世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

162話「好き/誘い」



 崩壊した体が元に戻り調子を取り戻したところで、重力魔法と嵐魔法を駆使してみんなを飛ばしてサント王国まで飛んですぐに帰った。着いた頃には夜空が広がっていて、時間も日付が変わる一歩手前になっていた。
 王城へ向かうと衛兵たちが接待してくれて、すぐに部屋に案内してもらい、みんな休んだ。国王との重要な話は翌日にするということになった。

 「…………ものすごく疲れてるのに、眠れない」
 「分かる。俺もデカい試合が終わった日の夜は中々寝付けなかったなー」

 なんて、眠れないということで雑談をして過ごす。しかしアレンが突然俺のベッドに入ってきたのだからびっくりする。

 「お、おい」
 「………一緒に寝たくなった。お願い、一緒に」

 アレンの目は寂しそうにしている。死んだ鬼たちのことを思い出してしまっているのだろうか。仕方ないから同衾を許した。

 「……………キス」

 アレンは俺と顔を合わせて間近でそう呟く。俺は顔が熱くなる錯覚を感じる。

 「衝動的に、しちゃった。ゴメン」
 「ほんとだぜ、初めてだったのに」
 「初めてだったの?」
 「当たり前だ。元いた世界じゃ俺らのような年代でもキスが未経験だなんてこと、珍しくも何ともない。性経験なんてなおさらだ」
 「じゃあ……今度は、ちゃんとする?」
 「……………………」

 俺は何も答えなかった。かといって拒否の意も示さなかった。仰向けになり無防備をさらす。それを見たアレンは頬をピンク色に染めて俺に乗っかかり、お互いの唇を重ねた。

 「……………好き」
 「……………うん」



 それからのことはあまり憶えていない。気が付くと俺に抱き着く形でアレンが眠っていた。

 (俺はゾンビだけど………感情がちゃんとある人間だ。彼女に対してこんなにも愛着が湧いているのだから。この感情は本物だ)

 アレンの頭を撫でる俺の顔は緩み、心地いい感覚が体を駆け巡り、幸せを感じられた。


                  *

 翌朝、使用人たちに食事など色々もてなされる中、謁見の準備をする。
 時間になると部屋を出て、大部屋に向かう途中で藤原・高園と会う。

 「こう……甲斐田君、おはよう」
 「…………ああ」

 小さく手を振って挨拶する高園に無感情の返事をする。昨日も何か言い間違えかけてなかったか?どうでもいいけど。

 「もうちょっと縁佳ちゃんに構ってあげたら?冷たいよ」
 「知るかよ」

 藤原にそう返しながら一緒に大部屋に向かう。その途中で元クラスメイト4人とも会う。

 「…………!」
 「……………」

 堂丸が身を強張らせて俺に視線を飛ばす。特に敵意は感じられないが歓迎もされてもいない。中西も同じようなものだ。
 こいつらとの間にある溝はそのままだし、埋める気もない。ただの他人として見ていいだろう。4人を無視してアレンを連れて先に大部屋に入る。
 中には先日と同じようなメンバーが揃っている。ガビル国王、クィン、兵士団長、ミーシャ元王女………の隣に元王妃のシャルネも今日は出席している。ドラグニアで見た時よりも痩せてないか?彼女の病は相変わらずのようだ。後は国の要人連中が数人といったところか。
 何だか連中が俺に注目している。汗を垂らして圧倒されているような様子だ。俺の本来のこの姿がそんなに脅威に見えるのか、まあそうか。

 「では………話を始めようか」

 扉が閉まるとガビルがそう切り出す。

 「まずは………お疲れ様。次いで礼を言う。獣人族の真実は昨日の夜のうちに兵士団から聞いている。魔人族が暗躍していたことも……」
 
 事情は全て把握済みか。

 「報告を聞いただけでも震えずにはいられなかった。世界を滅亡させる力を持つ災厄《まじんぞく》が、獣人族の国にいたとは。獣人族を従えてこの国やイード王国をも滅ぼすことを企んでいたとも聞いた。
 しかし奴らの企みは、この潜入調査に応じてくれた君たちや優秀な兵士たちの活躍によって阻止された。そのことに我々は安堵し、大いに感謝をしている」

 ガビルがそう言った直後、連中が一斉に拍手をする。ミーシャとシャルネも笑顔で俺たちに拍手を送った。

 「特に……カイダコウガ。君が一人で魔人族を討伐したと聞いている。よくやってくれた。この場にいる者たちを代表して改めて礼を言わせてもらう」

 ガビルは座ったまま俺に頭を少し下げて礼を述べる。王族でも貴族でもないただの少年一人に対して慇懃な態度をとった国王に要人どもはざわめき立つ。その中でミーシャやシャルネ、クィンは嬉しそうに拍手を送ってくる。
 しかし俺と……昨日の帰り途中で事情を聞いたアレンと藤原と高園は気まずそうにしてしまう。

 「あ~~~そのことなんだけど……悪い。あいつまだ生きてるんだわ」

 部屋が騒然とする。

 「フルパワーの一撃をぶつけて死にかけだったあの魔人に確実に止めを刺したのは良かったんだけど、その時奴の生命が終わった感じがしなかったんだ。あの場にいたあの魔人は確かに死んだんだけど、本体が全く別のところにいた…みたいな?とにかくあの魔人は今もどこかで生きている。だから悪い、討伐できなかった」
 「そう、か……一人一人が世界を滅ぼし得る災厄と言われるだけあって、やはり魔人族を討伐することは非常に困難であるようだな。Ⅹランクの称号を持つ君ですら討ち損じてしまうとは……」
 「魔人族にも強い弱いってのがあるみたいで、獣人族のところにいた魔人は……強かった。そしてあれと同じもしくはあれ以上の力を持つ魔人もまだまだいるみたいなことを、奴から聞いたぜ」
 「む………そうなのか」

