世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

143話「vs序列3位 ロンブス」



 城の上層階 藤原美羽vsロンブス

 ガーデルとギルスを先に行かせた美羽は、茶色が混じった黒の短髪獣人…“将軍”ロンブス相手に一人で戦っている。以前の彼女だったら二人を行かせるようなことはしないで協力して戦っていただろう。
 しかし今の美羽には、二人に言ったように、自分の実力だけでロンブスに勝つ自信があった。

 「聖水」付与 “大地魔法”

 「聖水」が込められた岩の弾丸を無数に撃ち放つ。ロンブスはこれらを「魔力光線」をバラけさせた無数のレーザーで迎え撃ち相殺する。
 
 「聖水」付与 “嵐・水魔法”

 次に放ったのは嵐と水を複合させた竜巻のような魔力の渦攻撃。これにも「聖水」が込められており、ロンブスがくらうと致死レベルのダメージを負う。

 「く、これも直接触るとアウトか!」

 苦い顔をしながらロンブスは両腕に闇属性の魔力を大量に熾して大きく纏う。

 獣人格闘術派生――「虎武《こぶ》」

 次いで独特の構えを取り攻撃を放とうとする。それは中国の人間が生み出したとされる「象形拳《しょうけいけん》」の一つ…「虎形拳《こけいけん》」に通ずるものがある。
 虎の獣人であるロンブスの方がより胴に入っており、質が高いものとなっている。
 迫りくる青い魔力の渦に、黒い魔力を纏った両腕を大きく回転させながら振るう。

 “暗黒虎武羅《あんこくこぶら》”

 渦巻く闇の魔力が拳を形作り、獲物を狩る虎のように水と嵐の魔力渦を刈り取る。渦の中心をごっそり抉られて霧散して、ロンブス本体だけが攻撃を免れる。

 「……!」

 強力な複合魔法が破られたことに美羽は少し驚く。

 (私一人で大丈夫とは言ったけど……)

 魔法杖から「聖水」を含んだ水の槍を高速で撃ち放つ。闇属性の大きな魔力を纏ったままのロンブスはこれも腕技で打ち落としてみせる。

 (この人…やっぱり強いわ!)

 頬まで垂れた汗を拭いながらさらなる魔法攻撃を放つ。

 「聖水」付与 “光魔法”

 名前をつけるのが苦手な美羽は心の中で「〇〇魔法」とだけ唱える。光でできた巨大な剣がロンブスめがけて振り下ろされる。

 「虎武」―――“虎鋏《とらばさみ》”

 腕を左右に構える。その様相はまるで裁ち鋏。指先にも魔力を纏った鋭利な爪を出している。

 「ちぇあッッ!!」

 大声とともに腕を超高速で振るい、迫りくる光の剣を闇の魔力で出来た鋏で真っ二つに断つ。

 (あの女……俺に絶大ダメージを負わせる“死の水”をまだつくれると言うのか。もし無尽蔵につくれるのだとしたら、厄介極まりない。奴に近づくことすら困難だ)

 同時にロンブスは納得がいった。これだけの力を有しているのなら、二人の鬼を行かせたのは無謀ではなかった、と。

 (厄介ではあるが、こちらが窮地に立たされてるわけではない)

 ロンブスは獲物を見る目で美羽を観察する。彼女からは大量の発汗と息切れが見られる。

 (さっきから強力な魔法攻撃を連発している。その消耗も尋常ではあるまい。もう少し凌げば、あとは嬲り殺すだけだ…!)

 美羽の魔力消費をある程度計算したロンブスは、彼女を挑発する。この程度で自分を殺せるものか、と。

 (彼を倒すにはやっぱりさらに強い魔法攻撃じゃないとダメみたい…。これで決める!)

