世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

179話「海に舞う海棲族の兵士」


 デルス大陸―――ラインハルツ王国が管轄している地帯及び海域。
 この辺りにもサント王国や旧ドラグニア領地同様、対魔人族・モンストールとして造られた砦がいくつもある。
 この地に配属されている連合国軍の戦力は、ラインハルツ王国の兵士団がメインであり、それ以外は同国に籍を置いている冒険者や戦士たちしかいない。海洋国であるこの国に他国からの兵士団は来ていない。ここではラインハルツ王国のみで魔人族軍と戦っているのだ。
 他国からの援軍が必要無いと初めに言ったのは他でもなくラインハルツ王国側であり、その兵士団の戦力レベルは各大国のそれらの中でも特に高い。
 彼らのレベルが高い主な要因は、この大陸には比較的レベルが高い魔物が古くから多く存在しており、それらを討伐することで兵士や冒険者たちが大いに強くなれることだ。モンストールも比較的レベルが高い個体が多く、ラインハルツ王国は常に多くの兵士や冒険者たちが駆り出されている。
 もう一つの要因を挙げるならば、そんな兵士団をまとめている兵士団長の存在であるとされている。彼らは代々圧倒的な力を持ち、兵士たちへの指導力・統率力も優れている超人と謳われている。
 現兵士団長であるラインハートも例に漏れず、戦闘力・指導力・統率力の全てが歴代最強を誇っていた。


 「はっ、よっ、おらよ」

 ラインハートは休むことなく眼前に現れるモンストールと魔物を討伐し続けている。
 ラインハルツ王国領地にも魔人族の斥候役が現れて例の選択肢を迫ったが、ラインハートが有無を言わずに魔人族を斬り伏せてみせた。それが開戦の合図となり、連合国軍と魔人族軍が砦地帯で、海近辺で、海上で激戦を繰り広げている。

 「…………この辺りに来た敵は大体斬り尽くしたか」

 ラインハートにとっては災害レベルの敵すらも大して脅威にならない。Sランクモンストールが来ようとも単独で討伐してみせた。そんな彼の活躍を見た冒険者たちは尊敬や畏怖が混じった感情を表していた。

 「あ、あれが“人族最強の兵士”……次元が違い過ぎる」
 「ああ。でもこれほど心強いことはないぜ。あの人がいればこの戦争負ける気が全くしねぇ」

 ラインハートの近くにいる兵士と冒険者たちは士気が倍増し、さらに多くの敵を討伐してみせた。

 「さて、あっちはどんな調子だ」

 眼前にいる敵が全ていなくなったところで、ラインハートは海辺に目を向けた。


 その海辺・海上でも連合国軍が優勢に立っていた。海上では戦艦が航行しており、魔力を利用した兵器で海中にいる敵を多く屠っていた。

 “水心《みずごころ》”

 その中でも特に活躍している女兵士……マリス兵士団副団長は、数メートルの水の刃を横薙ぎに振るって、複数のモンストールを屠った。
 ラインハート程ではないが、マリスも相当な討伐数を築き上げている。海棲族の生き残りだったマリスは、海上(中)戦においてさらなる実力を発揮している。
 レベルが高い海棲族の戦士は固有技能「水の恩恵」を発現していたという。それによって海中・海辺にいるだけで速く動けるようになり、水魔法の威力が倍以上にもなるのだ。マリスも当然その力を有している為、海にいる彼女は無敵に近い存在となっていた。

 「まだだ...。まだ殺す、モンストールども...!」

 そのマリスだが、彼女は大戦が始まって以降モンストールばかりを標的にして殺し続けている。その理由はごくシンプルなもので―――モンストールに対する復讐である。
 モンストールによって海棲族は滅ぼされてしまい、マリスの家族や友達の命も敵に奪われていた。マリスは兵士団に入った時からずっとこの時を待っていた。憎いモンストールを全て殺し尽くすこと。家族・友達・国全てを奪われた恨みを存分に晴らすべく、この時の為にずっと磨き続けてきた力を振るうことにマリスは歓喜していた。この戦いも憎いモンストールを殲滅出来ればそれで良いと考えてすらいる。
 もちろん、かつて弱っていた自分を救ってくれたラインハート、居場所が無かった自分に居場所を与えてくれたラインハルツ王国には大いに感謝しているし、仲間たちや国の為に戦う気持ちもある。
鬼気迫る勢いで複数のモンストールを討伐していくマリスの様子は、仲間たちでさえ畏怖する程だ。

 (モンストールが私の復讐相手。でも、奴らだけじゃない……。奴らを引き連れて国を滅ぼした元凶こそが、私の本当の復讐相手…!)

 マリスの脳裏にかつての忌まわしい惨状が浮かび上がる。その当時ではどうしようもなかった化け物たちが、町を城を民を壊し滅ぼしていく惨劇。その化け物たちの中心に自分たちと同じ人の形をした化け物が、モンストールに指示を出して海棲族の命をたくさん奪っていったのだ。
 あれは確か―――灰色の長い髪の細身の男――――

 かすかに残った記憶を思い返していると、遠くからいくつもの人の絶叫が上がった。場所は海辺だ。

 「ぎゃあ!?」「かはぁ!!」「あ”あ”あ”!!」「なんだこの化けも...ごあ”あ”!」「あああああああぐぎゃあ!?」


 海から上がって声がする方へ駆けつけるが、その間にも仲間たちの断末魔の叫びの数が増えていく。同時に斬撃音・衝撃音・何かを砕く音が響く。さっきまで力を温存して余裕を見せていたマリスの表情が一変する。戦気を感知したことでこの先にいる敵がモンストールや魔物ではないことに気付く。これまでとは比べ物にならない圧倒的な力…それも邪悪に満ちた存在。

 「間違いない……魔人族ね」

 マリスは魔力を全開で熾して現地へ駆けつける。周囲には既に多くの兵士と冒険者の屍があり、その中心に異質なオーラを放った男の姿があった。

 「屍族どもだけだと苦戦するわけだ。この国の兵士団のレベルは聞いていた以上だ。だが…“序列”を持った魔人族であるこの俺にとっては恐るるに足らず!ハハハハハ……!」

 兵士と冒険者たちの血で真っ赤に染まった手を掲げて大笑いする魔人族。その姿を見たマリスは時が止まったかのようにピタリと動かなくなる。
 
 「その見た目……その声…………まさか、お前は…………っ」

 動きを止めたのは恐れをなしたからではない。五年前の惨劇が脳裏をよぎり、モンストールの中心にいた人型の化け物を思い返す。あの時の人物と目の前にいる人物が重なって見える。
 灰色の長い髪、細身の男、そして―――今と同じ真っ赤に染まった両手――――

 「そう、だ……!お前が、私がかつて暮らしていた国を、家族を、全てを滅ぼした魔人族……!!」

 マリスは全身の毛が逆立つような感覚を覚える。同時に激しい憎悪と殺意が込み上がり、眼前にいる魔人族を睨み、水の刃を向けた。
 マリスに気付いた魔人族は彼女に目を向けて愉快げに、そして邪悪に笑った。

 「魔人族戦士“序列4位” クロックだ」







*今更ですが、しばらく視点や舞台がころころ変わる展開が続きます……

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