世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

152話「捨て身」



 とりあえず粉塵に侵されずには済んだものの、引き続き何もないところから魔法攻撃や「魔力光線」が次々と襲ってくる。「魔力防障壁」と重力魔法による斥力攻撃を上手に使ってどうにか対抗するが、足元の隙を突かれてしまい俺は窮地に陥った。

 “空喰闇沼《ダークホール》”

 「う……これはっ」

 足元に発生した闇色の大沼が俺の下半身を引きずり込む。強力な磁場を感じることからこれは闇と重力の複合魔法らしい。俺がさっき放った同じ複合魔法よりも強力だ……!
 そう思っていると、腰から下の感覚が無くなった。というか、消失した。

 (これは……空間を削り取ってる!?くそ、体の下半分が無くなっちまった。ゾンビじゃなかったら即死か……)

 「やるじゃないか。本当なら全身を引きずり込んで完全に消してあげるつもりだったのに半身だけ残らせるなんて。でもその状態だともう詰みじゃないかな」

 沼に嵌まって動けない俺のところにウィンダムは勝ち誇った顔で歩み寄ってくる。

 「ふふふ、けっこう楽しませてもらったよ。僕に本気を出させる相手は“序列”持ちの同胞を除けば、キミが初めてだったよ。不死身の人族……実に興味が尽きなかったけど、魔人族の脅威であるキミは生かしておけない」

 勝ちを確信しているこの勘違い野郎に俺は……

 「誰が終わったって?このダボが」

 全ての魔力を全力で熾した!俺の体から眩い光が発生する。

 「な………!?」
 「普通の人間だったら確かにここまでだったろうな。
 けどな、今の俺は不死身のゾンビだ。ゾンビだからできる逆転劇だって展開できんだ!
 ゾンビ舐めんなっっっ!!!」

 “魔力大爆発”

 カッッ―――――ドオオオオオオオオオ――――――

 絶叫と同時に、全ての魔力を全力で爆発させた。その威力は俺を飲み込もうとしていた闇の大沼を破滅させ、近くにいたウィンダムをも巻き込む。

 「ま、、、マズい―――――――」

 ウィンダムの声は途中でぶつ切れて聞こえなくなる。

 ―――――――――

 意識が飛んでいた。次に目覚めると俺は闇の大沼から脱出できていたが、全身がズタズタになっていた。しかし10秒経つと下半身が再生され立てるようになる。自爆で空っぽになった魔力も回復していく。1分も経たないうちに俺の体は完全再生した。

 「どうだ、ゾンビの力思い知ったか!……って、奴はどこだ」

 いつの間にか別のところに来てしまっていた。爆発で思いっきり吹っ飛んだようだ。「瞬神速」で走って「索敵」でウィンダムの気配を捜す。全力で自爆したとはいえ、あれで殺せたとは思えない。
 そして案の定、奴はまだ生きていた。
 
 「………っ。げほ、かは……っ」

 全身に大火傷を負い、血をたくさん流している瀕死状態のウィンダムだが、まだ死にそうではない様子だ。

 「やって……くれた、ね。まさか、自殺あるいは道連れ技をただの脱出手段として躊躇いなく使うなんて……。なんて狂った発想だ……っ」
 「テメーに狂ったとか言われたくねー」

 そう言い返してウィンダムの脳天目がけて下段突きを放つ。

 「―――ちぃ!」

 しかし真横から突然「魔力光線」が飛んできて邪魔される。奴の結界魔術はまだ解けていないみたいだ。

 「さすがにこのまま戦うのはキツいから、少し回復させてもらうよ…」

 そう言ってウィンダムは重力魔法で自身を浮かび上がらせてここから離脱しようとする。

 「させるか―――」

 逃がすまいと追いかけようとしたが、いくつもの黒い影に阻まれる。よく見るとウィンダムのシルエットをしてやがる。

 「足止めよろしく、僕の“闇分身”たち」

 俺の周囲からウィンダムの分身体がいくつも出現する。その数は100以上だ。

 「で、テメーはその隙に地上へ逃げて回復するってか。ふざけんな…!」

 奴の意図を理解してムカついた俺は飛ぼうとするが分身体どもに邪魔される。重力魔法の斥力を放つもすり抜けてどかせない。

 「光魔法――」

 強力な光魔法を放って分身どもを片っ端から消していく。その作業は1分経っても終わらず、だいぶ手こずらされた。
 気を取り直して飛行して地底から脱出する。地上へ抜け出したのはいいが場所が変わっている。ウィンダムがつくった大穴から随分離れたところにいる。地底で散々移動しながら戦ってたから当然か。


