世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
166話「それぞれの動向」
名も無き大陸のはるか真下…地底に存在している、魔人族の本拠地にて――――
「ウィンダムの生体反応が、完全に消滅しました。彼も恐らくは……」
「またカイダコウガとかいう人族の少年か…。今の人族如きが俺たち魔人族を殺すなど信じ難いことだと考えていたが、認識を改めざるを得なくなってきたな」
円卓のテーブルにてベロニカから報告を聞いたヴェルドは不機嫌をあらわにする。
「“序列”を与えられていなかったとはいえ、最近のウィンダムの実力は下位の“序列”を持つ同胞二人と同等あるいはそれ以上のものだったと思われます。その彼を殺してみせたカイダコウガ……。私としてはこのまま見過ごすのはいかがなものかと考えております」
「確かにそうだな。人族のガキ如きに、これ以上魔人族を舐められるのは我慢ならない。こうなれば俺がその芽を跡形残さず消し去って―――」
語気を荒げてそう言いかけたその時、部屋の中央に設けられていた大きなモニターが起動し、そこにザイートの顔が映し出される。
「それはダメだと言ったはずだぞヴェルド。勝手は許さん」
「……父上」
「あらぁ?ザイート様、起きてたのォん?」
部屋にいるヴェルド、ベロニカ、そしてもう一人…オカマ口調で喋る巨漢の魔人、ネルギガルド(“序列5位”)が、一斉にザイートに注目する。
「勝手って、あんたがそれを言うのか?自分がその勝手をやったせいであんな無様を晒して戻ってきたのだろうが」
「あぁ?まだその話を掘り起こすのかよ、もう十分謝っただろうが」
「ったく、もうこれ以上勝手を起こしてくれるなよ?あんたがああやって突然消えられると何が起こるのかと肝を冷やすんだからな」
「だーからもうしないっての。それに今回の地上での散策は価値あるものだったぞ?お前らが今話題にしている、屍族に近い人族のガキと会えたのだからな」
「カイダコウガ……分裂体の父上を追い詰め、ランダ・ミノウ・ウィンダムをも殺している。奴の実力は“序列”持ちの同胞レベル相当だぞ」
「かもな。それにあのガキが危険だってのは正しい見解だ。実際にこの目で見たが、あのガキは無限に強くなる固有技能を持っている。俺の肉や死んだランダの肉を喰らって強くなりやがった。おそらく今も強くなり続けているだろうよ」
「………やはり今すぐ消しに向かうのがよろしいのでは?」
ベロニカが微かな不安を含んだ顔でザイートに進言する。
「いいや、放っておく。奴の成長を止めたいというのなら、奴に同胞を近づけさせるな。ウィンダム程度では奴を消すのは不可能だった。ならば屍族も同然だ。あいつらをけしかけても刺客にすらならない。あのガキの前では全てがただの餌として喰われるだけだ」
「では、この後すぐにでも世界中の屍族を回収しに回らせます。ネルギガルド、頼めるかしら」
「はぁい、お任せ!でもあたし一人だとさすがに時間がかかるかしらねぇ?」
「なら……クロックあたりも使わせるわ。謹慎もそろそろ解ける頃でしょうし。いかがでしょうかザイート様」
「おう、異論はない」
ベロニカはありがとうございますとお辞儀をしてからさらに続きを話す。
「まだ支配下においていない魔物たちもそろそろ従わせましょうか。反抗するようであれば“屍族化”も辞さない方針で良いかと」
「この世界であたしたちに反抗する魔物なんていないと思うのだけどぉ?」
「最上級…人族が言うにはSランクとやらの魔物は知能が高く、すぐには従属しないそうよ。ああいう頑固な連中は“屍族化”してしまった方が早いでしょうね」
「これからしばらくは同胞と屍族、魔物どもをなるべく我らのホームにとどまらせるべきだな。カイダコウガとやらの成長を妨げる為だ。この世界を支配する準備とはいえ、少しめんどうな作業だな」
ヴェルドが片肘をついてため息をもらす。
「カイダちゃんって子、そんなに脅威があるって言うのぉ?そこまで用心する必要があるなんてねぇ?」
「たとえお前たちでもただでは済まないのは確実だ。侮っていると死ぬのはお前たちになる可能性もある。それだけは全員頭に入れておけ」
ザイートの言葉に三人とも姿勢を正して了解を示す。
「話を変えることになり恐縮ではございますが……ザイート様、調子はいかがですか?私の魔力をたくさん込めて作ったその療養装置、カイダコウガにつけられた傷ならそろそろ治る頃だと思います。それと後遺症も残さないよう心がけてもいます」
「ああ問題無い、傷は塞がっている。お前も今回俺の為に魔力を随分消費したことだろう。しばらく安静にしていろ」
「はい、ありがたきお言葉……!」
ベロニカは恍惚とした表情を浮かべて微笑む。
「そういえば“成体”になると言っていたな。いつになりそうだ?」
「どう頑張っても半年はかかる。だから、本格的に動くのは今から半年後だ…!」
