世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

171話「訓練所でのひと時」


 人族の全大国から成る「連合国軍」が正式に結成されてから約一か月が経ったある日のこと―――

  「はっ、はっ……っ」

 サント王国の訓練所。そこには一人の少女と大人の女性二人がいる。
 故ドラグニア王国の元王女で今は連合国軍の参謀を務めることになった少女…ミーシャ・ドラグニア。
 日本という別の世界から召喚された女性…藤原美羽。彼女は故ドラグニアで結成された「救世団」の一員で、クラスの先生だ。
 もう一人の女性はこの国の兵士副団長を務めている戦士…クィン・ローガン。
 
 「ミーシャ様、あと一周です!」

 先程から息を切らしながらもグラウンドを走り続けているのは軽装姿のミーシャであり残りの二人は彼女のコーチ的な役を務めている。ミーシャの職業は軍略家であり、本来ならばこのようなトレーニングは軍略家としては必要とはされないものだが、それでも彼女は肉体を追い込むトレーニングを毎日やっていた。
 もちろん軍略家としての勉学・軍略と戦略の編成にも怠ることなく取り組んでいる。常人ならばこのハードな内容に倒れるくらいだが、ミーシャが折れることはなかった。

 「……っ、はぁ……はぁ……」

 ノルマの距離を一定以上のペースのまま走破してその場で汗だくのまま倒れ込むミーシャに美羽が「回復」をかける。美羽のサポートもあってミーシャは日に尋常じゃない量のトレーニングをこなせている。

 「次は…魔力のコントロールと強化の修行ですね。お二人とも今日もご指導よろしくお願いします!」
 「はいもちろん。私も一緒に修行させていただきますね」
 「基礎を疎かにしては上へ行くことは出来ません。私自身の向上も兼ねてミーシャ様に付き合います!」

 美羽とクィンの二人はミーシャの行動に最初は驚いていた。自分たちとは違って戦場には行かず城や野営地で指示を出したりするのが、軍略家としては当たり前のことだと捉えていたが、ミーシャは普通の軍略家がやらないようなことをよくやっていた。
 そもそも軍略家など非戦闘系の職業になる者は皆、武力や魔力が優れないという特徴があった。かつてのミーシャもその一人で、王族から「ハズレ者」と蔑まれたりもしていた。
 ミーシャが変わったのは彼女の王国が滅んでから…正しくは一人の異世界の少年…皇雅との再会がきっかけだった。
 彼に自分の想いをぶつけたことで彼女の何かが変わったのが原因か、それまで自身も気付けなかった軍略家としての素質と質の高い魔力がいっぺんに覚醒したのだ。
 加えて皇雅が見せた…汚されて潰されて殺されかけながらも屈することのない諦めない姿に触発されたこともミーシャを大きく変える要因となった。
 もっとも、皇雅本人はそんなことには気づいていないし、ミーシャを変えるつもりもなかったが。

 「かつて私と同じく“ハズレ者”と蔑まれて罵られながらも腐ることなく自分で道を切り開いていったあの生き方は、見習うべきだと思わされました。
 何も無くても腐る理由にはならないということを、あの人の背を見て教えてもらいました!
 だから私は私なりに戦う術を見つけ出し、戦場をこの目で見ながら皆さんに指示を出せる軍略家を目指します!」

 ミーシャの修行の動機の打ち明けに二人を始めとする戦士や兵士たちは感銘を受けた。もう「ハズレ者」の彼女などどこにもいない、誰もが彼女を認めた瞬間だった。

 「―――っ!はぁ、はぁ......走り回って体力を鍛える修行よりも、魔力関連の修行の方が厳しいです、ね...。体力と......精神も削られて、はぁ...はぁ...」
 「そう、ですよね...。私も魔力の強化には本当に心身ともに削られてます......ふぅ」

