世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

153話「縁佳は思いを述べる」



 「ちっ、けっこう回復しやがったみたいだな…」
 「やぁ。もう来ちゃったんだ」

 闇の分身どもを全滅させてからすぐに地上へと飛び上がったがおそかった。ウィンダムはほぼ万全状態にまで回復してやがった。重力魔法の影響で長い青紫の髪をわらわらさせているウィンダムは少しがっかりした様子をみせる。

 「もう少しだけ回復したかったんだけど、どうやらそんな余裕はないみたいだね。今のキミ相手じゃあ」
 「当たり前だ。そろそろケリつけてやる」

 脳のリミッター 5000%解除

 リミッターをさらに解除させて体をさらに強くさせる。力と速さはさっきの10倍増している。

 「何も感じないはずのキミから伝わってくるよ。とんでもない強さを。僕も……持てる力を全て引き出して戦わせてもらう」

 ウィンダムからも尋常じゃない力を感じさせる。魔力がバチバチと溢れ出て脅威を感じさせる。ここからさらに強い攻撃がくる……!

 (少し離れたところにクィンに藤原、高園に……何故か元クラスメイトが3人もいるが、まあ大丈夫だろう。危ないと思ったらあいつらも逃げるだろーし)

 向こうにいる6人に一瞥してからウィンダムを睨みつけたまま、俺は全力でウィンダムにぶつかりにいった。

 「来いカイダコウガ!キミを殺して僕は成り上がる!!」
 「おおおおおおおおおお!!」

 「連繋稼働《リレーアクセル》」で加速・増大させた力を左拳に込めた、必殺の一撃と、ウィンダムの膨大な魔力を圧縮させた闇の魔力砲弾が、空中で大激突した。


                  *

 「ちょっと縁佳!?危ないって!」

 皇雅とウィンダムが戦っているところに近づこうとした縁佳を、曽根が慌てて引き止める。

 「ごめん美紀ちゃん。近づくのはここまでにするから」
 「それでも危険よ!あの二人の戦いに巻き込まれるかもしれないし!」
 「うん…そうかもしれないよね。でも私、甲斐田君に言ったの、約束したの。
 “見てる”って」
 「………………」

 縁佳から強い意思を感じた曽根は言葉に詰まる。美羽や米田も何も言わずに縁佳を見つめている。

 「もう決めてるの……絶対に見捨てることはしないって」
 
 縁佳は皇雅をまっすぐ見つめている。彼が恐ろしい魔人に対して果敢に攻めているその姿を、曇りなき目で見ていた。

 「そうは言っても、あんなヤバい化け物相手に私たちが出来ることなんてないわよ?甲斐田が負けちゃったら、私たちは逃げることしか……」
 「たぶん、どこへ逃げても私たちはあの魔人に殺されると思う。だったら私は、甲斐田君を助けに行く。それが無謀だとしても!」

 縁佳の決意めいた言葉を聞いた曽根はやれやれとため息をつく。しかしその顔には呆れや軽蔑といったものはなく、「世話が焼けるわね」といった反応だった。

 (高園……お前は甲斐田のことをそこまで…っ)

 堂丸は内心で嫉妬の気持ちを爆発させていた。しかし皇雅の人間離れした戦い方を目にすると諦めに近い感情も抱いたのだった。

 (俺に……《《あんなの》》できるわけがない………。)

 「確かに甲斐田君が負けたら、あの魔人はここにいる私たちや鬼族、兵士団も全て殺すかもしれない。どこに逃げても無駄だと思う。だったら私も……覚悟を決めて、いざというときは甲斐田君を助けにいくわ」
 
 美羽も縁佳と同じことを言う。

 「私は……コウガさんのこと信じてます!故ドラグニア王国の時のように、きっと無事に帰ってきてくれることを。勝てなくとも、彼は負けることなく私たちのところにまた戻ってきてくれます。なので私は、それを信じてここを離れて仲間たちのところへ向かいます!」

 それだけ言うとクィンは兵士団の元へと足を進める。

 「私もクィンさんと一緒に行くわ。あの魔人怖くて仕方ないもの」
 「私も……。縁佳ちゃん、気をつけてね」
 「………………」

 クラスメイト3人もクィンとともに兵士団のところへ向かった。

 「ごめんなさい美羽先生。勝手なこと言ってしまって」
 「ううん。私も甲斐田君のことが心配だから。あんなとんでもない敵と戦ってると知ってしまったら、離れずにはいられないもの」

