世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

139話「自分自身の為」



 「ケッ!ならそのクソガキはお前さんにやるよ!俺はさっき言った通り、テメーら鬼どもを最上階の部屋で待つとしようか。じゃあな、逃げずに来いよ!!」

 そう言い残してガンツは姿を消した。ワープするアイテムを使ったらしい。残る主な敵は、魔人族ウィンダムだけとなった。奴はさっきから俺に好奇的な目を向け続けている。

 「………まあ。こっちとしても、テメーの相手が務まるのは、俺しかいねーだろうな。
 俺以外の誰かだと、確実に殺される」

 俺の言葉に誰もが口を挟まない。あまりにも正論過ぎるからだ。

 「魔人族の相手は、まだ俺にしか務まらない」
 「コウガ……その魔人は………っ」
 「ああ。以前戦った奴よりも強い。
 それも、無茶苦茶な」

 俺の返答に誰もが緊張し、顔を強張らせる。特に高園は俺を、それからウィンダムを交互に見て顔を真っ青にする。

 「甲斐田君、その人……すごく危険。私は魔族じゃないから戦気?は感じられないけど、これだけは分かる…。
 あの時、初めての実戦訓練の時と同じ…すごく危なくて、死ぬかもしれないってことを……っ」

 彼女の弓を持つ手が恐怖で震えている。高園にとって初めての魔人族との遭遇。奴の規格外の存在感や邪悪なオーラ、何よりもヤバいのは誰でも伝わってくるその「強さ」。それら全てを感じさせられた彼女の戦意はもはや消沈してしまったと言っていい。

 「だめ……甲斐田君が凄く強くなってるのは分かってるけど、その人と一人で戦うのは……っ」

 なのに、戦う意志が折れているくせに、俺が単独で戦うのを止めようとする。

 「止めようとする気持ちは分からんでもない。俺だってびっくりしてんだ」

 高園が俺に詰め寄って袖をつかむ。藤原もクィンも止めようとはしない。

 「逃げてもいいはずだよ?また…あの時みたいに、甲斐田君だけいなくなるかもしれないって思うから!世界の為に戦わなくて良いから、今だけはここから―――」

 ばしんと、高園の手を払う。彼女は呆然と俺の顔を見つめる。

 「まだ勘違いしてんのか?俺はな、こんな世界の為に戦おうとはしてねーんだよ。とっくの昔からずっとな。
 俺が戦うのは―――」

 高園から離れて、ウィンダムと対面する。

 「―――俺が認める仲間たちの為。何よりも、自分自身の為だ!俺の目的の障害となり得る奴が現れるのなら、立ち塞がってくるのなら、この力でぶっ潰すだけだ!たとえ自身の存在を危険に晒してもな!!あの魔人野郎も例外じゃねぇ!!」

 ウィンダムは愉快そうに俺の言葉を聞き、その顔を不気味な笑みでさらに歪める。その余裕に満ちた目を睨み返してやる。

 「高園。テメーは自由だ。国王さんが出した調査任務はもう達成している。ここから先の戦いを避けてここから脱出してサントへ帰るも、アレンや藤原たちと共にこの先の戦いに参加するのも、全部テメーが決めろ。
 俺は…俺の為に、この魔人族をぶっ殺す!」

 高園はしばらく黙ったままでいる。背中に彼女の視線がずっと向けられているのを感じる。やがて意を決した様子が伝わってくる。半分振り返ると彼女はまだ不安が残った目で俺をまっすぐ見つめていた。

 「甲斐田君。今度は絶対に戻ってきて!」
 
 その言葉にはどこか重みが感じられた。俺は彼女に小さく頷いて応えるだけにした。

 「甲斐田君。また君ばかりに任せきりになってしまってごめんなさい。力がもっとあれば、私も一緒に戦いに行こうとしてたのに……」
 「あれは無理だ。俺みたいな経験をしない限りはあんな相手を務めることはできねー。気にするな。俺の意思で戦うって決めてっから」
 「私も縁佳ちゃんと同じ気持ちよ。絶対にまた私たちにその元気な顔を見せに戻ってきてね…!」
 「ん」

