世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

147話「インドラの雷」



 「――縁佳?そう、“あれ”を発動したのね」

 曽根は後方にいる縁佳の変化にすぐに気付いた。彼女が「限定強化」を発動したのだと把握した。

 「あの状態は長くは持たないと言ってた。てことは……ここから短時間で敵を倒さないといけない。
 だからみんな……」

 曽根はクィンたちに指示を飛ばす。

 「私たちで縁佳のサポートをするわよ!縁佳が“いちばん強い一撃”を放つには時間がかかるから、それまで時間稼ぎをしましょう!!」
 「そういうことなら、引き受けましょう!」
 「任せとけ!俺がチーター野郎を引き付ける!」

 クィンと堂丸が前に飛び出して攻撃を仕掛ける。ようやく「幻術」が解けたハンネルは二人の猛攻に剣一本で楽々対応してみせる。

 「くそ…… “ガンシュート”」
 「クハハハ!遅いつってんだよ! “猫脚”」

 堂丸の連続砲撃を、獣人族が得意とする高速移動術を駆使して全弾躱していく。

 魔法剣 “嵐纏《あらしまとい》”

 堂丸の砲撃を躱し切ったところに今度はクィンが「魔法剣」で斬り込む。対するハンネルも獣人剣術でクィンの剣撃を悉く打ち破る。

 「く、うぅ……!」
 「俺とまともに斬り合ってもてめぇの血が舞うだけだぜ雑魚が!」

 斬り合う度にクィンの体中に切り傷や裂傷が刻まれていく。彼女が跳び下がるもハンネルは猛追してくる。そこに曽根が防御壁を出現させてクィンを守る。

 「邪魔、だァア!!」

 ハンネルは力任せに剣を振るうが、一太刀で彼女の防御壁を崩すことは出来なかった。そのことがハンネルをさらに苛つかせる。壁が自動的に崩れた直後、米田の召喚獣がさっきの倍以上の数となって襲い掛かる。召喚獣たちの口から一斉に火魔法と闇魔法も放つ。

 「………ッ、威力は弱いが、うざってェなァ!この、クソ雑魚どもが!!」

 “金剛石弾《こんごうせきだん》”

 ハンネルの両手から大地魔法による金の石の弾丸を無数に飛ばす。米田の召喚獣たちはあっという間に全滅し、宙にいた堂丸も弾丸攻撃に邪魔されて砲撃が出来ずにる。

 「オラオラァ、俺を撃ってみろよクソガキが!」
 「くっそ、舐めんなぁ!!」

 弾丸の雨からどうにか逃れた堂丸はハンネルに狙いを定めて全力の魔力砲撃を発射する。

 “光球砲弾《シャインシュート》”