 ガビルは言葉を詰まらせてしまう。クィンも少しショックを受けた反応をして、周りにいる要人どもは顔に出している。明らかに血の気が引いている。少し脅かし過ぎたかな。

 「まあ逃がしてしまったあの魔人野郎は俺がそのうちきっちり殺しとくから安心してくれ。
 それで話が変わるんだけど、カイドウ王国はもうなくなった。というか獣人族は絶滅した」
 「それも昨日の報告で聞いている。戦士じゃない民の獣人も……皆殺したそうだな」

 ガビルがいたたまれないような、咎めるような視線を俺とアレンに向ける。

 「コウガは獣人の民を殺してはいない。私たち鬼族があいつらを全員殺した。国も滅ぼした」
 「アレン・リース……。民を皆殺しにする必要があるだけの理由はあったのか?」
 「獣人族は鬼族を理不尽に捕らえて、族長も戦士も民も全員グルになって虐げてたくさん殺した。だからその復讐として獣人を全員殺して国を滅ぼした。それ以外の理由なんかない」

 きっぱりと言い切るアレンにガビルは目を下に落として何かを考えている。周りの連中はアレンに対して危険な奴だ…といった視線を向ける。野蛮だの残虐だのとひそひそ言ってやがる。何も事情を知らない奴らが、アレンたちを悪く言いやがって………っ

 「コウガ、私は気にしてないから」

 アレンがそう囁いて手を握ってくれたから魔力を熾すのを止める。

 「…………で、また話は変わるけど、というかここからが本題というわけで。
 あんたが俺たちに課した依頼……カイドウ王国の潜入調査およびそこに潜む脅威の排除?これらを達成したと主張して良いんだよな」
 「もちろん。依頼した任務は全て達成してくれた。邪悪に染まった獣人族を討ち、魔人族を撃退までしてくれたのだ、誰も文句は言うまい」

 周りからは何も言ってこなかった。誰もが俺とアレンもこの任務の功労者だと認めてるのだ。

 「それで、依頼した任務を達成した暁には、素敵な報酬を用意してくれるって約束だったよな」
 「無論覚えているとも。約束を違える気も無い。君が要求した通り、ミーシャ殿下にこの国の機密情報を開示する。彼女が君の望む異世界へ転移させる空間系の特殊魔術を完成出来るよう全面的に協力させてもらう!」
 「(ニヤリ)」

 ガビルの言質をこの場でとったことに俺はほくそ笑む。ガビルはよくやってくれたって言いたげな顔をしているけど、周りの連中は面白くなさそうな反応をしていた。俺って奴は大半の人間に嫌われる性質なのかね。
 アレンにやったねとささやかれて頷いていると視線を感じてそこに目を向けるとミーシャが嬉しさ・感謝などの感情がこもった熱い?眼差しを向けていた。

 (ありがとうございます!コウガさんの頑張りは絶対に無駄にしません!)

 発達した聴覚から聞き取るとそんなことを言っていた。利用されているだけなのになんで嬉しそうなのか、分からん。
 
 それから…鬼族が滅亡したカイドウ王国の跡地を仮の領地として所有するという話に移り、その件について周りから反対意見が飛んだが、今回の戦争で大いに活躍したアレンたちの実績を理由に、アレンたちがあの地を持つことを容認された。
 これで謁見での話は終わりかと思ったところに、ガビルが次の話を持ち掛けてきた。

 「これから話すことはここにいる全員にもしっかり聞いてほしい。これはまだ他の大国にも話していない案となる。それは―――

 サント王国、イード王国、ハーベスタン王国、ラインハルツ王国による“連合国軍”の結成である!!」

 これが漫画のページの中だったら、“ドン!!”ってフレーズが出ていただろうな。というかこれは予期できない発案だった。部屋中も騒然としている。驚いていないのはミーシャとシャルネくらいか。もしかしてこの案は彼女たちから出たものなのか?

 「もう知っての通り、この世界にはモンストール、そして魔人族という大きな災厄が存在している。それらは百数年前と同じようにこの世界を滅ぼそうと企んでいる!
 今こそ全ての大国が一丸となって連合国軍を結成しなければならない!敵勢力と戦い、殲滅するにはこれが最善であると考えている!!」

 ガビルの力強い話言葉に誰もが心を打たれ、聞き入っていた。彼が話を終えると俺たちに向けられたのとは比べ物にならない規模の拍手が響いた。それだけこの国王の人望が厚いということだ。

 「元救世団のフジワラミワ。そなたはサント王国にまだ籍を入れては無かったな。どうか、そなたもこの国の民……戦士となって、我々に力を貸してはくれないか」
 「はい……!生徒たちもこの国のお世話になっているのですから、私もこの国に、連合国軍に入ります!」

 藤原の返答にガビルは満足そうに頷く。周りからも拍手が上がる。ガビルは次に俺とアレンに目を向ける。

 「冒険者オウガ…カイダコウガ。赤鬼ことアレン・リース。君たちにも連合国軍に加わってもらいたい。君たちの力が必要だ、一緒に戦ってほしい」

 藤原にも言った同じ言葉をかけられた俺は、一拍おいてからはっきりとこう答えた。


 「 嫌だ 断る 」

 
 

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