世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

144話「20倍」



 異世界召喚で現出した人間のみに発現する、ステータスの限定的な大幅強化――「限定強化」。
 発現条件は魔族の「限定進化」と同じもので、多くの修羅場を乗り越えて強くなること。単純だがそれ故に困難な道のりだ。
 美羽は皇雅と再会する前に既に「限定強化」を発現していたがまだ未熟だった。しかし今は、彼らと旅をして一緒に戦ったことでその質はより高くなっている。

 「………何だ、この戦気は!?何故あんなにも高濃度の魔力が溢れ出ているんだ!?」

 「限定強化」のことは知らないロンブスは美羽の大幅な強化に困惑を隠せないでいる。

 「まあいい。危険だということに変わりがない以上、速やかに排除するまでだ。消え去れ……!」

 そう判断したロンブスは口から漆黒で極太の「魔力光線」を放つ。

 “光鏡《ひかりかがみ》”

 美羽は自身の前に光輝く巨大な鏡のような盾を召喚する。光線が鏡に触れた途端、光線は吸い込まれて消えた。

 「な、に……!?」
 
 唖然とするロンブスだがそんな暇はなかった。吸い込まれた直後に鏡からロンブスが放った「魔力光線」が放たれたのだ。

 「ぐおおおおお!?(さっきよりも速く、強力だと!?)」

 全身に光線をくらい体を焦がすロンブスだがまだ倒れない。進化したことで体の頑丈さも倍増している。

 「あなたの魔力・魔法攻撃は全部はね返してみせる」
 「そうかい。なら、直接攻撃で葬ろう!!」

 そう言って4つの足を使って全速力で駆ける。「神速」だ。

 (速いけど………ギリギリ目で追える!)

 あちこちに駆け回るロンブスの姿を美羽はしっかり見切り、魔法杖から「聖水」の槍をタイミング良く撃つ。

 ザシュ 「ぐ………っ!?(俺の動きが見えるのか!?)ぐあああああああああ!?」
 
 槍が腹を掠めただけだが、その箇所から煙が勢いよく噴き出て激痛がロンブスを襲う。

 「なんだこのダメージは………さっきよりも大きいっ」

 赤く爛れた横腹に魔力を纏って傷の痛みを軽減させつつ、反撃に出る。

 「虎武」―――“虎刃牙《こばき》”

 犬歯に濃密な魔力を纏い、全身を使った噛みつきを仕掛ける。

 “光の剣”

 対する美羽は再び光魔法による魔力の剣を振るって、ロンブスの牙を斬った。

 「俺の、虎の牙を……!お、のれえええ!!」

 今度は四つ足全てに高魔力を纏わせて、全身を猛回転させながら前足と後ろ足で交互に殴り、切り裂きにかかる。

 “猛虎《もうこ》”

 纏った魔力が拳・足を形作って巨大な拳・蹴りとなって美羽を抉ろうとする。

 「聖水」付与 “氷雪暴風《グレイシャ・ストーム》”

 暗黒の拳と蹴りが触れる寸前、美羽自身を起点に、水(氷)と嵐の複合魔法を発動し、超強力な吹雪の竜巻を発生させる。その威力は天災規模となり、接近していたロンブスをあっという間に災害の渦の中へ飲み込んだ。

 「ぎ、ャアアアアア……!!」

 渦の中からロンブスの断末魔が響く。一方の美羽も自身の魔法攻撃をくらうことになっているが、予め展開しておいた「魔力防障壁」で身を防いだ。

 「命懸けだったわ…」

 あと0.1秒魔法攻撃が遅れていたら彼女の全身をロンブスの武撃が襲い、その身は無残なことになっていただろう。
 氷の竜巻が晴れて、そこには全身に凍傷と裂傷、そして「聖水」による甚大なダメージを負ったロンブスの姿があった。彼は既に満身創痍となっている。

 「何なんだお前は………この、人族離れした魔法攻撃の威力は!?進化したこのれが何故こんな目に?進化した俺の能力値は、10倍も強化されているんだぞ!?」

 全身から血を流して苦しそうに息をしながらも立ち上がったロンブスは憤る。

 「咆哮」を放つも美羽には効かない。彼女は強い意志を宿した目でロンブスを見つめる。

 「10倍…。確かに恐ろしいくらいの強化だね。少し前の私だったらあなたに敗れてしたと思う。
 けど今の私はあなたよりもずっと強いわ。何せ私は“限定強化”を発動したことで―――」

 魔法杖を向けて魔力を熾す。

 「能力値が発動前と比べて《《20倍上昇したのだから》》」
 「な………あ?」

 唖然とするロンブスの前で、美羽は少し前のことを思い返す。




 (“限定強化”の持続時間を延ばしたい?)
 