 光属性の魔力を全力でつぎ込んだ砲撃だが、ハンネルはこれを一太刀で斬り捨てた。

 「そん、な……!?」
 「これが俺とてめぇらとの格の違いだ。モンストールの力は偉大だ、何も持たねぇてめぇらなんざ話にならねェんだよ!!」

 そう言いながら剣に嵐魔法を込めてそれを振るい、魔力を刃として飛ばす。

 「ぐああっ!?」

 複数の斬撃を肩や太腿にくらってしまい、堂丸は墜落してしまう。地面に激突する前に米田の召喚獣が受け止めて助かるも受けた傷は深いものだった。

 「だ、大丈夫堂丸君!?血が……っ」
 「く……俺は大丈夫だ。それよりチーター野郎から目を離すな、また来るぞっ」

 「瞬足」を合わせた剣撃…「神速斬り」で斬りにかかろうとするハンネルを、クィンは「魔法剣」で止めようとするが、力で押し負けてしまっている。

 「まずはてめぇから斬り殺してやる!」
 
 クィン目がけて剣を振り下ろそうとするハンネル。しかしクィンはそれを待っていたかのようにカウンター斬りを仕掛ける。

 「今さらてめぇの剣で俺をどうにか―――」

 剣と剣がぶつかり合った直後、ハンネルの剣を持つ手に激痛が走る。

 「ぐああああ!?」
 
 思わず剣を落として怯んだところにクィンの水を纏った「魔法剣」の斬閃が、ハンネルの首から胸にかけて切り裂いた。

 「ぐォあああああ!!」

 「限定進化」を発動したハンネルの体は頑丈になり、クィンの剣では大したダメージが与えられないはずだが、ハンネルの体からは血と同時に煙も上がっていた。

 「“聖水剣”」

 クィンの剣には美羽からもらっていた「聖水」が込められていた。これによりハンネルに大ダメージを与えることが出来たのだ。

 「あなたの体力をある程度削ってからこの水を使うという作戦でしたが、予想をはるかに超えるその戦闘力。温存は出来ないと思い、ここで使わせてもらいます―――」

 そう言いながらクィンはさらに追撃にかかる。「聖水」を刃全体に染み込ませた「魔法剣」を振るう。

 (首を刎ねれば数秒動きが止まるはず!それで十分!)

 しかしクィンの剣に危険を察知していたハンネルは「猫脚」ですぐ離れて避難する。そこから「魔力光線」を撃って反撃する。「魔法剣」で斬り防ぐが、間合いを完全にとられ、絶好の機会を逃してしまう。

 「クィンさん、拘束させる魔法攻撃ありますか!?」

 曽根の突然の問いかけに驚くも、クィンはあると頷く。

 “閃光弾”

 後方から堂丸が光属性の魔力砲弾を発射する。ハンネルは剣で斬り捨てようとするが、その手前で爆発し、まばゆい閃光がハンネルの目を直撃する。目を押さえて唸るハンネルに、クィンは素早く炎魔法を放つ。

 “火炎の鞭フレイムウイップ

 炎の鞭がハンネルの全身をぐるぐるに縛り付ける。

 「あづッ、くそ、目が、見えねェ!!くだらねェ小細工をっ」

 そのハンネルの周囲の地面が変化する。それはドーム状の壁となってハンネルを閉じ込めた。

 大地防御魔法  “大地の牢壁グランドシールド

 曽根による結界防御魔法。大地魔法と「魔力防障壁」を組み合わせた彼女が持つ最強の防御魔法だ。

 「あァ?何だこの結界は!?この、ぶった斬る!!」

 クィンの拘束を解いて剣で攻撃するも中々破れない。

 「私の……全力を込めた結界だから、すぐには壊せないわ!そしてこれが最後の“時間稼ぎ”!」

 曽根の言葉にクィンがはっとして後方を見やる。そこにはずっと力を溜め続けている縁佳が弓矢をかまえていた。

 (縁佳、そろそろだよね?合図がきたら結界を解くからね!)
 (ありがとう美紀ちゃん。そしてクィンさんも小夜ちゃんも堂丸君も。みんなのお陰で私は………)

 縁佳が構えている弓矢からは光輝く黄色の魔力が込められている。特に矢の輝きは凄まじく、矢の先端に雷属性の魔力がバチバチと帯びている。そこには縁佳の全ての魔力をつぎ込んでいる。
 ―――全てをこの一撃にかけにきている。

 (私は、この全力の矢を放つことが出来る!)

 きりきりと弓の弦を絞り、同時に意識を集中する。大地の結界でハンネルの姿は見えずとも、縁佳「鷹の眼」はハンネルの姿をしっかり捉えていた。

 (みんなが必死に稼いでくれた時間、無駄にはしない―――!)
 『美紀ちゃん、お願い』
 『了解、やっちゃいなさい!』

 通信端末で曽根に合図を送り、それを受けた彼女は、結界を解いた。

 それと同時に縁佳は、必殺の一撃を放った。

 “インドラの雷《いかずち》”

 
 
