世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

177話「人族最強クラスの兵士」



 魔人族ヴェルドの宣戦布告から三日が経ち、ここは旧ドラグニア領地。
 この地にはかつてドラグニア王国やゾルバ村などで暮らしていた人が大勢いる。大戦に備えた特製の大型避難シェルターに非戦闘員や一般民を住まわせている。さらに全てのシェルターの周囲には魔力の結界を設えて敵軍が領地に入らないという、侵入対策も徹底している。
 シェルター・領地の外には強固な砦がいくつもそびえたっている。これらは半年前から造られたもので、災害レベルの敵に襲われてもすぐには壊されない。
 そこにはこれから来る大戦に備えたサント王国の兵士団やアルマー大陸に存在する有力な冒険者たちが集まっている。兵の数は2万程度だ。
 その中心に、美羽とクィンはいた。二人ともこの軍の要とされており、戦場の指揮権も任されている。

 「服従か、滅亡か 選べ」
 「「どっちもお断りよ(です)!!」」
 
 2万全ての兵士・戦士が戦闘準備を完了させたところに、魔人族が砦付近に突然現れた。そして二つの選択肢に対する返答を迫られた美羽とクィンは当然突っぱねた。それが大戦の口火を切ることとなり、連合国軍と魔人族軍による大規模な戦いの幕が切り落とされた。

 「お前らがその選択をしたこと、死ぬ程後悔させてやる……!」

 斥候に来た魔人族は一旦退いたが、数十分経ったところで空から、地中から、そして正面からモンストール・魔物の大軍が攻めてきた。下位レベルから災害レベルまで、レベルはバラついているが今までと違って統率がとれた動きをしている。これらを指揮しているのは紛れもなく魔人族の仕業であり、彼らが存在する以上は敵軍が考えも無しに侵略しにかかることはない。
 統率が取れた怪物たちの侵攻に兵士・戦士の半分近くが恐れをなした……が、それは少しの間だけであり、皆戦意を奮わせた。彼らの後ろには護べきものが大勢いる。そのことが彼らに戦う勇気が与えられた。

 “魔法剣”

 クィンもその一人であり、大勢で迫りくる敵を見ても物怖じすることなく、長年愛用している剣に属性魔法を纏わせた「魔法剣」で敵に斬りかかる。


クィン・ローガン 23才 人族 レベル130
職業 戦士
体力 9500
攻撃 8900
防御 5500
魔力 8700
魔防 5500
速さ 7250
固有技能 瞬神速 剣聖 炎熱魔法レベル9 水魔法レベル9 嵐魔法レベル9
魔力防障壁 見切り


 この半年間でクィンは人族の中でも最強クラスの兵士として注目されている。この日に向けて鍛錬を怠った日など一度もなかった。魔人族からこの世界を守る、戦いに勝利する、その信念が彼女を次の高みへと導いた。

 「――!あれは、エーレ…!」

 仲間たちと共にモンストールを数体斬り伏せていくと、目の前に圧倒的存在感を放つ魔物が現れる。魔獣≪エーレ≫ それは半年前…サントの兵士団が討伐対象として戦ったGランクの魔物だ。当時は圧倒的戦力の前に全滅寸前まで追い込まれてしまったが、皇雅がエーレを討伐してくれたお陰で助けられた。

 「コウガさんがいてくれたから、私はあの時死なずに済んだ。けれど今は違う。彼がいなくても、私はあなたにはもう負けない...!」
 「副兵士団長…!?」
 
 クィンが単独で飛び出したことに兵士たちが驚く中、彼女とエーレによる一騎打ちが始まる。日本で伝えられる妖怪・鵺を思わせる見た目をしたエーレからは複数の属性魔法が放たれる。対するクィンも「魔法剣」で全ての攻撃に対応する。
 炎熱魔法がとんできたら水魔法を。強力な雷電魔法には、嵐魔法でいなして逸らして、周りにいるモンストールに被爆させてやり過ごす。
 クィンの剣撃に対して、エーレは固有技能「未来予知」で悉く躱そうとするが、クィンの剣速が予知以上だったのか、胴体に斬撃が入っていく。
 クィンにはこの半年間二人の「師匠」によって鍛えられてきた。一人は「人族最強兵士」と称されるラインハルツ王国兵士団長・ラインハート。
 
