世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

164話「ここは王道を行こう」



 謁見が終わってから早速アレンと一緒に冒険者ギルドへ行き、冒険者の登録抹消を行った。
 俺たちが辞めると宣言した瞬間、担当の受付嬢…メラとかいった女はひどく狼狽し、考え直すようにと何故か説得される。もめているとギルド長が現れて事情を聞くと彼も非常に慌てた態度になり俺たちを止めようとした。
 二人の説得を全て無視して、解約手続きをとっとと済ませて、正式に冒険者を廃業した。
 「この国の宝がぁ!!」と嘆くギルド長を放置してさっさと出ていく。それからやることが特に無くて王宮で用意された部屋に帰ったのだが……

 「で、甲斐田君はアレンちゃんのこといつ好きになってたの?」

 部屋でアレンとくつろいでいると藤原が勝手に入ってくるなり、そんなことをずけずけと聞いてきた。

 「すごくうきうきした顔じゃねーか」
 「そりゃもう!仲が良いなーって思ってはいたけど、いつの間にか好き合っていた関係になってたんだから!私もびっくりしてたんだからね、さっきの謁見で君が言った言葉には」

 目をきらつかせて紅潮した顔ではしゃぐ藤原は何だか女子高生みたいだ。これでも学校の先生なんだぜ、彼女。

 「まあ………これだけ一緒に旅して、会話も楽しくしてたらねぇ。ゾンビでチート級の力を持ってる俺だけどさ、これでも十代後半の男子高校生だ、こんな女の子に好意を寄せられたら………分かるだろ」
 「うん!分かる!!甲斐田君は無茶苦茶で口も悪くて敵をいっぱいつくってしまう問題児だけど、それでも私は嬉しく思ってるから!君に仲間……しかも恋人ができたことに!」
 「あー、うん。それはどうも……」

 全く褒められてる気がしないがいちおう嬉しく思ってはいるようだ。

 「それで………甲斐田君は本当にこの国から出て行って、獣人族がいたあの国…今は里になってるのかな、そこに住むことにするのね?」
 「ああ。田舎そのものなところだけど、この世界は元々娯楽なんか全く無いからあまり気にならないかな」

 そろそろゲーム・漫画・ラノベ・アニメが恋しくなってきてるけどな……。

 「それもあるんだけど、その………私やクラスのみんなと会えたんだし。蟠りがまだ解消していないのも分かってるけれど、数少ない同じ世界の者同士なんだし……出来ればみんなと……特に堂丸君や中西さんと少しは仲直りなんかを………」
 「いやあいつらとの間に元々仲なんてなかったから。というか無理なんじゃねーか?堂丸もそうだし、特に中西なんか未だに俺のこと化け物を見る目をしてたぞ。あれは重症だ。溝なんてもう埋まらねーよ」
 「私は………そうは思わないかな。君ならみんなとも打ち解けられるんじゃないかって………」
 「仮に俺がそうだとしても、あいつらはどうだ?俺以上に拒絶が酷いんじゃねーか。この世界でも元の世界でも同じ、誰とも仲良くすることはできねーしする必要も無い。大人のあんたなら分かるだろ」
 「それは………」

 後ろからアレンが腕をそっと交差させながら俺の体を包み込む。抱擁してくれたのだ。俺の背中から寂しさを感じたのだろうか。

 「こうして分かり合ってくれる子、普通に仲良くしてくれる人がいるんだから、それで良くね?」
 「そう、なのかもね。私としてはもう6人しかなくなった数少ないクラスメイト同士ちゃんと仲良くなって欲しいんだけどね」

 藤原は寂しそうに小さく笑う。俺は感情の無い目で一瞥して顔を背けて、小さくため息を漏らす。

 「それはそうと、そのクラスメイトたちの様子を見てきたら?昨日の獣人族との戦い、あいつらにとって相当キツいものだっただろーからな。あんたがまた看てやったらどうだ?」
 「そうだね……。それに二人の仲を邪魔しちゃいけないしね!じゃあまた今夜のパーティーでね」

 そう言って藤原は部屋から出て行く。そこからしばらく俺たちは何をすることもなく過ごしていると、また誰かが訪れてきた。ノックされるドアを開くと……

 「ああ、お姫さんか」
 「と、突然すみません。話がしたくて………今大丈夫ですか?」

 俺は何も言わずにドアを開けたままソファに戻る。ミーシャはありがとうございますと言って部屋に入り、向かいのソファに座る。ベッドで寝転んでいるアレンを見ると顔を少し赤らめる。