 荒い呼吸をしてぐったりしているミーシャの呟きにクィンも疲れながらも応じる。魔力を剣に纏わせるという技を、彼女が習得したのは5年前のこと。そこからさらに魔法攻撃を纏わせるという技「魔法剣」へ応用させることに成功したのは最近のことだった。
 「魔法剣」を完成させるのに費やした時間は約5年。それでも彼女の祖父で現役の戦士でもあるガビルよりも早く習得できた逸材と評価されている。

 「だから......異世界から来たばかりのコウガさんが、武器に魔力を纏わせるどころか見たことも無い性質に変化させて武器を超強化させるのを見て...正直嫉妬しました。何年もかかって習得した技をあっさり…それもさらに進化させたものまで実現して……」

 皇雅の戦闘しているところを思い出したクィンはどこか悔しげに呟いた。次いで目線を彼女に移して...

 「やっぱり甲斐田君は飛び抜けて凄い子なんですね。召喚された当初はそんな次元じゃなかったのに、再会した時はとんでもないことになってましたから。本当に凄いなぁ」
 「「あなたも十分規格外ですからねミワさん!」」
 「え...?そ、そう?」

 同じく魔力の修行していたにも関わらず二人と違って息を乱すことなく、皇雅のことで感心している美羽に、二人は同時にツッコみを入れる。
 美羽は最初からずっと異世界召喚組の中でずば抜けて強かった。回復術師という職業でありながら一流魔術師を凌駕する魔力を保持しているといういわゆる「私超TUEE」である。
 しかも彼女は「聖水」というモンストールや不死の生物に特効となる特殊魔法をも完成させている。異世界召喚されてわずか数か月で、だ。

 「でも何より凄いと思えるのが、ミーシャ様のような人物だと思います。自分に何が足りないのかを理解でき、そこから道を切り開いていくそのやり方は素晴らしいと思います...!」
 「しかも最近では軍略家としての才が咲いて出たとか。あのカミラ・グレッドに並ぶのではないかと言われているそうですね。それに魔力も、兵士団の中でも上に位置するレベルですよ!」

 クィンの言う通り、数日前に上位レベルモンストール群(数体災害レベルのも混ぜて)との模擬戦(シミュレーション線)を行い、彼女の指揮の下で戦った結果、兵士団の完勝に終わったのだ。それも、死傷者無しでの勝利だった。
 死傷者ゼロであの模擬戦を勝利に導いたのは過去に10人もいないとされており、ミーシャは大いに評価され、文句無しの連合国軍の参謀への任命を勝ち取った。

 (そういえば、カミラさんは元気にやってるかな?甲斐田君たちと一緒なら大丈夫だと思うけど)

 美羽がぼんやりと思いに耽っていると、ミーシャは照れた様子で微笑む。
 
 「ありがとう、ございます。今の私がいるのは......コウガさんのお陰、です。私にとって、彼は私の目標です。だから、まだこれくらいで満足は、していられません...!来る魔人族との決戦に勝つ為に...!」

 彼女の言葉に二人は身を引き締める思いに駆られる。

 「そう...ですね。魔人族は私の想像をはるかに上回る化け物でした。今のレベルではまだ足りない...。今のさらに上の次元に到達するレベルの強化が...必要になりますね」
 「私もこれまで魔人族とは二度遭遇しましたけど、どっちも力の差があり過ぎて動くことすら困難でした…。私たちだけではきっと敵わないのかもしれません…」

 美羽の見解に二人は同意するように頷く。続いて彼女は皇雅のことについてさらに話す。

 「甲斐田君は…自分が凄く強くなったのは、瘴気まみれの地底にいた災害レベルのモンストールたちを倒して経験値をたくさん奪ってレベルを上げたからって言ってました...。地底には私たちがまだ知らない強くなれる秘密があるかもしれませんね」
 「地底ですか…。そこは致死レベルの瘴気が充満している危険地帯。不死となったコウガさんだからこそ行けるところですから、私たちのようなレベルでもそこに行くのは止めた方が良いですよね…」

 クィンが小さく項垂れて悔しそうに言う。

 (私ならあるいは……)

 美羽だけが地底への潜入を試みようと考えていた。





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