世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
165話「旅立ち/もう一つの決着」
それからまたしばらく経った後、今度は高園が訪れてきた。今日は訪問者が多いなー。
「テメーは何のようだ?」
「その………これからどうすればもっと強くなれるのかなって相談しに…(“は”ってことは誰かがここに来たのかな?)」
高園に鍛錬方法のことで相談され、テキトーに応じてやる。こんな狙撃攻撃が出来れば大幅に強くなれるんじゃねーかとか、ほんの少しだが漫画やラノベに出てくる狙撃キャラの必殺技を教えてみたりとか言ってみた。高園は俺の話を嬉しそうに聞いていた。
「…………明日から本当に出て行っちゃうんだね。私はこうg………甲斐田君にはここに残って欲しいって思ってるんだけど……」
「無理だな。もちろん人間関係のことが大きな理由になってるけど、俺自身も真面目に修行しないといけねーって考えてるし。ぶっちゃけ俺がこんなところにいても全然強くなれねーし」
「………甲斐田君がドラグニアで遭った魔人族がいちばん強い個体で、甲斐田君でもとんでもなく強いって思わされるくらいだったんだよね?」
「ああ。奴に勝つ為にはガチで鍛えるルートは避けられない」
高園は何故か頬を少し赤らめて俺に微笑みかける。
「何だか、部活動に打ち込んでいる時と同じに見えるね。あの時みたいに必死に努力しようとしてるのが凄く伝わってくるよ」
「そうなのかもな。まあ元の世界ではレースで勝つ為。この世界では奴との命を懸けた戦いに勝つ為と、規模と重みはだいぶ違うけど」
「うん……そうだね。でも甲斐田君ならきっと勝てるよ。私はそう信じてる」
「それはどうも」
「人のことは言えないけれど……修行頑張って!」
不思議と、今日の高園とは穏やかな気分で話すことができた。
その日の夜は本当にパーティーが開かれて、兵士たちや国王、元クラスメイトなどが参加して楽しそうに飲み食いしていた。ちなみに国の要人どもは招待されていない。パーティーに参加しているのは潜入調査に行った奴らくらいだ。特別にミーシャも参加しているけどな。
俺はというと…アレンやクィン、ミーシャくらいとしか会話はせず、クラスで固まっている藤原たちとは全く話さなかった。
「何だか、異世界召喚したあの日の夜のことを思い出しますね。こうして同じようにパーティーを開いてました」
「そうだったな」
あの日から全てが始まった。色々あり過ぎた。俺なんか一度死んだし。あれからまだ一か月程度しか経っていない。濃過ぎる時間を過ごしたものだ………。
そんなこんなで夜が過ぎ、朝が来て、俺とアレンがサント王国を出る時がきた。
「私もまた鍛錬をするわ。回復魔法をもっと極めてみようと思うの」
「そうか。頑張れ。あんたなら究極の回復魔法を会得できるかもな」
「ええ!誰も死なせない最強の回復術師になってみせるわ!」
藤原が握手を求めてきたので応じる。彼女の手は温かかった。
「時々この国に来てくれませんか?一緒に鍛錬したいと思ってますので」
「んー、気が向いたら?」
クィンとも握手をする。アレンに見てよろしくお願いしますと言うとアレンは嬉しそうにクィンに抱きついた。
「ん?テメーらもいたのか」
「まーね。いちおうあんたもクラスメイトなんだから」
後ろにいる曽根に話しかけるとそう返される。意外過ぎる返答に少し驚く。
「………テメーらももうちょっと強くなっとけよ。じゃないとこの先の戦いでマジで死ぬぞ」
「そのつもりよ。もっと強い防御魔法を習得してみんなを守るんだから!」
曽根はきりっとした顔で俺にそう宣言する。彼女の隣に堂丸が並び立ち、俺に指を突き付ける。
「お前なんかに負けはしねー。いつかお前の顔面に拳を叩き込められるくらいに強くなってやる。あと、高園を守るのも俺だからな!」
「あっそ」
意外だな、こいつが俺にそんなことをわざわざ言いに来るなんて。何か変な物でも食ったか?
「必ず皆さんを元の世界へ返す魔術を完成させます。コウガさんも修行頑張って下さい!」
「今度は、一緒に戦えるくらに強くなってみせるから…!!」
ミーシャと高園の言葉に頷くと、アレンと並んで王宮の門から出る。
「まずはハーベスタン王国に行こうか。カミラから呼ばれてるんだった」
「ん。行こう!」
異世界での旅がまた始まろうとしている。今度は修行の旅になりそうだ―――
*
場所は変わって、ここはデルス大陸の某所―――
夕焼けが差し掛かかっていることもあり、辺りは赤く照らされている。近くには火山があり、最近噴火活動があったことから火山灰が絶え間なく降り注いでいる。
周囲の地は荒れ果てており、魔法攻撃による爆発痕、鋭利な何かによる斬撃痕が至る所にある。ここで激戦が繰り広げられていたのは言うまでもない。
「ぐ………ごぽっ」
髪の長い男……魔人族ウィンダムが口から血の塊を吐き出して膝を地につける。両腕を失っている為傷口に手を当てることすら出来ない。致死量レベルの血を流してしまい、立ち上がることはもう不可能となってしまっている。
「まさ、か………こんな力を有している人族が、“彼”以外にもいた……なんて…………っ」
ウィンダムは今にも死にそうな状態にまで追いつめられていた。体力と魔力は枯れ果ててしまい、欠損した腕・脚と腹・背・胸からは血が流れ続けている。もはやいつ死んでもおかしくない状態だ。
「弱体化しているとはいえ………魔人族である僕を死―――」
ズバン――!
