世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

184話「前衛戦と中衛戦」



 災害レベルのモンストール・魔物らを先頭に、100体規模の敵が軍をなして侵攻する。地上から海から空からベーサ大陸を闊歩していく。
 進軍した末にたどり着いた人里を目にした途端、それらは滅亡を実行するべく里に襲い掛かろうとした。
 しかし、それらの侵攻は終わりを迎えることになる―――

 「「“羅刹撃《らせつげき》”」」
 「「「ボギェラッ!?」」」

 前衛に配置されていた鬼戦士たちが、進軍してきた第一波の敵軍を半壊させていた。特に前衛の中心であるアレンとスーロンの活躍が凄まじく、災害レベルの敵であろうと難無く返り討ちにしてみせた。

 「何匹来ようが同じよ。お前らモンストールはここで皆殺しよ……!」

 スーロンが冷静に怒りながら無慈悲に拳闘武術を振るって敵を屠る。その彼女の隙を狙って空にいる大鷲型の魔物が前衛を通過しようとする。

 「私まで無視するなー!」

 しかし準前衛のソーンが、敵への怒りで顔を赤くさせながら、炎で出来た槍を豪速で投げ飛ばして大鷲型の魔物を貫いて焼き尽くした。それでも進軍する敵の数は多く、前衛の戦士たちでは食い止め切れず、防御柵を突破しようとする。

 “焔雷《ほむらいかずち》”
 “闇夜の大嵐ブラック・テンペスト

 それを許すまいと中衛にいるギルスとキシリトが絶妙な距離を取って絶妙なタイミングで強力な魔法攻撃を放って敵を消していった。

 「ほらな。俺たちは必要だったろ」

 ニヤリと笑うギルスにソーンがイーっと歯をむき出していがむ。

 「ギルスなんかに負けてられないわ。私が多く敵を狩るんだから!」
 「無理だな、俺の攻撃範囲の方が広いからな!」
 「二人ともこんな所で競い合うな。戦争中だぞ!」

 討伐数で張り合おうとするギルスとガーデルをキシリトが諫める。

 「分かってるさ。この戦争は絶対に負けられない。俺たちがかつて暮らしていた里を滅ぼしたあのクズどもを絶対に滅ぼすんだ!」

 強い意思を示しながらギルスは遠距離から魔法攻撃を放って空中にいるモンストールを数体討伐する。

 「少し侵攻されちゃったけど、ガーデルたちが上手くやれてるみたい」
 「けれどここをおろそかにして良いわけじゃないわ。どんどん狩るわよ!」

 前衛にいるアレンとスーロンが中心となってモンストールと魔物をさらに討伐していく。

 雷鎧装備 “爆ぜり狂う流星雷拳エレク・マルチメテオ

 アレンが軽く上へ跳んで、雷で自身を加速させて急降下しながら、雷速の拳の流星群を振り落としていく。

 数十体の敵があっという間に潰れて死んでいく。Gランクモンストールや魔物も同じように葬っていた。


 「...お前たちには慈悲の欠片も寄越さない。復讐だから。私たちは復讐鬼としてお前たちを殺していく」


 (私だけじゃない。スーロンたちも皆、怒り猛っている。復讐心を持って戦っている。お前たちがいなければ鬼族の里は今も存在していた。私たちの平穏を奪った罪は重い、死んで償え。
 里を滅ぼしておいてなおも私たちの居場所を奪おうとするこいつらは...悪だ、この世から排除すべき害だ...!)

 アレンは心を怒りや憎しみで燃やそうとする。アレンだけじゃなく他の戦士たちも同じように怒りや憎しみを込めた武器を振るって戦っている。皆が数年前に襲撃されたモンストールのことを思い出し、それを引き金として奮起させていた。

 「はあああああああああっ!!」

 攻める。苛烈に攻めていく。余力は十分に残しておく。後に現れるであろう強大な敵との決戦に備えて温存しながら、今発揮できる全力を発揮して敵を殲滅していく。
 殴り、裂いて、突き、刺して、潰して...あらゆる手段を以て敵をたくさん殺していく。
 ふと上を見やると飛行系の敵が数十、またも前衛を抜けて里へ攻め入ろうとする。知能が高いモンストールと魔物は皆そう判断して行動していく。