「ついに、始めるんだな」
ヴェルドの口の端に笑みが浮かぶ。ベロニカもネルギガルドも愉快そうに笑う。
「あんたがここに戻るその時こそが、世界が我ら魔人族のものになる時だ……!」
「おう、想像しただけでも楽しくなってきただろ?」
ザイートの口にも邪悪な笑みが浮かび、くつくつと笑う。
「さて、俺はそろそろ寝る。ああそれと、ネルギガルド。お前が最近滅ぼした鬼族だがな、生き残りが何体かいたぞ。お前のことを激しく憎んでいたな。いずれ復讐しにくるだろうよ、用心しておけ」
「あらら?鬼族の里をしっかり滅ぼしたはずなんだけど、逃がしてしまったのかしら。いずれにしろこれは失態ねぇ。あたしが全員ちゃんと皆殺しにしておくわね!」
「ああ。じゃあな」
療養部屋に設けられているモニターの通信を切ると、ザイートは療養槽の蓋をゆっくり閉じさせてまた眠りにつこうとする。
「傷は癒えた。あとは“成体”に成るだけだ。外の準備もぬかりなく進ませている。
半年………あと半年だ!百数年前に喫したあの忌々しい敗北を塗りつぶすには、やはり勝利という色で染める他あるまい。
《《今度は》》“俺”が勝利を掴む。確実にな…!この力全てを使って全てを消し去り、新たな世界を創り上げてやる。クク、クックック………!!」
*
皇雅とアレンがサント王国を出てから一週間後。ガビル国王は世界に存在する全ての大国……イード王国・ハーベスタン王国・ラインハルツ王国の各国王に、連合国軍結成の話をもちかけた。
ガビルは大国の国王たちに映像越しでここ最近起こった出来事(獣人族と魔人族のこと)を報告し、いずれ来る魔人族による大規模な世界への侵攻の脅威を訴え、連合国軍の結成の必要性を説いた。
連合国軍の結成と加入に最初に賛成したのは、ハーベスタン王国のニッズ国王だった。ハーベスタンでは過去に百を超える数のモンストール群による大規模な襲撃事件が起こり、モンストールの脅威を深刻に受け止めていた。ガビルの提案を聞くと大いに賛同し、すぐに加入の意思を表明した。
それを見たイードの国王…ルイム・イードも、ラインハルツの国王…フミル・ラインハルツも賛同の意を表して連合国軍に加入。こうして百数年ぶりに複数の大国から成る連合国軍が結成された。
それに伴って各大国の兵士団を一同に集めて連携の訓練などを取り入れるようになた。
それから数日後……
「カミラさんが国を出たのですか……!?」
「ああ。彼女はこの国の軍略家であることを辞めた。同時にこの国からも出て行った…」
ある日ハーベスタン王国との連携訓練を行うべく美羽とミーシャが王国に訪れたところ、ニッズ国王からそんな報告を聞かされた。美羽はもちろん、同じ軍略家であるミーシャにとっても衝撃的でショックなことだった。
「カミラさんは、今どちらに……」
「それは分からない。ただ彼女は最後に、“私が本当に仕えたいと思える人が出来ました。私の本当の居場所に行かせて下さい” と言っていた」
「…………やっぱり、《《あの子》》のところへ行ったのかも…」
カミラの行く当てを察した美羽は苦笑いを浮かべる。同時に安心もした。「彼」のところなら大丈夫だろう、と。
一方ラインハルツ王国では、縁佳をはじめとする3年7組の生徒たちが、ラインハート兵士団長による鍛錬を再び行っていた。更なる成長を求める縁佳は今まで以上に鍛錬に精を出していた。
「殺す気でいく。死んでたまるか!って気持ちで来い」
「はい――――」
ラインハートの超スパルタに対しても縁佳は音を上げることなく必死についていった。
連合国軍は魔人族との決戦に備えて着々と力をつけていった。軍が目標としている戦闘レベルは、百数年前に存在していたとされる初代異世界転移組の戦士たちがいた軍以上としている。
敵はさらに強化された魔人族に加えてモンストールもいる。過去を凌ぐ歴代最強の軍をつくることは必須とされていた。
それを理解している兵たちは日々強くなることを考えて日々を生きていたのだった。
一方の魔人族勢力も、ヴェルドとベロニカの指示の下で戦力を順調に確保していった。世界中のモンストール(屍族)を魔人族の号令の下に集め、魔物を従わせていった。従わない魔物は殺して死体に変えてから瘴気を取り込ませてモンストールに変えていったのだった。
そして………皇雅もまた、来る決戦に備えるべく修行の旅へ出たのだった。
*
皇雅たち桜津高等学校3年7組がこの世界に召喚されてから約7か月経ったこの時―――
人族大国の連合国軍・魔人族・皇雅と鬼族………この三勢力がそれぞれ大戦の準備を始めてから約半年経った今―――
物語は再び大きく進むことになる――――――
獣の王国編 完
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
22803
-
-
55
-
-
337
-
-
49989
-
-
6
-
-
310
-
-
37
-
-
35
-
-
93
コメント