世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
163話「好きな子から一緒に来てほしいって誘われてんだ」
シン…と部屋が静まり返る。大半の奴らが口を開いて固まっている。正面にいるガビルですら面食らっている。
「甲斐田君……!?」
「「……………!」」
藤原が少しわたわたしながら俺に駆け寄る。高園とクィンは俺が何を考えているのかを模索しているってところか?
「……………理由を聞かせてもらおう。何故《なにゆえ》この国に住むことを…連合国軍へ加入することを拒否するのかを」
気を取り直したガビルがそう尋ねてくるから、俺はえ?っと意外そうに答える。
「分からないか?どうして俺がこんな奴らの味方にならないといけねーんだ?」
さっきとは色が異なるざわめきが部屋を包む。傍にきた藤原が唖然としたまま動きを止めてしまう。
「だってお前これさぁ、どう見ても俺だけ歓迎されてねーじゃん。藤原は大歓迎されてるみたいだけど、俺の話になると全員あからさまに態度を悪い方向に変えたじゃん。そんな連中の味方になりたいと思うか?俺は嫌だね。こいつらの嫌な視線に向けられる日々なんて馬鹿げてる」
声のトーンを上げて無礼な態度で発言しまくる。俺にヘイトがだんだん集まってくる。
「俺は、この世界と人族が大嫌いだ。反吐が出るとまでは言わねーけど、元の世界と比べりゃクソ喰らえだと毎日思い続けてる。現にこうして俺はテメーらから不快な視線を向けられてる。ウザったくてしょうがない」
魔力を熾して脅してやると俺に向けられていた不快な感情や視線は霧散する。
「俺は人族の味方にはならねー。かといって敵対する気も無い。個人個人となら関係を築いても良いと思ってるけど、こういった国とか連合国軍とか大規模なグループに溶け込む気は微塵も無い」
「しかし君たちはこの国で冒険者登録をしているのだぞ。そうである以上は、君たちはこの国に冒険者として貢献してもらう義務がある。これはあえて伏せていたことなのだがな」
あ………そういえばそうだった。俺ってまだ冒険者やってたんだった。じゃあ…
「 もういいか 」
「俺、冒険者辞めるよ。この後ギルドへ行って廃業手続きするわ。これで俺は非国民だ」
「ん?じゃあ私も冒険者辞める」
またも部屋がざわめく。ミーシャとシャルネが目を丸くさせてポカンとして、元クラスメイトどもは「どういうことだよ!?」といった反応をしている。
「……………それ程までにこの国が嫌いだというのか?」
「全部が嫌いってわけじゃない。良い奴もいるにはいる。でも俺にとってそれはほんの数人しかいない。俺を良くないと思っている連中が大半だ。ドラグニアとあまり変わらない。俺はな、一人でも嫌な奴が同じ空間にいるのが我慢ならないんだ。元の世界では嫌々思いながら過ごしていたけど、この世界なら……今の俺なら好きなところへ行ける」
それからガビルと何回か質疑応答を繰り返していると、周りから野次が飛び交う。
「国王様が直々に頼み込んでおられるというのに、態度が悪過ぎる!」
「貴様が要求した内容を承認したというのに、なんて勝手な!」
「さっきから我々を愚弄した発言をよくも!撤回しろ!」
耳障りな野次を黙らせるべく、「空気をぶん殴る」。ドガンだかズゴォンだかの大きな音が鳴り響き、全員を黙らせる。
「そういうところが嫌いだっつってんだ!何なのテメーらは?さっきから偉そうに。そりゃ実際に偉いんだろーな。貴族やら大臣やらといった地位や階級を持ってるから偉い。俺がいた世界もそうだったよ。権力を持つ奴が偉くて常に上に立つ人間なんだって」
俺は呆れを含んだため息を漏らす。
「だけどそれは俺がいた世界での話だ。この世界って言うならば戦時中ってわけじゃん?モンストールがいて魔人族がいて、それらに紛れた魔物もいる。この世界には人間の敵が多過ぎる。だったらさ、敵と戦いだらけのこんな世界の今って、武力で戦える力ある奴こそが偉いんじゃねーかって思うのは俺だけか?」
誰も反応しない。思うのは俺だけなのかなー。まあいいや、気にせず続ける。
「ロクに敵と戦えない、椅子にふんぞり返って座ってるだけのテメーらが偉い?上に立つ人間?馬鹿じゃねーの。テメーらはこの時代この世界で何か築いたか?誰かを救ったか?モンストールを減らしたか?
