世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

183話「見えざる狙撃/最速の魔人」


 サント王国領地 異世界召喚組・ガビルvs魔人族ジース

 両軍の主戦力同士が激突することになり、そこには誰も邪魔することは許されなかった。しかし魔人族側…ジースが連れてきたモンストールの群れはこの重要な一戦に参加するようだ。
 ジースが片手を上げると同時に、傍らと後方で控えていたモンストールたちが一斉に襲い掛かる。それらに紛れてジースも駆けて行く。

 「小夜ちゃん、お願い!」

 曽根の指示に米田はこくりと頷くと、彼女だけが使える特殊魔術を発動した。

 “死霊操術《ネクロマンシー》”

 瞬間、モンストールたちに異変が起こる。彼女たちに襲い掛かろうとしたモンストールたちがピタリと止まり、ジースに振り返る。

 「おい...何をしている?早くあいつらを――」
 「「「「「ギェアアアアアア!!!」」」」」

 モンストールたちは突如ジースに向けて爪や牙、魔法攻撃を繰り出したのだ。そこに予め待機させていた魔物たちが、ジースを守るように立ち塞がってモンストールたちの攻撃を受け止める。そして反旗を翻したモンストールたちに攻撃を繰り出す。魔人族によってつくられ絶対服従とされていたはずの屍族《モンストール》が、魔人族に攻撃しようとしている。思わぬ事態に遭ったジースは何が起きているのか分からずにいた。

 「成功したね。敵も混乱している。これで敵を一気に...!」
 「小夜ちゃんは私が護ってるから、あとは皆で魔人族を一気に倒してちょうだい!」

 作戦が成功したことに喜ぶ米田と彼女の周りに大きな盾を出現させて完全護衛態勢に入った曽根を後衛に置いて、堂丸と中西は操られているモンストールたちと共にジースへ攻撃を仕掛ける。
 米田が発動している魔術は、死霊系の生物を操る特殊魔術である。モンストールは元は死んだ生物に瘴気を流し込んでつくられたもので、ある種不死性を含んだ化け物だ。つまり死霊系に分類されるモンストールたちは皆、死霊魔術の術中に無条件で嵌まってしまうのだ。
 半年間の戦争準備の間でそのことに気付いた縁佳たちは、呪術師の中で特に操術系に長けている米田に死霊系の魔術を会得させた。そして見事この戦争で死霊魔術が大いに役立った。

 「すげぇ、Gランクの化け物たちもみんな米田の駒になってやがる。これだけの軍勢なら勝てる、勝てるぞ...!」

 堂丸は早くも勝利を確信して先走ってガンを展開して自身の得意技を放つ。
 
 “多属性射撃《マルチショット》”

 彼が使える属性は炎熱系のみだが、弾に予め属性を付与させることで多くの属性弾を撃つことに成功させた。
 魔物を多く撃ち抜いて、ジースにも被弾させていく...が、彼女は即座に障壁を展開してこれを防ぐ。
 そのジースに獅子の見た目をしたGランクのモンストールが殴りかかる。

 「......お前らの飼い主である私たち魔人族に牙を向けるとは不良品どもめ!!」
 
 怒りの形相をしたジースが暗黒魔術を放ってGランクモンストールを攻撃する。さらに襲い掛かってくるモンストールたちにも同様に魔術を多数放って攻撃する。

 「ち......災害レベルの屍族を連れてきたのが仇になったな。まさかこいつらを支配する魔術を使う人族がいるとは...呪術師だな」

 鋭い眼差しで救世団たちを見回して、やがて盾で囲まれているところに目をつける。

 「あそこに屍族を操っている人族がいるはずだ。魔物ども、あそこを蹂躙しろ」

 ジースの指示に従い魔物たちが米田たちがいる方へ向かう。

 だがその途中で――――

 「「「―――――ガ………………ッ」」」

 魔物たちの頭部に、見えない狙撃矢が突き刺さり、魔物が全て即死した。

 「また……あの“見えない狙撃”か……!」

 ジースは忌々しげに砦を睨む。砦からは縁佳の気配が全く感じられない。しかしそのどこかに彼女は確かにいる。
 先ほどもジースに不覚を取らせた、縁佳による不可視の狙撃―――


