焦げ痕があるものの平然としているヴェルドが現れる。彼はドリュウではなくエルザレスとカブリアスを交互に睨みながら声をかける。

 「目の前にいる尻尾の竜はともかく、お前ら二人はどういうつもりだ?“限定進化”もしていない魔力光線で俺にダメージを与えられると思ってるのか?お前らの攻撃を簡単に防いでいるのは分かってるはずだが?」

 実際ヴェルドにダメージを与えたのはドリュウが放った魔力砲撃のみだった。残る二人の攻撃は即座に展開した「魔力防障壁」で防いでいる。

 「人型の方が小回りが利くからな...。魔法がダメなら近づいてお前の首を刎ねるだけだ。今はドリュウを主軸に動くだけだ」
 「ふん余裕だな。この男もそこそこやれるようだが、俺の敵ではない」
 「果たしてそうかな?」

 ドリュウに指さしてそう評価するヴェルドに急接近したドリュウが、尻尾を真下へ振り下ろす。

 “旋穿《せんせん》”

 赤く熱した尾が猛回転しながら放たれる。


 「事実だ」
 「―――っ!?」

 瞬間、ドリュウは思い切り吹き飛ばされた。地に着くと同時に尻尾に違和感を覚える。見ると尾の先端が斬り落とされていた。
 次いでヴェルドを見やると彼の手には闇色の魔力を纏った漆黒の剣がある。あれで斬られてしかも吹き飛ばされたのだとドリュウは即座に理解する。

 「進化していない俺と進化したお前との差がこれだ。この時点で大体分かっただろ?」

 禍々しいオーラを放つ剣を向けながら事実を冷たく告げるヴェルドにドリュウは何も言い返せないでいる。欠けた尻尾に再び魔力を込めて構えを取る。

 「分かってなお、俺の前に立ちはだかるか」
 「一族と国を脅かすお前を、たとえ敵わない相手だろうが逃げることは俺自身が許さん!!」

 “斬龍華《ざんりゅうか》”

 裂帛の気合とともに繰り出すのは灼熱を帯びた剣尾の舞うような斬撃。予測が出来ない尾の軌道から繰り出す斬撃は.........全てヴェルドの魔剣に止められて終わった。
  「な......(ザンッ)......っが」

 そしてヴェルドの一太刀が、ドリュウの体を裂いた。深手を負って怯むドリュウにヴェルドが追撃しようとしたところに、彼の背後から炎を纏った槍と風属性でより鋭くなった大量の短剣が飛んでくる。
 それらを難なく全て躱し逸らして済ませたヴェルドに、水の刃を両腕に纏わせたカブリアスが斬りかかる。ヴェルドはこれにも即座に対応し、高魔力でカブリアスの水の刃をかき消した。

 「ぐ...っ!」
 「俺の剣の腕は魔人族一だ。その程度の腕で俺を斬れるとは思わないことだ」
 「ならば武技でその身をズタズタにしてくれる」

 残心をとるヴェルドの胴体に、エルザレスの捻りが加わった正拳突きが突き刺さる。

 「ご......っ!」
 「ただ適当に殴ってはねーぞ?肝を正確に潰した。さらに俺の嵐属性の
魔力も入れてるから腹ン中はズタズタだろ」
 「ほぉう......ネルギガルドに引けを取らない武術を習得しているか」
 「あんなオカマ野郎なんかと比べんな。寒気する...ぜっ」

 追撃と言わんばかりにエルザレスの足刀蹴りがヴェルドの首を捉える――

 ドスッ「ぐおぉ...!?」

 「武術が相手なら近づけさせなければ良い」

 エルザレスの左足に黒い槍が深々と刺さっている。思わず体勢を崩してしまいすぐに後退する。

 「俺の“武器錬成”の速度は音の速さと並ぶ。どんな状況でも即座に武器を出して斬って、投げることもできる」
 (......ったく。やはり能力値だけじゃねぇ、戦闘技術が相当のモンだぞこの小僧...。厄介通り越してピンチじゃねーか。温存とか考えてる場合じゃねぇ、俺もさっさと進化して...)

 ヴェルド卓越した戦闘技術に戦慄しながらエルザレスは胸中で愚痴を漏らし、自身も本気を出そうと決心したその時――

 “九頭龍閃《くずりゅうせん》”

 無数の氷剣がヴェルドを襲った。

 「リュドか!」
 「いや、俺も!そして...“序列”の戦士、全員合流しました!!」

 氷剣が降り注いだと同時に残りの5人の戦士がヴェルドを囲むように配置に着く。

 リュド(“序列4位”)、ゲーター(“序列5位”)、リーザス(“序列6位”)、オッド(“序列7位”)、メラル(“序列8位”)、シャオウ(“序列9位”)。

 ここに竜人族が誇る全序列持ち戦士が集った。


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