世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

155話「俺が全員…」


 縁佳と美羽は自身の目を疑った。
 数秒前に皇雅とウィンダムが互いに今まででいちばん強い大技をぶつけ合って鍔迫り合った。そして最後にもの凄い衝突音と何かが破壊される爆音が鳴り響き、次いでキノコ雲のような爆煙が発生した。
 そして二人が次に目にしたのは、大きな穴が広ぽっかり空いた地で、そこに皇雅とウィンダムの姿はなかった。

 「う………そ―――。これって、あの時と……………実戦訓練の最後と…おな、じ……。
 甲斐田君が、また落ちて――――」

 縁佳は最初の実戦訓練の末に皇雅がモンストールと一緒に地底へ落ちてしまった時のことを脳裏に浮かべて激しく動揺する。同時に嫌な予感も浮かべ、居ても立っても居られなくなり、気が付けば大穴があるところへ向かっていた。
 それを見た美羽も慌てて縁佳の後を追った。


                 *

 「………………ここは」

 目が覚めると景色が変わっていた。光が無い暗闇で瘴気が充満している空間。どうやらまた地底に来てしまったみたいだ。
 たぶん俺の最後の一撃の余波で地面が崩落してそのまま落ちてしまったんだろう。意識失う前に浮遊感があったのを覚えている。

 「………まだ体は回復しきれてないか」

 起き上がろうとしても体が麻痺したかのように動かしづらい。自分の体の許容範囲を超えたリミッター解除をしたせいで、ドラグニアで分裂体ザイートと戦った後と同じ状態……再生が遅くなってしまっている。
 完全に崩壊した体が元に戻るまでまだ少しかかりそうだ。

 「あの魔人族が死んだどうか確認しないと」

 少しずつ動けるようになった体を無理矢理動かして地を這うように進みながらウィンダムを捜す。「索敵」を使うと微かだが奴の気配がする。少なくとも完全に死んではいないのは確かだ。

 地を這うこと数分、ようやく立って歩けるようになってからも捜し続ける。
 
 「これは……奴の肉片?」

 しばらくしてから地面に赤紫色の肉が落ちていた。色からしてウィンダムの肉片だろう。

 「………なんかケダモノみたいな行為になるけど、強くなる為なら仕方ない」

 いやいやながらもウィンダムらしき体の一部を喰らう。するとレベルがかなり上がったのを感じた。やっぱり奴の体の一部だったようだ。
 肉を喰らってレベルアップしたことで体が一気に再生して復活できたから、思い切り走って捜し回る。

 そしてようやく、バラバラになった状態で死にかけているウィンダムを見つけた。

 「よう」
 「や、あ………」

 体から離れたところに転がってる奴の頭部を持ち上げて、バラバラになった体のところに投げ捨てる。

 「酷いな、死んじゃうかもしれないじゃないか」
 「これくらいじゃ死なないだろテメーは。そんなざまになってもな。つーかテメーはもう死ぬだろ」
 「そう、だね……。“不死レベル”を持つ僕でも、脳を潰されればちゃんと死ぬさ」

 虚ろな目で掠れた声をだしているウィンダムだが、それでも奴は笑みを浮かべていた。ここまでやってもまだ不気味な奴だ。

 「成り上がりたかった………君を消し去って獣人族という駒を従えて戦力を……増強させて、その成果を認めてもらって…“序列”入りした、かったなぁ」

 血をたくさん失って青白く変色したウィンダムは悔しそうに話しはじめる。

 「残念だ………君に勝ちたかった。僕はここでリタイア………魔人族が今の世界を滅ぼして、新しい世界を築くという道の続きは……もう見られない」
 「そうなるな。というか、新世界の神になる的なやつなのかよ。魔人族がやろうとしてることは」

 俺が呆れたように返すがウィンダムは気にすることなく話を続ける。

 「けれど……魔人族は不滅さ。ザイート様にも、あの方に次ぐ“序列”持ちの方々には、誰も勝つことができない……誰も敵うことができ、ない…。
 あの方々は僕よりもはるかに強い……故に、この世界が魔人族のものになるという未来は、揺るがないよ……」
 「いいや揺らぐね。俺がいるからな」

 悦に浸りかけているところにバッサリと切り込んでやる。

 「“序列”持ちの連中もザイートの奴も、俺が全員ぶっ殺してやる。それで魔人族の野望は全部消えてなくなる。俺がそうしてやる。残念だったな」
 「フフフ、アハハハハ……!キミのこれからも…ある意味楽しみ、だね…!キミ如きが魔人族にどれだけ食い下がれるのか、見物だよ。あの世で見てあげるよ、キミの行く末を……」