 “見えざる矢”

 これが縁佳の新たなる切り札、「見えざる狙撃」だ。この狙撃技を生み出したきっかけは皇雅の助言だ。


 (テメー自身を敵から見えなくする技術はもう会得しているんだったな。
 じゃあ次は、矢や弾をも見えなくする・感知されないものにすれば、テメーは完全無欠の狙撃手になれるかもな)


 皇雅の助言・知識を得た縁佳は究極の狙撃技を身につけるべく、「隠密」と「気配遮断」を極限にまで強化させて、それらを矢と銃弾に付与させるという高次元技術の実現に成功した。そうすることで矢・弾の存在をも完全に隠蔽することに成功した。
 元々縁佳にはあらゆる武器に複数の固有技能と属性魔法を付与出来るという素質があった。半年間の修行の中でそれに気づいた縁佳はその素質を磨きぬいて、最強の武器とした。
 そうして縁佳は世界最強クラスのオリジナル狙撃技を完成させたのだ。

 (今度は魔人族に当ててみせる!この狙撃でみんなを守ってみせる!!)

 心の中で啖呵を切りながら、縁佳は狙撃銃に「見えない弾丸」を込めた――――



  
                 *

 ラインハルツ王国領地および領海―――
魔人族…クロックを目にしたマリスの様子が一変する。彼女の表情は次第に憎悪・憤怒に染まっていく。まだ近くに残っている大型のモンストールを目をスルーして、マリスはクロックの方へ駆ける。

 「こんな偶然に、感謝すらしてるわ。私が抱いているこの憎しみの元凶が今、私の前に現れたのだから!!」

 モンストールに向けてきた以上の殺意を滾らせながらクロックの間合いに立つ。そこにはたくさんの兵士・冒険者たちの死体があり、それを見たマリスはさらに憎しみの感情を強める。

 「私の国や家族、民を滅ぼしたお前はまたしても、大勢の仲間たちを……!!」

 怒りに任せるままクロックに怒声を浴びせる。尋常じゃない殺意を向けられながらもクロックは余裕げに構える。次いで意外そうに目を見開いた。

 「ん?......その見た目、海棲族か?俺が数年前滅ぼしたハズだったが、生き残りがいたのか?まったく、鬼族を絶滅し損ねたネルギガルドに続いて俺までも仕損じてしたとは」

 うんざりした様子で独り言を呟くクロックに彼女の怒りのボルテージはさらに上がる。

 「お前は……ここで殺す!!この私が!!」

 “水心”
 
 そう叫びながら手に高密の水魔力を纏い、数メートルにわたる水の刃を横薙ぎに振るう。Gランクモンストール・魔物を一撃で討伐した一撃だが、目の前にいる強大過ぎる敵にはそうはいかなかった。

 「ふん...」

 魔人族が黒い炎を纏った片腕を目にも止まらない速さで振るった直後、水の剣が蒸発して消えた。

 「援護だ!」
 「ああ、このままではまずい!」

 新たに駆けつけた兵士たちが一斉に水魔法を使う。マリスたちの周囲に小規模の雨が降り注ぐ。するとマリスの魔力が倍増され、彼女の移動速度も倍以上となった。

 「雨で強くなった……?」

 マリスの強化にクロックは訝しむ。一方マリスは「限定進化」を発動して美しい人魚を思わせる姿への変貌を遂げた。
 「水の恩恵」は雨でも強化補正としてはたらく。故に陸地であろうと水に触れたマリスの戦闘力は増大するのだ。

 “水心月《すいしんげつ》”

 三日月状の水の巨刃を無数に飛ばす。しかしそれらもクロックの暗黒魔法によって破られる。
 が、通じないのは想定内だったらしく、即座に次の攻撃に移っていた。

 “氷結牢獄《ヘル・グレイシャ》”

