世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

168話「サラマンドラ王国 再び」



 ハーベスタン王国の誰にも知られないままカミラは俺たちと一緒に国を去った。船を出してベーサ大陸に戻り、鬼族の仮里に入る。
 人口は30人近くしかおらずでまだまだ少ない。戦える鬼は一緒に旅した奴らくらいだ。

 「ここが今の鬼族の里ですか。先日ここで大規模な戦いが起こったのでしたよね。その痕跡がまだ残ってますね…」

 カミラは興味深そうに里の様相を見回っていた。生まれてからこの元獣人族の国に入ったことは一度もなかったとのこと。
 しばらく回ってからカミラをみんなのところに連れて行き、紹介する。彼女の特殊な固有技能「未来完全予測」を披露して鬼たちの行動や思考を当てるのを見るとみんな盛り上がった。

 「ねーねー、あなたもコウガのこと、好き?」
 「どうでしょうか………私はコウガのことは弟のように想っていますけれど、もしかしたらいずれ、は……」
 「やっぱりライバルが増えたみたいね」
 「でもカミラも鬼族の仲間になったんだから一緒に暮らすで良いんじゃない?」

 色恋事情が好きな女子鬼たちに早速絡まれていたが楽しそうだ。

 「これは、とんでもない味方が来たんじゃないか?」
 「敵の行動や考えてることまで予測する力……集団戦においては絶対的な力を発揮できるぞ」

 男子鬼たちもカミラの能力にご満悦だ。みんなに歓迎されているカミラは本当に楽しそうだった。
 夜はカミラの歓迎会を開いて楽しく過ごした、その翌日―――

 「修行の旅、ですか」
 「ああ。今日から始める。んで、いったいどこへ行こうか考えてたんだけど……」

 アレンとカミラを連れて早速旅に出た。一緒に旅してた鬼たちは里に残って里興しと他の鬼たちとのコミュニケーションを行っている。
 旅をすると言っても行く先に手強い相手がいることはそんなにない。また魔人族と遭遇することがないわけじゃないが、確率はきっと低い。
 しかしながら行く当てがないわけでもない。俺たちが今目指しているのは北に位置するアルマー大陸だ。
 魔物やモンストールを相手に海上戦を数回やったから大陸に着くのに半日近くかかった。この大陸は俺が異世界召喚された地であり、故ドラグニア王国があった大陸だ。
 そしてこの地にはある魔族の国も存在している。俺たちがそこに用があるのだ。


 「よぉ、意外と早い再会になったな?」
 「ああ。またあんたのところで世話になりたくてな」
 
 竜人族の国 「サラマンドラ王国」。かつて鬼族の生き残り(セン ガーデル ギルス ルマンド ロン)を保護していたところだ。
 そして目の前にいる派手柄の服を纏った壮年の竜人が、族長のエルザレスだ。彼は戦士最強でありかつて模擬戦でぶつかり合ったこともある。実際にとても強い。

 「カイダは相変わらず何も感じることが出来ないが、金色の鬼娘……アレンだったか、お前からは以前よりも強者になったと感じられる。何か強大な敵と戦ったのか?」
 「うん。獣人族を滅ぼしてきた」
 「何だと?」
 「あーそれは―――」

 再会の挨拶を済ませてから屋敷に案内してもらい、これまでの旅のことを話した。

 「…………まさか魔人族が生き残っていたとはな。それに今の魔人族のトップがあのザイートなのか…」
 「奴のことを知ってるのか?」
 「まあな。百数年前ものことだ。奴程の強い敵と戦ったことはカイダ…お前を除けばいなかった。
 ザイートは、先代魔人族のトップの右腕だった男だ」

 百数年前の魔人族のことをよく知っている人物がこんなところにいたとは。

 「ザイートともう一人…気持ち悪い口調で喋る巨漢の魔人とは何度も戦った。殺されかけたこともあったな。あの時から奴らは強かった」
 「………今はそのさらに強いと思うぞ。魔石から生じた瘴気とやらであり得ないくらい強くなったって話だ。俺も分裂体のザイートと戦ったけどやっと互角ってところだった。最近下っ端クラスの奴とも戦ったけど、そいつにも苦戦させられた」
 「お前でさえ手を焼くというのか。今の魔人族……俺の想像をはるかに上回る程の強化を遂げているのか」

 エルザレスは深刻そうに眉間を険しくさせる。その手は微かに震えていた。

 「奴らは、もう動くのか?」
 「ザイート曰く、今から約半年後から動くらしい。準備をするとか何とか。俺たちもその間で修行して強くなろうって考えてんだ」
 「そうか、よく知らせてくれた。これはとても重大なことだ。俺たち竜人族も来る大戦に向けて準備をしなければならんな。魔人族を討つ為に」

 エルザレスの言葉に黒髪の男…戦士「序列2位」のカブリアス、赤髪で尻尾が発達している男…戦士「序列10位」のドリュウなどが頷いた。

 「修行の旅をしているといったな?お前がここに来たということは、そういうことなんだな?」
 「ああ。定期的にここで鍛錬がしたい。あんたらに武術を習いたいんだ」
 「以前ここに来た時も武術を教えたが、どうやらまだ極め足りないようだな。良いだろう。お前に竜人族の武術を全て教えてやる」
 「ありがたい」

 エルザレスは俺の修行に付き合ってくれることを快諾してくれた。カブリアスとドリュウ、さらには他の「序列」戦士たちも歓迎ムードだった。ここにいる誰もがSランク以上の実力者だ。エルザレスとカブリアスに至っては獣人族の王・ガンツよりも強いしな。