 血を吐きながら哄笑するウィンダムの声を聞きながら、頭部以外の肉体を全て喰らい、「過剰略奪オーバードーズ」する。レベルがさらに上がり、強くなるのを感じる。

 「なるほど、そうやってキミはどんどん強くなって……そこまでの力を手にしたのか…」
 「ああ。じゃあ、そろそろ死ね」
 「うん………カイダコウガ君。キミが魔人族だったら、親しい仲に……なれて、た……か………な――――」

 ブチャ………ッ

 ウィンダムの最期の言葉を最後まで聞くことなく、全力でその頭部を踏み潰して破壊した。さらに「魔力光線」も全力で撃って跡形も残さず消失させた。
 これで……魔人族ウィンダムは完全に殺した。

 「仮に俺が魔人族だったとしても、テメーとは友達になれねーよなりたくねーよ、気持ち悪い」

 塵一つ残っていないか確認してから残った煙も水で消して、ようやく一息つく。

 (にしても、あいつ………)

 ボス戦に勝利して達成感を得たはずの俺は、微妙な顔のまま空を飛んで地上へと戻る。日の光を浴びながら地面に降り立つと目の前に人が二人いた。

 「はぁ……はぁ………甲斐田君!?」

 高園が息を切らして汗をかいた様子で俺の名を呼ぶ。

 「よかった、ちゃんと戻ってきてくれたね」

 その後ろから藤原もやってくる。

 「何であんたと高園がここに?下手すればさっきの戦いに巻き込まれて死んでたぞ?」
 「心配だったから……!」
 「………それだけ?」
 「う、うん」

 高園が頬を少し赤くさせて頷いてそのまま黙る。

 「私も心配していたわ。本当に良かった、今度はちゃんと帰ってきてくれて!」
 「何言ってんのか分からねーんだけど」
 「あの魔人族は、もういなくなった?」
 「ああ、この目でちゃんと消えて無くなったのを確認した。奴はもうここにはいない。死んだよ」
 「そう……本当に君は凄く強くなったね」
 「まあな」

 藤原は嬉しそうに微笑んで俺の頭を撫でてくる。そのせいで頭に被っていた土埃や瘴気の残滓が思い切り舞って二人はくしゃみをする。

 「あ、あの甲斐田君!魔人族を倒してくれてありがとう…!」
 「…?まあ俺の目的の障害になる敵だったしな。礼を言われる程じゃねーよ。全部俺の為だ。それよか、二人ともここにいるってことは、強い獣人戦士の3人も討伐したのか?」

 「気配感知」で「幹部」よりもさらに強い3人の戦士がいることは分かっていた。今はそいつらの気配が無いということは…

 「うん。私はクィンさんと、助けにきてくれたクラスメイトたちとで一人を倒したよ」
 「私も、虎みたいな獣人と戦って、何とか勝てたわ」
 
 よく見ると二人とも相当消耗している。その敵たちによほど苦戦してギリギリ勝ったんだろうな。敵の強さはSランクモンストール1~2体分レベルだったはずだ。

 「ふーん。藤原はともかく、集団で戦ったとはいえ、高園もやるじゃん」
 「………!!」

 それだけ言ってから要塞みたいな城へ移動を始める。後ろから藤原が「私にも褒め言葉かけて!」とうるさく言ってくるので、走って二人を置き去りにした。

 (後はアレン、お前たちだけだ。復讐やり遂げろよ…!)


                  *

 「全く、無視して先に行くなんて……」

 走り出してあっという間に姿を消した皇雅に美羽は文句を垂れる。その様子と仕草は高校の先生からはかけ離れた少女っぽく見える。

 「………………」

 縁佳は走り去った皇雅の跡をジッと見つめたままだった。先ほどかけられた言葉を思い出してまた頬を赤らめる。

 (あんな言葉をかけてくれるなんて思わなかった。少しは気を許してくれたのかな?距離は縮められたかな?)

 魔人族を討伐したことに礼を言った縁佳に対し皇雅は自分の為だけでそうしたんだと返しただけだった。

 「甲斐田君は望んでやってることじゃないのかもしれないけど、甲斐田君が言う自分の目的の為にやっていることは、私たちを助けてもいたんだよ?あなたは否定するのかもしれないけど、私たちは甲斐田君のお陰で無事でいられてるんだよ?」

 走り去った皇雅の方を見て縁佳はそう呟いた。
 皇雅がここにいなければ誰も助からなかっただろう。誰もがウィンダムに殺される結末となっていただろう。

 「だから、それでも言わせてほしい。ありがとう 皇雅君……!」

 頬を紅潮させたままの縁佳は、可憐な笑みを浮かべて礼を述べたのだった―――





*次回 鬼族vsガンツ続き

 

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