 クロックの足元から巨大な鮫の口を模した氷の口腔が現れ、一瞬で彼を閉じ込めた。そしてその牢獄の中は一瞬で生物が生命活動不可能の温度まで低下する。
 氷の温度はマイナス1000℃を下回る。Sランクの生物をも活動不可能にするレベルの牢獄。恐らく魔人族をも仕留められると思った兵士たちだったが……

 “獄炎災禍《ヘルフレイム》”

 「―――!?」

 その期待は、濃密な魔力が込められた巨大な炎柱によって破られた。遠くにいる敵味方にまでも、その熱量で怯む程の超高熱の炎に対し、マリスは即座に身を守るべく、水魔法が付与された「魔力防障壁」を己の身に張り付けた。

 「――そこでその防御法、良い判断だ。が、耐久力が脆い」
 「が......はぁ......ッ」

 獄炎を防ぎきった刹那、感知できない程の速度でマリスに接近したクロックの漆黒の刃が、彼女の腹部を貫いていた。「水の恩恵」を得て速度が倍以上にもなったにも関わらず、クロックの動きに全くついてこられなかった。遅れて腹から夥しい血を流してその場で倒れる。そんな彼女を、クロックは黙って見下す。

 「そうだったそうだった。海棲族は水に触れることで強くなるんだったな。あの時も全員が水で強くなりやがったものだから、俺もつい本気出してしまったっけ」
 「…………ッ」

 咄嗟に起き上がるとマリスは高速に動き回ってクロックの死角をとり、抜刀した剣に高密度の水魔力を込めた一太刀をぶつける。

 “水神刀《すいじんとう》”

 「………(ニヤリ)」

 しかしマリスの全力の一太刀はギリギリのところで躱された。直後マリスの真後ろにクロックが立ち、彼女の背に闇を纏った短剣を突き刺した。

 「――――か、ふっ……」

 血を吐いて再度地に倒れるマリス。今度は起き上がることが出来きなかった。兵士たちがクロックの後ろに斬りかかるが、彼らもクロックの高速技によって為す術無く倒れてしまった。

 「そういえば、海棲族のお前なら今の光景見覚えがあるんじゃないか?この俺の速さに誰一人見切ることが出来ずに死んでいく、あの一方的な殺戮を」
 「......」
 「だからさっき、そんな俺の動きを止めるべくあんな氷の牢獄で殺そうとしたんだろ?
 だが残念だったな!あんなレベルの氷じゃあ俺は止められない。それに水に触れて速度が倍増してたようだがそれも無駄だ。俺は魔人族の中でも最速と言われている。この世界で俺より速い奴は存在しない。
 分かるか?格が違い過ぎるんだよ」
 「グ...ウアアアアアァァ...!!」

 マリスは自分の無力さにただ叫ぶことしかできなかった。そして近づいてくる死に、恐怖もしていた。突き刺された剣には闇属性による毒が体を蝕んで動くことが出来ない。

 「じゃあな、最後の海棲族よ。今度こそ滅べ...!」

 暗黒魔法でつくられた剣を突き立てて、容赦なく振り下ろす。

 (私、は...何もできなかった......こいつに傷一つさえも。憎いこいつを殺せないまま......みんな、のところに、私も......。)
 「あ、ああああああああぁ.........!!」



 「させるかよ」
 

 ガキン!と、刃と刃がぶつかり合う音がして、火花が散る。マリスに迫っていたクロックの剣は、突然乱入してきた男に止められた。
 
 「あ?俺の剣を止めた...?」

 即座に距離をとって、乱入してきた男を警戒するクロックに対し、乱入してきた男...ラインハートは後から来た兵士たちにマリスを預けさせる。

 「う...あ、あぁ...」
 「もう止めておけ。その代わり、その気持ちを俺に預けさせてくれ。あとは俺がお前の気持ちの分まで暴れてやるよ」

 何か言いたそうにしているマリスに二言声をかけて、敵の方に向き直る。

 「俺が相手だ、魔人族」


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