 短く返事して歩を進める。今度はクィンと目が合った。

 「コウガさん…………どうか、お願いします…!《《あれ》》をこのまま野放しにしてしまうと、サント王国の危機に繋がるでしょう。どうか、私たちを助けて下さい!頼るばかりで、ごめんなさい…っ」

 悔しそうに懇願するクィンに小さく笑ってしまう。

 「別に頼ってばかりでも良くね。マジでどうしようもない状況なんだし、これって。とりあえず、周りにいるこの獣どもをどうするか考えたら?」
 「ありがとうございます……!それなら問題ありません。《《もう着く頃だと思いますから》》」

 クィンがそう言うと同時に、何か大勢の気配がこちらに来るのを感じる。遠くを見ると、サントの兵士団がここに来ているところだった。

 「なるほど、既に来させてたのか」
 「私たちは大丈夫ですから、コウガさんは自分の戦いにだけ集中して下さい!」
 「そのつもりだ。健闘を祈る」

 さらに歩を進める。アレンたちがいる。みんなサムズアップをしたり強く頷いてくる。

 「存分に戦え。あのライオン野郎はお前たちできっちりケリをつけてこい」
 「うん。コウガも、勝ってきて」

 アレンと拳を合わせて互いに健闘を祈る。そして一足先に進んでいるウィンダムのところに行く。

 「挨拶は済んだみたいだね。友達がいっぱいいて楽しそうだね、カイダコウガ君」
 「俺の名前知ってたのか。というか、最初から俺のこと知ってるように見えるな?」
 「君のことは少し前から上の方から教えてもらってたんだ。分裂体のザイート様を退けた人族の少年と聞かされた僕は………君のことがずっと気になってたんだ!」

 相変わらず狂気すら感じるその目が気持ち悪い。現代世界だったら絶対に関わりたくない。職質とか絶対くらうタイプだ。

 「なぁ。俺たちがここでガチで戦ったら、みんなをも巻き込んで大変になりそうだから、場所を変えねーか?」
 「僕はどこでもいいけど、君がそうしたいと言うのならそうしようか。じゃあそうだねぇ……“下”へ行こうか」

 そう提案した直後、ウィンダムは突然どこかへ飛び去っていく。しかし姿はしっかり視認することができ、奴の体をドス黒い魔力が纏い、下へ一直線に突進した。

 「下……なるほど、地底か」

 理解した俺はさっそくウィンダムの後を追う。今いたところから5㎞程離れたところだ。一瞬でそこまで進んだ奴の身体能力はさすが魔人族か…と思わせる。
 ウィンダムがつくった大穴へ向かう途中、一人の獣人と遭遇する。

 「何だ今の激突音とあの大穴は……?
 っと!お前が侵入者か?一人になって、迷子かなぁ?」

 猫の獣人の男は俺を舐めきった態度で近づいてくる。こいつの実力は………アレンたちがさっき戦った「幹部」と同じレベルか。

 「運が悪いね僕ぅ。“幹部”であり戦士“序列9位”でもあるこのイオサさんと遭遇するなんて!じゃあとりあえずこの爪と牙でズタズタに―――」
 「先を急いでるんで、後にしてくれ」

 ボゴッと猫獣人の顔面にパンチを打ち込んで地面にバウンドさせながらぶっ飛ばす。そのまま進もうとしたのがが、しばらくしてから猫獣人が「限定進化」を発動した姿で追いかけてくる。

 「なん、なんだオメーはぁ!?その力はぁ!?」

 半分キレた様子で駆けて、口から「魔力光線」を撃ってくる。前を向きながらもヒラヒラ落ちる紙のように光線を躱してから、クイックターンを決めて猫獣人に接近する。

 「後でっつったのに。動物の中で猫は好きな方だからあまり殺したくはねーんだけど」

 脳のリミッター100%解除

 「よく見たらテメーはただの化け物だからやっぱり殺すわ」

 “絶拳”
 ドパアァン!