 「そ、そういえばお二人で使ってられてるのでしたね…!アレンさんもお久しぶりです」
 「ん………」

 アレンは短く返事するだけで、それきり飼い猫のようにミーシャをジッと見つめている。

 「私にサント王国の機密情報を開示させる為に、カイドウ王国への危険な潜入調査をこなすだけでなく、恐ろしい力を得た獣人族……さらには魔人族とも戦い、勝利してくれたこと。改めてそのお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます…!」

 ミーシャは俺に深くお辞儀をして感謝の言葉を述べる。

 「まあ……機密情報を得たからといって異世界転移の魔術の完成に繋がるかどうかは分からねーけどな。にしても約束を守ってくれてよかったぜ。国王が連合国軍の加入を断ったからって情報開示の件をなかったことにしやがったら、お前をさらってこの国からすぐ出て行こうって考えてたからな」
 「そ、そんなことを考えてたのですか…!?」

 ミーシャは激しく動揺しながらも何故か顔を赤らめた。

 「で、魔術の完成は今どんなところだ?」
 「は、はい……最近では小さな物を異なる次元・世界に転移させることは出来ました。ただ…転移先は私たちが予測出来ないランダムとなり、指定した場所に転移することまでにはまだ至らずで…。ましてや人を転移することはリスクが高くて実験にも移れていません」

 ほう?いちおうはこちらの世界から別のどこかへ転移させるという現象を可能にしていたのか。現段階では小さな無機物を転移させる程度の成果しか挙げられていない、と。

 「俺が望んでいることを実現させるのは、まだまだ難しいか」
 「はい……。ですが、コウガさんたちをこうしてこの世界に転移させた実例がありますから、その逆のことも必ず出来ると信じてますので!しばらく待っていただけますか?」
 「半年待つって言ったろ。まだ待つさ。その間に俺もやることあるしな」
 「やること、ですか」
 「単純に一つだけ―――強くなることだ」

 そう、強くなる。今のままだと魔人族には勝てない。俺の戦闘力はウィンダムのようなレベルとまだ同程度でしかない。奴は自身よりもさらに強い“序列”持ちの魔人が複数体いると言っていた。そして奴らをまとめる族長・ザイート……。
 特にザイートの奴はドラグニアにいた時の状態からさらにパワーアップして復活するみたいなことを言ってたな。きっと想像もつかないくらいの強さになってまた出てくるんだと思う。
 今の俺はまだまだ力不足だ。昨日のウィンダムにしても完全に殺せなかったせいで大したレベルアップもできていない。俺が強くなる方法は敵の肉を「喰らって」経験値をたくさん得ること。後は…

 「やっぱりここは王道を行こう―――修行だ!」
 「修行、ですか…」

 ミーシャはきょとんとした様子で聞き返す。

 「まずは鬼族の仮里に引っ越して、そこを家としてそこから修行の旅で出る。俺はまだこの世界を全て回ってねーし、世界一周でもしながら自身を鍛えてみようかな」
 「何だか壮大な旅になりそうですね」

 ミーシャが楽しそうに微笑む。年相応の可愛らしい笑みだと思う。
 
 「私も、あまりハードなことは出来てませんが、空いた時間を使って自身を鍛えています。最近では物をさらに遠くの地から遠隔操作を出来るようになったんですよ。体力と魔力が上がったお陰です!」
 「そうか」
 「はい!走り込みに魔力を熾す訓練、それと私に適した新しい力のイメージも――――」

 ミーシャはしばらくこの数日間彼女がしてきたことを俺に嬉々と話し続けた。話している時の彼女は本当に楽しそうだった。

 話がひと段落ついたところに、アレンがミーシャにこう言った。

 「お姫さんって、コウガのこと好きなの?」
 「~~~~~!?(ぼっっっ)」

 分かりやすいくらいテンパり出して赤面する。

 「そ、それは……その……」

 ミーシャは俺に目線を合わせることができず俯く。アレンはミーシャをジッと見つめていたが、何かを納得した仕草を見せた。

 「鬼族では重婚は許されるから大丈夫」
 「わ、私は何も言って……!?」

 慌てるミーシャから目を逸らしてあくびをする。

 「お前が努力してることはよく分かった。引き続き魔術の完成頑張ってくれ。魔人族がここを襲うようなら俺がそいつらを止めて、排除してやるから。国はどうでもいいけどお前個人を守るくらいならやってやれる」
 「………!あ、ありがとうございます…!」

 それからまた少し話をして、それも終わるとミーシャはさっきよりも良い顔で部屋から出て行った。

 

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