世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
154話「持てる全ての力」
「藤原と、高園の声…………?まあいい。気にしない!」
地底でも感じた誰かの声援だか何だかの幻聴を気にすることなく、目の前にいる敵に集中する。
リミッターを5000%まで解除して以降、体が少しずつ壊れていくのを感じる。分裂体ザイートとの戦いから少し経って少しは強くなったものの、5000%以上による負荷はまだキツいみたいだ。
(長くは持たない……以前みたいな完全崩壊に陥る前に奴を殺さないと!)
手足に力を込めて駆け出し、ウィンダムに物理攻撃をぶつけようとする。しかしその途中で目の前・真後ろ・真横から同時に魔法攻撃や「魔力光線」がいくつも飛んでくる。
「未来予知」で読んでいたことで「魔力防障壁」を予め体に張り付けていたお陰でダメージを軽減させることに成功する。
「やっぱり強い攻撃じゃないとキミは止まらないか!」
距離を縮めてくるのを目にしてもウィンダムは狼狽えることなく両手から闇・水(氷)、さらには嵐と三つの属性魔力を混ぜた複合魔法を放ってきた。
“獄氷嵐乱舞《ダークブリザード》
初めて目にする三つ属性の複合魔法。闇の魔力を纏った氷の暴風が俺をバラバラにしようとしてくる。
“斥力絶拳《せきりょくぜつけん》”
「連繋稼働」で加速・増加させたパワーを左拳にパスさせ、さらに重力魔法も付与させて、一気に打ち放つ。
強烈な斥力と全力で打った正拳突きが合わさった絶大な物理的一撃が、死の猛吹雪を粉砕していく。氷と嵐の残滓が刃となって俺の全身を切り刻んでいくが大したダメージじゃない。
「三つ属性の複合魔法を破るなんて!」
落胆することなく続けて魔法攻撃を放ってくる。
“電磁場潰圧《マグナクラッシュ》”
俺の周囲にとてつもない電磁力が発生する。通常の何千倍もの重力が俺を圧し潰し、億単位の電圧が俺を破壊しようとする。
「………………っ!!」
超重力で全身の骨が砕かれ、電撃で体が焼き焦げていくが、歯を食いしばって耐え抜き、力を左脚にパスさせて振り上げ、爆破効果がある炎熱属性の魔力を踵に集中させたまま、全力・爆速の踵落としを真下に打ち落とす。
“流星爆斧《メテオギロチン》”
ズガァンと強烈な衝撃音と爆発音が鳴り響き、周囲の地面が一瞬で無に帰した。踵落としの衝撃で雷と重力の強力な複合魔法を消し去ることに成功する。
穴に落ちないよう別のところへ移動する。ウィンダムは相変わらず動じていない様子だったが、どこか疲労の色が見えないでもなかった。さっきから大技を連発してたんだ、そろそろ体力と魔力も半分くらい削ってるはずだ。
「まだ、まだ……いくよ!」
しかし休むことなく次の魔法攻撃を放ってくる。
“獄炎巨槍《ごくえんきょそう》”
“獄雷巨槍《ごくらいきょそう》”
“獄氷巨槍《ごくひょうきょそう》”
俺の頭上から三つの異なる属性魔力で出来た巨大な闇色の槍が3本突然発生し、降り注いでくる。炎・雷・氷の槍にはどれも濃い闇属性の魔力を纏っている。
振り下りてくる巨大な槍を見据えたまま、左手に光属性の高魔力を込めた日本刀(命名:ビームサムライソード)を武装し、脱力して構える。
「斬り捨てる―――」
三つの巨槍が間合いに入った瞬間―――腰に構えておいたビームサーベルをマッハで引き抜いて一閃させる!
ス―――――パ……………ッ
闇を纏った巨大な属性槍は全て両断されて斬り捨てられた。
「やる、ねぇ……!そぉら!!」
残心しているところにウィンダムは空中から巨大な黄色い魔力の塊を生成して、俺目がけて投げつけてくる。
“万雷魔力球《サンダーキャノン》”
バチバチと雷魔力が渦巻いた巨大な魔力の雷球が俺目がけて降ってくる。
「大地魔法」+「身体武装硬化」
オリハルコン製の手甲と足甲を装着して武装する。そして間近に迫っていた魔力の雷球に右拳を放つ。
当然この一撃では奴の攻撃は破れない。だからこの一撃を「起点」として、最強のカウンター技を放つんだ!!
俺が編み出したカウンター技は基本、物理攻撃に対してしか作動しなかった。しかし大地魔法で創ったこの魔力手甲越しなら、物理攻撃と同様にカウンター攻撃をかますことができる!
当たった右拳を起点に、前腕→上腕→胸→腹・背→腰→左脚→左足へとダメージエネルギーをパスしていく。
左足に魔力の雷球の威力と自身の力を乗せた、オーバヘッドキックを全力で叩き込む!
“玄武《げんぶ》”
――――ボッッッッッ
渾身のカウンター蹴りで奴が放った魔力の雷球は跡形も無く消滅した。
「これも、破るなんてね……!」
ウィンダムの額から汗が流れはじめる。動揺というより疲労から発生した汗みたいだ。奴もだいぶ消耗している証拠だ。
一方の俺もけっこう体が壊れてきてる。砕けた骨がなかなか修復しない。体の崩壊が近づいてきてる…!