どうせ何も成し得てねーんだろ?無力で無能なくせに口から出るのは「自分らに対してなんて無礼な」だとか、俺みたいな貴族でも何でもない人間を見下し蔑む言葉ばかり。雑魚どもが、何様のつもりだ?」
「「「「「――――――」」」」」
国の要人どもが揃って俺にヘイトの視線を向ける。しかし何も言い返せないでいる。自分たちは無力でこれまで何も成せていないことを自覚しているのだろうか。
「こんな時代である以上いつまでもテメーらがデカい面して大口叩いてられ―――ぼがっ」
「もう止めておきなさい!―――申し訳ございません!どうか本気にしないで下さい……!」
途中で藤原に口を塞がれて黙らさせられる。俺がもがふが言ってる間、連中に平謝りして頭を下げる。奴らは怒り心頭といった様子で俺を睨みつけていた。
「無茶苦茶言ってやがるぜあいつ……!」
「言ってることは子どもそのものよね……。まあ気持ちはちょっと分かるかもだけど」
「ちょっとそれ本気で言ってる?感じ悪過ぎなだけじゃない、あんな奴」
元クラスメイトどもからも批判寄りな言葉がささやかれる。
「あまり彼らのことを悪く言うのは止めてくれないか」
「―――ぷはっ。………とまあ、ここまでがあんたらのところに付くのを断る理由の一つだ。もう一つ理由がある」
「もう一つというのは?」
「簡単だ。俺はこの後―――鬼族の仮の領地に移り住むことにする」
「「「「え………!?」」」」
クィンと藤原とミーシャと高園が揃って驚いた声を上げる。
「俺は人族なんかの味方じゃねーけど、鬼族の味方ではある。だからこれから鬼族と友好関係を築くことにする。タイミング良く鬼族が暮らせるところもできたしな。それに………」
俺は隣にいるアレンに目を向けながら言い放つ。
「大切な仲間………《《好きな子》》から一緒に来てほしいって誘われてんだ。行くに決まってるだろ」
再び静まり返る。今度は敵意の視線は向けられなかった。要人どもですら困惑するだけで何も言わない。アレンが嬉しそうに俺に寄り添って微笑んでいる。
「好き、か。そうか………。ははは!そう言われたのなら仕方あるまい」
しばらくしてからガビルがどこにでもいるお爺さんのような笑みを浮かべて何か呟く。威厳が欠けた彼の表情にみんなが困惑する。
「君のような大変貴重な戦力が抜けてしまうのは痛いことだが、本人の意思を尊重しよう。惜しいことではあるが」
「あ………そうそう。この話を断るからといって、依頼任務の褒美の件をなかったことにするのは無しだからな。ズルくて汚い大人どもは都合が悪くなるとそうやって捻じ曲げようとするからな」
「見くびらないでほしい。私は君が思うような汚い人間ではない。男と男の約束なのだからな」
へぇ?この国王は今まで出会った大国の中でいちばんまともな奴だな。この件がいつ男と男の約束になったのかは置いといて。
それから形式的な会話と挨拶を経て、謁見は終わりとなった。ガビルのはからいで兵士団による祝勝会的なパーティー?に出席してほしいとのことで一日だけ王宮でゆっくり過ごすこととなり、元いた部屋に戻ったのだった。
「「「………………………」」」
皇雅とアレンが部屋から出て行く様子を、クィンと縁佳とミーシャは呆然と見ていた。3人とも一言も発することが出来ずにいた。
(大切な仲間………《《好きな子》》から一緒に来てほしいって誘われてんだ。行くに決まってるだろ)
3人の頭の中では少し前に皇雅が言い放った一言が何度もリフレインしていた。
(好きな――――子
好 き――――――)
誰が好なのか。好きな子とは誰のことか。3人の頭の中ではそういった思考がぐるぐる回っていた。
(あの時あの場で言った好きな子………やっぱり)
(どう考えても一人しかいない、よね………)
(先日ここで再会した時からずっと一緒に、隣にいたからやっぱりそういう関係になっていたのですね………)
クィン・縁佳・ミーシャは、皇雅が好きと断言した相手のことを思い浮かべて、その色々な圧倒的な強さに遠い目をしてしまった。
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