 “水撫月《みなづき》”

 ラインハートから教わった剣術、その奥義のうち一つをエーレにぶつける。エーレの体はキレイに両断され、絶命した。

 「あの人の技量にはまだまだ及びませんね。剣では扱いにくい技だと言ってましたが、その通りですね...」

 残心を取りながらクィンはやや浮かない顔で呟く。今の剣技はクィンが使っている剣では繰り出しにくいものだった。ラインハートが使う形状がやや変わった剣だからこそ扱える剣技なのだ。
 それでも強敵≪エーレ≫を討伐出来たのは、ラインハートの教え以外にもある人物のお陰でもある。彼女が師事したもう一人の人物が―――

 (コウガさん、あなたとの実戦訓練のお陰で、私は急速に強くなれたのです!)

 クィンはラインハートの他に、皇雅とも実戦式の鍛錬を積んでいた。圧倒的力を持つ彼と何度も戦ったことで、限界の先を超えることが出来た彼女は人族最強クラスの兵士へと成り上がったのだ。

 「やっと、ここまで来れた...はぁ、はぁ」

 しばらく息を整えて、再度戦地へ行こうとすると、後ろから彼女を呼ぶ声がした。聞き覚えのある声の方を見ると、美羽が回復魔法を唱えてクィンの体力を回復させた。

 「さっきかなりの強敵とひとりで戦ってたね?今からそんなにとばすとバテるよ」
 「ありがとうございます、ミワ。ですがこれくらい一人で出来なければ、魔人族とまともに戦うことさえ…」
 「魔人族とは一人で戦うわけじゃないんだから。あまり背負っちゃダメだよ」

 思いつめた顔をしたクィンを、美羽がメっと軽く窘《たしな》める。そんな彼女にクィンはくすりと笑い頷いた。が、それも束の間。こちらに超強力な何かが飛んでくるのを、本能で察知して、二人同じ方向へ跳んだ。
 直後、大きな着地音を立てて砂ぼこりが大量に舞う。その中から黒みがかった灰色の肌をした中背体型の男が現れる。その男の身体の色を見たクィンが警戒を込めて睨む。
 
 「魔人族...!」
 「それに最初に来たそれとは別の個体で…強い……!」

 クィン・美羽共に魔力を込めていつでも攻撃出来るように構える。二人の敵意満ちた視線を受けても魔人族はなお余裕そうに構えながら口を開いた。

 「あー?こんな若い女二人が災害レベルの魔物を討ったってのか?なるほど確かにこれは大物だな。人族にしては、だが」
 「………………」
 「特に魔法杖を持った茶髪の女、本当に人族なのかってくらいの戦気と魔力だな?どうやってその次元にまで達した?」
 「……答える気はないわ」

 魔人族に睨まれた美羽は怯むことなく言い返す。

 「ふーんまあいいや。これから殺すから名乗る必要無いと思うが、せめて冥土の土産に持っていけ。
 魔人族戦士“序列7位”リュドルだ」

 そう言ってリュドルは強烈な殺気を二人に浴びせる。二人ともかすかにたじろぐがそこでどうにか踏ん張る。

 (カイドウ王国で遭遇した魔人族と同じくらい、あるいは少し強い……!)
 (甲斐田君が倒し切れなかったレベルの敵……!)

 かつてない強大な力を持つ敵を前にしても、二人とも戦意を燃やした。
 
 「“序列”を持つ魔人族の殺気を当てられても怯まないか!人族もまたタフなのが出てきたなぁ!?とにかく、死んでもらおうかぁ!」
 「ミワ、援護お願いします!」
 「ええ、二人でこいつを倒しましょう!!」

美羽・クィンvs魔人族戦士「序列7位」リュドル。世界の命運をかけた、そのうちの1つの戦いが始まった―――




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