 「ところで、アレンよ。鬼族の生き残りたちとだいぶ会えたそうだな?」
 「うん。今は仮里もあって、そこに30人くらい暮らしてる」
 
 ドリュウに話しかけられたアレンは嬉しそうに頷いて答える。そこから鬼族の生き残りのことも話した。


 「やはり亜人族の国では内輪揉めが起こっていたか…。だが“排斥派”が国を出た理由が不治の病にかかったからだったとはな。ディウル(亜人族現国王)の奴は義弟たちが病持ちだってのは知らないんだったな。今のうちに和解しておいた方が良いと思うがな」
 
 確かに仲違いをしている場合ではない。とはいっても両者ともに憎み合ってもいないから、誰かが仲介役をかって二人を会せたら解決できると思う。まあそのうち何とかなるだろう。

 「そして獣人族……よりにもよって魔人族に服従してモンストールの力を取り込んでいたとはな…。強くなる為に邪悪な力を得るというのは、それで道を踏み外すというのは強くなったとは言わない。ガンツの馬鹿は最後までそれが分からなかったようだな」
 
 エルザレスの言葉にアレンは思い詰めた反応をする。

 「さて、今後俺たちはどれだけ強くならなければならないかだが……今のカイダでも手に余る、もしくは負けるかもしれない強さを手にしてるんだったな、今の魔人族ってのは」
 「ああ。特にザイートがいちばんヤバいだろーな。万全状態になった奴と今から戦うなんてことしたら……きっと俺が簡単に負ける。
 魔人族は“序列”持ちも含めてまだ10人以上もいると聞いている。そんな奴らが一斉に侵攻しに来たら……この世界は本当に滅ぶかもな」

 俺の見解を聞いたみんなは茶化すことなく深刻そうに受け止めていた。

 「情報提供はこんなところかな。
 ところで……アレンにも修行の協力をしてほしいんだ」

 話を振られたアレンは「?」な反応をする。

 「俺に鬼族の拳闘術を教えてほしい」
 「私が……?」

 アレンはびっくりした反応を見せる。そんなに意外か?

 「後でセンやスーロンにも教えてもらうつもりだ。みんなが持ってる武術の知識と型が必要だ。俺に必要なのは正しい、洗練された技だからな」

 「う、うん。教えるのは良いんだけど…。それだけで良いの?」

 アレンは特に嫌そうな反応は見せず、単に疑問を呈した。

 「それこそが今の俺にはすごく必要なんだ。俺はこれまでザイートや他の魔人族にオリジナルの武術をいくつかぶつけたんだが、どうも決まりが悪かったんだ。今の技術はまだまだ粗末だと思う、アレンたちと比べるとな。ただ力が強いだけじゃあこの先の戦いではきっと大苦戦する」

 間近で見てきたアレンら鬼族の拳闘武術、以前戦ったエルザレスの竜人武術、どれも正確で洗練された、無駄が無い動きだった。俺が求めるのはその境地だ。
 ちなみに単純な力の強化なら自分で何とかできる。

 「俺にまず必要なのは技術だ。相手の急所を正確に突く技とか身体をより自在に正しく扱って繰り出す技とかな。
 とにかく今の俺にはそういった“技”に関する経験が圧倒的に不足している。
 拳闘武術の指導、引き受けてくれるか?」

 真摯にお願いをする。するとアレンは俺の手を握って優しく微笑んだ。
 
 「コウガがこんなに頼ってくれるなんて……嬉しい!もちろんコウガの為にいっぱい教えてあげる!」
 「ありがとうな、よろしく」

 快諾してくれて嬉しく思う。しかし話はこれで終わらなかった。

 「えーと、その代わり!拳闘術を教えるその日だけ、私の言うことを何でも聞くこと!約束できる?」
 「…………何でもってのは?」
 「私を喜ばせること何でも!」

 即答だ。よく見ると後ろでカミラが策士みたいな感じを出している。彼女がアレンに吹き込んだな?全く上手いこと言いやがる。
 まあ別に良いか。相手がアレンだしな。

 「ああ、その条件飲もう。アレンの言うこと聞いて強くなれるなら安いもんだ」
 「うん! やったぁ」

 アレンは年相に喜んだ。好き合った仲だし、多少えちちな頼み事も……まあ受け入れるか。


 「コウガ。私にもしてほしいことがあれば、アレンと同じように条件付きで聞きますよ?」
 「またお姉ちゃんプレイか?」 
 「そ……それも良いですけど、私も色々と―――」

 こうして俺の修行の目途は立った。鬼族と竜人族、二つの流派の武術を極めることで俺は更なる強化を遂げられるはずだ。
 この後エルザレスたちも同じような要求をしてきたが、調子に乗るなとデコピンをお見舞いしてやった。


 「あ、そういえば……数日前に人族の男が訪ねて、滞在しているんだった。紹介してやろうか?」

 エルザレスの案内でその滞在者のところへ行くと……

 「あ!テメーは!?」
 「や、やあ……久しぶりだね。まさかこんなところで再会するなんて」

 俺と雇用関係を結んでいた情報屋コゴル。アルマー大陸にモンストールの大群が襲撃すると聞いてどこかへ亡命したと聞いていたが、まさかここにいたとは。

 「しばらくイード王国に避難した後、この大陸に戻ってみたは良かったけど、僕の家は跡形もなく消えてしまっていてね。こうしてサラマンドラ王国で住まわせてもらてるのさ。ドリュウさんの伝手で」

 なるほどな。まあとりあえず、だ。

 ゴチン! 「いだぁ!?なぜ拳骨を!?」
 「ハーベスタン王国に俺の素性を勝手にチクっただろ。いつか殴るって決めてたから、今ブッてやった」

 涙目になったコゴルにそう言ってやった。

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