 「――!気配が近くにいくつか……あいつらは―――」

 まず目に移ったのは、火傷痕がほとんど無くなって回復したウィンダムの姿。
 続いて目にしたのは俺たちからだいぶ離れたところにいる――――

 高園縁佳ら元クラスメイトどもとクィン、藤原の姿だった。


                 *

 王城周辺。城から抜け出したクィン・美羽・縁佳・他クラスメイト3名は、今も戦っているであろうサント兵士団の加勢に向かっていた。

 「じゃあその“聖水”ってのをくらわせれば、変な獣人どもも楽勝ってことですか!」  
 「ええ。油断は出来ないけどね。兵士さんたちもそろそろ“聖水”が尽きてる頃だと思うから、助けに行かないと!」
 「あなたがいてくれて本当に助かりますフジワラさん!しかし無理はしないで下さいね」

 「将軍」の獣人戦士たちを討伐した美羽とクィン・縁佳たちは王城内で合流してからいったん城を出ることにした。美羽は曽根・米田・堂丸が来ていたことに驚いたものの、縁佳を助けてくれたことと無事に敵を討伐したことに安心した。
 兵士団への加勢に向かおうと提案したのは美羽だ。「将軍」たちとの戦いは全員を大いに疲弊させてしまい、皇雅やアレンたち鬼族が戦っている残りの主戦力と戦う力はもう残っていないと判断した美羽の提案をクィンが快諾した。
 そしてこうして一丸となって次の戦場へ向かっていたわけだが、彼女たちの足は突然止まってしまう。理由は彼女たちが向かおうとしている方向に異質の存在が地面から現れたからだ。

 「え……」
 「な………」
 「う、うそ……」

 遠くからでも分かる青紫色の長い髪のやや痩躯な青年の姿を目にした美羽・クィン・縁佳は驚きと同時に恐怖もした。先ほども間近で青年…魔人族ウィンダムの存在感を思い知らされた3人は、「限定進化」を発動した彼に近づくことすら出来ずにいる。
 
 「………………」

 ウィンダムは離れたところにいる6人を気に掛けることなく、大火傷で大ダメージを負った自身を回復させる。その間も美羽・クィン・縁佳たちはその場から動くことが出来なかった。
 しかしさらにその数分後、ウィンダムを追いかけにきた皇雅が同じように地下から飛び出して現れた。

 「甲斐田、君……?」

 皇雅の姿を目にした縁佳は彼の名を呆然と呟く。クィンと美羽も皇雅の姿を視認して驚かずにはいられなかった。さらに残りの3人クラスメイトたちも縁佳の言葉に信じられないといった反応をする。

 「あれが……甲斐田なのか!?何なんだ、あいつ姿がまた変わってないか!?体中からえげつない魔力みたいな何かが渦巻いてるぜ……」
 「ねえ、甲斐田もヤバいんだけど……あれ、甲斐田より先に出てきた人みたいな何か。あれ何なの?凄く、ヤバいよね?」
 「うん。ここからでも分かる…………あの人、凄く嫌な気配がする」

 堂丸が皇雅の変貌した姿に目を剥いて驚く一方で、曽根と米田はウィンダムの方を見て怯えている。

 「ねえ縁佳……あれってもしかしてモンストールの元凶っていう……」
 「うん。あれが……………魔人族だよ」

 縁佳の返答に3人の顔は恐怖に引きつる。初めて目にする次元が違い過ぎる化け物。その存在感やオーラ、危険度は離れていても嫌というほどに伝わるものだった。

 「甲斐田君はたった一人で、あんな恐ろしい敵と戦っている。今も……」

 縁佳は皇雅のことをジッと見つめていた。
 そして皇雅とウィンダムは再び戦いはじめるのだった―――

 

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