 「くそォ!こんなことしていったい何の―――」

 崩れた結界の中からハンネルが出てきたが、その直後―――

 ―――――ッ

 雷速で飛来した巨大な雷の矢が、ハンネルの心臓を正確無比に射抜いた。
 直後、ハンネルの全身を雷がバリバリと炸裂した。その威力は凄まじく、ハンネルの周囲をも雷が侵食し、地を焦がしつくした。

 「す、凄い!こんな威力の矢が撃てるなんて…!」
 「縁佳の正真正銘の全力の一撃です。Sランクモンストールだって一撃で倒せるんだから!」
 「やっぱ、すげーよな高園は。クラスメイトの中で間違いなくいちばん強いよ」
 「うん……そうだね。本当に、凄い」

 クィンが驚愕する中、曽根たちは誇らしげに縁佳のことを讃える。やがて煙が晴れて、そこには瀕死のハンネルの姿があった。

 「まだ生きてます。止めは私が」

 そう言ってクィンは駆け出してハンネルの首を刎ねる。

 「お……れ、が……こ、ん……な、や……つ……ら、に…………」

 それがハンネルの最期の言葉となり、頭に剣を突き刺されたハンネルは絶命した。

 「これで決着、です…!」

 クィンは明らかに疲弊した様子をみせながらも勝利を宣言する。それを聞いた曽根たちは歓喜の声を上げる。
 しばらくして縁佳もクィンたちと合流し、彼女は皆に褒め讃えられる。

 「やっぱり凄いわ縁佳は!あなたがいれば何とかなるって思える頼もし過ぎる子!」 
 「そんな……私も美紀ちゃんたちが頑張ってくれたお陰で安心して集中してあの一撃を放つことが出来たから、みんなのお陰だよ」
 「今の戦いの最大の功労者だってのに謙虚さを貫くその姿勢、やっぱり高園は素晴らしいぜ…!」
 「……功労者は私じゃなくて、」

 褒めちぎろうとする堂丸に苦笑しながら縁佳はクィンと向き合う。

 「クィンさん、あなたが私たちを引っ張ってくれたお陰で勝利出来ました!それと、私を守ってくれて…狙撃の手助けをしてくれて、ありがとうございます!」
 「………礼を言うのはこちらもです。タカゾノさんの最後の一撃があったからこその勝利です。さすがは、異世界召喚された人族の希望。あなたたちがいてくれて本当に良かった…!」

 クィンの言葉に4人とも照れた反応をする。

 (最後の狙撃、あれはSランクモンストールも簡単に殺せる威力だった。フジワラさんといい、異世界召喚の恩恵というのは恐ろしく強いものなのですね)

 内心でクィンは縁佳たちの強さと才能に頼もしさと同時に恐れすら抱いていた。

 (タカゾノさんが発動した“限定強化”。あれがもしコウガさんにも使えるようになったら、いったいどれほどの…)

 クィンが一人思案する中、縁佳も一人別のことを考えていた。

 (やっぱり私一人じゃ災害レベルの敵をまともに倒すことが出来ない。みんながいてくれたから勝てているだけ。“限定強化”だって最後の一撃を放ったと同時に切れちゃったし、全然維持出来ない。こんなレベルだと美羽先生や甲斐田君と並ぶことはまだ全然無理……)

 そして皇雅のことを考える。

 (甲斐田君は、私が想像しているよりもずっと強くなったんだと思う。あの恐ろしい魔人族を相手に一人で戦ってるくらいだし。彼は、たった一人で災害レベルの敵と戦っている……。
 私が甲斐田君と並んで戦える時は………彼の傍で立てる時は、来るのかな…?)

 無事に勝利出来たことに喜んでいたが、次第にこの先のことに対する不安に駆られるのだった。

 (とにかく今は……この戦いから無事に帰ってくることを祈ることしか出来ない。
 甲斐田君、どうかまたあなたの無事な姿を見せてほしい……!)

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