 ワンパンチで猫獣人…イオサとかいった幹部戦士の頭を完全に消し飛ばす。今や100%程度の解除でGランク級の敵を余裕で殺せるようになった。
 とりあえずウォーミングアップにはなれたかと思いながら、ウィンダムを追う。奴がつくった大穴に俺も飛び込んで下へ、下へと突き進む。光はあっという間に無くなり、冷たい空気しかながれなくなる。そして、辺りには例の瘴気が漂う空間となった。
 ようやく地底にたどり着き、着地してウィンダムを捜す。奴はすぐに見つかり、開けた地で待ち構えていた。

 「ようこそ、僕の領地へ」

 言われた気付いたが、この空間はどこか人が暮らしてそうな感じがする。まあ普通の人間がここに来た瞬間、死ぬだろうけど。

 「僕は普段ここで生活をしている。家はここからもう少し離れたところにあるよ」
 「随分陰気くさい空間で暮らしてるんだな。その割にはテメー自身は陽キャ過ぎるようだが」
 「陽キャっていうのは何なのかは分からないけど、褒め言葉として受け取っておくよ」

 相変わらずのニヤニヤした顔で向き合ってくるウィンダム。
 こいつは今までにないキャラの敵だ。得たいが知らなさすぎる。俺に感づかれることなく真横に突然現れたといい、今も見せている気味悪さや狂気。以前戦ったミノウとかいった奴の方がましに思えるくらいだ。
 奴のことを知るべくまずは「鑑定」で――――


ウィンダム 109才 魔人族 レベル277
職業 戦士
体力 553000
攻撃 639000
防御 618000
魔力 689000
魔防 599900
速さ 577900
固有技能 Error


 「何だこりゃ……っ」

 思わぬものが表示されて狼狽してしまう。奴の名前や年齢、レベルに能力値までは見破ることができた。しかし固有技能だけ全く知ることができない。何度発動してもエラーメッセージしか見られない。

 「今、僕のステータスを覗いたよね?その目で。“鑑定”かな」

 ウィンダムが全て見透かしたかのように問いかけてくる。

 「………いったい、何をしやがった?」
 「簡単なことだよ。僕の固有技能“隠蔽”で、僕の固有技能だけを見られないように隠したのさ」

 そんな固有技能も存在するのか。まあ姿や気配を隠す固有技能があるし、ステータスを隠す固有技能も当然あるよな。

 「僕も君のことはまだ知らないことがあるしさ、ここは公平にお互い固有技能が知らない状態で戦わないかい?その方が、面白いだろ?」
 「別にテメーの余興に付き合う気はねーけど、別にいいか。戦いながら知ればいいいし」
 「それがいいよ。ところでカイダコウガ君は、これまで僕と同じ魔人族と三人も戦ったんだよね。一人は分裂体のザイート様。二人目はあの方と一緒にいたランダ。そして最近は…ミノウを殺したそうだね」
 「そうだけど。ザイートはともかく、ランダとかミノウとかいう奴は大したことなかったな。余裕だったぜ」
 「うーん、あの二人は魔石で得た力をまだちゃんと使いこなせてなかったからね。結局未熟だったまま君に殺されたようだね。残念だ」
 
 全く残念そうじゃなさそうに呟くウィンダムと十分な間合いを取る。そろそろ始めるつもりの俺を察したウィンダムも、俺をしっかり見据えたまま同じく構えを取り始める。

 「話の続きは殺し合いでもしながらゆっくりしようじゃないか!僕たちはもっと知り合うべきだ!」
 「ホント気持ち悪いんだよテメー。さっさとぶっ殺してこんなとこ出てってやるよ」

 ウィンダムの全身から強い魔力が噴き出る。質が非常に高い。こっちも負けてられない。脳のリミッターを早速解除していく。

 「異世界召喚された人間 甲斐田皇雅」
 「魔人族 ウィンダム」

 互いに短く名乗り合った直後、

 一気に間合いを詰めて、全力をぶつけ合った―――

 
 



















*ネタバレ:ウィンダムは強いです

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