 「だから無駄だってば。私たちの優秀な軍略家は、お前たちの浅い戦略なんかお見通し。全部読まれてるよ」


 “大咆哮”


 化け物たちが防御柵をも超えようとしたその時、不意に飛んできた爆音波をモロにくらってスタン状態になる。

 「そんな隙だらけだと、術がかけ放題だね」

 「咆哮」を放った少女の鬼…ガーデルが続いて空中でスタンにあっている化け物たちに「術」をかけた。

 “幻夢《げんむ》”

 (((((――ビクッ)))))


 ガーデルがかけた「術」...「幻術」にかかった空中の化け物たちは瞬間、目から光を失い脱力した状態になる。敵たちは今、幻術でつくらされた自分の夢の世界にいる。
 その世界で新しい敵と戦う夢。その世界で地獄の苦しみを体験する拷問を受ける夢。その世界で何もかも自分の思い通りに事が進んで満悦する夢。
 ガーデル・センなどはそうやって敵を色んな夢の世界へ誘い現実での行動を奪うことが出来る。故に「堕鬼」。
 鬼たちから見た化け物たちは当然隙だらけ。狙い放題だ。

 「―――ってああ!?二人とも、私の術で止めたのに、横取りしないで!!」
 「まだそんなことを言ってるのか!1秒でも早く敵を殲滅することの方が大事だ!」

 何か言い合いながらもガーデル・ギルス・キシリトが中心となって、前衛で撃ち漏らした敵勢を討伐していく。

 戦いが始まって十数分、地上や空から侵攻してきた魔人族軍はほぼ壊滅した。

 「さすがカミラね。私の“幻術”が面白いくらいに決まったわ」
 「魔法攻撃戦に長けてる俺やキシリトもここに置くことで前衛が逃した敵を中距離で仕留められる。仮にここまで近づいたとしてもガーデルを中心とした近接戦派の仲間たちで討ち取れる。まあ俺も近接戦できるけどな」

 三人はこの配置を考えたカミラを称賛する。カミラが元来持っている軍略の才能、加えて全てを予測する「未来完全予測」に敵の詳細を把握する「叡智の眼」。これにより鬼族の軍は完全無欠の陣地を確定させていた。

 「前衛が静かになってきたな。敵が少なくなってきたみたいだ」
 「ああ。だが……感じるか二人とも」
 「うん。前衛が静かになってきたのは他に理由がある。さっきから感知しているこの濃密な黒い戦気、言うのかな」

 三人は前を見据える。その方向からこれまで以上の強くて邪悪な戦気と魔力をかすかに捉えていた。
 そして彼らは頷き合ってから、仲間たちに二言告げてから前衛へ駆け出した。


 「馬鹿な……!滅亡しかかった死にぞこないの魔族のはずが、あれだけ送り込んだ駒たちが全滅だと!?」

 前衛にいるアレンたちの前に、斥候役として来た魔人族が再び攻めてきた。彼の後ろには第一波以上の規模のモンストールと魔物が控えている。

 「お前如きが鬼族を悪く言うな……!この世界の害悪が、ここで死ね!」

 顔を険しくさせたアレンとスーロンとソーンが、魔人族に殺意を一斉にぶつける。

 「……!世界の害悪だと?下等な魔族が、何を……!今すぐ蹂躙してやる!!」

 魔人族が腕を振るとモンストールと魔物の軍勢が進軍を始めた。

 「里への侵攻をここで必死に食い止めるのは良いが、我ら魔人族軍がいちいちこの正面や空ばかりから攻めると思ってるのか?ここから来る我らに意識が行き過ぎてる間に、お前らの里は今どうなっているのだろうなァ」

 魔人族は酷薄な笑みを浮かべてそう言うが、アレンたちはそれを鼻で笑ってみせた。

 「あんたたち如きの浅い軍略だか戦略だかなんか全てお見通しだって言ったでしょ?里自体は何が来ようと絶対に大丈夫だから、私たちがここにいるのよ」
 「今頃お前たちの駒ってやつらは、全滅してる」
 「なんだと……!?」

 アレンとスーロンの言葉に訝しながらも、魔人族は二人に攻撃をしかけた―――



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