 そう言って二人は遠くから皇雅の戦闘姿を見届ける。皇雅が近接戦に持込もうとして、ウィンダムがそれを魔法攻撃や「魔力光線」を駆使して阻止しようとする。直接の激突はまだ無いもののそれでも尋常ではない音や衝撃波が発生している。近くに行くととんでもない迫力・余波が伝わるのだろう。

 (甲斐田君………)

 縁佳は皇雅しか見ていなかった。彼の姿しか見えていなかった。
 皇雅の危険を顧みず恐れず、勝利にしか執着していない、恐怖など微塵も感じさせないその姿に、彼女は見入っていた。

 「っ!お腹に魔法攻撃をくらって……血が、あんなに………っ」
 「うん……。でもゾンビだから、あれくらいなら大丈夫みたい」

 動揺する縁佳に美羽は落ち着いた声で説明する。縁佳は心臓をバクバクさせながら皇雅を見つめる。

 「甲斐田君。あなたは私たちの為や、この世界の為に戦ってなんかいないって言ってたよね」

 ウィンダムとの戦いに赴く前に皇雅が言ったことを思い返す。ウィンダムの魔法攻撃をくらって何度も致命傷を負ってもすぐに立ち直って立ち向かう皇雅が、縁佳には輝いて見える。

 「あなたが何度死にかけて………ううん、死ぬような傷を負い続けても、あんなにも必死に戦い続ける理由………」

 ようやく皇雅がウィンダムを捉えて渾身の蹴りで地面に叩き落とす。そこから急降下して追撃しにかかる。

 「甲斐田君が仲間と呼んでいる人たちの為。たぶんそれもあるんだと思う。
 でも………やっぱり甲斐田君が戦ういちばんの理由は―――甲斐田君自身の目的の為…」

 皇雅から距離をとったウィンダムが手を翳すと何も無い空間から魔法攻撃が皇雅を襲う。皇雅は手慣れた様子で突然飛んでくる魔法攻撃を躱し、撃破していく。
 
 「元の世界へ帰る………一度死んで生き返った甲斐田君は、それを成す為に旅をしていたって教えてくれた。その間自分自身を鍛え続けてきたんだよね…。そうすることで自分を強くさせて少しずつ目的に近づこうとしていた…!
 元の世界へ帰る為に、自分の身を危険に晒すことも厭わず恐れない。もう死んでいるとはいっても死ぬような傷を負うのは……怖いんじゃないかな。
 甲斐田君はきっと、不死身じゃなくても命を懸けることが出来る人…………!」

 皇雅からも魔法攻撃や「魔力光線」を放ってウインダムの攻撃を相殺していく。彼らの周囲の地はまるで災害が起こったかのように荒れ果てている。

 「一緒なんだね。陸上のレースもそうだった。優勝する為に努力……正しい練習を積み重ねてきたから、あの時の大会だって優勝出来た。
 この世界でも同じ。元の世界へ帰る為なら、あんなに恐ろしい敵とだって戦う。必要なことだから。そして勝つ為に自分を鍛えて強くしてきた。
 目的を達成する為なら、魔人族とだって戦って、勝とうとする。」

 気が付けば、縁佳の目から涙が出ていた。

 「今日、甲斐田君について来て本当に良かった。ここに来て甲斐田君が戦っている姿を見て、やっと少しはあなたを分かることが出来たから」
 
 縁佳の目に映っている皇雅は輝いて見えていた。彼をしっかり目に映しながら縁佳はある決意をする。

 「甲斐田君はとても強い人だから、その時がくるかは分からないけど―――」
 
 いつか私が、甲斐田君を助けるから!!」

 そんな縁佳の背を、美羽は優しく叩いたのだった。

 「縁佳ちゃんなら出来るわ。いつかきっと」
 「え……私、口に出てました?」
 「うん。さっきからずっと」
 「~~~~~~っ」

 赤面して声を詰まらせる縁佳を、美羽は温かい目で見守るのだった。

 (私も縁佳ちゃんと同じ気持ち…。今はまだ無理かもしれないけど、いつかは君のことを先生として助けたい!)
 (今は願うことしか出来ない。だから精一杯念じます。
 絶対に戻ってきて、甲斐田君!!)

 二人とも皇雅を見つめたまま心の中でそう叫んだのだった。

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