 魔力を全力で熾して魔法杖に込める。尋常じゃない魔力を察したロンブスも魔力をさらに熾して全身にどす黒い闇属性の魔力を纏わせる。その質の高さあまりに陽炎が発生する。
 先に仕掛けたのは美羽。彼女が持つ最大の炎熱魔法を放つ。

 “プロメテウスの火”

 太陽を思わせる超巨大な業火球がロンブスを燃やし尽くそうと落下する。その際天井や周りの物体をも焼失させていく。

 「虎武」奥義―――“虎口砲《ここうほう》”

 全力の諸手突きと共に両手から極太の「魔力光線」が放たれる。通常の「魔力光線」に物理攻撃の衝撃と纏っていた魔力が加わったことで、美羽の全力の魔法攻撃と同等の光線が完成し、業火球を貫く。
 強い閃光が発生した直後、爆音が鳴り響き、炎と魔力の残滓があちこちに飛び散る。

 「はぁー、はぁー、………っ」

 魔力を大量に消費した美羽は息を乱して苦しそうに喘ぐ。その彼女の目の前に、いつの間にかロンブスが立っていた。

 「っ!!」
 「さすがに消耗したよな!」

 ゴッッ 「あぐ…!」

 腹に鋭い蹴りを打ち込まれて美羽は思い切り吹っ飛ばされる。ロンブスは容赦無く追い打ちにかかる。

 ザクッ ドガッ ドギャ!

 爪で裂かれ、顔を打たれ、蹴飛ばされる。

 「………うぅ!」

 「魔力防障壁」でガードするも回り込まれて滅多打ちにされる。

 “虎の尾”

 パァンッ 「………っ」

 尻尾を鞭のように振るって顎を打ち砕く。

 “虎爪刺《とらつめざ》し”

 ドシュッッ 「あぁ………!!」

 仕上げとして、研がれた爪による貫き手が腹に刺さり、夥しい血を流させる。口から血の塊を吐いた美羽の顔が青白くなっていく。手を引き抜き彼女を蹴り転がしたロンブスは数歩下がる。

 「お前を消耗させるのにかなり手間取ったが、俺の戦術通りになったな。人族にしてはかなり強かったが、モンストールの力を取り込んでより強くなった俺にはやはり及ばなかったようだ」

 ロンブスからさらなる高魔力が噴き出る。同時に存在感が増し、瘴気も漏れ出てくる。

 「見てくれは悪くないから後で楽しもうと思ったが、あの“死の水”がある以上そう悠長なことはできない。お前は危険だ、最後は俺の進化した姿を目にして死ぬがいい」

 “限定進化”

 ロンブスの体が勢いよく膨れ上がり変貌していく。体長が倍くらい増し、腕が前脚として機能し、巨大な虎と化した。

 (………………)

 美羽は虚ろになりかけた目でその獰猛な姿を見る。

 「恐怖したか?安心しろ、苦痛はそんなに続かない―――」

 そう言ってロンブスは爪をたてた前足を振り下ろそうとする。その直前、

 “光魔法”
 カッッッ 「ぐおおお!?」

 美羽の手から強力な閃光を発生させてロンブスの目をくらませる。その隙に美羽は力を振り絞って距離をとる。

 「こ、の!無駄な足掻きを!!」
 「やっぱり………全部を出さないとあなたには勝てないよね」

 “回帰《ヒール》”

 美羽の本当の十八番である魔法…回復魔法、その上級魔法を発動する。彼女の体中の傷がみるみる無くなっていく。それだけでない、刺し傷によって失った血液までもが全て元通りになった。「治す」ではなく「再生」。美羽は自身が攻撃を受ける前の状態(時間)に巻き戻したのだ。
 視力が戻ったロンブスは美羽を目にして驚愕する。

 「馬鹿な…!?全回復した、だと!?」

 彼が先程まで与えたダメージが全て消えていることを認知して愕然とする。

 「私も、奥の手を使うわ……!!」

 そう宣言した美羽の全身から、ロンブス以上の魔力が溢れ出る。

 “限定強化”

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