「もたもたしてらんねぇ……!」
「僕も同意見だよ……!」
ウィンダムが両手を振ると同時に四方八方から魔法攻撃が大量に飛んでくる。全てオリハルコン製手甲での武撃で打ち落とす。
武装“絶拳”
襲い掛かる全ての魔法攻撃をいなしてウィンダムを捉え、全力でぶん殴る。
「ぐ………はっ」
血をまき散らして吹っ飛んだがまだ致命傷には至っていない。よろよろと立ち上がり、奴はまたあの不気味で邪悪に満ちた笑みを浮かべる。
「凄い……凄いよカイダコウガ君!僕の想像以上だ……!僕の領域内で食い下がるどころか、僕をこんなに追い詰めてるのだから……ハァ、ゼェ」
「けっこう息切らしてんじゃねーか。もうひと頑張りすればテメーを殺すことができそうだな」
「そうかもね。そしてこれ以上中途半端な大技をちまちま放っても無駄みたいだし、僕もそろそろ尽きてしまう。
だから、次で全てを出し尽くして、キミを葬ることにするよ――――」
そう宣言した直後のウィンダムの全身からこれまでどは比較にならない規模の魔力が発生する。禍々しくどす黒い闇色の濃い魔力がウィンダムの両手に集まり凝縮されていく。
(あれは………くらってはいけない。マジで消されるかも)
離れた位置からでも伝わる超高密度で超強力な魔力。言った通り、奴は次のあの一撃で決めるつもりだ……!
くらってはいけない。かといって俺があの魔力による攻撃を避ければ、この国が一瞬で更地と化すだろう。アレンたちも高園たちも、ついでに獣人どもも消えて無くなるだろう。
「国や獣どもはどうでもいいけど、仲間たちを消させるわけにはいかねー」
腹を決めた俺も、リミッターを限界ギリギリまで解除する。
6500%――――解除
数分後にはこの体は完全に崩壊して、ドラグニアの時みたいに動けなくなってしまうだろう。だが俺も、この一撃に全てを懸ける!
打ち負けるもしくは外せば敗北確定………上等!
「キミも、全てを出し切ってくれるようだね」
「力を全て引き出す。そして全力をぶち込んでやる。これが決まらなきゃ、テメーの勝ちになる」
「そうか!まあ僕も同じだよ。持てる全てをこの一撃に込める。久々のフルパワーだ……!」
「嬉しそうだな!」
「まあね!!」
会話が終わり、俺とウィンダムはそれぞれ最後の一撃を放つ態勢に入る。
(全ての力を……この左脚に!)
「連繋稼働」を発動して力のパスを始める。完全フルパワーで打つべく手や足の指など細部に至るまでパスを回していく。前腕・肘・上腕・肩………つま先・足底・アキレス腱・ふくらはぎ・脛・膝裏・上脚筋………体幹の細部――――
(いつもより時間がかかる。けどその分、今までにない力が巡っているのが分かる。とてつもない一撃が、出るぞ……!!)
そして最後に、左足全体に全ての力がいきつこうとしている。同時に左足にオリハルコン製の鎧で武装硬化させる。
「さぁ、こっちは準備できたぜ――――」
顔を上げてウィンダムの方を見ると、奴の正面に化け物の口腔が発生していた。あれも全部魔力で出来ているみたいだ。そしてその口から闇色の光輝く魔力が渦巻いている。あれをこっちに一直線に撃ち込むつもりか!
「待たせた、ね……!さァ、決着をつけよう…!!」
「ああ――」
そして―――俺とウィンダムは、合図も無しに同じタイミングで、
互いに最後の一撃を放ったのだった―――――
6500%フルパワー “超絶脚《ちょうぜつきゃく》” (オリハルコン武装)
“無に帰す暗黒巨射線”
駆け出して右足を軸に左脚をフルスイングで蹴り放つ。対するは視界を覆うほどの巨大な闇を纏ったシンプルな巨大レーザー。
俺の捨て身の蹴りとウィンダムのレーザーが、激突する。
「「―――――――ッッ!!!」」
お互い声にならない叫びを上げながら全力をぶつけ合う。しばらく拮抗が続き、俺の全身から血が噴き出る。体の限界はとうに超えて崩壊が進んでいる。普通なら痛みのあまりに力を緩めてしまっているだろう。
だけど俺は、ゾンビだから!死なない、痛みも何も感じない!!
この一撃を奴にぶつけることだけに集中できる!!
「―――ぉぉオおおおあああああああああああああああ!!!」
次第にレーザーの線が短くなっていく。蹴りで削がれていってるのだ。同時にウィンダム本体にも近づけている。軸足に推進機エンジンを搭載してブーストさせているから自動的に進めているのだ。
「………………っ、くうううううウウウウウウウウ!!」
ウィンダムのくぐもった叫びとともにレーザーの射出力がさらに上がる。が、俺も負けてられない!!
「~~~~~っ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”――――」
そして、レーザーを全て蹴り消して、化け物の口腔ごとウィンダムに最後の蹴りを全身全霊で叩き込んだ!!
衝突音、そして肉を穿つ感触。それらを感じたと同時に浮遊感も生じた。
そこから俺の意識は途絶えたのだった――――
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