相手はウィンダムの首を無慈悲に刎ねる。刎ねた箇所から血が噴水のように湧き出て、ウィンダムの体は糸が切れた人形のようにどさりと倒れる。
「………!!痛い、なァ……。生命力が強過ぎることが、今ではこんなに不要に感じるなんて、ね……」
「――――ったく、首を刎ねたのにまだ死んでくれないのかよ。今の魔人族ってのは本当に不死身を疑うレベルの超タフな化け物になってんだな」
先の一太刀から残心をとった人族の男は、うんざりした顔で振り返り、武器である「刀」の形状をした武器を構えて油断なく向き合う。
「僕を………完全に殺し、たいなら……脳を完全に破壊すると、いいよ…」
「そんな重大なことを敵の俺に親切に教えてくれるんだな?」
「…………もう力が残っていない。再生することは、不可能だ…。キミから逃げ切れたとしても、どうせ死ぬ…。“種”もつくれない、し………。なら最期は潔く敵に殺されて、あげるよ…」
「そうかい」
警戒したまま男は「刀」を構えてウィンダムの頭部に近づく。
(この男のあの力はいったい………?カイダコウガ君とは異なる色の力………………いや待て!?あれは、まさか――――)
虚ろになりかけたウィンダムの目が見開かれる。
「キ、ミは………まさか!?あの時と同じ…………っ」
「すまんが俺はお前のことは知らない。憶えてもない」
再び無慈悲に「刀」を振り下ろそうとする男の目に慈悲など欠片もない。ウィンダムは何かに気づいたことで、その顔に歪んだ笑みを貼り付ける。
「そう、か………まだ、いたんだね。 ――――――、が……!」
途中で声が掠れてしまい何を言ったのかは不明だ。迫りくる「刀」を目にしてもなお、ウィンダムは笑ったままだった。
「キミも……カイダコウガ君と同じ、魔人族を脅かす存在……!」
ピクッと、男の手が一瞬止まったが、すぐに動きを再開させる。
(残念だ………こんな形でこの僕が終わってしまうなんて……。魔人族の時代が始まる瞬間を目にしたかったなァ……。仕方ない、この続きは…………あの世から見せてもらおうか!!)
「まじ、ん…ぞく……に!!えい、こ、う………あ、れっっっ」
ザン………ッ
脳を両断され、ウィンダムは今度こそ絶命した。「命の種」によるストックもなかった為、彼は本当に死んだことになる。
「はっ――――」
男は目にも見えない早業の剣技で、ウィンダムの体を粉微塵になるまで斬り続けて、最後に魔力を炎のように熾して全て消し去った。
「これだけやれば、もう大丈夫だろう」
男は疲弊した表情を浮かべて、「刀」を振るって血を落とす。
「弱体化していたとはいえ、さすがは魔人族。やはり一筋縄じゃいかなかったか」
残心を解いた直後、疲れた様子をみせる。
男――――ラインハルツ王国兵士団長 ラインハートは、ウィンダムに刻まれた複数の傷に回復薬を塗って応急手当をはじめる。
戦闘服としている和装束は、時代劇などでよく見られる侍装束と変わらない。
「まさか、自主訓練しようとした先に魔人族がいたとはな……。想定外の傷を負った。いや、この程度で済んだだけ幸運だったと言うべきか。あいつの本来の力はあんなものではなかったはずだ。Xランクは下らないレベルだったろう」
慣れた手つきで傷を包帯で塞いでいく。
「それにしても、 “カイダコウガ” か………」
ラインハートはその名前を呟いて思案する。
「あの魔人を弱らせたのは、まさかそのカイダだったのか……?」
その後も色々思案しながらも傷の手当を済ませる。灰色の空を見上げながら小さく呟く。
「いずれ来るのだろうな。百数年前と同じ規模の、世界を揺るがす大戦が」
それからしばらくすると、懐から通信端末が振動しながら鳴り響いた。めんどくさそうに取り出して応じる。
「俺だ………………ほう?分かった。すぐに戻る」
通信を切るとすぐに立ち上がって、ラインハルツ王国へ駆け出すのであった――――
*次回 ようやく章の終わり
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