 ハーベスタン王国にあるダンクたちが使っている屋敷にて、美羽はアレンたちに「限定強化」についての相談を持ち掛けた。

 (あれ?“進化”じゃなくて“強化”っていうの?)
 (うん。私たち異世界の人間のと魔族のとじゃあ違うみたい。でね、私まだあの状態をアレンちゃんたちみたいに長く維持出来ないんだ。みんなはどうやってなるべく長時間維持出来るようにしてるの?)
 (うーん?あまり考えたことないかな?戦いを重ねていくうちに自然とそうなったというか)
 (そ、そうなんだ……。やっぱり積み重ねが大事ってものなんだね~)

 がっくりする美羽に皇雅が口を挟む。

 (別に持続時間にこだわらなくて良くね?あんなのはあんたが言った通り、経験と積み重ねがものを言うってやつだ。それよりもまずは、ステータスの伸び幅の強化に拘ったら?)
 (伸び、幅……?)
 (“限定強化”は魔族の進化と違って姿形はそのままの代わりに、進化以上の能力値の上昇が見込めるようじゃん?
 イメージしてみれば?強化で自分の能力値が何倍、何十倍も上昇するって)
 (甲斐田君……)
 (その力は回復術としてじゃなく、単純に戦闘の為だけに使えばいい。目の前の敵を倒す為だけに。短い時間で敵を圧倒するイメージを―――)



 あの時の皇雅たちの助言を元に美羽は「限定強化」の質をさらに高めた。
 結果、持続時間はアレンたちには及ばないものの、ステータスの大幅な強化に成功した。

 「私は強くなってみせる。この力でみんなを守る為に。いつか、甲斐田君のことも守れるように……!」

 魔法杖から赤と黄色の魔力が混ざり合い、巨大な炎の光球を形成していく。

 「聖水」付与 “劫炎光球《イフリート》”

 燃え盛る巨大な光の魔力球をロンブスに落とす。

 「最強の力を手にした俺が、負けるかアアアァ!!」

 “虎口魔砲《ここうまほう》”

 ロンブスは怒りで自身を奮い立たせて、自身の奥義を全力で放つ。二足体勢に戻ってから諸手突きを放つ。同時に口から極大の「魔力光線」を撃ち放つ。
 両者の全力がぶつかり合い、拮抗する。

 「お、おオオオオオオ!!」
 「は………ぁぁあああ!!」

 そして激戦を制したのは、美羽が放った究極の魔法攻撃だった。
 「聖水」を帯びた炎の光球はロンブスを一瞬で飲み込み、その身を消し去った。
 ロンブスは声を上げる間もなく炎に焼かれ、光に焦がされ、「聖水」に浄化されていった。
 美羽は自分以外無人と化したフロアで一人倒れ込む。「限定強化」も解けて疲労に苦しむ。

 「ひ……とり、で……勝てた……!」

 勝利を実感した美羽は安堵する。同時に消えたロンブスのことで暗い気持ちにもなる。

 (邪悪に染まってしまっていた。だからああするしかなかった。甲斐田君も躊躇うなって言っていたし……。でも、殺すこと以外で彼らを止めることもあったかもしれない。私には、殺し合いの戦いはやっぱり……っ)

 しばらく思い悩んでから、彼女は立ち上がり、残り少ない回復薬を飲んで少しでも回復させる。

 「今出来ることをやらなきゃ……!縁佳ちゃん、兵士の方々、そして……」

 (甲斐田君、無事に帰ってきてね……!)


                
                   *

ロンブス 51才 猫種(虎) レベル101 
職業 戦士
体力 8900
攻撃 7700
防御 6600
魔力 990
魔防 2700
速さ 3010
固有技能 獣人格闘術(皆伝) 咆哮 怪力 神速 堅牢 暗黒魔法レベル7 
魔力光線(闇) 危機感知 気配感知 超生命体力 限定進化 瘴気耐性 
不死レベル1
*「限定進化」発動後、能力値は約10倍


 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品